さて人妖狩りを更新する度前書きに何か書いていますが実際、前書きって何処まで書いて良いのかよく分かりません。
挨拶と小話程度で良いのか、小説の関しての話を書けばいいのか、日々思っている事を書けば良いのか、最低限に抑えるべきか色々な話を書いてみるべきか迷いながら書いています。
小説投稿する前は前面に作者の性格を出した結果色々な人に嫌われている作者様や最低限しか情報を更新しないため一体どういう人なのか一切謎な作者様を知っているので自分はどうしたらいいか迷いましたが色々考えた結果、自分の考えを知ってほしいという思いで前書きに日々思っている事を書いて投稿しています。
今は少しやめておけば良かったかな?嫌われたりしないかな?そんな不安もありますが指摘がない限りは前書きには色々な事を書いていこうと思います。
それでは第八録更新です。
人間の里の近くにある山手村、人口二百十三人が暮らしているこの村は主に豊富な湧水を利用して農作物の育てており育てた農作物を人間の里に供給しその時得たお金で生計を立てている村である。
その村に数十分かけ到着した鈴音と結月。
「よっと」
軽い足取りで月見ちゃんの背中から降りる鈴音。
「・・・・・・うん」
結月は軽い足取りとはいかないものの、前みたいに倒れる事無くちゃんと地面に足をつけて着地した結月。
「前より上手く乗りこなしていたね、結月」
ここまで移動してくれた月見ちゃんを労わりながらそう言った鈴音。
「ああ、だがまだまだ鈴音先輩のようにはいかないな・・・・鍛練が必要だ」
結月もここまで移動してくれた明王を不器用ながらも労わる。それでも明王は喜んでいるようだった。
「さっきも言ったけど急いで慣れる必要はないよ、急ぐと落馬・・・・馬じゃないけど走っている時に落ちてしまう可能性もあるからね、大怪我で済むならまだしも打ち所が悪ければ最悪の死んでしまう場合もあるし焦らず少しずつ乗り方を覚えていけばいいよ」
鈴音の言う事も正論ではあるがそれでも、結月はやはり早く慣れておきたかった。
(速度重視の逸脱者も出てくる可能性もある、明王の背に乗りながら戦う時も絶対くる、いつまでも明王の背中を見ている訳にはいかない)
そんな事を考えていた結月だったが、今はそんな事を考えている場合ではなかった。
「鈴音、今はそれよりも村人の事情聴取から始めよう」
結月の見る方、山手村に住んでいる村人達で人だかりが出来ていた。
「・・・・・そうね、事情聴取から始めようか」
そう言って結月と鈴音は相棒の守護妖獣を手乗り程度の大きさに戻すと村人の事情聴取を始めた。
人だかりを作っていた村人が逸脱審問官である結月と鈴音の姿を見るなりと少しざわついた後、人だかりから山手村の村長らしき白髭を蓄えた老人が現れる。
「逸脱審問官の方ですか・・・・・・わざわざここまでご苦労様です」
山手村の村長は深々と頭を下げると結月と鈴音も頭を下げた。
「まずはお二人に見てもらいたいものがあるのですが・・・・・それが」
村長に顔が戸惑っているように見えた。恐らくは逸脱者の痕跡を見せたいのだろうが、躊躇しているようだった。
戸惑う村長に案内され人だかりの中心部に向かうと村長が躊躇した理由が分かった。
そこには藁で編まれた敷物の上に何かが寝そべっており、その上に網で編まれた掛物が寝そべった何かを隠すように掛けられていた。何が横たわっているかは網で編まれた敷物と掛物からはみ出すように出ている四本の生足を見れば理解できた。
人間だ、しかもこれだけ人だかりが出来て騒いでいるのにピクリとも動かない事や鼻にくるような異臭がする事や蠅などの虫が集っている所からもう生きていない、人間の死体が藁で編まれた敷物の上に安置されていた。
