なろう様の方で「怪盗令嬢シャーナ」というオリジナル作品に挑戦しています。よろしければそちらの方もぜひご覧ください。
▼
「嘘だろ……」
キングの背中の羽を見た俺は思わずそんな言葉を呟いていた。
俺達妖精族には様々な特徴がある。それは心を読む力だったり、変身する力だったり、魔力の多さだったり色々あるが、一番分かりやすいのは背中から羽が生えている所だ。
妖精族は皆昆虫のような羽を持っていることが最大の特徴で、この羽が人間達の間では長寿をもたらす薬になると信じられており、時に狙われることもある。この羽、妖精族の中でも極めて重要なもので、羽が生えると初めて妖精族は一人前として認められる。さらに、羽が生えた妖精はさらなる魔力を発揮することができるようになる。
「元ご主人、あんたなら分かるだろ? 無駄な抵抗はよせ。絶対俺には勝てない。」
七つの大罪原作においてキングの羽が生えたのは第二章の十戒編の最中だ。圧倒的な強さを誇る十戒相手に戦うことすらできなかったキングだが、修行によって羽を手に入れたことで闘級を跳ね上げ、一気に前線に立って魔神族と戦うことになる。その闘級は__
「っ………霊槍シャスティフォル第一形態”霊槍(シャスティフォル)”!!」
「………まだやるか。」
俺はキングに槍形態のシャスティフォルを再び飛ばす。それを見たキングはため息をついて飛来するシャスティフォルに魔剣を飛ばした。
ズパッ!
するとシャスティフォルは魔剣にいとも簡単に切り裂かれてしまった。
ズッ!
「っ…がはっ……!」
「おっと悪い。勢いつけすぎちまったよ。」
魔剣は勢いそのままに俺の腹部に突き刺さった。剣が抜かれると傷口からグシュゥと血が噴き出る。
「何度も言わせんなって。あんたじゃ俺に勝てないの。」
「っ……」
闘級41600。それが羽を手に入れたキングの闘級の数値だ。羽がなかった時に比べて10倍近くまで跳ね上がっている。いくらシャスティフォルがあったとしても、羽が生えていない今の俺(エレイン)では届きようもない数値だ。
「ああぁぁぁぁっ!!」
ザッ!!
だが、だからといって諦めるわけにはいかない。こいつは下手するとモリアやオーズ以上の脅威になる。何としてでもここで倒すか、最低でもルフィがモリアを倒すまで足止めしておかなければならない。俺は身体に鞭を打ってシャスティフォルを第五形態に変化させた。
「”炸裂する刃雨(ファイトファイア・ウィズファイア)”ぁぁぁぁぁっ!!」
俺は第五形態のシャスティフォルの、クナイの一つ一つ隅々まで全力で魔力を流し、キングに向けてぶっ放した。弾幕という言葉では言い表せない密度のクナイがキングに飛んでいく。
「……ま、あんたがそうするしかないのは分かってたけどね。」
ジャッ! ギュルルルルッ!
それを見たキングは瞬時に魔剣を増殖させ、高速回転させた。円を描きながらシャスティフォルに立ち向かう魔剣は圧倒的に数が少ない。それでもキングは涼しい顔をして俺の渾身の攻撃を撃ち落していく。俺はその様子に歯ぎしりしながらぐっ、と身構える。
「……元ご主人、俺とあんたの思考回路は同じなんだ。純粋な力じゃ敵わないと感じた相手にすることなんて手に取るように分かるぜ。」
ビュッ!!
キングが言い終わった瞬間、シャスティフォルの嵐の中から俺が勢いよく飛び出した。キングに奇襲を仕掛けようと風の魔力で急加速した俺がシャスティフォルで死角を作って飛び出したのだ。シャスティフォルが囮だと気づかれないように全力で魔力を込めたのだが、キングにはお見通しだったようだ。
「…………(バッ!」
「”そよ風の逆鱗”か、甘い。」
ジャキンッ!
俺がキングに両手を向けた瞬間、キングは俺の攻撃を読んで魔剣の一つを飛ばした。魔剣は俺を切り裂かんと迫る。
「”風壁(ウィンドカーテン)”っ!」
ブワッ!
