とある妖精の航海録   作:グランド・オブ・ミル

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第三回戦コンバットも大幅カットです。流れはドーナツレース同様原作とまったく変わらないのでそちらをご覧下さい。


デービーバックファイト編5・妖精と青雉

 

 

 

 

 

 

 

 

第二回戦を制した俺達は無事チョッパーを取り戻し、第三回戦のコンバットもルフィはフォクシーの姑息な手やノロノロビームをなんとかかわし、辛くも勝利。彼らの海賊マークを奪ってデービーバックファイトは俺達の勝利で閉幕した。

 

そして現在、俺達はフォクシー達から奪った海賊旗を担いだルフィに連れられ、ある場所に向かって歩いていた。ちなみに俺はチョッパー先生に絶対安静を言い渡されてしまったので、クッション状態のシャスティフォルにうつ伏せに寝転がった状態でふよふよ移動している。俺の身体には頭や体に包帯がぐるぐる巻かれている。

 

いや~、ずいぶんエレインボディを痛め付けてしまったものだ。

 

しばらく歩くと広い草原の真っ只中にかまくらのような形のテント式の家に辿り着いた。家の前には首や足がやたら長い白い馬と小さな、俺と大体同じくらいの背丈のおじさんがいた。おじさんは白い馬を愛しそうに撫でている。

 

「ブッ飛ばしてきた!」

 

ルフィはおじさんの前に行くとにししと笑いながらフォクシー達から奪った旗をおじさんに突き出した。おじさんはそんなルフィを見て「ありがとうよ…。」と笑った。その横でチョッパーは白い馬の足に巻かれた包帯をほどいて手当てをしていた。包帯がほどかれた白い馬の足には銃で撃たれたような傷がある。

 

なるほど、合点がいった。ルフィはフォクシー達に傷つけられた白い馬の仇を討つためデービーバックファイトを受けたのだ。わざわざ相手の土俵に立って。麦わらの一味に入って日が浅い俺だが、ルフィの性格はなんとなく分かっている。まったく、お人好しなことだ。

 

聞けばなんでもこのおじさん、トンジットさんは10の島々からなるこのロングリングロングランドを引き潮の時に渡り歩く移動民族のおじさんだったが、うっかりこの島に取り残されてしまったらしい。俺達がメリー号で送ってあげられればいいのだが、10の島々は元々1つの島で満潮で分かれているだけなので記録(ログ)がとれないのだそうだ。

 

「うごっ!?」

 

俺達をもてなそうと家に入ろうとしたトンジットさんは家の入口の前の壁にぶつかった。よく見れば壁ではなく、かなり高身長の人だった。青いYシャツの上に白いスーツを着た男で、アフロヘアーのようなファンキーな髪型で立ったままアイマスクをしてぐーぐーと気持ち良さそうに寝ている。こ、この人はもしかして………!!

 

ドサッ……!

 

「ハァ……!ハァ……!」

 

「ロビン!?」

 

「どうした!?ロビンちゃん!!」

 

男を見た瞬間、ロビンが真っ青な顔をして地面に崩れる。ルフィ達もただならぬ気配を感じ、男から一歩下がっていつでも戦えるように構える。

 

「あらら…こりゃいい女になったな、ニコ・ロビン。」

 

この男を俺は知っている。自他共に認めるワンピースオンチの俺でも知ってるこの男は"青雉"。本名は"クザン"といって海軍の最高戦力である三人の海軍大将の一人である。自然系(ロギア)の悪魔の実"ヒエヒエの実"の能力者で大将の肩書きに恥じない圧倒的な実力と存在感を持つ人物だ。

 

「何でそんなやつがここにいんだよ!!もっと何億とかいう大海賊を相手にすりゃいいだろ!!」

 

「ちょっと待ちなさいお前ら、まったく……。別におれぁ指令を受けてここに来たわけじゃねぇ。天気がいいんで散歩してただけだ。だいだいお前らあれだよ……ほら……………忘れた、もういいや。」

 

「「話の内容グダグダかお前!!」」

 

ダラダラとした雰囲気の青雉にサンジとウソップがツッコむ。そんな彼の海兵としてのモットーは「だらけきった正義」らしい。見かけ通りである。青雉はやがて立っているのが疲れたらしく、持っていたコートを枕にしてその場に寝転がって話をし始めた。

 

ズキンッ!

