とある妖精の航海録   作:グランド・オブ・ミル

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エニエス・ロビー編12・戒めの復活

 

 

 

 

 

 

 

 ここは世界のほぼ中心に位置する島マリンフォード。三日月型のこの島には、数多くの海賊が”ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”を求めて海で跋扈する大海賊時代には珍しいのどかな街が広がっている。横暴な海賊達とは無縁なこの街が今日も平和なのは島の中心にどっしりとそびえ立つ海軍の総本山、海軍本部があるおかげである。建物内の広場では、海賊の魔の手から人々を守るため、今日も海兵達が厳しい訓練を受けている。

 

 そんな海軍本部の一室で、海の治安を守るための会議が開かれていた。

 

「……では、続いての議題です。」

 

 たくさんの名のある将校が御膳の前に座る中、チリチリ頭の男が将校達の視線の先に立ち、報告書をペラリとめくる。彼の名はブランニュー。彼は今、日々移り変わる海の情報を将校達に報告していた。彼は次の議題へ移るため、会議室の前にあるホワイトボードに青いマグネットで一枚の手配書を張り出した。その手配書を見て、長時間に及ぶ会議であくびをしたりと疲れの色を見せていた将校も目の色を変える。

 

「先日前代未聞の大事件を起こし、一味全員が指名手配となった麦わらの一味、その一人”闇の聖女(ダーク・セイント)”エレインについてです。」

 

手配書の写真には、シャスティフォルを駆使して戦うエレインの凛々しい姿があった。空を自在に舞い、風を味方につけ、聖なる霊槍を振りかざして戦う彼女の姿は海軍も息を吞むほど美しく、まるで本当の聖女のようだ。しかし、どんなに美しくても彼女は海賊。正義を掲げる彼らからすれば闇に堕ちたも同然。だから彼らは彼女を”闇の聖女(ダーク・セイント)”と呼ぶのだ。

 

「……彼女のことは私も気になっていたのだ。確かにエニエス・ロビーを落とした海賊団の一員故、高額の懸賞金をかけるのは当然だろう。だが、初頭で1億はかけすぎではないかね?」

 

 将校の一人がブランニューにそう質問した。彼の言う通り、エレインがかけられた初頭懸賞金額はあまりに高すぎる。ルフィの初頭価格が3千万、歴史の本文(ポーネグリフ)が読めることで政府から危険視されているロビンが7900万、王下七武海の一人、九蛇の皇帝ボア・ハンコックでさえ8千万ベリーだ。それを踏まえれば初頭価格から1憶ベリーをかけられ、一気に海賊の中の超新星(スーパールーキー)の仲間入りを果たしたエレインの異常さがわかるだろう。市民の方からも、海軍は小さな女の子一人にビビりすぎじゃないかという声がちらほら聞こえてくる。

 その将校の質問にブランニューは「もちろん分かっております。」と返事をし、「しかし……」とエレインの手配書の写真に写るシャスティフォルを指さした。

 

「奴が使用するこの武器をご覧ください。目撃した海兵の情報によればこの槍の強度は鉄以上、さらに状況に応じて様々な形態に変化するといいます。これは伝承にある妖精王が持つ霊槍の特徴と一致します。」

 

 ブランニューの報告に将校達は皆顔をしかめる。それは出来れば目をそらしたいと思う程厄介な問題だからだ。ここにいるのは皆激戦をくぐり抜けた歴戦の英雄ばかり。妖精族の厄介さも身に染みて分かっている。

 

 はるか400年も前のこと、世界政府と妖精族は互いに不干渉の密約を結んでいた。政府側は強大な魔力を持つ妖精族とあまり関わりたくなかったし、妖精族も人間にさほど興味を抱かなかった。両者の関係はそれで成立していた。