「幾ら逸脱審問官の方とはいえ・・・・・・人間の仏さんを見るのは堪えるんじゃないかと思いまして」
山手村の村長さんは逸脱審問官に逸脱者の証拠を見せたくなくて躊躇した訳ではなく、逸脱審問官が気分を悪くしてしまうと思い躊躇したのだ。
「すみません・・・・気を遣ってもらって・・・・でもこれも逸脱者の手がかりを得るための仕事ですから気にしなくても大丈夫ですよ・・・・・慣れていますから」
慣れている、淡々とそう口にした鈴音だがそれだけ悲しい現場に立ち会ったからこそ言える言葉であり鈴音の心の強さと同時に諦めにも似た達観も感じられた。
「大丈夫だ、覚悟はしている」
結月は白骨化した人間の骸骨なら見た事あったがまだ死んで間もない人間の死体を生で見るのは初めてだった。
「結月、人間の死体を見るのはもしかして初めて?」
こくん、と頷いた結月。
「そう・・・・・でも逸脱審問官になった以上、これも慣れてもらうからね」
そんな事百も承知だった。それに死んでいようがそこにいるのは今まで自分と同じ人間として生きてきた人間だ。気持ち悪いなんて思ってしまっては失礼だ。
「じゃあ、まずは合掌からだね」
手と手を合わせて人間として生きてきたであろう遺体に敬意を表してから鈴音は掛物をめくった。
「!」
結月は息を詰まらせる。そこには結月が見るに堪えない凄惨な遺体の姿があった。
そこには恐らくは三十代前半か二十代後半の男性二人が横たわっており、衣服は着ていない。目は開いているが完全に白目をむいており口は大きく開けており苦痛の表情を浮かべていた。
めくったのは上半身だけだが、それでも無数の引っ掻き傷と人間でない歯形が至る所に見られ体中に傷口から噴き出したであろう血糊が付着していた。
何とも痛々しい姿に結月は気分が悪くはならなかったがこの二人の男性の壮絶な死を考えると初対面の自分でも悲しさで胸が強く締め付けられるものを感じたし同時にこんな酷い事をしたであろう逸脱者に炎の様に燃え滾る怒りが込み上げてきた。
「これは・・・・・酷いな、あまりにも惨すぎる」
結月の素直な言葉に鈴音も同様な意見を持っていた。
「そうだね、多分引っ掻き傷や歯形から見て何十匹・・・・・ううん、何百匹の動物に囲まれて一気に襲われたんだと思う、苦痛の表情を見ているときっと苦しかっただろうし、痛かったんだろうと思うよ」
悲しそうな表情を浮かべる鈴音。人間死体は見慣れているが、悲しむという感情が枯れた訳ではなかった。
「村長、この二人の遺体は何者で、一体何時、何処でどんな状況で見つかったんだ?」
結月にそう聞かれ村長は少し俯きながら話をはじめる。
「今日の朝頃、人間の里に向かって山道を歩いていた村の若者が倒れていたこの二人の仏さんを見つけて慌てて村に戻って皆でここまで運んできたんです、仏さんは荷物どころか衣服も身に着けていなかった、仏さんも乱雑に道外れに放置されていた、最初は追い剥ぎでもされたのかと思ったがそれにしては体中動物がやったかのような傷だらけだった、妖怪の仕業かと思ってみたんだが、ここ周辺の森にここまで非道な妖怪は住んでおらん、村の皆で首を傾げていた所でもしかしたら人妖の仕業ではないかと思っていた所にお二人がやってきたという所なんです」
そしてこの者達が何者なのかという事については村長も答えあぐねた。
「実は二日前の夕方、二人の商人が山道に入っていくのを何人の村人が見たのですが、彼らはこの村をすぐ通り抜けていってしまわれたので何処出身で何という名前なのかは・・・・・私達にはさっぱりで・・・・・・仏さんとなって見つかった時には身ぐるみ剥がされて証明できる物も何一つありませんでした」
