人妖狩り 幻想郷逸脱審問官録   作:レア・ラスベガス

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こんばんは、レア・ラスベガスです。
昨日は更新できなくてすみませんでした、色々あって帰りが遅くなってしまいました。
金曜日更新なのに一度も金曜日更新が出来てないのは本当に情けない話です。
これからはなるべく金曜日に更新できるよう気を付けます。
さて、読者様は何か趣味に打ち込む時、何かを食べながらもしくは飲みながら打ち込む人はいるでしょうか?
私は小説を書いている時、一口サイズのチョコを摘まんだりサイダーやコーラを飲んだりしながら小説を書いています。
別に甘い物や炭酸飲料がなくてもいいのですが私個人としては炭酸飲料やチョコを単体で食べると何だか勿体無い気がするので小説を書きながら摘まんだり飲んだりする事で趣味に打ち込んでいる事への充実感を得ています。
ではチョコや炭酸飲料を食べながら飲みながら書いた方が作業効率は伸びるのか問われると食べない方が正直作業効率はいいです、理想と現実は難しい物です。
それでは第六録更新です。


第六録 森の民が環視する山道 二

「ただいま~」

鈴音はまるで家に帰ってきたかのように秩序の間の玄関でそう言った。

「鈴音先輩、ここは家じゃないぞ」

正確には本拠の玄関であって鈴音の自室ではない、そう冷静な返答をする結月に鈴音は手を仰ぐ仕草をする。

「まあそうなんだけどさ、数年もこの仕事に勤めているとね、まるで本拠が家の玄関のように感じられるようになるの、過酷な仕事だからさ、無事ここへ帰って来ると安心感からつい言っちゃうんだよね」

いやホントに、と付け足した鈴音、結月はまだ理解できないがいつかは理解できるようになるのだろうか、と思った。

そんな会話をしていた時だった。

「おう帰ってきたか、鈴音の嬢ちゃんと新入りの坊主」

随分と野太い声は居酒屋「柳之下」の方から聞こえた。

居酒屋の椅子にはまだ外は陽が高いというのに既に一杯やっている男の姿があった。

髪は黒髪をゴムで結んでおり顔は三十代前半の老けている訳でもなく若い訳でもない顔をしており剃り残しの髭が顎に生えている。

年齢は30代くらいで体格は大柄で服を着ていても分かるくらい筋肉がついていた。

服装は天道人進堂から逸脱審問官に支給される普段着だった。

「竹左衛門(ちくさえもん)さん!また昼間からお酒飲んでいるんですね・・・・・・お酒好きなのはわかっていますけど、流石にほぼ毎日は体に悪いですよ?」

鈴音の忠告に竹左衛門は手に持ったお猪口をクイッとする

「安心しな、鈴音の嬢ちゃん、おじさんお酒は強いしお酒は百薬の長って言うだろ、健康のために毎日飲んでいるんだ」

しかし鈴音はため息をついた後言葉を返す。

「飲み過ぎれば百害あって一利なしですよ、タダでさえ短くなる命がさらに縮みますよ」

冗談には聞こえない冗談に対して竹左衛門は軽く笑った。

「鈴音の嬢ちゃんも上手い冗談を言えるようになったものだ、おじさんは嬉しいよ、だが俺の人生は俺の物だ、命が縮んだって酒を飲むのはやめないぜ」

全く、と小さく呟く鈴音、しかしその顔は仕方ないな・・・・という表情をしていた。

「それよりも・・・・・お前か?鈴音の嬢ちゃんの部下になった、新入りの坊主は?」

新入りの坊主・・・・・・呼び捨てされた時はどうなのかと思ったが「新入りの坊主」から比べたらまだ良かった事に気づく。

「ああそうだ、だが坊主ではない、髪もちゃんと生えているだろう?」

結月の言葉にポカンとする鈴音と竹左衛門だったが竹左衛門は豪快に笑った。

「お前は真面目だな、坊主とはお坊さんの事じゃない、若者と言う意味だ、それと幻想郷の坊主は髪が生えている奴らもいるだろう?命蓮寺の僧なんかみんな髪の毛生えているじゃないか、まああれが本当に僧と言えるかと言われると返答に困るがな」