 ところがある日のこと、数百年に渡って一人の妖精が人間を大量に虐殺してまわる事件が起こった。その妖精は神出鬼没に人間の集落をまわり、残されるのは背中を無残に切り裂かれた死体だけだった。事態を重く見た当時の海軍が襲撃を受けた村に急行したところ、そこにいたのは件の妖精の死体と、呆然と立ち尽くす当時の妖精王だった。海軍は妖精王をすぐさま拘束し、そして妖精王は、長きに渡る一人の妖精の凶行を止めなかった”怠惰の罪”を受け、インペルダウンに投獄された。

 世界を震撼させたこの事件だが、政府はこれを好機と見た。この事件で妖精の恐ろしさは世界中に広まっていた。政府はそのことを大義名分に、厄介な妖精族を消すべく妖精王の森に総攻撃を仕掛けた。政府は本来煉獄の炎でしか燃やせない妖精王の森を何らかの手段を用いて火の海にし、妖精族は故郷をなくし、その数を著しく減らすこととなった。

 

 今回手配されたエレインはそのかつての妖精王が所有していた霊槍に非常に酷似した武器を操る。もしかしたら妖精王の再来かと警戒するが故、高額の懸賞金をかけたのだとブランニューは報告した。結局、なんにせよ警戒するに越したことはないという結論にいたり、その日の会議は終了した。会議が終われば多忙な将校達はそれぞれの任務へ散っていく。

 

「…………」

 

「…………」

 

 そんな中、海軍元帥のセンゴクと海軍中将で大参謀と呼ばれるつるという女性だけが残った。

 

「………どう思う?おつるちゃん。」

 

 二人はしばらく神妙な顔をして黙っていたが、やがてセンゴクがつるにそう話しかけた。つるは目線をセンゴクに向けることなく口を開く。

 

「……どうも何もないだろう。確か数日前に報告があったね、例の島の聖女が神樹と共に消えたって。何かの理由で島を訪れた麦わらの一味がその聖女と接触してそのまま一味に加わったと考えるのが自然だろう。」

 

「……だが、確か妖精は人間嫌いのはず………」

 

「麦わらはあのガープの孫だよ?それくらい何ら不思議じゃないだろう?」

 

 つるにそう言われてセンゴクは海軍の英雄と言われる自由奔放な同僚を思い出し、思わず納得してしまう。確かに奇想天外なことを平気でやらかすあの男の血縁者ならば、あまり疑問はわかない。

 

「そしてあの霊槍。皆目をそらしてるようだけど、彼女は間違いなく今代の妖精王に選ばれた娘だろうね。今はまだ大したことなくても、早ければ数年後には相当厄介な存在になる。」

 

 そこまで言うとつるはふと天井を見上げた。そして自分がバリバリ戦場で活躍していた頃、海上で何度も戦った敵であり、戦友でもある妖精族の女性を思い出す。

 

「………ゲラード、妖精族はそんなに人間(私達)を恨んでいるのかい。その怒りは今も、燃え続けているのかい。」

 

 つるが呟いた言葉にこたえるものはこの場にはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは偉大なる航路(グランドライン)のとある島。海と山に囲まれて活気が溢れるこの島の沿岸にある少女がいた。左手に一枚の手配書、右手に植物を象った杖を持った少女は波が打ち寄せる沿岸の崖の上に足をつけることなくふよふよと浮いている。そんな彼女は緑と赤の色鮮やかなドレスを身にまとい、左側頭部に大きな花がある帽子を被っている。そして何よりの特徴として彼女の背中には一対の羽が生えていた。

 

 少女は持っていた手配書をピラッと見る。その写真にはシャスティフォルと共に美しく戦うエレインの姿があった。それを見た少女はフッと満足げに笑う。

 

「無事だったか、まったく心配させおって。」

 

 それだけ言うと少女は手配書を海へ放り投げ、くるっと振り返り、ピンと背筋を伸ばした凛とした姿勢で島の中へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わってここは海底の大監獄インペルダウン。海の超凶悪犯ばかりが収監される鉄壁の砦の最下層、あまりに凶悪故政府からもみ消される程の犯罪者達が収監されるLEVEL6。別名「無間地獄」と呼ばれるそこは収監される囚人全員が死刑、もしくは完全終身というインペルダウンの中でもダントツでヤバイところだ。囚人は何もない監獄で鎖に繋がれて放置され、死ぬまで無限の退屈を味わうことになる。

