とある妖精の航海録   作:グランド・オブ・ミル

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空島編7・妖精の宝探し

 

 

 

 

 

 

 

 

空島は青海から1万メートル上空の雲よりも高い位置にあるため当然かもしれないが今日は雲一つない快晴だ。ルフィがメリー号の船首に立って両腕を高々とあげて叫んでいるように、絶好の宝探し日和である。

ここがジャヤの片割れで、黄金郷はここにあることを知ってわくわくしたせいか、昨日はよく眠れなかった。眠気を呼ぶためにガン・フォールや皆の薬を作って深夜にやっと眠ることができた。気持ちよく眠るチョッパーを起こさないように床で寝たはずなのに、朝起きるとチョッパーが胸元にいてびっくりした。日本全国…いや、世界中のワンピースファンの皆さんごめんなさい。大してワンピースに詳しくない俺がチョッパーを抱き枕にしてしまいました。ちなみに言っておくと抱き心地は最高だった。

 

「おい!ゾロ!どこ行くんだ!そっちは逆だ!西はこっちだぞ!!まったく、お前の方向音痴にはホトホト呆れるなぁ。」

 

「おいルフィ、お前は何でそう人の話を聞いてねぇんだ!黄金は"ドクロの右目"にあんだから右だろうが!バカかてめぇ!!」

 

「……私達が向かっているのは南で方向はこっちだと伝えて来てくれる?」

 

「……はは、了解です。」

 

ロビン嬢に頼まれ、すっとんきょうな言い争いを続けるルフィとゾロにふよふよと近づく。ああいう二人のやりとりを見るともしかしたら乗る船を間違えたのかもしれないと不安になってしまう。

ナミの提案でルフィ、ゾロ、ロビン、チョッパー、俺の宝探しチームと、ナミ、サンジ、ウソップのメリー号待機チームに別れることになった。俺達宝探しチームがまっすぐ南に向かって黄金を手に入れ、ナミ達がメリー号を遺跡付近の海岸に寄せ、そこで合流、そのまま空島を脱出して晴れて麦わらの一味は大金持ち海賊団という寸法だ。ナミめ、簡単に言ってくれるぜ。

実を言うと俺はメリー号待機チームを希望していたが、チョッパーが一緒に探そうと手を引くものだから流れで宝探しチームになってしまった。ロビンもなんだか嬉しそうにしていたし、何がこの二人の好感度をここまで上げたのだろうか。

 

「この森はもっと恐いとこかと思ったけど、なーんだ大したことねぇな!」

 

「チョッパーさん、今日は何だか強気ですね。」

 

「そうなんだ!ははは!………この四人がいると心強いな。(ボソッ」

 

「ん?何か言いました?」

 

「な、何でもねぇよ!」

 

「だが、確かに拍子抜けだよな。昨日俺達が入った時も何にもなかったしよ。」

 

「ふふ、おかしな人達ね。そんなにアクシデントが起こってほしいの?」

 

ルフィ達とそんな会話をしていると、不意にバキバキと物音がした。最初は気のせいかと思ったのだが、その音は徐々に近づいてくる。さらにジュラララなんて変な音もしだした。

その音のするほうを見てみるとあらびっくり。超巨大大蛇が大口を開けていた。え、いつの間にいたのこいつ。あれか、でかすぎて気づかなかったっていうオチか。

 

「ぎゃーーー!!!」

 

「逃げろ~!!大蛇だ~!!」

 

「ちょっ!大きすぎますって!!」

 

「何て大きさ……。空島の環境のせいかしら。」

 

「ぶった斬ってやる!!」

 

チョッパーは悲鳴をあげ、ルフィは楽しそうにして、俺は慌ててシャスティフォルを槍にし、ロビンは冷静に大蛇を分析し、ゾロは刀を構える。そんなことをしていると大蛇は俺達に素早くうねうねと襲いかかってきた。巨体に似合わぬ素早い攻撃を俺は間一髪空へと回避する。ルフィ達も無事回避できたようだ。

 

「…はは、しかも毒持ちですか。って笑えませんね。」

 

俺達が避けたことで大蛇は俺達の後ろにあった大樹へ噛みついた。大蛇が牙を立てた大樹はジュ~という音をたて、やがてメキメキと倒れた。牙に強力な毒をお持ちらしい。

 

「わっ!ちょっ!危なっ!何で私ばっかり狙うんですか!!」

 

大蛇は空に浮かぶ俺目掛けてジャンプして噛みついてきた。俺はそれをなんとかかわしていくが、大蛇はなぜかしつこく俺を狙ってきた。俺が一番おいしそうなのか?見た目が子供だから?一番弱そうに見えるってかちくしょう。

