Harry Potter Ultimatemode EXシナリオ 作:純白の翼
1993年8月1日。イタリアのローマ。フォルテとゼロのフィールド兄弟は、1週間前から4週間の旅行に来ている。
「ゼロ。何が食べたい?遠慮せずに言ってみなよ。」
「やだなあ。兄さんが全部持ちになるじゃん。それ位は好きなものを食べれば良いのにさ。」
「気にしないでくれよ。その気になれば、私はいつでも自由に羽を伸ばせるんだ。それに、ゼロの大好きなパスタの、その本場に来たのだから私も食べてみたい。」
そんなわけで、2人は結果論だがパスタ料理店に行き、そこで昼を満喫した。
「美味かった。来て良かったよ。」
「まあ、予め計画を立てたのが功を奏したんだよね。」
腹違いの兄弟ではあるが、完全に血が繋がっているのではと言われるほど両者は父アルバートに良く似ており、仲も良好である。
「さあ。次は、ローマ帝国のコロッセオでも見に行こうか。」
「昔の剣闘士がパーティーをやっていたアレ?」
「……強ち間違っちゃいないよ。でも、ゼロの解釈はちょっと違うけどね。」
苦笑いするフォルテ。それでも、次の目的地へ向かおうとする2人。だが、突然フォルテが持っていた旅行用スーツケースが1人の子供にスられてしまった。
「アンタら、旅行客でしょ!金持ちなんだから、これ位頂いても良いわよね!」
「んなわけあるか!この盗人が!!」
ゼロが、スリ少女に向かって飛び蹴りを食らわせようとする。
「ちょっとアンタ!アタイに怪我させる気!?」
「知るか。テメエがどうなろうがな。そのまま、勢い余って死んでくれたらどんなにスカッとするか。」
ゼロの言葉を聞き、少女は苦々し気な表情になった。
「アンタにアタイの何が分かる!」
「そこまでだな。」フォルテが少女を地面に叩き付けた。足で逃げない様にする。
「放せ!放しやがれ!」
「その前に、我々の荷物返して貰お……」
フォルテが言いかけたその時だった。彼は、少女の左腕を見た。包帯が生々しく巻かれている。それを外すと、長時間経っているのにも関わらず、未だ完治の兆候すら見せない怪我が露わになったのだ。
『酷い怪我だな。化膿している。』
ゼロに目の合図を送るフォルテ。ゼロは頷き、未開封のミネラルウォーターのペットボトルの封を開け、少女の左腕にかけた。絶叫を上げているが、ゼロはそんな事お構いなしに黙々と治療を行い、最後は清潔なガーゼで怪我の箇所を巻いた。
「お前、何故こんなになるまで放っておいた?」ゼロが厳しく追及する。
「うるさい!」
「お前の親は、病院にも連れて行ってくれなかったのか?」
「黙れ!アンタ達には関係無い!!」
「ならば、我々が病院に連れて行こう。名前は?」
「スージー。」
ゼロとフォルテは、スージーを病院に連れて行き、彼女の怪我の手当てをした。その後、スージーの家に入った。
「アタイにも、親はいたんだ。」
「だったら、何故いないんだ?」
「それはね、ゼロ。半年前から始まっている魔王の袖引きが関係しているから。」
「魔王の袖引き?」
「そいつはいきなりやって来た。北へ50キロ先の、竜神の遺跡を根城にしている。手当たり次第に、人をかっさらって行く。父さんも母さんも、そいつにやめる様に言いに行くと言って未だに戻ってこない。」
「マジかよ。」ゼロが驚愕する。
「逆らった奴は皆殺し。あいつは人の皮を被った悪魔だ。」
「そいつの特徴は?」フォルテが問いただす。
「巨大な剣を持った、全部の歯が鋭い、病人みたいな顔色の男。」
スージーの証言を聞き、フォルテの表情が険しくなった。
「兄さん?」
「心当たりがあってな。」
「どうする?」
「行こうか。危険な事に首を突っ込む
「俺はまだ17になってないけど、2人で行った方が成功率と生存率も上がる。こんな状況の場合、特にね。」
「分かった。付いておいで。」
「危険過ぎる……どうしてそこまで!」
「人を救うのに、理由がいるのか?」
スージーの問いに、ゼロは涼しく返した。そしてゼロとフォルテは、竜神の遺跡へと向かって行った。
「確か、ここは4階構造になっていた筈だ。」
「ああ。地図を手に入れておいて良かったよ。」
早速遺跡に入る2人。
*