 

「……なあ、知ってるか?さっき看守共が話してたのが聞こえたんだけどよ。」

 

 ある牢獄に閉じ込められた男の囚人が、同じ牢に入っているもう一人の男に話しかけた。先ほども言ったようにここは無限の退屈を味わう場所。こうしてほかの囚人に話しかけるくらいしかやることがない。

 

「エニエス・ロビーを攻め落としたってルーキーがいるらしいんだ。”麦わら”っていう3憶の男さ。」

 

「……へぇ、それはまた大胆なことをするガキがいたもんだ。」

 

「だろ?なんでもそいつは妖精の女を従えてるガキでな、その前代未聞さに慌てふためく看守共の顔ときたら傑作だったぜ。」

 

 ハハハッと男が笑うともう一人の男もつられて笑う。しばらく二人はルフィの話題で盛り上がっていたが、ふと話しかけた方の男が自分達の牢の丁度目の前の牢に目を向ける。その牢は男達の複数人用のものとは異なり、一人用の小さいものだった。中は暗い影が差しこんでいてよく見ることができない。

 

「なぁ、前から思ってたんだがよ、あの小っこい牢屋にはだれが入ってんだ?お前知らねぇか?」

 

「なんだお前知らなかったのか。あそこにはな、かの白ひげ海賊団元・一番隊隊長様が捕まってんのさ。」

 

「何!?白ひげ!?はぁ~、さすがはLEVEL6。囚人のレベルも高いねぇ。」

 

 話しかけた男は心底驚いた様子だ。それもそのはず、”白ひげ”という男は海賊王ゴールド・ロジャーとしのぎを削った世界最強の海賊であり、現在最も”ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”に近い男と言われている。

 

「あ、でもよ、白ひげは仲間の死を許さねぇんだろ?そんな奴が収監されてるってことはここは直に戦場になるんじゃねぇか?」

 

「いや、それはないだろう。」

 

 話しかけられた男はその件の牢に目を向ける。相変わらずその牢の中を彼らは見ることはできないが、中では左頬から首にかけて傷があり、白い髪や髭が伸びきった男が捕らえられていた。他の囚人達が鎖で繋がれているだけなのに対し、その男は鉄の猿轡をくわえさせられ、四肢を何本もの鉄の杭で打ち付けられていた。その声すら出せない徹底した拘束は、この男だけは逃がしたくないという政府の意思が透けて見える。

 

 その牢を見ながら話しかけられた男は話し始める。

 

「10年前、海軍中将オニグモに捕らえられてからずっとろくに口もきけず、動くこともできず、食事もろくに与えられることなく、ただただ拷問を受け続けてるんだ。正直、今も生きてるのが不思議なくらいだ。いくら白ひげといえども今更そんな奴のために戦ったりしない。」

 

「……なるほど、なんだそうか~。つまんねぇな。」

 

 男の説明を聞き、話しかけた男は興味を失って虚空を見上げる。白ひげがこのインペルダウンで暴れてくれればどさくさに紛れて脱獄できるかもしれないと期待したからだ。その可能性はないと否定されれば興味も失せる。

 

__~♪…~♪…

 

「ん?鼻歌?」

 

「こんなものどこから聞こえてくるんだ?」

 

 その時、誰かの鼻歌が聞こえてきた。曲はビンクスの酒だろうか。二人は歌の出所を探そうとキョロキョロ辺りを見渡す。

 

「フ~~~ン~~~♪ンンン~~ン~~♪」

 

 その鼻歌は、さっきまで二人が話していた白ひげ海賊団元・一番隊隊長が歌うものだとは二人とも気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おうおう兄ちゃん羽織良さそうですねぇ、ちょっと恵んでくださいよ。あぁん?私が誰だか分かってるんですか?私はかの1憶ベリーの海賊…………」

 

「エレイン?さっきから何ブツブツ言ってんの?」

 

