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妖精族は政府によって滅ぼされた種族。
青雉の口から語られた衝撃の事実にその場の空気が一瞬にして凍りついた。ルフィ達はあまりの衝撃にその事実をすぐに理解することができなかった。いつも自分達のために尽くしてくれる大切な仲間の家族が、友が、もうこの世に存在しない。その事実を認めたくなかったのも一因だろう。
ルフィ達はこれまでの冒険で仲間の故郷を守る戦いを何回か経験している。見事敵を打ち倒して彼らを救った時見た笑顔の輝きをルフィ達は今でも鮮明に思い出せる。
「な、何言ってんだよ……!!」
だからこそ、一番に事を理解し、発言したルフィの声は怒りに震えていた。もうエレインには帰る場所も、迎えてくれる家族もいない。そんなことあってたまるかという思いが今のルフィには宿っている。
「何言ってんだお前っ!!」
「てめぇ……!!」
「エレインの仲間に何したのっ!?」
「何とか言えっ!!」
「返答次第じゃただじゃおかねぇぞノッポっ!!」
「許さないぞお前っ!!」
「まさかっ……!バスターコールを……!?」
それは麦わらの一味全員が全員同じ思いだった。未だ茫然としているエレインを除き、全員が自身の得物を青雉に向け、先程まで感じていた恐怖など知ったことかと青雉を責め立てる。政府が妖精族を滅ぼしたのは遥か400年も昔の話で、青雉を責めても意味はないのだが、ルフィ達は目の前の政府関係者を責めずにはいられなかった。青雉はこの反応は想定済みだったのか両手を前に突きだして落ち着くように促し、幾分かルフィ達が落ち着いたのを見計らって話し始めた。
「そもそもお前ら……、"妖精族"についてどれくらい知っている?」
青雉の問いにルフィ達はエレインの船での生活や戦闘時の能力などを思い浮かべる。彼女は常に空をふよふよと飛び、時に植物を操り、極めつけに"魔力"という聞き馴染みのない不思議な力を使う。これが妖精族の力なのだろうか。その旨を青雉に伝えると彼は「あぁ、そうだ。」と肯定した。
「だが、お前らが知ってるのは妖精族の計り知れない力のほんの一部分だ。その他にも相手の心を読んだり、変身したりと妖精族は様々な力を持っている。そして何より政府が恐れたのが悠久の時を生ける妖精族の"寿命"だ。奴らは姿形を変えずに数千年と生きることができる。だからその嬢ちゃんもそんなナリをして本当は幾つなのか分かったもんじゃねぇ。」
「「「!?」」」
青雉の言葉にルフィ達は驚いてエレインを見た。心を読めることや変身できることにも驚かされたが、その寿命に一番驚いた。ルフィ達人間は一部例外を除いて寿命は精々100年、リトルガーデンで出会った巨人族でさえ寿命は300年である。それと比べると妖精族のそれはまさに桁が違う。そして、今まで分かった妖精族の能力を総合的に見ても、他の種族とは卓越した能力を有しているように思えた。エレインの異常なまでの強さの一端を垣間見た気がした。
「そんな長寿命の種族だ。"空白の100年"のことを知ってるやつが何人いたって不思議じゃねぇ。加えて当時政府は妖精王の治める森と和平を結んでいた。それは友好の証というより、互いに干渉しない密約の意味合いのほうが強かった。ニコ・ロビン、お前ならもう分かったんじゃねぇか?なぜ政府が妖精族を滅ぼしたのか。」
青雉がふったのでルフィ達はロビンの方を向いた。考古学を学び、オハラでの経験もあるロビンは震えながらも答える。
「……"空白の100年"は政府が調査すること自体を禁止する程の知ってはいけない歴史……妖精族はそれを知っている可能性があり、なおかつ、政府に従順でない不確定因子だったから……」
「そうだ。その上それを治める妖精王は何人の侵入を拒み、人々に恐怖を与えた正真正銘の化け物だった。厄介者はとっとと消すに限るとの考えに至った当時の政府は"ある事件"をきっかけに妖精族の森に一斉攻撃を仕掛けたのさ。」
