インフィニット・ストラトス 〜プラスワン〜 作:アルバトロス
あと、前話の最後の方を少し修正しましたのでご確認ください。
翌朝。
徹夜明けで死ぬほど眠いのをどうにか抑えつつ、柳韻先生にまとめた書類を渡した。
「これが柳韻先生にお願いする“未成年後見人”についての資料です。出来れば午後までに目を通していただきたいと思います」
「分かった、読んでおこう」
割とまとまった量を渡されて僅かに表情が引き攣ったのは見ないふりをして、学校へ行く準備をする。
今まで表面だけしか知らなかった分野だけに、まず自分が内容を理解する必要があったので、かなり時間を食ってしまった。調べたのは未成年後見人についてだけじゃなかったし。
空が段々と白み始めた段階でどう考えても普通にやってたら終わらないことに気付いて、もう一台パソコンを借りて二画面操作なんて曲芸をやる羽目になった。
前世で学生の時に「並列思考とか出来たらカッコよくね」とか思い立って習得しといて良かったわ。習得に10年以上掛かったけど。
準備を終えて玄関に向かうと、朝からシャキッとした織斑と対照的にどうにか立っているといった様子の篠ノ之が待っていた。かく言う俺も割とひどいと思うが。
因みに、弟君こと織斑一夏少年はまだ眠っている。
まだ小学校に通う年齢でもなく幼稚園も両親の死を機に退園したらしいので、少なくともここが片付くまで篠ノ之母に世話を頼んだ。
「お前たち、どうしてそう朝から疲れ果てているのだ?」
「いや、ちょっと寝れなくてな」
「そ、そうなんだよちーちゃん。束さんも研究がいいところでさあ」
「……何でもいいが、大丈夫なのか?」
少し気遣いを見せる織斑に頷いて見せ、三人で家を出る。
「……夜更かしは日常茶飯事だけど、徹夜は久々だよ」
「悪いな、無理を言って」
「ううん、束さんがやりたいことだから」
前を歩く織斑に気付かれないように、小声で言葉を交わす。結局篠ノ之も俺と同様ゼロ睡眠だ。そのせいで普段から目の下にある隈が少し濃くなっていた。
「午後はまたすることがあるから、学校にいるうちに寝ておけよ」
「分かってるさ。御誂え向きに今日はテスト前日だしね」
そう、今日は定期試験の前日でほぼ自習。誰憚ることなく寝ることができるのは不幸中の幸いか。
「?……何を2人で話しているんだ?」
一人だけ少し先行していることに気付いた織斑が振り返るので、適当に誤魔化す。
「いや、試験範囲ってどこだっけって話をな」
「そうそう。明日の科目は何だっけとかね」
「……試験前日にする会話ではないぞ、それは」
呆れ顔を見て、少しは精神的にマシになってきたかな、と思いつつ学校へと歩いた。
◆ ◆ ◆
「全く、お前らは……もう少し真面目に勉強せんか」
その日の午後。帰りの道中で織斑が溜息を吐く。
「いくら昨晩眠れなかったとはいえ、二人とも授業の半分以上寝ているのはどうなんだ」
「え?いや、自習プリント終わって暇だったから寝てたんだよ。なあ篠ノ之」
「そうそう。今更中学レベルの問題なんて目を瞑ってても満点取れるさ♪」
「おお、さすがは天才。じゃあお前明日目隠しして受けろよ?」
「ちょっ!?言葉の綾じゃん!」
二人で騒いでいると、織斑が眉間にしわを寄せてこめかみを押さえていた。
「おい、この
「え?多分全部あってると思うけど。何で?」
そんなに頭良い印象がないのだろうか。自分では頭脳キャラのつもりなんだが。
ちょっとショックを受けつつ聞いてみると、理由は違うようだった。
「いや、お前が勉強ができるのは知っていたが……前回の試験の時はもっと時間をかけて解いているだろう?」
「ああ、なるほどね。いや、あれは暇つぶしに遊んでるだけだよ」
少し話は変わるが、我が校の試験では問題用紙には各問題の配点が書かれていない。
点数によって難易度を判断して難しそうと敬遠してしまったりするのを防ぐためなんだそうだ。俺はその辺も含めて作戦だとは思うのだが、定期試験レベルでは気にするなということなのだろうか。
まあ、要するに試験中はどの問題が何点かなんて分かりゃしないのだ。
そこで思いついたちょっとした遊びが――。
「点数当て、だと?」
「そ。配点を予想して、事前に決めといた点数ーーまあ大体77点だけどーーを狙うんだ。割といい暇つぶしにはなるぜ?」
「しかし、配点を予想するなど……」