 ウォーターセブンの麦わらの一味の仮設住宅。その部屋の隅で壁に向かってブツブツ喋るエレインにナミが声をかける。

 

「いえ、折角1憶という高額で手配されたのは嬉しいんですが、私のこの見てくれでは迫力にかけるかなと思いまして…………」

 

 エレインは自身のつるぺたすとんな身体をぺたぺた撫でながらそう答える。そんな彼女にナミはハァと呆れ顔になる。

 

「また変なこと始めて………、心配しなくても1憶の海賊を捕まえようなんて連中は妖精族が手強いことくらい分かってるわよ。」

 

 そんなことより___とナミはしゃがんでエレインと目線を合わせると、緩んでいた彼女の頭の包帯の結び目をキュッと結び直す。

 

「もうちょっと大人しくしてなさいよ。あんたは一番重傷なんだから。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

 そう、今エレインは全身に包帯が巻かれた痛々しい姿となっている。クマドリとの戦いで全身に打撲や火傷を負い、骨も何本か折れてしまったエレインはチョッパー先生の治療を受けてこのような姿になってしまった。

 

「ほら行くわよ。フランキーの船が完成したって。皆はもう行ってるわ。」

 

「分かりました。今行きます。」

 

ナミとエレインは荷物を担ぎ、仮設住宅を後にした。

 港に行くともうすでにナミとエレイン以外は集まっており、新しい船のお披露目を今か今かと待ちわびていた。フランキーが設計した夢の船、ガレーラカンパニーの面々も造船に協力したらしく、布を被った船の傍らにはパウリー達が廃材を枕にして眠っていた。しかし、肝心のフランキーはいない。ルフィが仲間に誘うことを見越して身を隠したらしい。フランキーは何か事情があって海賊にはなりたくないようだ。

 

「この船は凄いぞ。どんな海でも超えていける。」

 

 そう言ってガレーラカンパニーと共に造船を手伝ったアイスバーグが船にかかった布に手をかけた。

 

「フランキーからの伝言はこうだ。『お前はいつか海賊王になるんならこの百獣の王の船に乗れ』!」

 

 アイスバーグが布を取るとメリー号のおよそ二倍はある大きさの、ライオンの船首を持ったスループ船が現れた。甲板はふかふかの芝生に覆われ、ジムや図書館、大浴場まで完備された船にルフィ達は大興奮だ。

 

「うおぉ!!夢にまで見た鍵付き冷蔵庫があった!巨大オーブンまで!!」

 

「こ、これはすごいですっ!これでお掃除が楽になりますっ!」

 

 中でもサンジとエレインが特に興奮しており、サンジはキッチンに備え付けられた設備に、エレインはフランキー作の自動でゴミを吸い込む機械、前世でいう掃除機にそれぞれ大喜びしていた。

 

 新しい船に大喜びしているとルフィ達はアイスバーグからフランキーを無理やりにでも海に連れ出すように頼まれた。フランキーは海に出たくないわけではないのだが、過去の出来事から自分をこのウォーターセブンに縛り付けてしまっているらしい。その束縛からフランキーを解放するためには力づくが唯一の手段なのだそうだ。

 その言葉を承諾してルフィ達が行ったフランキーの勧誘は過去類を見ないほどひどいものだった。

 

「ナミさん?何も見えませんよ?」

 

「あんたは絶対見てはいけないわ………」

 

 それがどういうものかは特に特筆しないが、終始ナミがエレインの目を塞いでいたことを記しておく。何はともあれ無事にフランキーが仲間に加わった麦わらの一味はウォーターセブンを急いで出航する。というのも、ガープの船が攻撃態勢を整え、ルフィ達を探しているという情報をゾロとサンジが入手してきたからだ。だが、この船にはまだ一人乗っていない人物がいる。ルフィと決闘をして仲間から抜けたウソップだ。 

 ウソップについてはフランキーの船が完成するまでに話し合っていたことがあった。ウソップは理由はどうであれ、ルフィと決闘をして敗け、勝手に一味を出て行った。それ故にルフィが下手に出て彼を迎えに行くことは船長の威厳を失うことに繋がるということで、彼が謝りに来るまで待つことになったのだ。だが、結局出航までウソップが現れることはなかった。

 

「しょうがねぇよ!ずっと待ってたけど来なかったんだ。これがあいつの答えだ。あいつはあいつで楽しくやるさ!」

 

 そう言って笑うルフィだが、その無理やり作った笑顔は見ていて苦しい。

 

ボォンッ!!