竜神の遺跡。攫ってきた20代前半の女性を、まるで食事でも行うかのように首筋から鋭利な歯で吸血をし、女性を干からびさせる青白い肌の男。
「やはり、血の味は極上ですねえ。特に、死の間際の恐怖の感情が入り混じった人間のものは格別です!!」
その男の元に、青い人型のロボットの様なものがやって来た。
「どうしましたか?パンテオン。」
「…………」
「成る程。侵入者ですか。その内1人は、10代前半。分かりました。始末してください。」
*
遺跡に入ると、扉が閉まった。
「後戻りは出来ないってわけか。」ゼロが後ろを振り向きながら呟く。
「ゼロ。どうやら、我々は歓迎されている様だ。」
フォルテが指差した方向には、パンテオンと呼ばれる機械生命体達がいたのだ。ざっと数えて100人はいるだろう。
「気を引き締めろよ。」
「ああ。
ゼロが早速、自身の杖に宿った専用呪文でパンテオンの一体を攻撃する。だが、余り効いていない。
「人間ではなさそうだな。ロボットか?」
「さあな。あいつらも攻撃を仕掛けてくる。」
5体ほどが、腕をバスターに変化させてエネルギー弾を発射して来た。
「ゼロ!」
「この程度の攻撃。呪文を使うまでも無い。回避だ。」
2人は、パンテオンの攻撃を身体能力だけでやり過ごした。
「ハリーやグラントには及ばないが、俺もこの位は出来る。」
安心しきったゼロの背後から、電磁警棒を持ったパンテオンが襲い掛かって来た。すかさずかわしたゼロだが、パンテオンに偶然触れた瞬間に、突然力が抜ける感覚に襲われた。
「まさか……こいつらのボディ……」
フォルテに支えられ、体勢を立て直すゼロ。
「魔封石か。と、なれば……ロイヤル・レインボー財団に匹敵する組織が作ったとみて間違いは無いだろうね。」
「心当たりはあるの?」
「断言は出来ない。心当たりはあるけど。コイツは厄介だな。こちらの攻撃は半減される。それなのに、あちらに触れると力が抜ける感覚に襲われる。」
「倒せないんじゃ、無理じゃないのか?兄さん。」
「いいや。何も、倒すだけが勝利条件じゃない。こちらの攻撃が聞きにくいなら、動けなくすれば良いだけの事さ。
フォルテの杖から、光球が出現した。余りにも遅い。パンテオンの1体が近付いて来た。その瞬間、光球が消え去る代わりにパンテオンの身体が光った。
それだけではない。全てのパンテオンが、光るパンテオンに引き寄せられたのだ。
「その呪文。さっきの光球で、相手を拘束するのか?」
「ちょっと違うな。光球で、触れた者を強力な磁石にしてしまう魔法さ。さて、戦いは始まったばかりだ。次行こう。」
ゼロとフォルテは、さっさと次の階へ向かって行った。
*
「今回の侵入者さんは、大分歯応えがあるようですね。まあ、次の部屋で脱落でしょうが。」
*
2階。1階とは打って変わって、小部屋である。
「剣とかの武器が沢山並んでるな。」フォルテは、状況を冷静に分析する。
「まさか……」最悪の事態を想定するゼロ。少し、顔色が悪くなる。
ゼロの予想は当たっていた。イヤ、当たってしまったのだ。沢山の武器が、2人目掛けて襲い掛かって来たのだ。
「「
同時に盾の呪文を使う。襲い掛かる武器をやり過ごした。
*
「2階も突破されましたか。本当に、私を楽しませてくれますね。おや、3階も突破したようですね。」
男は、フィールド兄弟の奮闘を見ていた。ゼロが、風の自然物化能力を使って一気に次の部屋に向かって行ったのだ。本来ならば、このフロアには落とし穴があったのだが。
「フォルテ・フィールド。まさか、あなたが来るとはね。それに、小さい方の彼。恐らくは、フォルテ・フィールドの弟のようですね。アレは、然るべき戦闘訓練さえ積めば兄以上になるでしょうねえ。」
削りがいがあるじゃないですか、そう男はほくそ笑んだ。
*
「どこまで続くんだ?」
「……そんなに広い所では無いから、もう少しで着く筈だけど。」
音がした。天井が、落ちて来たのだ。
「下手な宝探しアドベンチャーじゃないんだぜ!」
「私達を押し潰そうとしてくる天井を、破壊しないと!」
「兄さんは盾の呪文を張ってくれ!俺が壊してやる!」
「頼む!」
「
青白い光線を撃つゼロ。天井は、破壊された。
「
フォルテは上位の盾の呪文を展開し、ゼロも含めて破片や瓦礫から身を守る。
*
「来るようですねえ。」
