人妖狩り 幻想郷逸脱審問官録   作:レア・ラスベガス

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こんばんは、レア・ラスベガスです。
先日、第三録の後書きで英語や和製英語が含まれている事を話しましたがこれを読んでくれる読者様に失礼だと思い第一録から第三録までの英語や和製英語を含め誤字脱字や拙い表現方法を修正しました。
本来なら投稿する前に修正するべきでしたが考えがそこまで至らず未熟な作品を出してしまった事、投稿した後に大幅な修正をした事をこの場で謝ります。
本当に申し訳ありませんでした。
これからは完成し一度目を通した作品にも投稿する前にもう一度、目を通すよう心掛けていきます。
自分自身、この小説の出来に関しては自信を持っていたので大丈夫だろうと高を括っておりました。
ですがこのような事態を招いてしまった事は自分の詰めの甘さと考えの浅はかさが原因であり、この小説を期待して読んでくれていた読者様の期待を裏切ってしまった事に対して本当に申し訳ない気持ちで一杯です。
それでも尚、続きを読んでくれるのであればこれ程嬉しい事はありません。
それでは第四録更新です。


第四録 逸脱審問官の始まりと人妖のなり損ない 四

幻想郷には人間の里以外にも人間が集まって暮らす集落や村がある。

人間の里は暮らしている人間の数がとても多く、物資も大量に必要なため一々人間の里から出て物資を取りに行くよりもこうして集落や村から物資を安定的に供給し代わりに得たお金で集落や村を潤していく方が効率良かったからである。

また、中には人間の里に張られた結界が信じられないという人間も集落や村に身を潜めていた。

白露集落は生い茂る杉木に囲まれた静かな集落でありここで伐採される木を加工して人間の里で販売する事で生業としている小さな集落である、集落人口は三十二人程度である。

到着してすぐに鈴音と結月は集落の異変に気付いた。

妙に騒がしいのだ、集落の人々が外に集まっている。

鈴音は月見ちゃんから軽快に飛び降りるが、結月は初めての妖獣乗りに方向感覚が狂ったのかゆっくり降りようとするも体がふらつき地面に手を付く。

明王はそんな結月を気遣う。

「大丈夫?結月、もしかして酔っている?」

心配そうに気遣う鈴音に対して結月は首を横に振った。

「大丈夫だ、練習はしていたがこれ程速くて揺れるとは思っていなかった」

方向感覚が元に戻り立ち上がる結月。

訓練施設では木製の守護妖獣に模した乗馬装置(馬ではないが)で模擬体験を何度も経験しており本番はこれより速くて揺れると想定はしていたのだが想定以上だった。

結月は自分が情けない上に自分の想定が甘かった事を反省した。

「安心して、逸脱審問官になった人達は誰もが通る道だから、慣れれば結構爽快だよ」

話からするとどうやら乗馬装置では性能の問題でこの速度と揺れを再現しきれないらしい。

早くこの速度と揺れに慣れようと思った結月だった。

「と、こんな事をしている場合じゃない、集落の人から話を聞かないと」

結月と鈴音は状況を把握するため守護妖獣を元の手乗り程度の大きさに戻し事情聴取を始めた。

 

「つまりここに住んでいた己岩為吉(おのいわためきち)さんの家から得体の知れない化け物が壁を壊して現れて森の中に入っていたと・・・・・そう言う事ですね?」

はい、と目撃者の頭巾を被った初老のおじさんがそう答えた。

「為吉と呼ばれる男は集落の人達との関わりを避けてひっそりと暮らしていたようだ、家からあまり出ず、集落の人達も為吉がどういう生活をしていたのか何をしていたのか知らなかったようだ」

鈴音と結月の前には半壊した住居の前に立っていた。

先程の人だかりは住居が半壊した音に驚いた集落の人達が集まっていたのだ。

「皆さんはこれ以上近づかないようにしてください、後落ちている物も拾わないでください」

鈴音は集落の人達にそう声をかける、為吉が逸脱した方法で人妖になったのならこの住居の中に人間から妖怪になる方法が書かれた書物や道具があると思われるので、それを悪意のある人間が拾って自分や他の人を人妖化させる危険性あったからだ。

幻想郷に暮らす者は誰しもが妖怪に怯えており、人間が見ている限りでは幸せそうに暮らしている妖怪に憧れているのだ、どんな者でも油断は出来ない。

半壊した住居を調べる結月、ふと木材の破片の下に古ぼけた本を見つける。

「秘術・人外転生目録」

拾い上げた本には達筆でそう書かれていた、開いてみるとそこには人間から妖怪になる方法が大まかに書かれていた。

食事を絶ち、水だけで十日間過ごし体の不純物を排出した後、妖力を持つ動物の新鮮な血で体中に変質の呪詛を書き込み、呪いを唱え大気中にある妖力を掻き集め吸い込み妖力を魂に送り込む事で体を変化させ妖怪になる。確かにそう書かれていた。

