捻くれた少年と健気な少女   作:ローリング・ビートル

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満月よ照らせ

 

「ことりちゃん」

「ことり」

「な、何かな?」

 生徒会室で書類の整理をしていると、穂乃果ちゃんと海未ちゃんが私を挟んで座り、同時に顔を覗き込んでくる。……どっちを向けばいいのかな?

「ことりちゃん、そろそろ教えて」

「な、な、何を?」

「とぼけても無駄ですよ」

「わからないよ~」

 どうしたんだろう?さっぱりわからない。留学の件は話したし、もう秘密にしていることなんて何もないはずなんだけど……。私、何かしたのかなあ?

「ことりちゃん、最近…………好きな人できたでしょ!?」

「……えぇっ!?」

 幼馴染みからの突然の指摘に体が跳ね上がる。

「や、やっぱり本当なのですね?」

「ち、ちち違うよ?」

「でも、顔が真っ赤になってますよ」

「!?」

 海未ちゃんの指摘に反応して頬に手を当てると、確かに熱い。慌て過ぎて気づいていなかったみたいだ。でも、それより気になるのは……

「……どうしてそう思ったの?」

 私が震えながらそう言うと、二人は数秒顔を合わせた後、ゆっくりと話し出した。

「最近、休憩時間はケータイばっかり見てるよね?」

「え……」

「前からオシャレには気を遣っていましたが、最近はさらに気を遣っていますね。何というか……綺麗になりました」

「そうかな……」

 そう言われて悪い気はしない。

「どうなの!?」

「どうなんですか!?」

「……気になる人は、いるかな?」

 逃げられそうもないので、つい白状してしまう。

 実際のところ、私もよくわかっていない。

 比企谷君のことをどう思っているのか。

「ど、どんな人!?どんな人なの!?」

「お、落ち着きなさい、穂乃果!と、ところで、その、ことりの想い人とは、私達も知ってる方なのですか?」

「ふぅ……」

 やっぱり……好き……なのかなあ。

「ことりちゃ~ん。もしも~し」

「完全に自分の世界に入ってますね」

 私は、二人に肩を揺さぶられるまで、ずっと考え事に耽っていた。

 

 二人の追求から逃れて帰る途中、デパートに衣装関連の用事があったので立ち寄ったら、思いがけない物を目にした。

「バレンタインか……」

 気がつけばもう2月。来週に控えたバレンタインデーの為に、特設コーナーが設けられ、色とりどりのチョコレートが行き交う人の目を惹いていた。

 中学時代は私と穂乃果ちゃんと海未ちゃんの3人で一緒にチョコレートを買って、クラスの皆に配ったことがある。その中に男の子はいたけれど、特別な感情はなかった。

 今はどうなんだろう。

 もし比企谷君に渡すとしたら、どんな気持ちを込めるんだろう。

「買ってみようかな」

 どうせ今はチョコを手作りするような時間はないので、μ'sの皆に渡す時は、買う必要がある。

 親しい人に配る分を含めても、1つ増えるぐらいなら、別に大した違いはない。

 それに、彼は甘い物が大好きだから。

 考えていると、ポケットの中のスマホが震える。

 画面を確認すると、偶然なのか、もう既に見慣れた彼の名前がそこに表示されていた。

 





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