この男性が何者なのか証明できないという事はこのままではこの二人の男性は無縁仏で葬られてしまうという事だった、殺されたこの男性達もそうだが今も帰りを心配しているだろう家族や知人の事を考えると何ともやるせない感情が込み上げてくる。
「村人の証言と遺体の様子から察するに殺されたのは二日前の夜、歯形は・・・・・恐らくだけど猿だと思う、良く見ると茶色の毛が付着しているし、数百匹の猿に集団で襲われたんだと思うよ、そして猿に身ぐるみ全てをはがされた後は放置された、幾ら頭が良いとはいえ野生の猿が集団で食べ物でない衣服まで奪っていったとは考えにくいわ、恐らくは逸脱者が猿を支配下に置いて襲わせたんだと思う」
鼎の先見性も素晴らしいが、鈴音もやはり二年間逸脱者との戦いを生き抜いてきただけに経験豊富な知識と鋭い洞察力で信憑性の高い推測をたたき出した。
「そうか・・・・・ついに猿は人間までも襲い始めたのか・・・・」
鈴音の推測を聞いて一人の村人がそう呟いた。
「人間までも・・・・・・どういう事だ?」
結月は村人の言葉を聞き逃さなかった、村人は悔しそうな顔をしながら語り始めた。
「実は最近、俺達が大事に育てている農作物が猿に食べられたり盗まれたりしているんだ、昔も猿に農作物を荒らされる事はなくはなかったが荒らすのは大抵一匹や二匹程度で荒らされる回数も少なかったんだ、森には猿が食べる木の実や果実が十分にあるからだ、だが最近は村の皆が寝静まった夜になって十匹や二十匹の集団で俺達が育てた農作物を頻繁に襲うようになったんだ・・・・幾ら罠を仕掛けても罠を見破って農作物を奪っていく・・・・・このままじゃ俺達飢え死にしちまうよ・・・・」
怒りと悲しみを今まで堪えていたのだろう、村人の目から涙が零れる。
皆も村人も話を聞いて顔を俯かせた。
(悔しいだろうな・・・・・せっかく丹精込めて育てた野菜を持ってかれるのだから・・・・)
結月も逸脱審問官になる前は自宅の畑で野菜を作っていたので気持ちは身に染みる程理解できた。
「私、鼎に相談して山手村に食糧支援を頼んでみるよ、鼎さんならきっと助けてくれる」
その鈴音の提案には賛成だった。天道人進堂の表業務は慈善活動や人道支援なので食糧支援が出来るくらい食料を貯蓄していた。
「では俺達はその猿の集団を操っている逸脱者を早急に断罪しよう・・・・・・恐らく鈴音先輩の推測が正しいのなら逸脱者は主に夜に行動するはずだ」
だが気がかりな事もあった。
「だけど逸脱者はともかく支配下に置いている数百匹の猿をどうしたら良いんだろう」
そうそれは逸脱者が森に棲む猿を意のままに操れるという事だった。
流石の逸脱審問官でも猿を数百匹相手する事は出来なかった。
「何か・・・・・いい方法は・・・・・・猿の集団を追い返して逸脱者単体との戦いに持ち込む方法・・・・・」
鈴音がそう呟いた時、結月の頭に様々な出来事や言葉が蘇る、それが交わり合い結月に一つの妙案が浮かんだ。
「鈴音先輩、俺に考えがある、ただ鈴音先輩の気持ちが良ければな・・・・・」
妙な事を口にした結月に鈴音は聞き返した。
「私の・・・・・気持ちが良ければ?どういう考えなの?」
意味が分からない鈴音に結月は簡潔にこう言った。
「借りを・・・・・返しにいくんだ」
今日も命蓮寺はいつもと変わらない時間が過ぎていた。
響子は自分の務めである命蓮寺の門前で落ちている木々の葉を竹箒で綺麗に掃いていた。
仏教を信仰する信者達に気持ち良く門を使ってほしいからという事もあるが清掃も一つの修行僧の務めだからだ、聖の様な立派な坊さんになるためには手を抜く事なんて出来ない。
「ふ~ん・・・・ふふ~ん・・・・ふんふふ~ん」
