捻くれた少年と健気な少女   作:ローリング・ビートル

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 それでは今回もよろしくお願いします。


SNOW

 

「雪だな」

 比企谷君が特に感情も込めずに呟く。

「雪だね」

 私も同じような調子で応じた。

 窓の外は、いつもより大粒の雪が深々と降り積もり、近所の家の輪郭もよくわからなくなっていた。何故か、銀色のどんよりと重たい空が印象的だった。

 ……でも今はそんな幻想的な風景を楽しんでる場合じゃなくて。

「外、出られそうもないね」

「ああ、つーか出たくない」

「コタツ、気持ちいいもんね」

「ああ、コタツって奴は本当に人を駄目にするよな」

 比企谷君が尤もなことを、今度は感情たっぷりに呟き、寝転がろうとする。

 しかし、慌てて起き上がった。

「悪い……人が来てるのに、眠るとこだった」

「あはは……」

 一緒にいて落ち着くってことでいいんだよね……?

 家に着いて、少しの間話していたら、いつの間にか雪が降り出した。

 最初ははしゃぐように眺めていたが、雪は少しずつ勢いを増し、今朝積もっていた分の上から、周りの景色を白で埋めていった。

 それを見ている内に、どちらも外出する気はなくなり、比企谷君の提案でしばらくコタツでのんびりすることにした。

 そして、今に至る。

 家に入った時の緊張感はとっくに消え去っていた。

 私は鞄の中の物を思い出した。

「あの、比企谷君……」

「どした?」

 彼は台の上に突っ伏している。

「もう……こっち向いて」

 彼の顔を左右から掴み、こちらを向かせる。

 すると、意外と近くに彼の顔が来て、そのまま見つめ合う形になる。

「…………」

「…………」

 部屋はしんとしている。

 しかし、外は活発に活動していて、雪が雪を叩く音まで聞こえてきそうな気がした。

 両手を通して伝わってくる彼の体温がやけに心地良い。もしかしたら、私は本当に彼の事を……。

 やがて、自分の顔が熱くなっているのに気づき、両手を放す。

「ご、ごめん……」

「お、おう……」

 失敗したなぁ……。

 いや、気を引き締め直して、もう一度!

 決意を新たにした瞬間、廊下から猫がとことこと歩いてきた。

 そのまま私の膝の上に座り、丸くなる。ふわふわして温かい。

「ふふっ、可愛い♪」

「俺にはあまり懐かないのに……」

「恥ずかしがり屋なんだよ、きっと」

「……どうだか。あ、悪い。妹からだ」

「どうかしたの?」

「妹が今日は友達の家に泊まるって……」

 何故か彼はすごく動揺している。

「足、震えてるよ?」

「ああどうしよう。これが女子だけじゃなくて男子もいたら。いや、今はいなくても途中から参加してきたら。いや、実は友達の家っていうのがそもそも嘘で彼氏の家とか……」

 比企谷君は頭を抱えて呻いている。

 まさか彼にこんな弱点があったなんて。

「お、落ち着こうよ!」

「はっ……悪い。つい……」

 こんな時、何て声をかければいいんだろう?

「だ、大丈夫だよ!比企谷君の妹だもん!」

「……そ、そうか。そうだよな」

「そうだよ。だから心配しすぎないで」

「ああ」

「男の子の家だったとしても、きっといい彼氏だよ!」

「がはっ!」

「比企谷君!?」

 彼が立ち直るまで、30分以上かかった。

 

「あ、あの……これ……」

 比企谷君は立ち直ってからも、しばらくは魂の抜けたような表情をしていたが、私の取り出した包みを見て、その意味に気づいたのか、真面目な……少し照れくさそうな表情になった。

「……ありがとう」

「どういたしまして……」

「ちょっと、飲み物を……!」

「きゃっ!?」

 飲み物を取りに行こうとした彼が足を滑らせ、私に覆い被さるような態勢になる。

 さっきよりも顔が近く、互いの息が混ざり合うのがはっきりわかる。胸の高鳴りを聞かれてしまいそうなのが恥ずかしい。

「…………」

「…………」

 彼の目はいつものように、どこか寂しそうに見えた。

 チョコレート渡すタイミングとしては、かなり失敗したと思う。

 それでも、偶然がもたらしたこの瞬間の温もりにもう少し包まれていたい、なんて思ってしまった。

 そして、自然と次の言葉が溢れる。

「私のこと、ことりって呼んで?……八幡君」

 

 

 

 





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