最後の部屋を突破した。間も無く、自分の所に来る。久々に、面白く戦えると内心歓喜する男であった。
*
「広いな。」
「最上階に着いた?」
大分奥まで来た。攫われた人たちは無事なのかどうか。そう思いながら進むフォルテ。最悪、全員殺されているかも知れない。そういう事態も、想定しておかねば。
『本当ならば、あの杖を使う事は生死を冒涜する事になるわけだが……』
胸ポケットにしまっている杖を触れるフォルテ。普段使っていないが、先祖代々受け継がれた杖だ。行方不明の1本、ゼロが持っている戦闘に特化したものと含めて3つ存在する。3つ所有すれば、全ての世界の覇者になれるという伝説がある。真実かは分からないが。
『人の命が掛かっているんだ。つべこべ言ってられない。』
まずは、次に現れる敵との戦いに備えるべきだ。フォルテは、そう決意した。
「誰かいる!」
ゼロが指差す。奥には、病人の様に青白い肌、全てが常人よりも鋭利な歯を持つ男だ。しかも、背中に2メートルはあろうという大剣を背負っている。
「お前は!」いつになく感情的になるフォルテ。
「久しぶりですねえ。フォルテさん。あなたが闇払いの時以来でしたか。尤も今は、あんな時代の敗北者の狸が校長を務めている学校の教員だそうですが。」
「ティファレト……貴様だったのか…………!!!」
「知ってるの?」
「闇払い時代に戦った奴の中で、最も手強かったのさ。」
「潰し甲斐があるじゃないですかあ。」
大剣を持つティファレト。
「ゼロ。気を付けろ……奴は、私と同じ魔力が
「1人でマグルの国家戦力に匹敵するアレをか!確か、小国なら容易く攻め滅ぼせるとも聞いた事はあるけど……兄さん以外にもいたのか。」
ティファレトは、無言で魔法を発動した。それも、1つではない。指先から1つずつ、合計10の魔法が発射されたのだ。
「規格外にも程があるだろ!」
ゼロが愚痴りながら攻撃化を回避する。自分の事を完全に棚に上げている。
「甘いですよ。」ゼロの背後に、ティファレトがいた。
「なっ!」
気付いた時には遅かった。大剣で斬られたのだ。
「何だこれ?力が……力が吸い取られたようなこの感覚は……」
「フフフフフ。種明かしをしておきましょう。私の愛剣『アブソーバー』は、切るのではなく魔力を削り食らうのですよ。」
コイツ、並の魔法使いを完全に殺しかかるようなもん持ってるじゃねえかとゼロは内心舌打ちをする。
「さて、あなたを料理……」
その直後、ティファレトの腹部に光の矢が撃ち込まれた。弓を持ったフォルテが、ティファレトに対して攻撃したのだ。
「嬉しいですねえ。自然物化能力、覚醒に加えて射手座の宇宙モードを見せてくれるとは。あの時と同じ、ギルガメッシュを以って戦うとは。」
「虫の居所が悪いんだよ。」
ギロリと睨み付けるフォルテ。ティファレトが黒紫のオーラを纏っているように、フォルテもまた白金のオーラを纏っていた。
お互いがお互いを攻撃する。武装解除、失神、石化、妨害、爆発、死。それは、従来の魔法使いのものとは桁違いだ。魔法使い同士の戦いは、所詮は唯の決闘や戦闘。対人戦のみだ。故に、兵器及び海と空からの攻撃は無いに等しい。
だが、2人の戦いはそんなものは必要ないのではと思える程の規模だった。少なくとも、ゼロはそう思っている。そして、これはもはや
ゼロは、ティファレトと戦闘を行っている自らの兄を見る。自然物化能力、宇宙モード、覚醒。3つの人知を超えた力を同時に使っている。1つならともかく、2つ以上同時に使うのだけでも戦闘後に半日寝込むほどの疲労感に襲われる。3つ同時は……3日間昏睡状態になるのだ。
それでも、躊躇いも無く使った。その位本気にならないと、今の敵は倒せないのか。
「俺も兄さんの援護に……」
動かない。敵の化け物染みた強さに、足が震えて動けないのだ。
「う……ぐぅ……動けぇ!!!」
バタフライナイフを、自身の左腕に突き刺すゼロ。
「真空刃!!」
風の能力を行使し、無数の風の刃をティファレト目掛けて発射する。フォルテはゼロの意図を読んだのか、自分の身体を水化させた。幾つかの真空刃は、ティファレトに当たった。
「弱過ぎて、あなたの存在を忘れてましたよ。」
「だったら覚えておけ!!俺の名は、ゼロ・ルーカス・フィールドだ!!!