しかし響子にとって門前の掃除は毎日ようにやっているので鼻歌を歌いながらでも手馴れた手つきで余裕を持って綺麗にする事が出来た。(それが本当に勤めになっているのか分からないが)
今日も彼女にとって何気ない日常になるはずだった・・・・・・彼らがやってこなければ。
「?何だろう・・・・・・あれ?」
耳が僅かに捉えた音、響子の見つめる先、何かがこちらに向かって物凄い速度で近づいてきていた。
響子が驚いたのは、その何かが馬よりも大きな巨大な体に翼の生えた猫と狐だと分かった数秒後だった。
「えっ!?何?こっちに向かって・・・・・!」
戸惑う響子の前に自分よりも大きな翼の生えた猫と狐が立ち止った。
どうしたらいいか分からずあたふたする響子。
「響子ちゃん、安心して、この子は敵じゃないよ」
聞き覚えのある声は猫の方から聞こえた。その声の主を響子は忘れてはいなかった。
「す、鈴音さん!?何でこの大きな猫から鈴音さんの声が?」
状況が上手く呑み込めない響子、もしかして昨日見た人間の鈴音さんはこの翼の生えた巨大な妖猫の妖怪の仮の姿だったのか、そう考えていると妖猫の背中から鈴音が降りてきた。
「ごめんね、驚かせちゃって・・・・・この妖猫は私の相棒の月見ちゃんなんだ、私よりもしっかり者でいい子だから安心してね」
唐突な展開に唖然とする響子、いきなり過ぎて話がうまく呑み込めない。
何故鈴音はこんな巨大な妖猫の背中に乗っているのだろう?何故この妖猫は鈴音に忠実なのだろう?何故今日の鈴音は刀や小刀で武装しているのであろう?
状況が呑み込めず戸惑う響子、そこへ妖狐の背中から降りた結月が響子に近づいてきた。
「響子ちゃん、驚かせてすまない、あの時は何も言わなかったが俺達は逸脱審問官なんだ、そしてこの妖狐と妖猫が俺達の相棒である守護妖獣だ」
いつだつ・・・・・?しゅごようじゅう・・・・?聞いた事がない言葉に首を傾げる響子。
「響子ちゃん、本当は詳しい説明をしないといけないのだけど、今は説明している暇があまりないの、あなたの力を貸してほしいの」
話が読めない響子であったが鈴音と結月が自分に助けを求めているのは理解できた。
「私の力を・・・・・・ですか?私に出来る事なら・・・・・・結月さんと鈴音さんにどうしてもあの時のお礼がしたかったんです、是非やらせてください!」
その言葉を聞いて嬉しそうな顔をする鈴音。
「夜遅くまで付き合ってもらう事になる、それでもいいか?」
夜まで・・・・・そう聞かれ少し考える響子。
「ちょっと・・・・・一輪さんと相談してきます、ここで待っていてもらってもいいですか?」
そう言って響子は一人用の小さな扉から寺に入った。
駆け足で命蓮寺の本堂に向かう響子、本堂に到着し入るもそこには自分の担当である一輪の姿も住職である聖の姿もいない。本堂を後にした響子は聖を含む僧が寝泊まりする建物に向かい引き戸を開け、建物内を探し回ると床の間で正座して話し合っている聖と一輪の姿があった。どうやら今後の命蓮寺で行う行事の調整を行っていたらしい。
「いました・・・・・はあ・・・・はあ」
息を荒げ入ってきた響子に聖も一輪も話をやめる。
「どうしたのです響子・・・・・息をそんなに荒げて」
驚いた一輪は響子にそう尋ねるがまだ息が整っていない響子は答える事が出来なかった。
「まずは落ち着きなさい、響子・・・・・一体どうしたのです?」
慌てて入ってきた響子に対し落ち着いた対応をする聖。
響子は息を整えると顔をしっかりとあげ要件を口にする。
「聖様、一輪さん、失礼いたします・・・・・・実はいつものように門前で清掃をしていたら昨日助けていただいた鈴音さんと結月さんが羽の生えた大きな妖猫と妖狐に乗ってやってきたんです、それで鈴音さんと結月さんは私に力を貸してほしいって頼んできたんです、それで私あの時のお礼がしたくて・・・・・鈴音さんと結月さんと一緒に夜まで出かけてもいいですか?」