 

「いい加減にしてくださいっ!」

 

「ギャインッ!!」

 

あまりにしつこかったので、シャスティフォルの第二形態で大蛇の頭をゴーンと殴った。ちょうどジャンプしてきた大蛇を殴ったので、大蛇は打ち落とされ、地面に激突した。俺はその隙に逃げた。猛スピードで、一直線に、無我夢中で。せっかくワンピースの世界に生を受けたのに、蛇の胃で消化されるなんてまっぴらごめんだ。

 

「ふ~っ、何とか逃げきりましたか。………あれ?皆さーん?どこですかー?」

 

大蛇からは無事逃走成功したみたいだが、必死に逃げるあまりルフィ達とはぐれてしまったようだ。周りは大樹しかない森で、誰の気配もない。

 

「むぐぅ、こうなったら仕方ありません。先に遺跡に行って皆さんを待つとしましょう。」

 

ゾロはまず間違いなく南へ真っ直ぐ進むなんてことはできない。下手すればぐるっと森を一周して元の場所に戻ってきそうだ。ルフィはまあ、悪運が強いからなんだかんだでたどり着けそうだし、チョッパーも然り、ロビンに至っては心配するだけ無駄だ。彼女が道に迷うなど太陽が西から昇るくらいありえないことだ。

 

「さて、黄金に向けてレッツゴーです。」

 

俺は右手を空にあげて誰に言うわけでもなくそう言って、ふわふわと移動し始めた。

 

そしてすぐ止まった。

 

「…………南ってどっちでしょう?」

 

どうやら俺もゾロのことを言えないらしい。大蛇からむちゃくちゃに逃げ回っている内に、方角が分からなくなってしまった。

こうなってしまっては仕方がない。俺はシャスティフォルを槍にして、刃を下にして地面に立てた。そこから魔力を解けばシャスティフォルはカランと俺から見て右方向に倒れる。

 

「よし、あっちですね。」

 

俺はシャスティフォルが倒れた方向に今度こそふよふよと移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あれ?おかしいなぁ、またこの木ですか。さっきも見た気がするのですが……。」

 

ルフィ達とはぐれてからしばらく経ち、俺はまだ森の中をさ迷っていた。適当な木を目印にして進み、方角が分からなくなったら先程のようにシャスティフォルを倒して進んでいたが、それでも不充分らしく、一向に遺跡にたどり着かない。妖精なのだから飛べばいいのだが、エネルや神官、シャンディアが恐くてそれはできない。ガン・フォール曰く、俺はエネルの裁きを防いでしまった初めての存在だ。絶対エネルは俺に目をつけている。空なんて飛んだら最後、雷で撃ち落とされるのがオチだ。

 

「メ~!」

 

「メ~!」

 

「神・エネルの命により、お前を排除するメ~!」

 

「……またですか。」

 

突如、俺の前にヤギのような顔の男が三人現れた。神兵だ。だが、もう驚かない。先程から何度もこのように襲撃されている。最初こそ驚いたが、もう慣れたものだ。

 

「「「メ~!!」」」

 

神兵達は掌を俺に向け、一斉に飛びかかってきた。多分、あの掌には"衝撃貝(インパクトダイアル)"、または"斬撃貝(アックスダイアル)"が仕込まれている。

俺は飛びかかってくる神兵達のほうを向き、両手を胸の前で祈るようにポーズをとる。そしてその両手をパッと開いた。

 

「"金風の逆鱗"!!」

 

「「「ぎゃあぁーー!!」」」

 

すると俺の正面の広い範囲に暴風が吹き荒れ、神兵達を吹き飛ばした。神兵の内二人は大樹にぶつかってそのまま気絶し、もう一人は近くの雲の川(ミルキーロード)へ落ちた。

神兵やシャンディアは貝(ダイアル)を用いて襲ってくる。かわすには貝(ダイアル)の種類を見分けなくてはいけないが、俺はこのように風で吹き飛ばしている。このほうが手っ取り早いし、無駄な労力を使わなくて済む。

 

「それにしても神兵が増えてきましたね。もしかして遺跡が近いのでしょうか。」

 

ここまでほとんど勘で進んできたが、もしかしたら意外と遺跡へ向かっていたのかもしれない。俺はとりあえず近くの大樹の根に腰掛け、一旦休憩してお昼にすることにした。リュックに入っているサンジ特製の弁当を開けると、しいたけやたらこがご飯の上に乗せられ、鮭や空島のエビなどがおかずとして盛りつけられた幕の内風のおいしそうな料理が広がった。

 

「いっただきま~す♪」

 

はむっと一口食べれば魚介の味が口いっぱいに広がった。さすがサンジだ。食材の味がこれでもかと引き出されている。うん、すごくおいしい。

 

ドォォンッ!!