結月は真面目な性格ゆえに冗談をそのまま受け止めてしまう癖があった。

髪のそり坊主の衣服を纏い、手には数珠を持った典型的なお坊さんを結月は想像してしまったのだ。

言葉の意味を知り、少し恥ずかしそうに咳き込む結月。

「すまない、人と喋ったことがあまりなくて意味をちゃんと理解していなかった」

反省する結月に対して竹左衛門は笑みを浮かべながら手首を振る。

「気にしなくていい、確かに幾ら年上でも「坊主」は悪いよな、わりいわりい・・・だがよ」

竹左衛門は椅子の上に乗せていた右足を地面に降ろし両足でがっしりと地面につけると一度地面の方に俯き少しだけ顔を上げて結月の方を見た。

「そんな真面目な性格じゃこの仕事の重みに潰されちまうぜ」

その鋭い眼光は結月の目をしっかりと捉えていた。

「この仕事は「矛盾」で溢れている仕事だからよ、真面目な性格だとその矛盾を解決しようと考えこんじまって、その内に深みに入って、そのうち沈んじまうぜ」

矛盾、その言葉を結月は小さく呟いた。

逸脱審問官が単純な仕事ではない事くらい最初から分かっていた。

だが契約の間で鼎が言った通り、今の自分は分かっているようでちゃんと理解していないのだろう。

恐らく竹左衛門の言う「矛盾」ともいつか向き合う事になるのだろう。

そしたら竹左衛門の言う通り、自分はその矛盾に対して立ち止まって考えこんで、深みに入ってしまい、沈んでしまうかもしれない。

「そうだとしても俺はその矛盾に逃げない、絶対に答えを見つける、必ず答えはあるから」

だが逃げていては何も解決しない、解決するにはちゃんと向き合うしかない、それを問い続け戦うしかない。

きっと竹左衛門も数々の矛盾に対して向き合って自分の「答え」を見つけたのだから・・・・。

「真面目だね~本当に真面目だ・・・・・だが悪くない真面目さだ、それだけの根性があればなんとかなる」

最初は茶化しているかのように笑いながらそう言ったが、一息ついて次に出てきた言葉は渋く肝が据わった口調で結月の真面目さを褒めた、そこにいる竹左衛門は結月よりも長く生きてきて、色々な経験を積んでいると思わせる程の貫禄ある人生の先輩たる姿だった、束の間の静寂が流れる。

「おじさんは矛盾とかそんな難しい事は深く考えず割り切って考えていたよ~」

さっきまでの貫禄のある人生の先輩とは打って変わって、いつもの竹左衛門のような酒が入り陽気になったおじさんみたいな感じでそう言った。

(それも竹左衛門のたどり着いた立派な「答え」か・・・・・)

しかし今度は竹左衛門の言葉を鵜呑みにせず、冷静に分析していた。

人間は割り切るという事が口で言えても実際にはそれが中々出来ないものだった。

見た目には出さなくても心の中ではそれを引きずっており、意識していなくても無意識の内に引きずっている事もあるのだ。

竹左衛門は逸脱審問官としてぶつかるだろう矛盾を気楽に話せる程、割り切っており、割り切って考えられる程、決断力のある強靭な心を持っているという事だった。

(俺にはとても出来ない事だ)

子供の頃から悩みがあると結論が出るまで考え込んでしまう結月には出来ない事だった。

「そういえば自己紹介がまだだったな、俺の名前は片倉竹左衛門(かたくらちくさえもん)だ、歳は三十四で逸脱審問官になって四年目だ、そしてここにいるのが俺の相棒の妖猫の揚羽(あげは)だ、よろしくな、若造」

竹左衛門は台の上に乗る美貌溢れる美しき妖猫、揚羽の喉を撫でる。

結月は竹左衛門が逸脱審問官になってまだ四年目である事を知り内心驚いていた。

結月はてっきり竹左衛門を熟練者中の熟練者だと思っていたのだが実際は中堅くらいだったからだ。

「おじさん、逸脱審問官を目指そうと思ったのは三十代間近だったからこの年齢でもまだ中堅なのよ」

結月の心を見透かしたかのようにそう言った竹左衛門。

やはりこの男は逸脱審問官であるだけの技量はあるなと結月は思った。

そう感心しつつも結月も自己紹介をする。

「結月か・・・・・・・最近の若者らしい洒落た名前だな、だが最近の若者にしては肝が据わっている、年齢が十、いや短くても五年くらい鯖を読んでいるのではないかと思うくらいだ」