話し終えると青雉は未だ茫然と立ち尽くすエレインの元へスタスタと歩み寄る。
「…待ちなさい……!!」
エレインと青雉の間にロビンが立ち塞がった。
「…そこを退け、ニコ・ロビン。」
「…エレインを、どうするつもり……!?」
「無論、殺す。」
「「「!!?」」」
エレインの殺害予告にルフィ達に緊張が走った。
「この400年の間、幾度となく生き残りの妖精族が復讐のために政府に乗り込んできた。もちろんその度に返り討ちにしてきたが、受ける被害は毎回甚大だ。だから俺達海兵は妖精族を見かけたら即座に殺すよう上から指示を受けてる。」
そう言って青雉は凍てつく氷と化した右腕をエレインに向ける。
「っ!させないっ!!"三十輪咲き(トレインタフルール)"!!」
ロビンは咄嗟にハナハナの実の能力で青雉の体中に無数の自分の手を咲かせた。それらの手は青雉の首、手、足といった関節を押さえる。
「あららら、少し喋り過ぎたかな。残念、もう少し利口な女だと買い被ってた。」
「"クラッチ"!!」
青雉の体中に咲いたロビンの手が一斉に関節技をかけ、青雉の体は腰からボキッと折れ、バラバラに地面に転がった。だが、自然系(ロギア)である青雉の体はすぐに氷で再構築され、パキパキと元通りになる。
「んあぁ~~、ひどいことするじゃないの……」
青雉は地面の雑草を何本かブチブチと抜き、それを空中にパラッとばらまき、凍らせることで一振りの氷の剣を作った。青雉はそれを振り上げてロビンを狙う。
ガキィンッ!!
その氷の剣を走り込んできたゾロが刀で受け止めた。
「"切肉シュート(スライスシュート)"!!」
ゾロが受け止めた氷の剣をサンジが遠くへ蹴り飛ばした。無防備になった青雉にルフィが走り込む。
「うっ!」
「ん!!」
青雉は空中のサンジの右足、ゾロの右肩をそれぞれガッと掴んだ。
「"ゴムゴムの銃弾(ブレット)"!!」
ドォンッ!!
そのタイミングでルフィの強力なパンチが青雉の腹部に決まった。
「うわっ!!」
「ぐあぁ!!」
「おあああっ!!」
だが、青雉にダメージを受けた様子はない。それどころか、逆に攻撃を仕掛けたルフィの拳が凍らされ、サンジとゾロも掴まれた部位を凍らされてしまった。
「なっ!?あの三人がいっぺんに………!!」
一味の主力である三人が一度にやられたことにナミは海軍大将の力を肌で感じて身震いする。
「……いい仲間に出会ったな。だが、お前はお前だ、ニコ・ロビン。」
「っ!……違う……!私はもう……!!」
冷気を体中に纏った状態で青雉はロビンに抱きついた。体中に当てられた冷気でロビンの体はパキパキと徐々に凍っていく。
「逃げろっ!!ロビンっ!!」
逃げようにも青雉に抱かれた状態で、なおかつ体が凍っていく中では身動きがとれず、ロビンは為す術なく凍っていく。そして全身が凍りつこうとしたその時……
ドゴォ!!
「っ!!」
「っ!ハァ……!!ハァ……!!」
青雉の頭をシャスティフォルの第二形態が殴り砕いた。全身の約7割程度を凍らされたロビンが振り返るとエレインが鋭い眼光を青雉に向けていた。
◇
「…何だってんだオイ…。」
頭を再生した青雉は俺のことを睨み付ける。だが、俺も臆することなく青雉を睨み返した。
この世界の妖精族の事実を理解することができず、しばらく茫然としてしまったが、元々俺はこの世界の構造を細かく理解する気はないし、1+1=2の計算に何の疑問も抱かないように、"ああ、そういうものなんだ"と納得するしかないという結論に至り、自分を無理矢理納得させた。
そして気を持ち直した時、ロビンが青雉に凍らされてる真っ最中だったので慌てて助けた。ルフィとゾロとサンジはそれぞれ拳やら腕やら足やらを凍らされている。
やべぇ、俺がぼうっとしてる間にどれだけ話が進んだんだ?