「! 何ッ!」
だが、魔剣は俺が風の壁を展開するとその風に受け流されて空を切った。その結果にキングの顔が動揺に染まる。俺とキングの思考回路は同じ、ということは戦闘に慣れていない未熟な精神も同じということだ。キング(俺)は絶大な力を得て慢心するあまり、あと一歩読み損ねてしまったようだ。
「はあぁぁぁっ!!」
俺はガラ空きのキングに迫り、忍ばせておいた第五形態のシャスティフォルの一つを構える。このままキングの首を斬り落として隙を作り、塩を飲ませれば勝利だ。
ピタッ
「…………え?」
だが、刃はキングに届くことなく静止してしまった。どれだけ力を込めてもキングを斬りつけることができない。さっきと同じだ。
「…………だから何やってんだよ何度も。」
バキッ!
「ぐっ!」
空中で止まる俺はキングから見れば格好の的で、俺は触手に殴られて吹き飛ばされる。空中で体勢を立て直した俺はフラフラとキングと同じ高さに浮かび上がり、睨み合う。
何故だ、何故さっきからキングに攻撃できない。奴に攻撃が当たる瞬間に必ず止まってしまう。まるでキングに攻撃するのを嫌がっているかのように……。まさか………。
「………なるほどね。何をやってるのかと思えばそういうことか。」
「………何がですか?」
「あんたがさっきからまともに戦えない理由だよ。少し考えれば当然のことだった。」
グオッ!
余裕綽々に話すキングに、俺は第二形態のシャスティフォルで攻撃を仕掛けた。だが、これも届かず、シャスティフォルの拳はキングの顔に届く前に止まってしまっている。キングはその拳を撫でながら得意気にしゃべる。
「元ご主人、あんただって薄々気づいてんだろ? あんたはエレインじゃない。妖精王でもない。人間混じりの出来損ないだ。」
ドガッ!
そう言ってキングは触手でシャスティフォルを殴り飛ばした。シャスティフォルは俺の横を通り過ぎてズドォーンッ! と森に不時着した。
「そんなあんたが神樹から作られたシャスティフォルを使いこなせるわけがない。羽がなかったために使いこなせていなかった原作キングとはわけが違う。」
バチッ!
「あうっ!」
キングは今度は三本の触手で俺を襲ってきた。シャスティフォルなしでは防御のしようがなく、あえなく俺は打ち落とされる。落下する俺をクッション状態に戻ったシャスティフォルが受け止めた。
「出来損ないなのは俺も同じだけど、暁闇の咆哮(ドーン・ロアー)を見れば分かるように、モリア様の能力でゾンビになった者は生き返ったことになるようだ。魔力を持ち、入れられた影に関係なく生前の姿として認識される。つまり、今の俺は由緒正しき妖精王ハーレクインってわけだ!」
「げほっ………ごほっ………」
「そんな俺があんたの操るシャスティフォルにやられるわけがない。その気になればシャスティフォルの制御権も奪えるだろうが、それじゃあ面白くない。」
そう言うとキングは俺の周りの木々に魔力を流した。すると木の幹からポツポツと小さな水滴の球が無数に飛び出し、それらは俺を囲むように周囲に浮かんだ。
「……ヤバ………」
「くらえっ! ”養分凝縮(コンデンスパワー)”!」
ズドドドドドドドドドッ!!
木は幹を垂直に走る放射組織から水分や養分を内部に運ぶ。”養分凝縮(コンデンスパワー)”はその水分を一気に中心に凝縮させ、鉄の球のような強度の水玉を作る。そんなものをいくつもマシンガンのように撃たれ、俺の身体は土煙に沈んでいく。
「もうちょっと遊ばせてもらおうか。」
そう言ってキングはまたニヤッと笑った。
▽
__当時政府は妖精王の治める森と和平を結んでいた。それは友好の証というより、互いに干渉しない密約の意味合いの方が強かった。
__それを治める妖精王は何人の侵入も拒み、人々に恐怖を与えた正真正銘の化け物だった。
__その名は………
「ハーレックインッ♡」
「はっ………!」
ハーレクインと少女の声で呼ばれた少年は、ボーッと居眠りをしていた意識を現実に戻される。少年は黄色と緑のパーカーに黒のズボン、緑の靴を身に纏い、髪の毛は茶髪で特徴的な寝癖がついている。この背中に小さな羽が生えていること以外いたって普通の少年が絶大な魔力を持っているなど誰も思うまい。
「ディアンヌ? どこ?」
ハーレクインは声の主であるディアンヌという少女を探そうと辺りを見渡す。するとハーレクインの目の前にぬっ、と身体が土でできた巨大な人型の化け物が二体現れた。