鯖を読んでいると言われると幾ら男である結月でも不快に感じるものがあった。

「年齢なんて詐称していない」

そう言うと竹左衛門は笑いながら答えた。

「冗談だよ、そんな事言われなくても分かっている、そう疑ってしまうくらい若いのに肝が据わっていると思っただけだ」

そう言う竹左衛門だったが結月は完全に納得した訳ではなかった。

だが、竹左衛門に悪気はないという事は理解したのでこれ以上問い詰める事はしなかった。

陽気な性格故に口が軽く悪気がなくても失礼な事を言ってしまうのだろうと結月はそう思った。

「よし、今日は新しく逸脱審問官になった結月の歓迎会だ、それと一緒に鈴音の嬢ちゃんに部下が出来た事を祝って今から一緒にここで飲むぞ!もちろん御代は俺が払うぞ」

そう言って竹左衛門は自分の隣の席を進める。

結月の肩に乗る明王はもう座る気満々で竹左衛門の台に置いてある鶏肉の甘辛揚げを期待した目で見ている。

「その誘いは嬉しいが今から鈴音と一緒に鍛練の間で修業する予定になっている、それに俺はまだ十九だ、お酒は飲めない」

幻想郷にお酒に関しての規則は明確にないが、人間の里の酒造組合の決まりでは20歳未満の人間にお酒を売ってはならないと決められていた。

「そういう所も真面目だね~、十九なら二十と大して変わらないじゃないか、お前くらいの歳でお酒を飲んでいる若者も結構いる、それに噂ではあの幻想郷の守護者である博麗の巫女も宴の時はお酒を飲んでいると言われているぜ、お前よりも年下であろうあの女だぞ?もう少し気楽に考えたらどうだ?」

そう笑みを浮かべながら問いかける竹左衛門。しかしその言葉に反論したのは鈴音だった。

「気楽に考えたら駄目よ、一応お酒は二十歳からって言われているんだから、ちゃんとそれは守らないといけないわよ、それに霊夢は霊夢よ、結月がそれに習う必要性はないわ」

鈴音にそう言われ不機嫌な顔をする竹左衛門。

「仕方ねえな、店主、炭酸水は仕入れてあるか?」

店主と呼ばれた熟女の魅力が漂う四十代の茶髪の着物の女性は微笑みながら屋台の下から水の様な透明な液体が入った「甘味炭酸水」と書かれた紙が張られた瓶を取り出す。

炭酸水の事は結月も良く知っていた。

人間の里の外れにある綺麗な湧水を水源に作られる飲み物で、湧水を汲み上げて一度ろ過し、特殊な機械でろ過した水に炭酸ガスを圧縮した後、甘味料で甘みをつけた飲料水とされ結月はまだ飲んだ事はないが話によると喉に弾けるような刺激の後に程良い甘さと喉を突き抜けるような爽快感が味わえる今までに飲んだ事のないような飲料水らしい。

炭酸水を作る事の出来る唯一の工場は天道人進堂の管轄であり炭酸水を作るための機械を発案したのは鼎自身だと言うのだから驚愕である。(本当にこの人は何者か分からない)

工場で作られた炭酸水は人間の里に輸送され酒屋や雑貨屋で販売され居酒屋や食事処や甘味処で提供されている。

人間の里ではかなりの人気商品で若者の中ではこれを飲む事が流行らしい。

また人間だけでなく噂では妖怪にも流行の兆しがあるらしく時折人間の里で買っていく姿が目撃されている。

「結月もこれなら飲めるだろ?やろうぜ~歓迎会、まだやってないんだろ?」

笑顔で甘味炭酸水をこちらに向ける竹左衛門、結月はまだ飲んだ事のない甘味炭酸水に興味があったもののだからと言って鍛練を怠るのは良くないと思い首を横に振った。

結月の肩に乗る明王も結月の意志を尊重して謙虚な態度を取っていた。

明王のその姿を見て鈴音の肩に乗る月見ちゃんは少し笑っているように見えた。

「私達は逸脱審問官よ、平常時でも次の逸脱者に備え体を鍛えなければいけないのよ、それに流石に私も昼間からお酒を飲むのはちょっとね・・・・・鍛練が終わっての夜ならいいんだけど」

鈴音も逸脱審問官として自覚はしっかりと持っていた。

鈴音の提案にはあ、とため息をついた竹左衛門。

「しょうがねえな・・・・・・じゃあ鍛練が終わったらここにこいよ、丁度体を動かしてお腹が空いているころだから美味しいもんを腹いっぱい食わせてやるよ、おじさんは夜までここで飲んでいるからな」

そう言って竹左衛門は屋台の方に向いた。

もしかしてこの人、歓迎会とかどうでもよくて単純にお酒を沢山飲める理由が欲しいだけじゃないか?

