▽
「お~い!雑用の嬢ちゃん!その調味料一式はこの辺に置いてくれ!」
「あ、はい!ただいま!」
顔にヘンテコな仮面をつけたフォクシー海賊団の男に言われ、俺は魔力で浮かせた調味料が入った袋を言われた場所に置く。
決闘を申し込まれた俺達だが、辺りにはわたあめやらリンゴ飴やらの屋台が並び、カラフルな桃燈が飾られ、空には花火、決闘というよりお祭りのような雰囲気になってきた。
フォクシー海賊団が挑んできた"決闘"は決してケンカのことではなく、「デービーバックファイト」という海賊同士の仲間取りゲームだった。海のどこかにある海賊島で生まれたこのゲームは3本勝負の競技を行い、勝てば1競技ごとに敵船から船員を貰い受けることができる。勝てば戦力が強化されるが、負けるリスクもでかい。俺達が申し込まれたのはそんなゲームだった。
正直こんなゲームがあったことは知らなかった。ワンピースって章ごとにルフィが敵ぶっ飛ばしてるだけかと思ってたが、こんな展開もあったとは。ワンピースって奥が深いな。長く愛されてる理由が分かった気がする。
「サンキュー嬢ちゃん。これはお礼だ。」
「わっ!ありがとうございます!」
男からお手伝いのご褒美にピンク色のわたあめを貰った。昔町のお祭りで買ったものより一回り程大きい。はむっと一かじりすれば口いっぱいに甘ったるい砂糖の味。久しぶりに食べたが旨い。
「エレイン!お前もわたあめ貰ったのか!俺もロビンから貰ったんだ!」
俺がわたあめをかじりながらルフィ達の下へもどるとチョッパーがわたあめを片手にとてとてと走ってきた。甘い物が好きなチョッパーはわたあめを気に入ったらしい。口の周りをベタベタにしながらわたあめを頬張るチョッパーは最高に可愛かった。
「以上これを守れなかった者は海賊の恥とし、デービー・ジョーンズのロッカーに捧げる!守ると誓いますか?」
「誓う。」
「誓う!!」
やがてルフィとフォクシー海賊団船長のフォクシーによる選手宣誓が行われ、フォクシーが3枚のコインを海に放り投げる。これでデービーバックファイトの開幕がデービー・ジョーンズに報告され、競技が始まるのだそうだ。
「ロビンさん、デービー・ジョーンズって誰ですか?」
「悪魔に呪われて深い海底に今も生きているという昔の海賊よ。海底に沈んだ船や財宝は全て甲板長だった彼のロッカーにしまわれるの。」
「沈んでくる物を何でも自分の物にしちまうデービーの名前から、敵から欲しいものを奪う事を海賊は"デービーバック"と呼ぶのさ。」
ロビンの説明にサンジが補足説明を付け加える。海の底で生きている海賊…。もちろん伝説上の存在だろうが、ほぼ何でもありなワンピースの世界だ。そういう存在がいても不思議じゃない。おまけにこの世界は俺がいることで七つの大罪が混じってる可能性もあるので然もありなん。
「おい!おめぇら!オーソドックスルールは分かるか!?」
「オーソドックスルール…ですか?」
「そうだ!出場者は3ゲームで7人以下!1人につき出場は1回まで!一度決めた出場者は変更なしだ!」
「ふんふん…、わっ!」
「分かってる!あっち行ってろ!!」
ルール説明に来た男から熱心にルールを聞いているとサンジがぐいっと首根っこをつかんで俺を引き寄せ、男を追い払った。
「もうっ!いきなり何するんですか!」
「…あんまりウロチョロすんな。」
俺が抗議するとサンジはタバコに火をつけながらそっぽを向いてしまった。俺はそんなサンジの行動に首を傾げた。
▼
話し合った結果、競技の出場者は次のように決まった。
・第一回戦「ドーナツレース」
ウソップ
ナミ
ニコ・ロビン
・第二回戦「グロッキーリング」
ロロノア・ゾロ
サンジ
エレイン
・第三回戦「コンバット」
モンキー・D・ルフィ
チョッパーは誰かが怪我をした時のための救護班として欠場だ。原作だとどうだったか知らないが、俺が加わったことで負けた、なんてことにならないように気をつけようと思う。
「いい?絶対にエレインは取られないようにするわよ!」
「ええ。」
「あぁ、それは分かってる!」
「ナミさん?」
「へっ!?あ、何?」
「いえ、これで決定なら提出してきますけど。」
「あ~、うん!それでいいわ!」
何やらナミとロビンとウソップが集まってヒソヒソと話していた。ナミに声をかけるとビクッとなって振り向いた。俺そんなに驚くことしたかな。少し疑問に思いながら俺はメンバー表を提出した。相手方はもう決まっていたらしく、俺が提出したらすぐに競技が始まった。フォクシー海賊団宴会隊長のイトミミズがバカでかい雀に乗って空からハイテンションに司会を務める。
宴会隊長って……普段何してる人なんだ?