響子の要件は聖と一輪にとって驚きの内容だった。
命蓮寺と複雑な関係を持つ天道人進堂の逸脱審問官が響子を頼ってきたのだ。
本当なら逸脱審問官も命蓮寺との関係が良くない事を知っているはずだ、それなのに彼らは命蓮寺の修行僧である響子に助けを求めてきたのだ。
それになによりも逸脱審問官が何故響子を頼ってきたのか分からない、逸脱審問官は一体響子に何をさせようとしているのか?もしかしたら響子の身に危険の及ぶことかもしれないし命蓮寺にとって都合の悪い事をしようとしているのかもしれなかった。
複雑な関係や響子の身を考えるとそう簡単に「はい」と答える訳にはいかなかった。
「・・・・・響子、あのですね・・・・・その鈴音さんと結月さんは・・・・・」
一輪が命蓮寺と天道人進堂の関係を話そうとした時だった。
「分かりました、気を付けていってらっしゃい」
一輪の話を遮るように聖が落ち着いた様子でそう言った。
「ひ、聖様!?」
あっさりと許可を出した聖に一輪は詰め寄るが聖は小さく大丈夫と呟いた。
「ほ、本当ですか?聖様ありがとうございます」
嬉しそうに頭を下げた響子。
「では行ってきます!聖様、一輪さん」
失礼いたしました、と礼儀良くお辞儀をしてから響子は鈴音と結月の所に向かった。
響子を見送った後、一輪は聖に疑問を呈した。
「聖様・・・・・本当に大丈夫なんですか?逸脱審問官が何で響子を頼ってきたかもわからないのに行かせてしまって」
一輪の不安に大丈夫です、と答えた聖。
「鈴音さんは天道人進堂と命蓮寺の関係が良くない事をよく知っていてそれでもなお彼女は響子を頼ってきました、私も彼女の事は良く知っています、きっと彼女には響子の力を頼りたい状況なのです、きっと悪いようにはしません、一輪も彼女が響子を騙すような人物ではない事は分かっているはずです」
聖の言葉はとても的を射ていた。
一輪もまた鈴音とは会った事があり、とても心優しい人柄の良い人だという事は知っていたからだ。
でも本当に大丈夫だろうか?心配な一輪に聖はこう言った。
「そんなに心配なら鈴音さんと結月さんの後をこっそりついていったらどうかしら?もし響子に危険が及ぶようであればその時は助けてあげればいいんじゃない?」
聖の提案に戸惑う一輪。
「えっ?でも・・・・・」
確かにそうだが、真面目な一輪には自らが寺を空ける事に抵抗があった。
「本当は私も少し心配だから響子の後をこっそり追いたいのだけど、私はこの命蓮寺の住職だからあまり動かないでいてほしいのよね?」
う・・・・、と言葉を詰まらせる一輪。
先日自分が行った言葉を聖に上手く返されたのだ。
「私が命蓮寺から動けない以上、担当であるあなたに響子の責任があるのです、しっかり守りなさい」
聖にそう言われ一輪は決意する。
「・・・・・・分かりました私、響子の後をこっそり追ってきます、その間の命蓮寺をお願いします」
一輪はそう言って立ち上がると聖に頭を下げた。
「ええ、任せてください、一輪も気を付けていってらっしゃい」
笑みを浮かべそう言った聖。
「やっぱり、聖様は凄い御方だ・・・・・・」
そんな人だからこそ一輪は聖に惹かれたのだ。一輪は聖の凄さを再確認し響子の後を着いていった。
「到着っと・・・・・大丈夫だった、響子ちゃん?」
鈴音は響子を月見ちゃんの背中に乗せて落ちてしまわないよう、響子を後ろに乗せ鈴音のお腹にしっかりと抱き付かせていた。
「は、はい・・・・・・月見ちゃんって・・・・結構早いんですね」