右手に持った杖から、青白い光線を発射する。最大出力は、ハンガリー・ホーンテールを一撃で粉砕出来る威力を誇る。
「ささっと逃げて……」
「無駄だぜ。さっきの真空刃、経絡系を細胞レベルで破壊するんだ。幾らお前が強かろうが、流石にこんな攻撃を食らえば動けまい。」
「こんな事が!!」
光線は、ティファレトに直撃した。
「どうだ。ティファレト。流石のお前でも……」
「いや。恐らくは死んでいないな。」
「え?でも……」
「言いたい事は分かる。確かに、普通の人間なら死んでいるよ。例え、ルシウスの様な上級死喰い人も例外じゃない。」
その言い方だと、ティファレトは普通の人間じゃないような言い方だ。
「いやあ。聞きましたよ。人間をやめていなければ、とっくのとうに死んでいたでしょうねえ。」
ティファレトは立ち上がっていた。ゼロの攻撃の痕跡も全く見当たらない。
「幾らお前が真祖の吸血鬼と化したからと言って……それだけの短時間で完治は有り得ない。何かプラスアルファを仕込んだな?」
「ご名答です。フォルテ・フィールド。以前、ある方から記憶をいただきましてねえ。私が短時間で完治出来たのは、その恩恵を受けたからなのですよ。」
「?」ゼロが首を傾げる。フォルテも然りだ。
「とはいえ、興が削がれました。今回は、あなた方を甘く見過ぎた教訓としてこの場を去りましょう。それでは。」
「待て!人質の場所はどこだ!」
「彼らを救おうとして、何になるというのです?全員、無事では済まされないというのに。」
そう言ってティファレトは消えた。
「ゼロ。右側に扉が!」
「行ってみよう!」
2人は、早速人質がいるであろう場所に行く。扉をこじ開ける。
「これは……」
「兄さん。気分が悪過ぎるぜ。こんなの、スージーには見せられねえよ。」
辺り一面、死体の山だった。
「くっそぉ!」
ゼロは、地面を殴った。彼の拳は、出血をしていたが本人は怒りのあまり痛覚が狂っているのだ。
「こんな真似を良くもやりやがって!人の命を何だと思ってる!!?今度会ったらタダじゃおかねえ……あの面をボコボコにぶちのめしてやる!!!」
その光景を見て、何かを決心するフォルテ。内ポケットから杖を取り出す。
「これは、ヤナギに不死鳥の尾羽根で作られたフィールド家に代々伝わる杖だ。癒しの杖とも呼ばれている。この杖に懸けるしかない。」
「何が出来るの?」
「死んだ者を、1度限りだが完全蘇生出来るという話だ。真偽は不明だがね。」
「ちょっと待ってくれよ兄さん。死者を生き返らせる魔法は存在しないよ!」
「普通はな。何故、こんな言い伝えがあるのかは分からない。昔話ってのは、時に事実に基づいて作られている事がザラだからな。ゼロ。壁に文字を書いといてくれないか?」
「道案内をかい?」
「ああ。頼むよ。」
フォルテは、慈しみの心を以って杖を振るう。すると、杖の先端から青白い何かが出現した。それは、1つずつ1つの死体に宿っていく。ミイラだった者は、生気が戻って行き、骨だけの者は肉が戻った。
「あまり使わない方が良いな。さあて、ここから脱出しよう。」
フォルテは、ゼロの所へ向かって行った。
文字を書き終え、フォルテとの合流場所へ向かうゼロ。だが、秘密の扉から小部屋を発見し、興味本位でそこに入り込んだのだ。
「これは……」
石板だった。しかも、只の石板ではない。見た事も無い生物が彫られていた。直立した大きなトカゲの様な生き物が。
「貴重な研究資料にはなるだろうな。持ち帰りたいが、写真撮るだけにしておこう。」
写真を撮ってから、フォルテと合流するゼロ。2人は、竜神の遺跡から脱出した。
*
その後、竜神の遺跡で起こった誘拐事件は突如として終わりを告げた。誘拐されたものが全員、生きて帰って来たのだ。無論、スージーの両親も。
警察は事情聴取をしたが、誘拐された全員はその間に関する記憶は全くもっていないという。多くの謎を残しながら、誘拐事件は収束したのだ。数年後には、それは人々の記憶から風化していくだろう。