ポケモン小説ですが二話目も全然バトルしないです(
――実は僕、転生者なんです。
そんな大それたことを言って信じてくれる人が、果たしてこの世界にいるのだろうか。
何の変哲もない何処にでもいる普通のポケモン好き大学生だったのに、気づいたら前世の記憶を持ってこの世界にいた。転生って本当にいつの間にか起きたりするものなんだね。
しかしだからといって、昔の記憶を利用してこの世界で成り上がろうなんて気持ちはサラサラない。実際問題、ストーリーを終わらせるだけなら簡単な元の世界のゲームとは訳が違うのだ。この世界はゲームじゃなくて、皆生きてるのだから、ポケモンマスターを目指す、という奴は当然死にものぐるいで努力してる。本気で頂点を目指してるわけでもない僕が、そう簡単に勝ち進める世界じゃないのだ。
――と、幼少の頃の僕は思っていたのだが、調べたところどうやら、個体値も努力値も種族値も元のゲーム通りのようなので、せいぜいその知識を活かして、ポケモントレーナーを職業にしてのんびり暮らしていこう、と決めた。生きてるのだからどうにかして生計を立てなければなるまい。まずは、ジムバッジを全部獲得できるくらいの実力は身につけよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
203番道路を黙々と進む。ランが何故か妙にはりきってバトルしたがっているが、正直この辺のポケモン相手にランは強すぎるし、クイーンのレベルを上げておきたいから使ってあげられない。
「クイーン、あわ!」
「チャマー!」
ぷくぷくとクイーンの口から出た泡が、ビッパに直撃し倒れた。クイーンも少しずつ成長して、強くなってきているようだ。飲み込みが早い。個体値も高いのだろうか。――いやいや、ここは現実だ。そんなことは気にしちゃいけないと首を振る。
「お疲れクイーン」
「ポッチャマ」
どや、と言いたげに胸を張るクイーン。ヒカリのポッチャマもよくドヤ顔してた気がする。ポッチャマってみんなこんな感じなのかな、それはそれで可愛いな。
「んー……」
クイーンのレベルも大分上がってきたし、そろそろ次の街に向かうか。そう考え、コトブキシティを目指して歩き始める。
「おーっと待ちな、道行くポケモントレーナー!」
「お?」
唐突に声をかけられ、反射的に振り向く。そこにいたのは見せつけるようにボールを向ける短パン小僧。トレーナー同士目と目があったらすることは一つ。
「ゆけ、ビッパ!」
「ビッ!」
「ゴー、クイーン!」
「ポッチャマ!」
――お互いのポケモンの登場が開始の合図。ポケモンバトルが始まる。
「いけ、たいあたり!」
「かわしてあわ!」
勢いよく突っ込んできたビッパをかわし、クイーンはすれ違いざまに泡を放つ。よくよく考えるとこの泡って何なんだろうね。酸性の泡とかなのかな。
「ああっ、ビッパ!」
「ビィっ……パァ……」
「よーしよくやったねクイーン」
「ポッチャマ!」
悲しいかな、良い具合に急所に当たったようで、ビッパは一撃で倒れてしまった。次のポケモンが出てくるのを期待していたのだが、どうやらお相手はビッパしか持っていなかったようで、賞金として九十円頂いた。正直九十円程度だったら逆に申し訳ないんで、受け取りたくないです。貰うけど。
軽くなってしまった財布を悲しそうに見つめる短パン小僧の脇を通り過ぎ、草むらをかき分けどんどん進んでいく。雨が降り出しそうな天気なので、出来れば早く進みたいのだが。
「ちょっと待てよ、そこのヤツ!」
「なんだよ……あっ」
――トレーナー同士、目と目が合ったらすることは一つである。
―――――――――――
「コンコンコン」
「チャマチャマチャマ」
「もぐもぐもぐ」
料理の練習しておいてよかったな、とシチューを飲みながら思う。街から街までの移動は早くて三日、遅ければ一、二週間かかることもある。その期間ずっとレトルト食品などで生活するのは健康面上よろしくないので、頑張って覚えた。そらをとぶを覚えたポケモンがいる、とか自転車を持ってる、乗って移動できるポケモンがいる、とかなら全然話が変わってくるのだが、まあこうやってのんびり旅をすることも大切だし、楽しいのでしばらくはいいかな。
ということで、開けた草原で料理をして、夜ご飯タイムである。今日はこの辺で寝ることにしよう。ご飯を食べた後に動きたくないしね。
「クイーン、美味しい?」
「ポッチャマ!」
嬉しそうに返事をするクイーン。やっぱり自分の作った料理を美味しそうに食べてもらえると嬉しいなあ。ランなんかおかわり三杯目である。今日ほとんど動いてないはずなんですけど貴女よく食べますね。
ちなみに、ポケモンといえど物によっては人間の料理を食べられる。例えばポッチャマでいえば野草によっては食べられないものがあったりするが、そのへんを気をつければ人間と同じものが食べられる。いちいち個別で料理を作るのも面倒臭いので、全員が一緒に食べられるものを作るのが僕のスタイルだ。今日の晩ご飯はシチューとご飯でした。
雨の降らないうちに料理器具や食器を片付け、テントの設営を始める。この作業がめんどくさいので早めに着きたかったんだけど、多数のポケモントレーナーと遭遇したせいで本日はほとんど進めなかった。目と目が合うとポケモンバトル、というのはこの世界では当然のルールで、みんなが何故か律儀にそれを遵守しているので、多少面倒だろうと受けざるを得ない。
「ポッチャマ!」
「おー、手伝ってくれるのか、ありがとうクイーン」
最近はクイーンもテントの張り方を覚え始めたので、少し楽になってきた。ランも手伝いたそうにこちらを見ているが、生憎君ができそうな仕事はないんだよね、残念。
「それにしてもこの世界のバッグっておかしいよなあ」
子供が背負える大きさなのに、明らかにバッグよりも大きな自転車が入れられて、無数のバトル道具、料理器具にテントに寝袋に毛布なども余裕で収納出来るってどう考えてもおかしい。四次元ポケットだよね。しかも重さは大して感じないし。便利だから別にいいが。
テントの設営も終わり、左手のポケッチを見ると時刻は九時。少々早いが、そろそろ寝よう。
「コンコン」
「ん、どしたのラン?」
くいくい、と自分の尻尾の方を見るラン。もしかしてアレか、ここで寝れば?ってことか。
「じゃあお言葉に甘えて……あーもふもふ……」
「コンっ♪」
レジャーシートの上に寝転がったランの、そのまた尻尾の上へとダイブする。暖かくて気持ちよくて何というか人をダメにするモノだと思う。一生ここで生活したい。
「チャマ……」
何か忘れてるような、と辺りを見渡すと、羨ましそうにクイーンがこちらを見つめている。入れてあげていい?という念を込めてランを見つめると、ランは小さく頷いた。
「おいでクイーン」
「ポッチャマ!」
水を得たコイキングのように、勢いよくこちらに駆けてくるクイーンを受け止め、ランの尻尾に潜る。毛布を被って、ポカポカとした気持ちで、夢の中へと誘われるのだった。