「ウソップ!チョッパー!ロビンを連れて船に戻れ!!手当てしてロビンを助けろ!!」
ルフィはウソップとチョッパーに指示を出し、二人はその指示に従ってロビンに肩を貸して急いで船に戻っていった。
「ゾロ、サンジ、エレイン。お前ら、手を出さないでくれ!一騎討ちでやりてぇ!!」
そしてルフィは俺達三人に下がれとの命令を下した。正直勝てるとは思えなかったが、船長の真剣な眼差しを見て、俺達は潔く下がった。
「……ゾロさん、サンジさん、お二人は船に戻ってその凍った手足を手当てして下さい。ここには私が残ります。」
「!だけどお前は……!!」
「大丈夫です。私は誇り高き妖精族ですよ。ルフィさんを連れて必ず戻ります。」
「…………………ちっ、分かった。だが手当てしたらすぐに戻ってくるぞ!いいな!」
「はい。」
ゾロとサンジは凍った手足を庇いながらメリー号へ走っていった。残るは俺と青雉と対峙するルフィ、そして俺の後ろに立っているナミだけだ。
「……ナミさん、あなたも早く船に戻って下さい。」
俺は背中越しにナミに話しかける。ナミが今どんな表情をしているのか、俺には分からない。
「……エレイン、あなた……いえ、何でもないわ。絶対戻ってくんのよ!やられたら許さないからね!!」
そう言い残し、ナミも船に戻っていった。彼女の足音がだんだん遠ざかっていくのが分かる。これでいい、うろ覚えだが、原作でもルフィは青雉と一対一で戦ったはずだ。俺という見物人がいるものの、それと同じ状況を作り出すことができた。これでルフィは原作通りこの状況を切り抜けることができるはずだ。俺は万が一危なくなった時の保険だ。いざという時はできるかどうか定かではないが、"真の霊槍"の力を発揮してでもルフィを助けるつもりだ。
「……あぁ、そろそろいいか?」
「いくぞっ!!うおおあああぁ!!!」
ついに無謀な戦いが幕を開けた。先手必勝とばかりにルフィが素早い踏み込みで青雉で突っ込んでいく。青雉は冷静に氷の力を纏った右手を前に突き出し、ルフィを凍らせようとする。
ガンッ!!
ルフィは青雉の手をしゃがんでかわし、左足で青雉を天高く蹴り上げた。そしてすかさず大きく息を吸い込み、体をゴム風船のようにふくらませながらギリギリとひねりを加えていく。
ブオッ!!!
「"ゴムゴムの暴風雨(ストーム)"!!!」
ふくらみとひねりが限界に達したルフィは地面に向かって息を吹き出し、風圧とひねりで体をギュルルルルと勢い良く回転させながら青雉の方へ吹き飛ぶ。吹き飛びながらルフィは"ゴムゴムの銃乱打(ガトリング)"も並行して放ち、それはまさに拳の暴風雨(ストーム)だ。
「"アイスタイム"。」
パキィ……ン……
だが、ルフィの最高の攻撃も青雉にはまったく届かなかった。青雉はルフィの拳の雨の僅かな隙間を縫って抱きつくという神業を披露し、ロビンと同じようにそのままルフィの全身を凍りつかせてしまった。凍りつき、自由落下してくるルフィの体を俺はクッション状態のシャスティフォルでポフッとやさしくキャッチした。
スタッ
俺がルフィの体を割らないように慎重に地面に置いた直後、青雉が地面に降り立った。俺はすぐさまシャスティフォルを槍状態にして傍らに構える。青雉はルフィという決して弱くない海賊を相手にしたというのに息切れ一つ起こしていない。それどころか、衣服も一切の乱れも見られない。
完敗だ……。
いっそ清々しい程の大惨敗。世界とはこんなに遠いのか。俺は思わずフッと微笑を浮かべてしまった。その微笑に青雉は気がつかなかったらしい。
「……次は嬢ちゃんが相手か?」
「……いえ、一騎討ちをこちらから挑んだ以上、私が戦うのは野暮というやつでしょう。」
俺は青雉と会話しながら、この状況をうまく切り抜ける方法を、脳をフル回転させて考えていた。先の戦いでルフィが青雉に少しでも傷を負わせてくれれば"状態促進(ステータスプロモーション)"とかやりようがあったのだが、結果は無傷の完敗だ。無い物ねだりをしても仕方ない。
考えろ……!10秒で考えるんだ!ルフィも俺も両方助かる方法を……!!