「わあぁぁっ!」
ハーレクインはその化け物に飛びのいて驚いた。自分を襲うモンスターかと身構えていると少女の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「にゃはははははっ! おどろいた?」
黒髪の少女_ディアンヌは化け物たちの頭上からぴょこっ、と顔を出して笑った。彼女は化け物たちを自分の子供のようにぎゅっと抱きしめる。その大きさから分かるように、ディアンヌは巨人族だ。まだ子供だというのに彼女の大きさはハーレクインの四倍近くある。
「ごはんにしよっ!」
そう言ってディアンヌは作った食事をハーレクインの前に並べた。今日のメニューは彼女の大好物のサメの丸焼き二匹に果物がいくつかだ。肉をあまり食さない妖精族であるハーレクインは二匹のサメに苦笑しながら果物を頂くことにした。
「なにかおもいだせた?」
食事中、ディアンヌがハーレクインにそう尋ねた。というのも、ハーレクインは記憶を失っている状態だった。数か月前、嵐のあった次の日、ディアンヌはこの島の海岸に打ち上げられているハーレクインを発見したが、彼は自分の名前以外をすべて忘れてしまっていた。それ以来、ハーレクインは記憶を取り戻すまでの間、ディアンヌと一緒に島の洞くつで暮らしていた。
「うーん……オイラは不思議な所から大きな木が見える景色を眺めていたんだ。でもそれだけ。」
「ふーん?」
ディアンヌはもっちゃもっちゃとサメを食べながらハーレクインの話に相槌を打った。
「でもディアンヌが土人形(ゴーレム)を作れるとは思わなかったな。」
ハーレクインはディアンヌの後ろに座る二体の化け物を見てそう言った。
「えへへ~、すごいでしょ。」
「うん、すごい。」
照れて笑うディアンヌをハーレクインが褒めたのには理由がある。巨人族はかつて大地との結びつきが強い種族だった。並外れた筋力に加え、大地の力を魔力としてその身に変換することでより強靭な巨人になることができた。土人形(ゴーレム)など、巨人族なら作れて当たり前のものだった。
だが、それはもう過去の話。聖戦を経て魔神族も女神族も姿を消した今の世界では、それほど巨人族が力を振るう必要がなくなってしまい、巨人族は年々魔力を衰退させていった。その影響か年々寿命を縮めている巨人族は、今では大多数が己の筋力のみで戦うようになっており、魔力を扱う者は極稀だ。
そのため、子供ながら土人形(ゴーレム)を作ることができるディアンヌは優秀な巨人族と言える。
「ぷはーっ♪ たべたたべた!」
サメ二匹をぺろりと平らげたディアンヌは満足気に笑った。そしてすぐに立ち上がるとハーレクインを掴んで外に駆けだした。
「あそびにいこうっ! ハーレクインッ!」
「え? あっ! ちょっと!?」
__時はエレインがルフィ達と出会う655年前、これは妖精王ハーレクインと巨人の少女ディアンヌの在りし日の物語。
▽
「わーっ! すごいっ! みたことないさかながいっぱいっ!」
「そうだろう! 偉大なる航路(グランドライン)で獲れた魚だからな! ここ南の海(サウスブルー)じゃまずお目にかかれねぇ!」
ある日、ディアンヌは視察の任務で島を訪れたと言う海軍の男から魚をもらっていた。人気のない島で友達と一緒に暮らしているというディアンヌに男が厚意で分けてくれたのだ。大きく正義と書かれたマントを着た男はがっはっはっはと豪快に笑う。
「おーい、ディアンヌー!」
「あ、ハーレクインっ!」
丁度そこへ昼寝から目覚めたハーレクインがディアンヌを探して飛んできた。そんな彼にディアンヌは大きく手を振る。ディアンヌを見つけたハーレクインだが、彼女の側にいる男と海岸に停泊している軍艦を見て冷たい目に変わる。
「うおっ! 驚いた! 友達ってーのは妖精だったのか!」
「うんっ! ハーレクインっていうんだ。ハーレクイン、このおじさんからおさかなもらったよ!」
「おうよっ! このモンキー・D・ドレイク様にかかればこんな魚の百匹や二百匹朝飯前だ! 何せ俺は海軍で一、二を争う………」
「ふーん、あっそ。行こう、ディアンヌ。」