 

「!」

 

俺がサンジの弁当に舌鼓を打っていると、突然大きな大砲の音がして、大きな鉄球が飛んできた。俺はそれを上に飛んでかわした。弁当も無事だ。鉄球は俺が座っていた大樹の根を破壊し、奥の大樹にめり込んで止まった。

 

「貴様!青海人だな!?」

 

声のするほうを向くと、大樹の枝の上に原始人風の格好をして、肩にバズーカ砲を担いだ、良く言えば大柄な、悪く言えばふくよかな男が立っていた。

 

「いきなり撃ってこないで…(もぐもぐ)…くださいよ。(はむっ)…びっくりするじゃ…(もぐもぐ)…ないですか。」

 

「食うのをやめろぉ!!」

 

俺が弁当を食べながら話すとお叱りを受けてしまった。心外だ。そっちが食事中にしかけてきたのだろう。

 

「俺はシャンディアの戦士ゲンボウ!お前を排除する!!」

 

そう言ってゲンボウは俺にバズーカ砲を向け、再び鉄球を撃ってきた。俺は急いで弁当をかきこみ、少しむせながらそれを回避する。その後もゲンボウは何発も撃ってくるが、中々当たらない。空にいるぶん狙いにくいようだ。

 

「ちっ!こういうもんを知ってるか!?」

 

そう言ってゲンボウは俺に向かって小さな巻き貝を投げてきた。その貝は投げられるとプシューと雲を吐き出す。ゲンボウはその雲の道に乗り、俺に向かって滑ってきた。

 

「"雲貝(ミルキーダイアル)"だ!くらえ!!」

 

俺の目の前に迫ったゲンボウは至近距離でバズーカを構える。その顔はニヤリと笑っている。俺を仕留めたと思っているのだろう。だが甘い。

 

「霊槍シャスティフォル第二形態"守護獣(ガーディアン)"!」

 

ドォォンッ!!

 

「!なに!?」

 

俺はすばやくシャスティフォルを俺とゲンボウの間に滑り込ませ、第二形態に変化させた。ゲンボウの撃った鉄球は熊状態のシャスティフォルのお腹にズムッとめり込み、ポヨンと跳ね返されてむなしく地面に落ちていく。第二形態のシャスティフォルにはどんな打撃も通用しない。

ズタッと地面に着地したゲンボウ。同じく俺も地面に降りる。

 

「なかなかやるな、青海人。」

 

「それはどうも。」

 

ゲンボウと俺は軽口を叩いた後、すぐに構える。

さてさてさーて、どこから来る?あの巨体では多分すばやく後ろに回り込むなんてことはできないからやはりバズーカ砲で正面からか?いや、また貝(ダイアル)を使ったトリッキーな攻撃かも……。

俺が黙々と考えているとゲンボウが動いた。ゲンボウのスケート靴のような靴からボウッと爆風が起き、その反動でゲンボウは前へと飛び、俺を飛び越えて後ろへと回り込んだ。

 

「なっ!?」

 

ドォォンッ!!

 

ありえない動きに俺は動揺してスキを作ってしまった。ゲンボウはそのスキを見逃さず、俺にバズーカ砲を撃った。鉄球は見事俺に命中し、俺は大樹を2本程貫通して吹き飛ばされてしまった。

 

痛ぇ……!!死ぬ程痛ぇちくしょう。

 

「油断したな。」

 

「ゲホッ……!それはあなたです!!」

 

「なに?………!?何だこれは!?」

 

今ので頭が切れたらしい。頭から流れる血を左手で押さえながら俺はゲンボウの頭上を右手の人差し指と中指で指した。ゲンボウが頭上を見上げると、無数のクナイ状の第五形態となったシャスティフォルがそこに滞空していた。俺は吹き飛ばされる瞬間、シャスティフォルを空に飛ばして待機させておいたのだ。今更気づいても遅い。くらえ!

 

「"炸裂する刃雨(ファイトファイア・ウィズファイア)"!!」

 

ズザアァァァァ!!