 

 そんな時、遠方から砲弾が飛んできて船の付近に着弾した。見れば犬を象った船首を持った海軍の軍艦が島の影から現れた。軍艦の船頭でガープがメガホンで叫んでいる。ウォーターセブンではルフィ達を捕まえないと言ったガープだが、その事を海軍本部にバカ正直に報告してお叱りを受けたのだそう。ガープは船を狙って素手で次々に砲弾を投げる。

 

ズドォンッ!ズドォンッ!

 

「どわっ!無茶苦茶だあのじいさん!!」

 

 その砲弾の速度は尋常ではなく、大砲で撃つものより威力も数段上だ。ルフィ達は砲弾を叩き落として必死に船を守る。

 

「来た!ウソップが来たぞ!」

 

 そんな中、チョッパーが海岸に駆け付けたウソップの姿を発見した。チョッパーは急いでそのことをルフィ達に伝える。その間に海岸のウソップは必死に叫びながら船の方に走ってくる。

 

「エレインッ!ウソップが来たってば!」

 

「”追撃のつむじ風”!」

 

 ウソップの口から出てくるのは決闘の件をうやむやにしようという言葉のみ。待ち望んだ言葉ではないので、チョッパーが知らせてもルフィ達はそれを無視する。エレインもチョッパーの知らせにわざと被せるように技名を叫び、飛んでくる砲弾に追尾性能を持つ風の刃を飛ばした。

 

「ごめーーーーんっ!!」

 

 船がウォーターセブンを離れ、そろそろ海岸からの声も届かなくなるというとき、ついに待ち望んだ言葉がウソップの口から出た。ウソップは顔を涙や鼻水でぐちゃぐちゃにしながら海岸の先で必死に頭を下げて謝っている。もう一度仲間に入れてくれとそう叫んでいた。

 

「バカ野郎っ!!早く掴まれーー!!」

 

 それを聞いて真っ先にルフィがウソップに手を伸ばした。ルフィもウソップと同じく涙や鼻水で顔がぐちゃぐちゃだ。ウソップがルフィの腕を掴むとゴムの伸縮性ですごい勢いで船に引っ張られ、ルフィと頭をぶつけたウソップはあらぬ方向へ飛んでいき、それをエレインが苦笑を浮かべながら第二形態のシャスティフォルで受け止める。麦わらの一味のいつもの光景が戻ってきた。

 

「やっと全員揃った!冒険にいくぞ野郎共っ!!」

 

「「「おぉーーーーっ!!」」」

 

 ルフィが号令をかけて皆が元気よく返事をする。まずはこの砲撃を抜けなくてはならない。そのためにフランキーが指示したのは船の帆をたたむことだった。指示を受けたエレインが魔力を用いて慣れた手つきでシュルシュルと帆をたたんでいく。

 次にフランキーは船に名前を付けようと提案した。名もなき船では出航に勢いがつかないとのこと。それで未だ続く砲撃の中ではあるが船の名前を決める緊急会議が開かれた。皆思い思いの名前を提案するが、誰もかれもセンスがひどい。でたらめに動物を羅列させてみたり、船のイメージとかけ離れた名前を付けようとしたり、中々いい案が出ない。

 

「あ…あの………」

 

 そんな中、エレインがおずおずと手を挙げた。

 

「サウザンド・サニー号………なんてどうでしょう?」

 

 エレインは原作にてこの船に付けられた名前を提案した。それはアイスバーグが過酷なる千の海を太陽のように陽気に超えていく船という意味で提案した名だ。

 

「おお!カッコいいなそれ!」

 