 

「うっ……!?」

 

「?どうかしたかエレイン?」

 

「あ、いえ、大丈夫です。」

 

青雉がコートを地面に置いたとき、一瞬コートの"正義"の文字が見えた。その瞬間俺は鋭い頭痛を感じた。思わず頭を押さえた俺を隣にいたチョッパーが心配してくれた。今はもう痛みを感じないので大丈夫だと伝えておく。今の頭痛は一体何だったのだろうか……。

 

「まぁ、早ぇ話、お前らをとっ捕まえる気はねぇから安心しろ。アラバスタ事後、消えたニコ・ロビンの消息を確認しに来ただけだ。予想通り、お前達と一緒にいた。」

 

寝転がって話をする青雉は寝起きのためか若干細目である。その目には一見覇気がまったく宿ってない。こんなのが海軍の最高戦力だなんて初見じゃ絶対信じないだろう。

 

「まぁ、本部に報告くらいはしようと思う。賞金首が一人加わったら総合賞金額(トータルバウンティ)が変わってくる。あとは何より……お前もいることが分かったしな。」

 

「へ?」

 

それまでやる気のやの字もなかった青雉だが、俺をそう指差した瞬間、心なしか青雉の目に強い光が宿った気がした。

 

何だ?俺がいることが分かった?俺は__エレインはワンピースにはいないイレギュラーなはずだ。現に俺が妖精族だということを皆に話しても、どうも彼らには馴染みない種族みたいだったし、魔力を使ってみせてもめちゃくちゃ驚いてくれた。当然青雉だって妖精族のことは知らないはずだ。なのに何故?何故俺がいることが重要なんだ?

 

「あの……それはどういう……?」

 

「ん?決まってんだろ。それは政府が「"ゴムゴムのぉ~"!!」……ん?」

 

俺が青雉と話していると後ろからルフィの声が聞こえた。振り返るとルフィが青雉に殴りかかろうとしていて、サンジとウソップがそれを止めていた。

 

「離せ!!お前らなんだよ!!」

 

「落ち着けルフィ!こっちからフッかけてどうすんだ!!」

 

「相手は最強の海兵だぞ!!」

 

「それが何だ!!だったら黙ってロビンを渡すってのか!!ブッ飛ばしてやる!!」

 

「いやだから……何もしねぇって言ってるじゃねぇか。」

 

海軍大将を前にしてもルフィはいつものルフィのままだった。そこに一切の怯えや恐れはない。ははは、ルフィらしいや。そんなルフィを見てさっきまで取り乱していたロビンも少し落ち着きを取り戻したようだ。俺はふよふよとロビンのそばに移動し、彼女の背中をさすってあげる。俺は取り乱した人の対処法なんてよく知らないが、ある程度落ち着いてきたらこうやって背中を優しくさすってやると人は落ち着いてくるっておばあちゃんに習った記憶がある。大分昔のことであまり覚えてないし、その情報自体も正しいのか不明なので合ってるかどうかは定かではないが、やらないよりマシだろう。しばらくやってるとロビンは落ち着いたみたいで俺に「ありがとう」と言って立ち上がった。

 

俺がロビンの背中をさすっている内に話は進んだようで、青雉がトンジットさんが島を移動できるように手助けしてくれるようだ。俺達は青雉の指示の下、トンジットさんの家を畳んで、荷物を荷車に纏め、引き潮の時に道ができる海岸へ移動する。ルフィと青雉は結局打ち解けてわいわいと話している。敵軍の大将とわいわい話せる我らが船長の肝っ玉を賞賛するべきか、その無謀さを咎めるべきか……う~ん、悩み所だ。

 

「少し離れてろ……。」

 

そう言って青雉は海岸の端に立ち、手をチャプと海につけた。

ざばっ!!

