それでは今回もよろしくお願いします。
「ふう……」
休憩時間。汗をタオルで拭いながら、スマホを確認する。特に目的があったわけではないけれど、指先が勝手にギャラリーを開いていた。
画面には京都の街並みが鮮明に映し出され、あの街の空気を感じます。
それと同時に、最近耳によく馴染んできたあの声が響いてくるような気が……。
きっかけは何だったかは覚えていないけれど、つい通話ボタンを押してしまい、引っ込みがつかなくなった事は覚えている。
その日から、彼と取り留めのない話をするようになった。とは言っても彼は自分の話はあまりしないから、私が話してばかりなんだけど。
「こっとりちゃ~ん!」
いつものように、元気よく背後からいきなり抱きついてきたのは……
「穂乃果ちゃん、どうしたの?」
「ん?ことりちゃんが嬉しそうだから、どうしたのかな~って♪」
長い付き合いの親友に言われ、つい頬に手を当てる。しかし、自分がどんな顔をしていたのかまでは知る由もない。嬉しそうだったのかなぁ?
「そ、そんなに嬉しそうな顔してた?」
「うん!」
屈託のない笑顔で大きく頷かれると、何も言えなくなってしまう。
「確かに、ことりは最近調子良さそうですね」
海未ちゃんも穂乃果ちゃんと同じ意見みたいだ。
「そうかなあ?」
「ええ、ダンスのキレもどんどん上がってますし、何より笑顔が素敵です」
「……あはは、ありがとう」
ストレートに褒められて、どう反応していいかわからず、言葉に詰まりそうになる。
「やはり京都でいいインスピレーションを得た事が、衣装製作だけではなく、パフォーマンスにも出ているみたいですね」
「ふぇっ!?」
京都という言葉に反応して、危うくスマホを落としそうになる。
「どうかしましたか?」
「いや、何でもない何でもない!」
「もしかしたら京都で素敵な出会いがあったんとちゃう?」
「ええぇぇっ!?」
いつの間にか背後に立っていた希ちゃんが、からかうような笑みを浮かべている。手には、いつものタロットカードが握られていた。
「ことりちゃんは京都でデートした男性と情熱的な恋に落ちるってカードが言うてるんや」
「…………」
希ちゃんはからかっているだけに見えるけど、私は自分の鼓動が速くなるのを、胸に手を当て、確かめていた。12月の寒さも気にならないくらいに顔が熱くなっていた。
「こ、ことりちゃん?」
「ことり……まさか……」
「あらら」
「さ、練習続けるよ!」
私は逃げるように話を切り上げ、練習を再開する事にした。もちろんごまかせたとは思っていない。背中に疑惑の眼差しを感じる。
……後で何を聞かれるかが怖い、かな。
そういえば、まだ比企谷君にスクールアイドルの事は話していなかったな。
……今晩、話してみよう。なんて小さな決心を胸に秘め、午後の練習はさらに激しく体を動かした。