「俺が考えたダンゴ・ゴリラ・ライオン号よりいい!!」

 

「しりとりかっ!!」

 

 当然この名はルフィ達も気にいったようで、船の名前はサウザンド・サニー号に決まった。

 

「おーーい!じいちゃんっ!これから俺達本気で逃げるからな!!」

 

 船の名前も決まり、後は逃げ切るだけとなってルフィがガープにそう叫ぶ。するとガープは一体どこから取り出したのかサニー号を優に超える大きさの巨大鉄球を投げつけてきた。

 

「”風来(クー・ド)バースト”!!」

 

 よもや鉄球が激突すると思われた瞬間、サニー号の後方に装備された巨大空砲から強烈な空気が発射され、サニー号が一瞬にして大空を舞い、巨大鉄球を回避した。宝樹アダムの強度と巨大空砲によって実現したサニー号の緊急離脱システムだ。

 

「今日からこいつがお前らの船だ!!」

 

「よっしゃー!」

 

「よろしくな!サニー!」

 

「エレイン!帆を張れ!全速前進っ!!」

 

「はい!船長!!」

 

 船も新しくなり、心機一転した麦わらの一味は次の冒険に向けて陽気に船を走らせていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こりゃまいった。逃げられたわい。」

 

 ルフィ達にまんまと一杯食わされ、ガープはニヤリと笑う。そしてさすがは儂の孫と腕を組んで大笑いした。

 

「……さて、儂らもさっさと任務を終わらせて帰るとするか!ドーベルマン!次の任務は何じゃったかの!」

 

「忘れないで下さいよガープさん。その常闇の棺の欠片を持って”決戦地ブリタニア”に行き、古代種族”魔神族”の封印を解く、ですよ。残りのレリーフと女神の使徒の血は現地で渡される手筈になっています。」

 

 任務を覚えていないガープにドーベルマンは呆れ顔になるとガープの腰にある常闇の棺の欠片を指さして説明した。

 

「……なぁ、ドーベルマン。俺はその任務についてよく知らねぇんだが、政府は何でまた魔神族なんて復活させようと思ったのよ?」

 

 そうドーベルマンに尋ねるのは自分で帰るのが面倒くさいと図々しくガープの船に搭乗していた青キジだ。青キジがビーチチェアに寝そべりながら質問するとドーベルマンが説明を始める。

 なぜ政府が魔神族を復活させようとしているのか。それを説明するためにはまず最近の政府の考え方について説明しなければならない。以前まで政府は古代兵器の存在とその復活を恐れていた。ロビンが幼くして指名手配されたのもそれに由来する。しかし、政府は兵器の復活を恐れるよりいっそ呼び起こして大海賊時代に終止符を打とうと考えた。今回の事件でアイスバーグを襲ったのは実はCP9なのだが、それも古代兵器の復活のためだった。

 魔神族の復活もその一環である。古代兵器の利用があまり上手くいっていない今、3400年前の第一次聖戦、そして400年前の第二次聖戦で猛威を振るった魔神族を甦らせ、政府の圧倒的な組織力と武力で配下に加えてしまおうというわけだ。これから彼らが向かう決戦地ブリタニアは第二次聖戦において最後の戦いの舞台となった島である。その島は極めて特殊な場所にある。エニエス・ロビー、インペルダウン、海軍本部の政府三大機関を結ぶタライ海流を造る巨大な大渦、その中心にその島は存在していた。

 

「よっしゃ!行くぞお前ら!」

 

「「「はっ!!」」」

 

 ガープが指示を飛ばすとコビーを始めとするガープの部下達が船を慌ただしく走り回り、軍艦をブリタニアに向けて出発する。海軍の軍艦は船底に海楼石が敷き詰められているため、海の中の海王類達にその存在を気づかれることはない。軍艦の旅は順調に進んでいく。

 

「グオォォォォォッ!!!」

 

「お、大型の海王類だぁ!!」

 

「全員戦闘準備っ!!」

 