結月はそう思ったが、とりあえずは悪い人はなさそうだ。

「竹左衛門さんはどんな時でも気さくに話しかけてくれるとても良い人なんだけど、お酒を程々にしてもっと逸脱審問官としての自覚を持ってくれればいいのに・・・・」

鈴音はそう言うが結月には良い所悪い所を含めてあれが竹左衛門という人間なのだろうと理解していた。

「さ、結月早くロッカールームで服を着替えて鍛練の間に行こうか!」

鍛練の間で体を鍛えるためロッカールームに向かおうとした鈴音と結月。

「鈴音、また一つ徳を積んだようですね」

玄関を抜けようとした時、鈴音と結月に向かって声がかけられる。

声は玄関にひっそりと作られた占い場の方からだった。

人間の里にお出掛けするまでは無人だったその場所に男の姿があった。

凛とした顔つきに青色の瞳をしている、色白な肌をしており髪は白髪で肩まで伸びている。

体格は結月と同じか若干高いくらいで日本人らしい体格をしているが服装が奇抜で、まるで平安時代の貴族の様な白色の衣を着ており、白尽くしである、両手首につけられた金の腕輪が唯一白でない装飾品であまりの時代錯誤に見た目は全然日本人に見えない、結月はあまりの特異点の多さに博麗霊夢とはまた違う異様さを感じた。

「命(みこと)・・・・・・相変わらずね」

命と呼ばれた男はフッと微笑み水晶玉を布で磨いていた。

その水晶玉の隣にはまるで目が三つあるかのような、おでこに目の様な模様をした命の守護妖獣であろう妖狐が結月と鈴音の方を見ていた。

「当たり・・・・・でしかたか、いえ、偶然ですよ・・・・・偶然私が予測した道を通っただけですよ」

淡々と抑揚のない声でそう言った命に対して鈴音はただ・・・・・と言葉を続ける。

「私達は徳を積んだつもりはないわ、あれは人間として当然の義務よ、困っている人を助けるのは徳を積むためでなく人間の番人である逸脱審問官の使命よ」

鈴音の心意気を優しそうな眼差しをしながら聞いていた命。

「困った人を放っておけない鈴音らしい考えですね、ですがそれが『徳』なのです、見返りを求めぬ救済、自分のためではなく困っている人のために助ける事こそ、真の徳なのです」

命は鈴音が考えを理解した上で徳の話をしていた。

結月の肩に乗る明王は話の意味が分からず首を傾げている。

結月も鈴音が人(?)助けした事をまだ話してもいないのに良い事をした事を知っているのか疑問を覚えていた。

「ただ助けたのは人間ではなく妖怪みたいですね、さしずめ小さな妖怪が怖い人間に脅されているのを助けたとかそんな所でしょうか」

脅威の的中率に結月は顔には出さなかったが心の中で驚いていた。

まるで自分達が出掛けた後をこっそりつけていたのかと疑う程の命中率だった。

「本当にずば抜けた的中率ね、その通りよ、人間の里で子供の様な小さな妖怪が柄の悪い男に絡まれていたから助けたのよ」

しかし鈴音は驚かず、まるで何事もないように話を続けていた。

結月にとっては驚きの光景でも鈴音にとっては日常的な会話だった。

「妖怪にも大災害を起こせる者から人間にも勝てないような者まで様々いますから、助けた妖怪が弱者か善人なら助けたのが人間でなくてもそれは立派な『徳』ですよ」

流石に弱いか強いかは断定しなかったが、それでも脅威の的中率だった。

台の上にある水晶玉に何か映っているのだろうか?結月がマジマジと水晶玉を見ていると命が結月の方を見る。

「水晶玉はただの飾りですよ、結月さん」

抑揚のない声で呼ばれた結月は顔を上げ命の方を見る。

「水晶玉は純度の高いガラスの球体というだけでそこには何も映りません、ただこれがないと占い場として雰囲気が出ないので飾りとして置いてあるだけです」

水晶玉が飾りである事よりも結月には気になる事があった。

「何故俺の名前を・・・・?」

命とは初対面のはずなのに何故命は自分の事を知っていたのだろう。

「良く知っていますよ、名前は平塚結月、年齢は十九歳、誕生日は十一月十六日、口数は少ないが腕は確か、戦闘は接近戦を比較的好み、どの武器も平均的に使うが刀の扱いに長けている・・・・・」

自分の名前から戦闘傾向まで言い当てられ顔には出さないが心の中では動揺する結月。

(先読みだけでなくまさか心を読む事も出来るのか?)