ドレイクが胸を叩いて己の自慢話を始めたが、ハーレクインは淡白な返事をするとすぐに洞くつに帰って行ってしまった。ディアンヌは少し困惑しながらもドレイクに別れを告げてハーレクインについて行く。もっとも、ドレイクはそんなことに気づかずに自慢話を続けていたが。
「………ねぇディアンヌ、あまり人間を信用しちゃいけないよ。」
帰り道、ハーレクインはディアンヌにそう言った。ハーレクインの言葉にディアンヌは首を傾げて尋ねる。
「どーしてにんげんをしんようしちゃいけないの?」
それに答えようとした時、ふっ、とハーレクインの脳裏に記憶が蘇った。
『どーして人間を信用しちゃイカンのよ? ハーレクイン。』
『人間くらいだからさ。海軍だの海賊だの、くだらないことで年中同族同士でもめ事やら戦を起こしているのは。』
『でも人間は妖精にない文化や考え方を持っているんだぜ? 分かんねぇかな~?』
『わかんないね。』
『相変わらずチミは頭が固いよな。』
『…ヘルブラム、あまり人間を信用し過ぎるといつかひどい目にあうぞ。』
『じゃ、そん時は俺っちを止めてくれよ。親友のチミがさっ!』
「ヘル…ブラム………?」
それは間違いなくハーレクインの記憶の一部だった。自分は大きなキノコがたくさん生えている場所で明るい妖精と話をしていた。彼は自分の親友だと言っていた。だが、それ以上のことは分からない。
「ハーレクイン? どうしたの?」
「あっ、いや、何でもないよ。気にしないで。」
不安げなディアンヌにハーレクインは必死にごまかした。ハーレクインはこの記憶は一先ず胸に留めておくことにした。
それから数十年後、ディアンヌが高熱を出して倒れた。呼吸が荒く、苦しそうでハーレクインが呼びかけても反応することができない。
「くっ! まいったな………!」
ハーレクインはひどく焦った。妖精族は病気にならないため、こういう時どうすればいいかまったく分からないのだ。とにかく、何か薬になりそうな植物でも集めてくるべきだと考えたハーレクインは洞くつを飛び出そうとする。
「いか……ないで………」
ぐいっ
「ぐえっ!」
だが、ディアンヌがハーレクインをぎゅっと抱きしめてしまった。人肌寂しいディアンヌがハーレクインを胸に抱いてしまったため、ハーレクインは身動きが取れない。「いかないで………」と何度も呟くディアンヌ、するとまたしてもハーレクインに記憶が蘇った。
『待って………! 兄さん行かないで………!! お願い………!』
『っ…! だけど………!! あいつを放っておけないだろ!! エレイン! 少しの間森を頼む!!』
「エレイン………?」
白いドレスを着て金色の髪の少女が、丁度今と同じようにどこかへ行こうとする自分を必死に引き止めていた。自分はかなり後ろ髪を引かれていたが、最終的にそれを押し切ってどこかへ飛び立った。
「ってそんなことよりも今はディアンヌの薬草っ! ふんぬ~!!」
何か重要そうな記憶だったが、今はディアンヌの方が先決と何とか拘束から逃れようとする。が、ディアンヌの力が強くてまったく動けない。
「おぉっ! お前らこんな所にいたかっ! ん? ディアンヌっ! お前熱出してんのか!?」
そんな時に洞くつへ訪れてディアンヌを助けてくれたのはいつか魚をくれたドレイクだった。すっかり老けて海軍を引退し、今は隠居しているというドレイクはふと二人のことを思い出してこの島にやって来たのだ。ドレイクが持ち合わせていた薬で適切な処置を施すとディアンヌの容態はたちまち良くなり、すぅすぅと気持ちよさそうに眠るようになった。
「バラの実とライムの花で作られたドラム王国の薬さ。風邪・発熱・衰弱に効く上に即効性もあって海じゃあよく世話になったもんさ。」
「へぇー、なるほど薬か。」
ドレイクの説明を聞きながらハーレクインは粉末状の薬をしげしげと見つめる。いつかの記憶で親友が言っていたように、人間は妖精にない文化や考え方を持っているようだ。やがてハーレクインは薬の観察をやめ、照れくさそうにドレイクに頭を下げた。
「ありがとう………。それとこないだの魚、美味しかった。」
「ん? こないだのって………あぁ、もう何十年も前の話だろ。」
そう言ってドレイクはハハッ、と笑った。年を取って色々なことを経験したのか豪快に笑っていたあの頃と違い、その時の彼は幾分か大人びていた。
「むにゃ………おなかすいたよぉ………。」
涎を垂らしながら寝言を言うディアンヌを見てハーレクインとドレイクは笑いあった。