 だがそれも100%ではない。軍艦の存在に気付いた敏感な海王類が海面から顔を出してガープの軍艦に襲い掛かる。

 

「慌てるなバカもん!どれ、ここは儂が……」

 

 ガープは意気揚々と将校のコートを脱ぎ捨てた。すると腰につけていた常闇の棺の欠片が露になる。それを見た海王類がピクッと反応した。

 

__ォォォォ……ン………

 

 次の瞬間、海王類は常闇の棺の欠片が凶悪な竜となって自分に食らいついてくる幻覚を見た。それに怯えて海王類はガープの船に背を向けて海中へ去っていく。その様子にガープは不満げな顔をし、海兵達はホッと胸を撫でおろした。

 

「……一瞬、あの剣に怯えたみてぇだったな。」

 

 青キジがポツリと疑問を口にしたが、それを気にする者はこの船にはいなかった。

 それから数日間旅をして、タライ海流を何とか越えた末にガープ達はブリタニアに到着した。乗っていた海兵達はもうくたくたである。

 

「ガープ、やっと到着か。」

 

「おぉセンゴク。もう来とったか。」

 

 そこでガープ達を待っていたのはセンゴクだった。彼もまたこの任務のために海軍本部での会議が終わった後に駆け付けたのだ。その手には様々な種族が描かれたレリーフと血液が入った試験管を持っている。常闇の棺と女神の使徒の血だ。二人は合流するとブリタニアの奥地へ進み、木が開けた広場のような場所に出るとセンゴクがガープの持っていた刃折れの剣を常闇の棺にはめ込み、地面に放り投げ、女神の使徒の血をガープに手渡した。

 

「さあ、後は封印を解くだけだ。」

 

「ん?儂がやるのか?」

 

「お前がやれとの上からの命令だ。私は最後まで反対したのだがな………」

 

 そう言ってセンゴクは下がった。ガープが後ろを振り返るとセンゴクや青キジ、ドーベルマン、そして自分の部下達がいた。これだけそうそうたる顔ぶれが揃っていれば不測の事態が起きても大丈夫だろう。そう結論付けてポケットから書物を取り出して魔神族復活のための呪文を唱え始めた。

 

『これは人間の手に負えるものじゃないっ!!』

 

 不意に自分の孫の船にいた妖精の少女の顔が頭をよぎったが、ガープはすぐに頭から追い出して任務に集中する。

 

バリバリッ!!

 

 呪文の前半の部分が終了すると儀式の準備が完成した。レリーフから強い光が放たれ、空中に禍々しい穴が出現する。ガープは呪文の続きを唱えながら試験管から女神の使徒の血をレリーフに垂らす。すると禍々しい穴がより一層広がった。

 

「魔の者達の呪縛を解き放て。………ぐおっ!?」

 

「ガープ中将!?」

 

「これはマズいな………、全員退却!」

 

 すると次の瞬間、光の刃が飛んできてガープの身体を切り裂いた。危険を感じたセンゴクは海兵達を光の刃が届かない距離まで下がらせる。

 

「ぐぬぬ………、この程度でへこたれる儂ではないぞ!ぐおぉぉぉぉっ!!」

 

 ガープは無数の光の刃に襲われながらも海で鍛えた力を武器に耐え、尚も呪文を唱え続ける。

 

「消えよ………!無垢なる呪いっ!!」

 

グアッ!!

 

 ついにガープが呪文をすべて言い終え、儀式を終えると一際強力な光が放たれ、センゴク達は思わず目を覆った。目を開けると気を失ったガープが地面に倒れており、常闇の棺もバラバラになっている。

 

ゾクッッッ!!!

 

 だが、そんなことは正直今のセンゴク達にとってどうでも良かった。そんなことよりも目を引かれる者達が目の前にいたからである。そこにいたのは"九人"の化け物だ。数々の戦いを経験したセンゴクや青キジでさえ、身の危険を感じて身構えてしまう程の力を彼らから感じた。

 

 海賊達が猛威を振るう大海賊時代、そこに新たなる混沌………十戒が解き放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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