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それでは今回もよろしくお願いします。
あの雪の日以来、中々八幡君と会う機会はありませんでした。ラブライブの全国大会を控え、生徒会の活動もあったので、当然といえば当然かもしれません。東京に戻ってからは、ひたすら自分のやるべき事をしていました。
そして、寂しさを感じる間もないほど目まぐるしく時間は過ぎました。
3月に入り、迎えたラブライブ全国大会。なんとμ'sは優勝しました。これまでにない喜びで胸が満たされました。もちろん、彼も電話越しに祝ってくれました。
最高の結果を残したμ's。しかし、奇跡はそれだけでは終わりませんでした。
なんと海外でのライブの話を頂いたのです。
初めての海外。ちょっとトラブルもあったけど、思い出の1ページを増やせる喜びがそこにありました。
そして、ニューヨークでのライブも忘れられないものとして、記憶に刻まれています。
それから、全国各地のスクールアイドルと共に行った秋葉原でのライブと本当のファイナルライブを終え、μ'sはその活動を終えました。
絵里ちゃん、希ちゃん、にこちゃんはそれぞれの進路へ向かい、音ノ木坂に残る私達は、もうすぐ進級を迎えます。
今度の進級は今までとは違い、明確に将来へ繋がるので、自然と緊張感が高まります。
明確に進路が決まっている自分も例外ではなかったのです。
4月のある日。残り少ない休日を使って、久しぶりに会う約束をした。彼はいつものように抑揚のあまりない低い声で了承してくれた。電話やメールはしてたけど、会うのは久しぶりだから、もっと喜んでくれてもいいような……でも……まあ、仕方ないよね。うん。
一旦頭の中を切り替え、雲一つない青空に目をやる。最近はすっかり温かくなり、もう冬の名残はない。残っているのは、大きな喜びと別れの寂しさ。ふわふわした名前のない感情だけだ。
視線を下げ、しばらく行き交う人波を眺めていると、彼が現れた。ここ最近は見てなかったけど、あのくせ毛と猫背ですぐにわかってしまう。特徴的とかではないけど、頭の中にしっかりとインプットされている。私の口元はわけもなく緩んでいた。
手を振って呼びかけてみる。
「お~い、八幡君!」
「おう……」
彼は相変わらずの気怠さを隠そうともしない、それでいてどこか優しい表情でこっちに向かって手を小さく挙げた。あの目は多分、夜遅くまで本を読んでいたのだと思う。
私は自分から彼に駆け寄った。
「おはよう!」
私があえて元気よく言うと、何かに気づいたように彼はあたふたと左右を確認して、私に耳打ちしてきた。いきなり近くなった彼の顔と低い声に、小さく鼓動が鳴った。
「バッカ、お前。自分が有名人なの忘れたのか」
「あはは、ごめんね。でも大丈夫だよ。最近は皆もあまり気にしてないから」
元々、芸能人とかではないので、ラブライブが終わってからはファンの追っかけは殆どいなくなった。校内で後輩からサインを頼まれる事はあるけど。
「お前がそう言うなら……まあ、今のところ大丈夫そうだな」
「ふふっ、ありがと♪」
笑顔でお礼を言うと、彼は目を逸らして頭をかいた。
「あ、ああ……それよか今日はどうするんだ?」
「こっちだよ!」
「?」
歩き出すと、さっきより足が軽くなっていた。
少し後ろを歩く彼は今日のイベントの内容にはまったく気づいていないようだ。
数分後……。
「お、おい……もしかして……」
目的地に到着すると、彼は不安そうに目の前の一軒家を見つめる。
はい!今私達がいるのは、南家の前です!!
……少し気合いを入れてみたが、やっぱり私も緊張するなぁ……。
男の子を家に上げるのは生まれて初めてだからだ。
立場が入れ替わっただけで、緊張の質はこの前とあまり変わらない。
「あ、用事思い出したわ」
「ま、待ってよぅ……」
「いやいきなりハードル高すぎだろ。何故に自宅?」
「ほら、2月に泊めてくれたでしょ?その事でお母さんがお礼をしたいからって……」
「お、おう……」
八幡君の顔が何故か紅くなる。
「もしかして……Hな事考えてる?」
「そんな訳ないずら」
「あ、怪しすぎるよ!」
も、もう……でも八幡君も男の子なんだよね。
玄関の扉を開け、彼を招き入れる。
春なのに、二人の間を吹き抜ける風はやけに温かかった。
「なあ、ことり」
「何かな?」
「お前にあと二人、姉妹がいたりしないか?」
「いないよ。どうしたの?」
「いや、何でもない」
彼も少し緊張しているみたいだ。隣を見ると、キョロキョロして、落ち着かない。
で、でも……これは挨拶とかじゃなくて……それに私達は付き合ってるとかじゃ……ううん、今は何も考えない方が良さそう、だよね。
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