もしかして本当に心の中を透視でもしているのだろうか?そう疑う結月に対して命は目を瞑り口元に笑みを浮かべる。

「そう、あなたの履歴書に書いてありました」

ガクッとなる結月、真相はあまりにもあっけないものだった。

「すみません、ちょっと驚かせてみたかっただけなんです、実際は心を見透かすなんて出来ませんよ、安心してください」

心が見透かされてない事に安堵はしたが履歴書とは一体何なのか?結月は逸脱審問官になるために訓練施設に入門する時に履歴書は書いたので名前や年齢や生年月日などは確かに書いたが、命の話し方を考えると彼の言う履歴書は明らかに第三者の視点で書かれたものだった。その答えを知っていたのは鈴音だった。

「実はね結月、逸脱審問官のなるための試験を担当した試験官が合格者の情報や試験の時の評価を記載した、評価履歴書という紙があって逸脱審問官なら鼎さんに許可をもらう事でその評価履歴書を閲覧することが出来るんだよ」

なるほど、確かにそれなら命の説明の辻褄が合った。

「ただ、逸脱審問官は全員が全員几帳面な性格ではないので、合格者の評価履歴書を閲覧するのはその合格者の上司になる人か変わり者の私くらいしかいません」

自分で変わり者を自称するのか、と結月は思った。

まあ確かに、こんな悪戯をするために評価履歴書を閲覧したのであれば変わり者かもしれない。

「さて、結月さんの事はもう知っているので私の自己紹介でもしましょうか、私の名前は百道命(ももちみこと)、年齢は21歳で逸脱審問官になって二年目です、鈴音が逸脱審問官になる二か月前に逸脱審問官になりました、そして座っているのが私の相棒である守護妖獣の妖狐の三眼(みつめ)です、趣味は見ての通り分かるのですが占いをしています、結月さんは占いを信じる方ですか?」

結月は未來なんて誰も分からないと考えていたので占いなんてあまり信じていなかったが、命の驚異的な先読み能力を見た後だと命の占いならある程度は信じてもいいかもしれないと思った。

実は後ろをつけられていたという可能性もなくはなかったが鈴音が命の占いを何の疑いもなく信じている事を考えるとそうとは思えなかった。(もしくは鈴音が騙されているのか)

「俺は未來なんてこれから起こる事なんて誰も予測なんて出来ないと思っていたから占いはあまり信じていなかったが、命先輩の占いは良く当たりそうだな」

そう答えると命は口元に軽く笑みを浮かべた。

「お褒めにいただきありがたいですが、私の占いも外れる時は外れますよ、それはもう盛大にね」

気品のある笑みを浮かべながらそういった命に苦笑いを浮かべた鈴音。

「そう言えば天候を占った時、明日の天気は晴れると言っていたのに一日中土砂降りの雨だったりした事もあったね」

確かにそれは盛大な外れ方だった。

「所詮は未来にある無限大にある道の中から、様々な現象の摂理を感じ取って、その情報を元に消去法で最も起こり得る道を見極めているだけなんです、だから少しでも摂理が狂いその道を通らなければ盛大に外れます」

だからこそ、と言葉を続ける命。

「誰にも未來なんて分からないという結月さんの考え方はとても的を射ています、そんな立派な考えを持っているならば私の占いなんて信じない方が良いですよ、良い未来に繋がる道を通れるかどうかは結局の所、自分の意志の強さと運次第ですから」

とても良い言葉なのだが、占いをしている者が本当にそんな事を言っていいのか?

結月の心境は複雑だった。

「そう言えば今からお二人は鍛練の間で鍛えるって話をしていましたね、それなのに足を止めさせてしまってすみませんでした、それでは私はこれで」

そう言って命は水晶玉を磨いたり見つめたりしていた。

(飾り・・・・・・じゃないのか?)

一見すると先程の水晶玉は飾りという発言は誤りなのかと思うが、もしかしたらあれも占い師としての雰囲気を出すための演出なのかもしれないと結月は思った。

「・・・・・・よし!命の自己紹介も済んだし今度こそロッカールームに行こう」

そう言われ結月と鈴音は玄関を後にした。

 