あまりの速度に少しクラクラしている響子。
(妖怪は空を飛べるものも多いが守護妖獣の地上移動速度は幻想郷にいる大半の妖怪の飛行速度を凌ぐというのは本当のようだな)
まさに地上戦に特化した形なのだろう、守護妖獣という存在は。
鈴音と結月と響子が到着したのは何と天道人進堂だった。
「月見ちゃんだけじゃなく守護妖獣は空を飛ぶ事は余り得意じゃないけど走る事なら幻想郷でも指折りの速さを持つ妖怪だからね、それで響子ちゃん、悪いけど今から目隠しをするけどいいかな?」
地面にゆっくりと着地して守護妖獣を手乗り程度の大きさに戻すと鈴音は響子にそう聞いた。
目隠しと聞いて一瞬不安そうな顔をしたがすぐに首を横に振り大丈夫ですと答えた。
青色の布で目を覆い隠すと響子を結月に預ける。
「私は一度鼎さんの所に行って山手村への食糧支援を要請してくるから結月は先に行っていて」
分かった、と答えた結月。ここで一度鈴音と別れ結月は秩序の間に行くための階段に向かう。
そして秩序の間に行くための階段を守っている番人に事情を説明する。
「この子は、俺達に必要な協力者なんだ、内部の情報は漏らさないよう目隠しをしてある、だから通らせてくれないか?」
返事はない、ただ無言でこちらを見つめていた。
結月はゆっくりと響子と一緒に階段に足をつける、番人に動きはない。
二~三歩降りた所で大丈夫だと分かると前が見えない響子が階段を踏み外さないよう支えながら秩序の間に降りて行った。
「さて・・・・・・」
秩序の間に到着すると結月は今日も居酒屋「柳ノ下」で飲んでいる竹左衛門の方を見る。
「竹左衛門先輩、頼みがある」
声をかけられ振り返る竹左衛門。
「結月か・・・・・って、お前の傍にいる子は妖怪じゃないか?一体どうしたんだ?」
相変わらず顔が赤く、随分と酒が入った様子でそう聞いてきた竹左衛門。
「今はその質問に答えている時間がないんだ、とにかく手伝ってくれないか?」
結月の頼みに少し考える竹左衛門。
「手伝ってくれ?・・・・・めんどくせえな・・・・・今日は練習しない日なんだ」
そう言って竹左衛門は台の方を向き直す。
今日は、と竹左衛門は口にしたが結月が初めてここに訪れた時も確か竹左衛門はこの居酒屋で飲んでいた、それからずっと今日まで竹左衛門はここで飲んでいる所しか見かけない。本当に鍛練の間で練習している時があるのだろうか?
鈴音がもう少し逸脱審問官の自覚を持ってほしいと言っていた気持ちが少しだけ分かった。
「重要な事なんだ、少しだけでいいんだ、頼む」
しっかりとした声でそう言った結月に竹左衛門はチラリと結月を見る。肩に乗る明王も見た目は可愛らしい姿であったが真剣な面持ちで竹左衛門を見ていた。
竹左衛門は結月に背を向けたまま台に置いてあるお酒の入った小瓶を手にする。
「この酒・・・・・奢ってくれるか?」
結月は昨日鈴音と一緒に飲んだので竹左衛門の手にする小瓶がお札一枚程度である事を知っていた。
「その小瓶の代金を払えばいいのか・・・・・分かった、払ってやる」
そう言うと竹左衛門は台がドンと音がするほどの力で両手を着いて重い腰を上げた。
「よし、その話乗ったぜ・・・・・・店主、代金はここに置いとくぜ」
財布からお金を抜き取ると台に乗せた。
「・・・・・奢らなくていいのか?」
全額払ってしまったように見えた結月がそう聞く。
「払ってもいいっていう覚悟と心意気はもらったからよ・・・・・そんな奴から金は受け取れねえな」
結月の方を向き直し風格のある笑みでそう言った。
やっぱりこの人は気前のいい人だ、結月はそう思った。
「じゃあ先に鍛練の間で待っているぜ」
そう言って竹左衛門は服を着替えるためロッカールームに向かった。