 

「ギュアアァア!!!」

 

「!!いかん!!この辺りの海の主だ!!」

 

その瞬間、海から巨大な海王類が顔を出し、大きな牙を剥き出しにして青雉へ向かっていく。ルフィ達は慌てて身構えるが、俺とロビンは青雉の実力を知っているので何もせず青雉をじっと眺める。

 

「"氷河時代(アイス・エイジ)"。」

 

ガキー…ン!!

 

青雉がそう呟いた瞬間、一瞬にして海が海王類ごと凍りついた。これが海軍大将"青雉"の能力。能力者の絶対的な弱点である海水すらも凍りつかせる青雉の圧倒的な実力を改めて思い知らされる。海は水平線の彼方まで氷の大地と化し、本人曰く一週間は溶けないらしい。

 

「ありがとうなー!!この恩はずっと忘れねぇよー!!」

 

その後、コートと長靴に身を包んだトンジットさんは俺達に手を振りながら氷の大地を歩いていった。ルフィ達はトンジットさんが見えなくなるまでずっと手を振っていた。

 

「ぶぇっきしっ!!寒ぃ!!」

 

「ほら、大丈夫ですか船長。風邪引かないで下さいよ。」

 

「おぉ、わりぃな!」

 

豪快なくしゃみをしたルフィに俺はティッシュを手渡す。そうやって戻ってくると青雉が草原に胡座をかいて座っていた。ルフィの顔を見ては頻りに頭をかき、何か言いたげな顔をしている。

 

「……何だ?」

 

「…何というか、じいさんそっくりだな、モンキー・D・ルフィ。奔放というか…つかみ所がねぇというか…。」

 

「!!…じ、じいちゃん…!?」

 

「?船長、どうしました?汗だくですよ?」

 

青雉がルフィのじいさんの話をした途端、ルフィは汗を滝のようにかいて青い顔をした。俺はそんなルフィの様子を尋ねるも、本人はわたわたとするばかりで、俺はキョトンとして首を傾げるしかない。

 

「お前のじいさんにゃ、俺も昔世話になってね…。俺がここに来たのはニコ・ロビンとお前を一目見る為だ…。」

 

そう言うと青雉は顔を少し俯かせる。見えにくいが目を閉じていることから考え事をしているようだ。やがて青雉は2、3回程ぐにぐにと手悪さをした後、顔を上げる。その目には先程の彼からは想像もできない程の覇気や殺気が宿っていて、それを見た瞬間俺はビクッと体が震え上がるのを感じた。

 

「やっぱお前ら……今死んどくか。」

 

「「「!!?」」」

 

青雉がそう言った瞬間、俺達は身構えた。とはいえ、青雉の威圧からか、まともに身構えることができたのはルフィとゾロとサンジのみだ。ルフィは拳を握りしめ、ゾロも分かりにくいが刀に手をかけていつでも抜けるようにしている。サンジも膝を曲げ、いつでも動ける姿勢を取っている。一触即発の雰囲気だ。俺も恐ろしくてたまらないが、戦闘になる可能性があるのでゆっくりとシャスティフォルから降り、いつでも展開できるように側に構えておく。

 

「政府はまだまだお前達を軽視しているが、細かく素性を辿れば骨のある一味だ。少数とはいえ、これだけ曲者が顔を揃えてくると後々面倒なことになるだろう。初頭の手配に至る経緯、これまでお前達がやってきた所業の数々、その成長速度、長く無法者共を相手にしてきたが、末恐ろしく思う。」

 

「そ、そんなこと急に……!!見物しに来ただけだっておめぇさっき……!!」

 

「特に危険視される原因は……お前らだよ。」

 