「………なるほどねぇ、まいった、ハメられた。」
「………は?」
青雉はポリポリと頭をかくと突然そんなことを言った。
「一騎討ちを受けちまった以上この勝負は俺の勝ちでそれまで……。そういうことか?これ以上他の奴らに手を出せば野暮になるわな。」
俺は唖然としていた。野暮って……そんなことで見逃してもらえるのか?こんなことは俺がいた現代日本じゃまずありえない。警察官が街で暴れる犯罪者との一対一の勝負をして、おまけに勝ったのに「これは一騎討ちだから」と言って犯罪者を見逃したりはしないだろう。この世界だってそれは同じはずなのに青雉は見逃そうとしている。もしかしてこの世界って俺の想像以上に"仁義"とかそういうものが浸透しているのだろうか。
「……これだけは言っとくぞ。お前達はこの先、ニコ・ロビンを必ず持て余す。あの女の生まれついた星の凶暴性をお前達は背負いきれなくなる。」
「………………」
「あの女を船に乗せるという事はそういう事なんだ……。」
「……一応、頭の片隅にでも入れておきましょう。」
「……ここでお前らを仕留めるのは造作もねぇが、借りがある。これでクロコダイル討伐の件、チャラにしてもらおうじゃないの。それと……あぁ、いいや、スモーカーのバカの話は。じゃあな。」
そう言って青雉はコートを羽織りながら草原の彼方へ消えていった。なるほど、青雉が今回俺達を見逃したのはルフィがクロコダイルを倒したから。俺はその戦いに参加していないのでまたも薄っぺらな原作知識になるが、確かクロコダイルは"王下七武海"という政府公認の海賊だったはずだ。緻密な戦略でアラバスタを乗っ取ろうとしたクロコダイルをルフィは見事討伐した。その功績が今回役に立ったのだろう。
その後、俺はクッション状態のシャスティフォルでルフィを優しく抱き抱え、ふよふよと船に戻った。そしてチョッパー先生の適格な治療のおかげでルフィとロビンは一命を取り留めた。
◆
その夜、俺は一人、メリー号の甲板をクッション状態のシャスティフォルに寝転がった状態でふよふよと浮遊していた。なんとなく、眠る気にならなかったのだ。凍りづけになったルフィはぐーすか寝ていたけどな。あの図太い精神が羨ましい。
ふと空を見上げると無数の星々が輝いていた。草原しかないこの島で見る星空はより一層輝いて見える。むしろ鬱陶しいくらいだ。
『……だぁれ?』
しばらく星空を眺めているとふと頭に懐かしい顔が浮かんだ。黒髪のショートカットで背が高めの女の子の顔だ。
「……ふふっ、そっか、確かあいつに初めて会った夜も憎たらしいくらい星が光ってたっけ。」
俺は頭に浮かんだワンピース好きのそいつ__"夏美"のことを思い出し、そっと右腕を星空に伸ばし、手のひらを広げてかざした。なんとなくそうしたい気分だった。
……夏美、信じられないかもしれないが、俺は今、お前が知り尽くしているワンピースの世界にいる。本物の偉大なる航路(グランドライン)はテレビや漫画で見るものとは段違いで、常に命懸けの旅だ。ここはお前が知ってるワンピースとはちょっと違う世界だけど、俺は頼もしい仲間達と楽しくやってるよ。
……お前はきっと、俺のことを恨んでいるんだろうな。出来損ないの弟(オレ)を。これは俺のわがままだけど、もし良かったら見守っていて欲しい。
俺はこの世界で、お前の分まで生きるから……。
△
時は少し遡り数時間前、ここは海軍本部元帥室。"絶対的正義"の文字がデカデカと掲げられたこの部屋では、海軍の帽子を被り、その上にカモメを乗せたメガネでアフロヘアーの男が机の上に積み重ねられた書類を片付けていた。男の名は"センゴク"。海軍のトップである元帥を担う男だ。