「やはり竹左衛門はあれがいいのかもしれないな」
先程鈴音と同じように自覚を持ってほしいと少し思ってしまったが、今のやり取りでやっぱりあれが竹左衛門らしくて良いと思った結月。
コン、とそうだねと言っているかのように明王も鳴いた。
竹左衛門を見送ると階段から鈴音が降りてきた。
「お待たせ、山手村の話着けてきたよ、食糧支援と生活保護支給金が出してくれるって」
その話を聞いてとりあえず安堵する結月、とりあえずこれで山手村の村人が飢え死にする事はなくなった。後は自分達の仕事である逸脱者の断罪だ。
「竹左衛門先輩には話を着けてきた、残っている逸脱審問官にも声をかけよう」
後、残っている逸脱審問官は・・・・・、結月と鈴音は占い場を見る。
そこには何も言っていないのに既に逸脱審問官の正装に身を包む命の姿があった。
「お待ちしておりました・・・・・」
そう小さくされどしっかりとした声でそう言った命。
「私の占いではそろそろ来る頃ではないかと思っていました」
結月が響子を連れて近づくと命は響子を見つめる。
「そうですか・・・・・・この子が先日結月さんと鈴音さんが助けた妖怪ですか」
相変わらずゾッとする様な先読み能力だ。
「命先輩、実は・・・・」
結月が要件を伝えようとした時、命は口元に笑みを浮かべる。
「分かっていますよ、鍛練の間に行きましょう、私の占いが正しければ多分、この作戦上手くいきますよ」
そう言って命は肩に三眼を乗せて鍛練の間に向かった。
「・・・・・相変わらず凄い先読み能力だ」
こう言われるのではないかと思ってはいたが、あまりにも予想通り過ぎてあまりの先読み能力に驚きを超えて恐怖を覚えていた。
「一年も二年もいれば慣れてくるよ」
その慣れるという事は良い事なのか悪い事なのか・・・・・。
「よし!私達も行きましょう!響子ちゃんよろしくお願いね」
一体何をするのか分からないがとりあえず元気よく返事する響子。
「は、はい!任せてください」
結月と鈴音は互いに顔を合わせ頷いた。
「よし!じゃあ私達も浅野婆から武器を受け取って鍛練の間に行こう!」
そう言って結月と鈴音は響子を連れて鍛練の間に向かった。
空高く昇っていた太陽が沈み、山から青白い月が昇り始め、青かった空は既に黒色に覆われ太陽が沈んだ場所だけがまだ僅かに青く染まっていた。
黒色の空には眩い星が散りばめられたかのように空一面に光っていた。
しかしその幻想的な綺麗な星空は木々に遮られ木々に囲まれた山道は暗闇に包まれていた。
妖怪にとっては快適な空間だが大抵の人間にとっては金を貰っても通りたくない、危険な道だった、なので人など歩いているはずなどないのだが、その山道を歩く二人の姿があった。
何も言わず黙々と足を進める二人、その姿を木々の枝からこっそりと除く動物の姿があった。
体中に茶色の毛が生え人間の様な手足がついており顔と尻には毛が生えておらず皮膚は赤色だった。
猿、幻想郷でも良く見かける日本猿だった。
山道を歩く人間の姿を確認した一匹の猿がある所へ向かって移動する。
そこは山道から少し離れた場所にある大木の根っこに空いた大きな窪みだった。
二人の人間の姿を確認した猿は器用に木から降りるとその窪みに近づく。
そこには窪みの周辺に数百匹の猿と窪みの中に規格外の大きさをした大きな猿の姿があった。
「どうした?人間でも見つけたのか・・・・・」
キ、キキと人間には分からない言語で話をする猿。
「そうか・・・・・人間が二人か・・・・・こんな真夜中にここを通るとは土地勘がないのかそれとも馬鹿なのか・・・・・」