焦るウソップの言葉を無視し、青雉は俺とロビンを指差した。青雉に指名を受け、俺の心臓はドクンッと大きく拍動する。

 

「お前!!エレインまで狙ってんのか!!ブッ飛ばすぞ!!」

 

ルフィの叫び声も青雉はどこ吹く風、大将としての余裕でそれを軽く受け流す。そして青雉はロビンの過去に少し触れる話をする。故郷である"オハラ"を中将達の軍艦による集中砲撃"バスターコール"で焼かれ、何もかもを失い、高額の賞金までつけられた彼女はあらゆる組織に入り、裏切っては生き延びて、生き延びては裏切ってを繰り返してきた。

 

「今日までニコ・ロビンが関わった組織はすべて壊滅している。その女一人を除いて…だ。何故かねぇ?ニコ・ロビン。」

 

「………!!」

 

「…そこまでにしてもらえませんか?」

 

冷や汗をかき、再び震え始めたロビンの肩にポンと手を置き、俺は青雉に槍状態のシャスティフォルを向けて睨み付ける。恐怖はまだ抜けきってないが、体が勝手に動いていた。海軍大将としての責務なのかもしれんが、人の過去をほじくり返すような真似はいただけない。

 

「!……エレイン…!」

 

「ほぅ、そんなにその女が大事か。なるほど……うまく一味に馴染んで___」

 

ボッ!!

 

「………なによ。」

 

「聞こえなかったか?口を閉じろと言ったんだ。」

 

尚もロビンへの口撃を続ける青雉の頬を、俺が飛ばしたシャスティフォルが掠める。本来切れた頬から赤い血が吹き出るはずだが、ヒエヒエの実の能力者である青雉の切れた頬はまるで氷が割れたかのようにヒビが入っていた。その傷も、空気中の水分が凝結した白い煙と共にすぐに修復される。

 

「……まぁいい、そしてこの一味が危険視されるもう一つの原因が…お前だ。」

 

「…………」

 

「エレインが……何したってんだっ!!」

 

再び青雉に指名される俺だが、今度は無言で青雉のことを睨み続ける。そんな俺の代わりにルフィが食ってかかった。その間に先程飛ばしたシャスティフォルが空中を周回して俺の隣に戻り、フィンフィンとゆっくり回転する。

 

「?……お前ら、そいつから何も聞いてねぇのか?てっきり話した上で行動してると思ったんだが……」

 

「……こいつは記憶を失ってる。過去の所業なんざ何一つ覚えちゃいねぇ。」

 

忘れかけていた俺の記憶喪失設定をゾロが青雉に解説する。それを聞いた青雉は「…なるほどねぇ……」と納得したかのような顔をした。

 

「……なら、嬢ちゃんの気に障ることをしちまった詫びに妖精族について話してやろうか。もっとも、聞くはどうかは当人の嬢ちゃんが決めることだ。どうだ?聞くか?」

 

青雉の言葉に皆が一斉に俺を見た。俺は少しの間考え込む。これは、何故青雉が知るはずもない妖精族のことを知っていたのか、また、この世界における妖精族とはどのようなものなのか、七つの大罪の要素がどれ程混じっているのか知る又とないチャンスなのかもしれない。聞いて得はすれども損はしないだろう。そう思って俺は青雉にゆっくり頷いた。

 

「……じゃあ話してやる……。」

 

そう言うと今まで座っていた青雉がゆっくりと立ち上がった。そして青雉は俺達に衝撃の事実を告げた。

 

「端的に言えば400年前……妖精族は政府によって滅ぼされた種族だ。」

 

「「「!!?」」」

 

「…な……に……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『待って……!兄さん行かないで……!!』

 

『だけど……!!アイツを放っておけないだろ!!エレイン!少しの間森を頼む!!』

 

俺が知るはずのない………"エレイン"としての記憶。それが少しだけ、俺の頭に浮かんだ気がした。

 

 

 

 

 

 

 


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