捻くれた少年と健気な少女   作:ローリング・ビートル

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 もう今年もあと11ヶ月ですね。
 それでは今回もよろしくお願いします。


結晶

「ふう……」

 

 休憩時間。汗をタオルで拭いながら、スマホを確認する。特に目的があったわけではないけれど、指先が勝手にギャラリーを開いていた。

 画面には京都の街並みが鮮明に映し出され、あの街の空気を感じます。

 それと同時に、最近耳によく馴染んできたあの声が響いてくるような気が……。

 きっかけは何だったかは覚えていないけれど、つい通話ボタンを押してしまい、引っ込みがつかなくなった事は覚えている。

 その日から、彼と取り留めのない話をするようになった。とは言っても彼は自分の話はあまりしないから、私が話してばかりなんだけど。

 

「こっとりちゃ~ん!」

 

 いつものように、元気よく背後からいきなり抱きついてきたのは……

 

「穂乃果ちゃん、どうしたの?」

「ん?ことりちゃんが嬉しそうだから、どうしたのかな~って♪」

 

 長い付き合いの親友に言われ、つい頬に手を当てる。しかし、自分がどんな顔をしていたのかまでは知る由もない。嬉しそうだったのかなぁ?

 

「そ、そんなに嬉しそうな顔してた?」

「うん!」

 

 屈託のない笑顔で大きく頷かれると、何も言えなくなってしまう。

 

「確かに、ことりは最近調子良さそうですね」

 

 海未ちゃんも穂乃果ちゃんと同じ意見みたいだ。

 

「そうかなあ?」

「ええ、ダンスのキレもどんどん上がってますし、何より笑顔が素敵です」

「……あはは、ありがとう」

 

 ストレートに褒められて、どう反応していいかわからず、言葉に詰まりそうになる。

 

「やはり京都でいいインスピレーションを得た事が、衣装製作だけではなく、パフォーマンスにも出ているみたいですね」

「ふぇっ!?」

 

 京都という言葉に反応して、危うくスマホを落としそうになる。

 

「どうかしましたか?」

「いや、何でもない何でもない!」

「もしかしたら京都で素敵な出会いがあったんとちゃう?」

「ええぇぇっ!?」

 

 いつの間にか背後に立っていた希ちゃんが、からかうような笑みを浮かべている。手には、いつものタロットカードが握られていた。

 

「ことりちゃんは京都でデートした男性と情熱的な恋に落ちるってカードが言うてるんや」

「…………」

 

 希ちゃんはからかっているだけに見えるけど、私は自分の鼓動が速くなるのを、胸に手を当て、確かめていた。12月の寒さも気にならないくらいに顔が熱くなっていた。

 

「こ、ことりちゃん?」

「ことり……まさか……」

「あらら」

「さ、練習続けるよ!」

 

 私は逃げるように話を切り上げ、練習を再開する事にした。もちろんごまかせたとは思っていない。背中に疑惑の眼差しを感じる。

 ……後で何を聞かれるかが怖い、かな。

 そういえば、まだ比企谷君にスクールアイドルの事は話していなかったな。

 ……今晩、話してみよう。なんて小さな決心を胸に秘め、午後の練習はさらに激しく体を動かした。


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