規格外の大きさをした猿は他の日本猿とは違い白色の毛並みをしており尻にもその色の毛が生えていた、大きさは三mあり窪みには腰掛けるように座っていた、手は長く体は痩せているが筋肉質だった。顔と肌色をしており頭の毛は尖がっていた。背中の毛が異様に長く一mくらいはあった。
人語を話し、その声は二十代後半の男性のようだった。しかし人語だけでなく猿の言葉も理解できた。
その異様性から野生の猿ではないのは明らかだが妖怪にしては人間臭かった。
「まあいい、今回の獲物はそいつらだ、今日は俺が直々に怖がらせた後、お前達に襲わせるいいな?」
規格外の猿の方を見て頷く様な仕草をする猿たち。この規格外の大きさをした大猿はここ周辺の森の猿の親玉だった。
そこへ一匹の猿がやって来て大猿に報告する。
「どうした・・・・・・何?・・・・・その二人の後ろに妖怪が一匹いるだと・・・・・放っておけ、前も妖怪にちょっかいだして痛い目にあっただろう?手を出さない方が無難だ」
大猿には苦い経験があった、それはここ周辺の森の大猿になって間もない頃、尊大になっていた彼は妖怪にも勝てると思い込み、夜道を歩く妖怪に大量の猿を襲わせたのだが、突然その妖怪の周辺が真っ暗な闇に包まれ、襲わせた猿達の悲鳴が聞こえた。
そして空に闇に包まれた球体が飛んで行ったかと思うと包まれていた闇が消え去りそこにあったのは猿同士噛み付き合い引っ掻き合う猿の姿だった。猿達はその妖怪を襲おうとした時、暗闇に包まれ視界を奪われた猿達は暗闇から急に目の前に現れた仲間の猿を妖怪だと勘違いし互いに襲ってしまったのだ。結果から行けば二十匹の猿の屍が転がる痛々しい結果だった。
(こいつらは人語をある程度理解し簡単な命令なら忠実に従うがあまりにも単純すぎる・・・・)
猿を部下に加えるのは名案ではあったものの、実際に部下にしてみると気づかなかった弱点にも気づいた。
その苦い経験から大猿は予想外の行動をする可能性のある妖怪は無視する方向に決め、動きを良く知っている人間を襲う事に決めていた。この前まで同じ種族だった人間に・・・・。
「さて・・・・・始めるとするか・・・・お前ら配置に着け」
ボス猿はそう命令すると猿達は散らばり木々に登っていく。
それを見送った後、大猿も窪みから出て立ち上がった。
「何れはこの森に暮らす猿達を完全掌握しに置きこの森周辺の村々の支配する猿の王になってやる・・・・・」
大猿はそう小さく呟くと歯を剥き出した。
第八録読んで頂きありがとうございます。
いかがだったでしょうか?私は東方に興味を持って五~六年くらいになりましたが未だによく分からない所があります。
そのよく分からない所の一つに命蓮寺が信仰しているのは本当に仏教なのか?という謎です。
仏教と言っても国内外にかなりの宗派があるのでどれが正しいとは言えません、元を正せばインドなのですがそれが中国に渡り当時の中国人によって手が加えられ中国式仏教として広まりその中国式仏教が日本に流れ込みその日本でも当時の日本人によって手が加えられ日本式仏教として広まり時代と共に宗派が増えていきました。
そう考えるとどの宗派もやり方に差異はあれどどれも仏教なのです、ですが虎丸星を御神体とした聖の仏教スタイルが私には他の仏教とは何処か異なるような気がしてなりません。
神主様もそのままの仏教を入れるとは思えませんし真っ当にお坊さんをやっているようにも見えないし人間ではなく妖怪が主体となっているという点も無視できません。
何だか仏教という宗教を隠れ蓑に幻想郷に置いて地位の低い妖怪達を人間達の手から保護しているようにも思えます、考えすぎでしょうか?
実際私はそういう認識で小説を書いています。
本当に仏教を信仰しているのかそれとも・・・・・・東方は奥深い物ですね、神主様には頭が上がりません。
それではまた金曜日に。