逸脱審問官の正装に着替え鍛練の間に向かう結月と鈴音。

階段を下り鍛練の間に着いた結月と鈴音を向かい入れたのは拳銃よりも一回り大きな銃声だった。

反射的に身構える結月と明王だったが鈴音は特に大きな反応はない。

「緊張しすぎだよ、結月、逸脱審問官の誰かが射撃場で銃の練習をしているだけだよ」

常に臨戦状態の結月に対して鈴音は苦笑しながらそう言った。

月見ちゃんもまた、子供のような反応をする明王をニャアと笑っていた。

「拳銃と比べると随分と大きな銃声だな、小銃か?」

射撃場のある方向を見る結月に鈴音が顎に拳を据えて考察する。

「恐らくね、しかも逸脱審問官の正式装備小銃の音よ、聞き慣れているから一発で分かるわ」

弾だけにね、と呟いた後、鈴音の案内で射撃場へと向かう結月。

そこには射撃台越しに小銃を構え射撃台の向こうにある丸い白黒の的を狙って撃つ蔵人と修治と智子のいつもの三人組の姿と相棒である守護妖獣の三匹の姿があった。

守護妖獣の方は主よりも先に鈴音と結月に気づいたようだ。

動物的勘だろうか?気配を察知するのは人間より上手のようだ。

「威勢よく撃っているわね、三人とも」

鈴音の声に射撃をやめ構えをやめて鈴音と結月の方を見る、蔵人と修治と智子。

「鈴音か・・・・・これもちゃんと練習しないと刀が不向きな逸脱者が現れた時、困るからな、お前も練習か?」

ううん、と首を横に振る鈴音。

「結月に射撃場の説明とついでに正式装備小銃の説明をしようかなと思って」

そうか、と答える蔵人。

「結月説明するよ、ここが拳銃や小銃などの銃器の練習が出来る射撃場だよ、基本はこの射撃台の前に立って現れる白黒の丸い的を狙って撃つための場所なんだけど、的にも様々あって射撃台に設置されたボタンを押す事で、この射撃場の地下にあるカラクリが動いて色んな場所から的が現れたり、的が小さかったり、的が動いたり、撃ってはいけない赤い的が邪魔したりして状況に応じて正確に射撃をする練習が出来るんだよ」

鈴音の話を聞く限りでは物凄い技術力で動いているんだなと思う結月。

しかし、逸脱者は都合良く撃たれるために止まってはくれないので理がかなった実用的な射撃場だった。

「でも弾の都合上、射撃場の練習は何回も出来なくて、一日に15発程度しか配給されないんだ、弾を作るのは機械も使うけど工程の多くは精錬の間の鍛冶職人の手で行われるから、そんなに弾は作れないし、作った弾は逸脱者が複数現れた時の事を備えて大部分は備蓄するんだ、だからそう何発も撃ってもらうと困るからだって」

逸脱審問官にとっては納得が行くまで練習出来ないのは辛い事だろうが、鍛冶職人からしても何発も無駄撃ちされては困るだろう。

(大変なのはお互いさまか・・・・)

訓練施設に通っていた頃、小銃の訓練もしたが教官から「十発中四発的から外した者は罰として腕立て伏せ百回か腹筋百回だ」と言われていたのを思い出す。

恐らくあそこの弾もここで作られていたはずだから、無駄撃ちするなという事だったのだろう。

「そして・・・・・」

鈴音は智子に近づき少しだけ話をすると小銃を借りて結月の元に戻る。

「これが逸脱審問官の正式装備小銃『スナイドル・ライフル銃』よ、ライフルの部分を略してスナイドル銃と呼んでいるわ」

結月にスナイドル銃を見せる鈴音。

ネイビーリボルバーと比べると機関部と銃身など一部の部品以外は木製で作られたかのような小銃だった。

しかし実際は木製なのは見た目だけで中はちゃんと鉄製の部品で構成されている。

「スナイドル銃は訓練施設の通っていた時に使った事がある、試験の時もその小銃での試験だった」

スナイドル銃の事は講習会で勉強していたし、扱った事もあった。

スナイドル銃は英国(現世ではイギリスと呼ばれる国らしい)で軍隊の正式装備であった前装銃「エンフィールド・ライフル銃」の改造計画が持ち上がり米国のヤコブ・スナイダーの案を採用し改造された後装式小銃であり、急な改造の割には高い火力と高い信頼性と弾込めの時間を大幅短縮に成功した幕末の名銃である。

元のエンフィールド銃は前装式・・・・・つまり昔の火縄銃と同じ火薬を銃身に流し込み弾薬を装填し棒で押し固め撃鉄起こし雷管を装填し引鉄を引き撃鉄を倒す事で火薬を引火させ燃焼させる事で弾丸を発砲する銃でかなりの命中率と射的を誇る名銃だった。(実際幕末にやってきた時は日本でも名銃扱いだった)