センゴクが黙々と仕事をしていると、バタバタと足音が聞こえてきた。その足音は徐々に近づいてきて、部屋の前に辿り着くと、元帥室の襖をスパーンと開けて海兵が入ってきた。ひどく慌てた様子の彼の階級は大佐。海賊達を相手に幾度となく戦果を上げた海軍将校である。彼はビシッと敬礼すると机のセンゴクに慌てた様子で話し始めた。
「センゴク元帥!!報告があります!!"例の島"に向かわせた調査兵団の件なのですが………!!!」
「……あぁ、あれか。…まったく、上はいつまであんなものに固執する気なのか。今回の被害はどうなんだ?また全滅か?」
大佐が報告した調査兵団とは偉大なる航路(グランドライン)の前半にある小さな島の調査隊だ。それは地図にすら載らない本当にちっぽけな島で、絵に描いたような無人島である。海軍は上の指示でその島の調査を定期的にやらされている。
何でもその島には"宝樹アダム"や"陽樹イヴ"とはまた異質な"神樹"がそびえ立っており、その樹は遠い昔に滅びた"聖女"なる存在を守っているのだとか……。
そんな根も葉もない伝説に、世界の創造主の末裔である天竜人が興味を持ち、度々調査依頼が海軍にやってくるというわけだ。彼らが言うには神樹を伐採し、眠っている聖女と共に持ち帰れとのことだが、センゴクとしてはそんなことに兵を使いたくはなかった。大海賊時代である現在、海には無法者がそれこそ掃いて捨てる程いる。各地で行われる略奪行為の処理の追われる最中、真実かどうかも分からない伝説に付き合いたくはなかったのだ。伝説が真実かどうかはともかく、何故か調査兵団は毎回全滅してしまうのでなおさらだ。
どうせ今回も全滅の報告だろう……。遺族への書類と慰謝料を用意しなければ……。
そう思っていたセンゴクだが、今回の報告はかなり違っていた。
「いえ、実は先ほど兵団から連絡がありまして、隊は初めて島の中心部へ侵入することに成功したとのことです!」
「なに?」
声を張り上げて報告する大佐。それを聞いたセンゴクは、普通喜ぶ場面なのだが、喜びよりも疑問が先走った。
今までの調査は、すべて島に降り立ち、生い茂る森の中心に向かおうとした瞬間、何かに襲われて全員絶命というケースが多く、そうでなくても中心に行く前に必ず全滅していた。だが、今回に限って中心部への侵入に成功、しかも大佐から報告を聞くに、そこに至るまでの経緯で死傷者はゼロらしい。
何故だ?何故急にここまですんなり事が進む?
センゴクの疑問は募るが、中心部に着いたのならひとまず調査結果を聞こうと大佐へ報告を促す。兵団は何を掴んだのか。少なからず期待を抱くセンゴクだが、大佐の報告はその期待を裏切る。
「……それが……中心部にはまるで巨大な大樹が抜けた跡のような大きな穴が開いてるのみで……神樹も聖女も……影も形もないと……。」
「なんだとっ!?」
センゴクは机をバンッと叩いて立ち上がる。その衝撃で机の上の書類がバサバサと落ちるが、そんなことは気にしてられない。これまで数えきれない程の兵を島に送ったのだ。散々兵を犠牲にした挙げ句無駄足でした、など冗談ではない。
「(いや、待てよ……!)」
怒りと悔しさに打ち震えるセンゴクだが、ふとあることに気づく。先ほどこの大佐の報告では「島の中心部にはまるで巨大な大樹が抜けた跡のような大きな穴があるだけ」とあった。その巨大な大樹こそが神樹だとしたら……?もう聖女は目覚め、活動を開始しているとしたら……?
「……………聖女か……。」
センゴクは小さく呟き、思考を巡らせるのであった。
主人公にやたらワンピースの漫画やDVDを勧めてきた友達とは夏美のことです。ここから少しずつ、主人公の過去にも触れていきます。