 

「ぐわあぁぁぁぁ!!!」

 

俺が上げた右手を振り降ろすと無数のクナイがゲンボウへと雨のように降り注いだ。その威力は立ち上る土煙とゲンボウの悲鳴が物語っている。……死んでないよな?一応手加減はしたつもりだが………。

リュックからハンカチを取り出して頭の出血を押さえながらふわふわと近づくと、クナイが何本か刺さったゲンボウが倒れていた。俺がシャスティフォルをクッションに戻しながらゲンボウの手首に触れるとトクントクンと脈が聞こえる。

 

良かった、まだ生きてる。

 

だが、このまま放っておいて死んでしまったら後味が悪い。俺はリュックから傷薬を取り出してゲンボウの傷口に塗り、包帯でぐるぐる巻きにしておいた。チョッパーから教わった通りに治療したつもりだが、所詮は素人の付け焼き刃。早く医者に見せたほうが良い。どうしたもんか……。

 

「ゲ、ゲンボウ!!」

 

「ん?」

 

声のしたほうを向くと、そこには足の内側を露出させた奇妙なピンクのズボンを履いた黒髪の女性がいた。服装から察するに彼女もシャンディアの戦士だろう。

 

「あんた!よくもゲンボウを!!」

 

「わわっ!!ちょっとタイム!!」

 

「んっ!?んんんんっ!!」

 

彼女は俺の足元で倒れるゲンボウを見ると血相を変えてジャキンと銃を俺に向けてきた。俺は慌てて彼女が引き金を引く前に第二形態のシャスティフォルで彼女を拘束する。俺はふーっと息をついて彼女の顔辺りにふわりと飛ぶ。

 

「いいですか?よく聞いてください。彼は突然襲ってきたから仕方なく返り討ちにしただけですし、ちゃんと治療もして生きています。そう熱くならないでください。」

 

腰に手をあてて、保育園の先生のように話すと彼女も納得してくれたようで、表情が穏やかになってきた。俺は彼女を優しく解放した。

 

「……あんた変わってるね。戦った敵を治療するなんて。」

 

「いやだって死んじゃったら悪いじゃないですか。」

 

俺がそう答えると何が可笑しいのか彼女は口に手をあてて小さく笑った。俺は首を傾げるばかりだ。

 

「私はシャンディアの戦士、ラキだ。あんたは?」

 

「私は麦わらの一味の……って言っても分かりませんよね。青海の海賊の雑用係、エレインです。」

 

俺はラキと仲良くなり、彼女と行動を共にすることになった。ゲンボウはいいのかと聞くと「シャンディアの戦士はそんなにヤワじゃない」と言われた。彼女が言うのならいいのだろう。

ラキは小さい子ども用のバッグを持っていた。中を見せてもらうとバッグいっぱいに土が入っていた。俺にはよく分からないが、アイサという少女の宝物なのだそうだ。今回の戦いでエネルを倒せば、400年続いた戦いに終止符を打つことができ、この自分達の故郷を取り戻せると彼女は意気込んでいた。

 

「メ~!!」

 

「青海人!シャンディア主力の一人ラキ!神・エネルの命によりここで始末するメ~!!」

 

ラキと話ながら森を進んでいると、頭上の雲の川(ミルキーロード)から声がした。見ると神兵が二人、雲の川(ミルキーロード)から俺達を見下ろしていた。

 

「ふふ、やるかい?エレイン。」

 

「はい。ぱぱっとやっちゃいましょう、ラキ。」

 

俺達は互いに顔を見合せ、神兵二人にラキは銃を向け、俺は槍状のシャスティフォルを向けた。そして攻撃しようとしたその時___

 

「ぐあぁぁぁ!!」

 

「ぎゃあぁぁぁ!!」

 

雲の川(ミルキーロード)が突然バリッと青白く光り、神兵二人は何かにしびれたように気絶し、水面に倒れた。

 

「!この力は……エネル!!」

 

ラキはそう言って大樹を登り雲の川(ミルキーロード)に近づいた。俺も恐る恐るだが、ふわふわと雲の川(ミルキーロード)に近づく。

どうやらどこかの雲の川(ミルキーロード)上で誰かがエネルにやられたらしい。その電流が雲の川(ミルキーロード)を伝い、神兵達はそれでやられたらしかった。

 

「エレイン、私は様子を見に行ってくるよ。エネルがこれだけの力を使う相手だ。ワイパー達の内の誰かかもしれない。」

 

「分かりました。気をつけてくださいね。」

 

ラキは俺にそう言い残して大樹の枝を飛びわたり、雲の川(ミルキーロード)に沿って森の中へと消えていった。

 

「さて、私も行きますか。…と言っても、もう着いてるんですけど。」

 

俺は立ち去るラキに手を振った後、再び進行方向を向いた。その先は森が開けていて、雲の地盤に遺跡の瓦礫が多数沈んでいた。奥には怪物の口のような造形物と天高くのびるつるが見える。目的地に着いたようだ。

 

俺はクッション状態のシャスティフォルに抱きつき、いつもの体勢でふわふわと遺跡に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 


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