しかし弾込めが簡単な後装式銃が現れると英国も遅れないよう名銃であり大量にあったエンフィールド銃を後装式へと変える改造を加えられ出来上がったのが「スナイドル銃」である。

弾は火薬と銃弾と雷管が全て金属製の薬莢の中に組み込まれた金属薬莢に変わりもう銃口に火薬や弾を入れなくても薬室に弾を入れて撃鉄を倒すだけで銃弾を発砲する事が出来た。

雷管を薬莢内に組み込んだ事で暴発も減りさらにガス漏れも減りまた金属薬莢は銃弾と火薬と雷管が金属に覆われているため雨に強く天候に左右されず射撃する事が出来た。

しかしこの小銃の最大の特徴は莨嚢(ろくのう)式と呼ばれる遊底の部分が右側に開閉が出来る仕様で遊底が開く様子は煙草入れの莨嚢を彷彿とさせるためそう呼ばれている。

莨嚢式の長所は気密性が高い事の他に開閉が容易で弾を素早く詰める事も射撃した後、残った空薬莢を排出するのが楽だからである。

さらに弾がもし不発だった場合、前装式は火薬と弾を取り除き再装填するのにかなりの時間を要したがこちらは遊底を開き後ろに下げる事で不発弾を排出しそして新しい弾を再装填する事が出来た。

金属薬莢に莨嚢式を兼ね備えたこの銃は元になったエンフィールド銃が一発発砲するまでに二~三発発砲する事が出来た。熟練者なら一分間で十二~十三発も打てるとされる。

短所としては射程が短くなったとか命中率が悪くなったとか汚れやすくなったとか言われるが総合的に見たら性能は良く信頼性も高いため明治時代の陸軍正式装備として採用された。

天道人進堂でもどんな環境でも確実に作動し効果的な外傷が与えられるとして逸脱審問官の正式装備小銃となった。

「結月が訓練施設で使ったのは旧式のスナイドル銃よ、幻想郷で作られた銃じゃなく幕末の頃に使われていた銃を訓練用として使っているのよ、でも逸脱審問官が使うスナイドル銃は精錬の間の鍛冶職人達が培ってきた技術の粋を集めてスナイドル銃の構造を一から再設計して作り上げた改良型のスナイドル銃で本物の問題点だった射程の短さや命中率が改善しているのよ、それに弾にも改良が施されて威力と初速が上がっているんだよ」

確かに鈴音が持つスナイドル銃は訓練施設の時に使っていたスナイドル銃と比べて細部に違いが見られた。

「そうなのか・・・・・・では逸脱審問官の正式装備小銃とされている割にいつも装備していないのは何故だ?」

結月の質問に蔵人が答える。

「刀と小刀の方が対人妖の呪いをしっかりと刻めるのに対して銃弾は刻める呪いが限られる関係で銃弾よりも刀や小刀の方が逸脱者に効果的に外傷を与える事が出来るのもあるし小銃は弾が切れたら無用の長物となる、一方の刀や小刀は折れない限り効果的な外傷を与え続けられる」

それにと言葉を続ける蔵人。

「刀や小刀や拳銃と一緒に持ち運ぶにはかなりの重量で機動性も落ちる、智子がその典型だ、だからこそ彼女は逸脱者に狙われにくい遠距離の攻撃に徹している、だからと言って刀や小刀を装備から外せば逸脱者が接近してきた時、戦う手段を失ってしまう・・・・・・だから小銃は距離をとって戦いたい逸脱者や飛行する逸脱者に対して使われるのが逸脱審問官として常識となっているという事だ」

つまり刀や小刀の方が効果的な外傷を与えやすく、小銃は限定された条件下のみ使われる武器という事だった。

「まあ、持っていくか持っていかないかは個人の自由だから攻撃手段を増やしたいのなら別にどんな逸脱者相手でも持っていけばいい、ただし無くしてくるなよ、精錬の間の銃製造技術は機密となっているからそれを漏らさないようにな、故障したとしても絶対に持ち帰るんだ、いいな?」

そういえば訓練施設に通っていた時、逸脱審問官は人間側にしては高い技術力を保有しているため機密情報は漏らさないようにと散々言われた事を結月は思い出した。

何故かは教えてくれなかったが恐らくは機密情報が漏れた場合、妖怪に支配される事に不満を持つ人間が精度の高い銃を密造して対妖怪武器にしてしまう可能性があるからなのだろう。