「俺も模試とかの点数を当てに行くのはさすがに無理さ、作成者を知らんからな。でも定期試験を作るのはいつも授業をする教師だろ?授業を見てればその教師がどの辺を重視してるのかぐらいは分かるし、当たんないことはないよ。まあ言うても国語は毎回鬼門だけど」
文系科目、特に国語の記述の配点の予想は結構難易度が高い。他の教科は「この辺に力を入れるだろう」っていう予測の上で授業を受けてるからどの辺をどれぐらい重視してるのかは分かるが、国語は完全に教師の好みだからな。一つの文章の中でならいけると思うが、全体の中でとなるとさすがにお手上げである。国語だけ大問ごとに配点書いてくんねえかな。
織斑を見ると唖然とした顔だった。
「……そ、それで的中率はどれほどなんだ?」
「んー、前回は初めてでまだ傾向もあんま掴めてなかったしな。目標は各科目誤差5点以内だったんだが、正直誤差10点が良いとこだ」
国語は漢字の配点を読み違えたもんで酷いもんだったし。危うく平均割るとこだった。
篠ノ之は感嘆とも呆れとも取れる表情を浮かべていた。3:7くらいで。
「……君は相変わらず妙なことを思いつくねえ」
「一人暮らしが長いからな。一人遊びの天才って呼んでくれて良いんだぜ」
「一緒に遊んでくれる友達がいないんだね」
「ハッ、俺は少数精鋭派なんだよ。……つかお前が友達を語るか」
「ちーちゃんが1人で1000人分だから良いのさ♪」
「戦闘力換算で?」
「……否定できないなあ」
「まあ、何せ関羽だからな」
「ーー誰が蜀の英雄か」
「「あたっ!?」」
にゅっと出てきた織斑に2人揃って叩かれる。今回はかなり軽めで一瞬めまいを起こす程度だったが。
え?それは軽くないって?バカ言え、これで重いって言っちまったら一撃で意識を刈り取られたりするのは何で形容したらいいんだよ。
っと、そろそろいいか。
「さて、周りに人が少なくなってきたところで。ちょっと真面目な話をしようか」
そう言うと篠ノ之は呆れの色を強めた。
「そこまで考えて、ここまでバカみたいに騒いでたんだ」
「こっちが動き始めてることは極力知られたくない。どこから伝わるか分かったもんじゃないからな。時間が無くても最低限の気は使うさ」
情報戦は戦の勝敗の大部分を占める。さっきの篠ノ之ではないが、いくら優秀であっても目隠しをしたままでは力を発揮できないのだ。
「まあ、織斑に簡単に盗み聞きされてるあたりその辺の危機管理はザルっぽいが、用心するに越したことはないだろ」
そう言って、カバンから昨晩――今朝か、今朝まとめたプリントを取り出す。
「織斑は、柳韻先生と一緒に役所に行ってくれ。やることは簡単にまとめるとこんな感じだ」
プリントを織斑に手渡す。
「先生にはもっと詳しいのを渡してあるから問題ないと思うけど、お前も自分のことだから概要ぐらいは知っておきたいだろ?」
「……ああ、ありがとう」
織斑は感謝を告げて、真剣な表情で目を通し始めた。
「手続きはなるべく急いだほうがいい。現状はお前が賛成しない以上例の親戚の申請は通らないはずだが、こっちが申請する前に手続きが終わったりすると面倒だ。先に行って柳韻先生とすぐに向かってくれ」
「ああ、分かった」
頷いた織斑が走っていくのを見送っていると、隣から潜めた笑い声が聞こえてきた。
「ちーちゃん、確かゴミ共の話を聞いた時に『手続きはもうしばらくかかる』って聞いたって言ってたよね?これ、数日中に終わる時の表現じゃないと思うんだけど」
「まあ、普通はそうだな。でも、用心するに越したことは――」
馬鹿らしくなって途中で言い訳をやめた。今更篠ノ之に隠す意味はない。
「ああそうだよ、織斑を先に行かせるための方便さ。ちょっとズルをするからな」
携帯電話を取り出して、事前に調べておいた番号をプッシュした。で、一旦それは置いておいて喉に手を当てる。
「ア゛ー、あ゛ー、あー」
よし。
目を瞠っている篠ノ之をよそに、待機状態だった携帯電話の通話ボタンを押す。
『――はい、こちらは○△市役所です』
「ああ、先日織斑千冬との未成年後見人の申請をした佐藤だが――」
篠ノ之の目が見開かれた。
沢山のお気に入り登録、感想、及び評価有難うございます。
一つお願いなのですが、特に低評価をされる方は出来るだけその理由(文章が下手、設定がおかしいなど)を添えていただきたいと思います。
筆者もなにぶん知識が無く世間知らずなので、今後の為にも至らない点を教えていただけると幸いです。
追記:最後のあれは某三世のように自由に声を変えられるわけではありません。