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それでは今回もよろしくお願いします。
「……こ……」
「…………」
ことりがこれまでにないくらい熱い瞳を向けてくる。二人して身体が微かに震えているのは何故だろうか。何がこんな切ない時間を生んでいるのだろうか。
「……こ、ことり」
「はい……」
ようやくその名を呼び、髪に手を伸ばす。場の空気に流されるなんて、まったく自分らしくないことは承知していたが、最早止めることはできなかった。多分、俺は……ことりの事が……。
「……ん……」
さらさらの柔らかな髪に触れた瞬間、ことりがビクンと反応した。
「わ、悪い」
「大丈夫だよ。ちょっと驚いただけ……」
ことりは離れかけた俺の手を掴み、そっと自分の髪に添えた。それと同時に甘い香りがふわりと包み込んできた。世界から切り離されたように、現実味のない時間が流れた。
ただぼんやり見つめ合っていると、ことりが小さく微笑んだ。
「……不思議だね」
「何が?」
「君と私って、9月には名前も顔も知らなかった。でも、今はこうして……」
ことりの手が頬に添えられる。ひんやりとした感触なのに、頭の中の熱は冷めそうもなかった。
気がつけば、ことりの顔が近くなっていく。ほんのり紅い唇から目が離せない。
お互いの鼓動が近くなり、このまま……
ピンポーン。
「「!」」
慌てて身体を離す。
一気に熱が霧散し、急速に頭の中が冷えたようだ。
「ちょっと行ってくる」
「う、うん……いってらっしゃい」
気を取り直すように言いながら、玄関へと向かった。
「ふぅ……」
「どうしたの?」
「いや、親父が仕事に必要な書類を取りに来ただけだった」
「あはは……」
お互いに何ともいえない笑いを浮かべ、外の雪を眺めた。雪はさっきより深く降り積もり、親父が帰ってきていたのが、嘘みたいに思えた。
「その……さっきは、悪かった。いきなり……」
ことりは少しの間、ポカンとした表情を見せた後、静かに首を振った。
「私は嫌じゃなかったよ……もっと……」
左肩に彼女の頭が乗っかる。表情は確認できないが、言葉にできない温かさが染みこんできた気がした。
「もっと……八幡君のことが知りたいな」
「……あ、ああ」
俺は間の抜けた相槌をうつだけで、しばらくの間そのままでいた。
思考回路がまともになるまで、まだしばらく時間がかかりそうだ。
「なあ、ことり……」
「?」
「いや、すまん。何でもない」
「ふふっ、まだ固いね。そこが八幡君らしいのかもしれないけど」
「……そういう事にしてくれると助かる」
「わかった。そういう事にしておくね」
また緩やかに時間が流れ出した。
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