つまりそれは人間が妖怪に対して反乱を起こす機運を高めてしまうという事にもなる。

万が一、幻想郷にいる全ての人間がスナイドル銃を使えるようになったとしても恐らくは妖怪の本気の前には数日と持たず壊滅してしまうのは目に見えている。

最も人間がいなくなってしまえば妖怪が困るので全滅させる事はしないがどのみちスナイドル銃だけあっても全ての妖怪を相手にすることは出来ないのだ。

そのため天道人進堂としては人間が妖怪と敵対関係になる事は何が何でも避けたいので機密情報の扱いはとても慎重だった。

だからこそ精錬の間は作業台で遮られていたのだろう、逸脱審問官であっても機密情報を触れないために。

「そういえば結月は試験の時、拳銃と小銃で幾つくらい的に当てられた?」

蔵人は何気なしにそう聞いてきたので結月は思い出す。

「確か・・・・・・拳銃で九発、小銃も九発だった」

試験では弾を拳銃と小銃それぞれ十発ずつもらい、拳銃で七発以上、小銃を八発以上、当てる事が合格ラインとされていた。(ただし総合評価もあるため例え拳銃が七発未満でも小銃が十発当たれたのなら合格できる場合もあり)

「かなり優秀な腕前をしているな・・・・・正直に言えば俺の試験の時よりも当てられている」

修治も自分より成績良いが良い、と驚いていた。

「私は拳銃が七発で小銃は十発全部よ、でも逆に私は接近戦がギリギリ合格ラインだったから結月は近距離も遠距離もいける優秀な逸脱審問官になる素質がありそうね」

智子にそう褒められ少し照れくさそうにする結月。

「だが流石にあいつの成績には勝てないな・・・・・今でも信じられないがな」

あいつ・・・・・智子よりも良い成績を出した人がいるのか?だがそれはつまり拳銃も小銃も全て当てたという事になる。

結月も試験の時は物凄く緊張した中でやったのでいつもと比べて的に当てる事が出来なかった。

あの緊張感の中、全弾命中させられたという事は恐らくその人は卓越した銃の使い手なのだろう。

一体誰なのだろうか?結月は気になった。

「ほ・・・・・ほら、射撃場の説明もスナイドル銃の説明も終わったし早く特訓に行こうよ!じっくり時間をかけて練習がしたいし・・・・・」

鈴音は不自然にこの話をきると手に持っていたスナイドル銃を智子に返した。

「ん、そ・・・・そうか、ちなみに今日は結月と何の練習をするんだ?」

何故か不自然に話をきられたのに追求しない蔵人、結月は不審に感じ首を傾げた。

「今日は結月との連携攻撃も兼ねて模擬地形での練習をしようかなって思っているよ」

連携か・・・・と小さく呟いた後、言葉を続ける蔵人。

「まだ互いに顔を合わせて日も経ってないのにもう連携攻撃の練習か、少し急ぎ足じゃないか?」

蔵人の懸念に首を横に振る鈴音。

「前回の逸脱者の断罪の時、結月の戦う姿を見て、そう遠くないうちに逸脱者を単独で狩れる程の実力を持てるようになると思ったんだ、だから計画を前倒しして今から連携の練習をしようと思って」

何だか物凄く期待されているようで嬉しい反面、その期待を裏切らぬようしっかりと鍛練しようと思った結月。

結月の肩に乗る明王も心なしか自慢げな顔をしていた。

「そうか・・・・・・・頑張れよ、せいぜい結月の足を引っ張らないようにな」

最後の皮肉に鈴音は言い返す。

「そっちこそ、私達の方が逸脱者を断罪するのが上手くなっても言い訳は聞かないからね」

そう言って鈴音は結月を連れて射撃場を後にして模擬地形場に向かった。




第六録読んで頂きありがとうございます。
いかがだったでしょうか?今回は逸脱審問官の正式装備であるスナイドル銃の説明を読者様に分かり易いよう書いたつもりですが本当にこの説明であっているのか不安な思いがあります。
これでも幕末に使われた銃器の事が書かれた本を買ったりネットで調べたりして自分なりにまとめて書いているのですがそれでも自分で手に取って調べた訳でも実際に撃てる訳でもないので不安な思いがあるのです
特に小銃の撃ち方についてはどの資料にも余り書いてない事なのでとても苦労しました。
もしかしたら銃に詳しい人がみたらおかしい部分や間違っている部分があるかもしれません。
もしここ間違っているよ、という個所があれば修正するので宜しくお願い致します。
それでは、今度こそ金曜日に。

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