俺のどうでもいい疑問はともかく第一回戦だ。一回戦は「ドーナツレース」。空ダル3個とオール2本で手作りボートを作り、島を一周するというレースだ。船大工の腕の見せ所だが、うちに船大工はいない。いきなり相手方に有利な試合じゃないか?
ナミ達が乗るのはウソップが作った"タルタイガー号"。強そうなのは名前だけで、実際はタル3個を真っ二つにして繋げただけのイカダだ。ちょっとした波を受けただけで沈んでしまいそう。ロビンも「きっと沈むわ。」なんて澄ました顔で言っている。
対するフォクシー海賊団チームは"キューティワゴン号"という船大工が技術の粋をあつめて作り上げた安定性抜群の船に乗っている。こっちは"イカダ"であっちは"船"だ。もうこの時点で雲泥の差だろう。加えてあちらには人間の10倍の腕力を持つ魚人がいて船をホシザメが引くらしい。これについてはナミも抗議するがサメがダメだというルールはないとのこと。
船だけ見れば両チームに圧倒的差があるが、こっちには百戦錬磨の航海士ナミがいるし、ウソップの空島で手に入れた数多くの貝(ダイアル)もある。こっちにだって勝ち目はある。
両チームに迷子防止の永久指針(エターナルポース)が投げ渡され、いよいよスタートである。イトミミズがスタート合図の銃を空に向けると同時に横からジャキンと金属音が聞こえた。横を見るとフォクシー海賊団が銃や大砲をナミ達に向けて構えていた。それを見て思わず俺は叫んだ。
「皆さーーん!!島から離れてくださーーい!!」
パァン!!
俺が叫ぶと同時のスタート合図の銃声が鳴った。予期した通り、スタートと同時にフォクシー海賊団から全面攻撃がナミ達に送られた。タルタイガー号がそのせいで吹き飛び、大きく遅れをとってしまう。何とか沈まずに済んだナミ達だが、妨害はまだ終わらない。今度は大岩がナミ達に向けて投げられた。
「ふっ!!」
俺は抱きしめていたシャスティフォルを槍に変え、大岩の中心に撃った。シャスティフォルは大岩を貫き、中心を貫かれた大岩はピシピシとひびが入ってドカァンと割れた。
「エレイン!」
「早く行って下さい!なるべくギャラリーから離れて!」
ナミ達に叫んでる間にも銃弾や砲弾は飛んでくる。俺は槍状態のシャスティフォルを高速回転させてそれらを弾いた。ナミ達は俺が防御している間に相手チームを追いかけて行った。
「…さて、覚悟はできてますね?貴方達。」
ナミ達が無事行ったことを確認した俺はシャスティフォルを第五形態に変形させて黒い笑みを浮かべてフォクシー海賊団を見下ろした。フォクシー海賊団は俺の笑顔に一歩後ずさる。
「…どこ行く気だよ。ナミさん達が怪我でもしたらどう落とし前つける気だクソ共。」
彼らが下がった所にはタバコを噛みしめ額に青筋を浮かべたサンジがいた。フォクシー海賊団は俺とサンジにはさまれる。
「「「ぎゃあああああ!!!!」」」
辺りにフォクシー海賊団の悲鳴が響き渡った。
▽
ナミ達がスタートした後、俺達は屋台で焼そばやリンゴ飴を食べたり、酒を飲んだりしながらナミ達の帰還を待った。レースの模様はイトミミズが電伝虫に実況していたので大体把握できた。
そしてついにナミ達が帰って来た。ボートは所々ボロボロだが、大幅に差をつけて勝っている。でも相手方の追い上げも凄い。魚人とサメが合体してスクリューのように回転することで魚人の腕力も加わって超高速で追い上げてくる。これはどっちが勝つか非常に際どい勝負になりそうだ。
「ナミさーん!ウソップさーん!ロビンさーん!あとちょっとです!頑張ってくださーい!!」
俺はわたあめをポンポン代わりにして必死に応援した。その甲斐あってか、相手チームも追い付けず、ナミ達の勝利は目前に迫った。
「"ノロノロビーム"っ!!」
その時、敵陣のフォクシーの手からポワァンと不思議な光線が発射された。その光線はナミ達に命中し、ナミ達は急に動きが遅くなって相手チームに抜かれてしまった。
『勝者!!キューティワゴン号!!』
「「「わあぁぁぁぁ!!!」」」
何がどうなったのか俺達は飲み込めないが、一回戦は相手方の勝利で終わってしまった。
ドーナツレースは大幅カットです。一応書いてはみたんですけど、エレインがいないのにだらだら書いてもしょうがないかなと思ってカットさせていただきました。楽しみにしていた方ごめんなさい。レース展開は原作と変わらないので、気になる方は原作を買って読んで下さい。