「鈴音先輩、見つけた、恐らくこれだ」

鈴音が結月に近寄るに本を覗き込む。

「恐らくこれね、それ程詳しくは書いてないけどとても危険な書物ね」

鈴音はそれを受け取ると携帯火打石で火を付けて投げ捨てる。

逸脱審問官の規定では人妖になる方法が書かれた書物はどんな貴重な書物であれ燃やしてしまうよう教えられている。

これを持ち帰り研究するという手もなくはなかったが万が一、書物を悪意のある職員が使用したりもしくはなくしたりした場合、取り返しのつかない可能性があるため燃やしてしまった方が無難なのだ。

それに幻想郷では人妖になる事が大罪ならその方法が書かれた本はその大罪を助長する存在のため燃やしても罪にはならないという認識だった。

「後は件頭に任せましょう、この家を燃やしてその他の資料も使用した道具も使えなくしちゃいましょう」

物凄い事を口にしているようだが逸脱審問官にとってこれは何ら可笑しくない規定行動だった。

逸脱者が使用したであろう人妖になるための書物や道具を住居もろとも全てを焼き払う事で人妖になるための方法を消し次の逸脱者の出現を未然に防ぐためだ。

一部の魔術師や仙人からは勿体無いという声もあるが人間と言う者は心が弱いのであると使ってしまう、どんなに貴重であっても燃やしてしまった方が良いのだ。

「さてと・・・・・」

鈴音瓦礫の下から男性の衣服を見つけ月見ちゃんに近づける。

「月見ちゃん、匂いで逸脱者の場所分かる?」

クンクンと匂いを嗅ぐ月見ちゃん、そして一通り匂いを理解すると鈴音の肩から飛び降りて今度は平均的な猫の大きさになって地面の匂いを嗅ぎ始める。

ニャ~ン!と鳴いた月見ちゃん、森の方に向かって走り始めた。

「どうやら、匂いがまだ残っているようだ」

守護妖獣は人妖の匂いにとても敏感で逸脱者に僅かに残る人間の匂いを嗅ぎ取り追いかける事が出来るのだ。

結月と鈴音は逸脱者の匂いを追う月見ちゃんの後を追っかけた。

 

生い茂る杉木の森の奥へと進んでいく結月と鈴音。

この辺は集落の人達の整備が入ってないのか無造作に杉木が生えており薄暗かった、辺りに人気はなく妖精や妖怪の姿もない、妖怪は逸脱審問官にとっても相手にしたくない存在なのでいない方が良かった。

しばらく匂いを追って走っていた月見ちゃんが突然立ち止まる。

シャー!と威嚇するような声を出して巨大化する、すると結月の肩に乗っていた明王も飛び降りて巨大化した。

「結月、あれ・・・・・」

鈴音が見つめる先、結月が見るとそこには得体の知れない化け物の姿があった。

巨大な赤黒い肉の塊が蠢いており、その赤黒い肉の塊から人間の部位らしきものが何の関連性もなく生えており、肉の塊の下部には手と足が合わせて六本ずつ乱雑に生えていて、それで蜘蛛のように歩いていた。

その赤黒い肉の塊はしきりに呻いておりその声は後悔と悲しみの念で溢れていた。

あれが逸脱者、結月は初めて見る逸脱者の姿に心拍数が上がるのを感じずにはいられなかった、とてもあれが人間だったとは思えないからだ。

それと同時になるほど、集落の人達が得体の知れない化け物と口にした理由が分かった、と結月は思った、あの姿では言葉では表し辛いだろう。

「逸脱者だ・・・・・・ここで仕留める」

とはいえ仕留めるのは鈴音だが、結月にもそれくらいの気迫がある事は示す。

このまま、奇襲を仕掛けても良かったがまずは話しかける事にした鈴音。

「逸脱者に話が通じるかどうか試してもし話が出来るのであれば相手の腹を探ろう、性格さえわかれば戦いやすくなるはずだよ」

話を聞いて見逃すつもりはない、相手の素性を理解する事は奇襲よりも理があった。

「待ちなさい!逸脱者!」

鈴音の言葉に立ち止まりこちらの方に向く逸脱者。

「ぬう!貴様らは・・・・・・逸脱審問官か!?」

幻想郷に置いて逸脱審問官は既に結構知られた存在だった。

逸脱者になろうとしているものなら尚更である。

「幻想郷の秩序を乱し人間の誇りと尊厳を踏みにじる逸脱者よ、その大罪、命を持って償ってもらうわ!」

鈴音がそう宣言するのに対し逸脱者はしがれた声で笑う。

「何が人間の誇りだ尊厳だ、人間なんぞ常に妖怪に怯えて暮らさなければならない惨めな存在ではないか、何故わざわざそんな人間でいる必要がある?妖怪の方が断然いいではないか」

逸脱者の言い分を鼻で笑う鈴音。

「人間に天敵がいないのが普通だと思っているの?兎や鼠を見なさいよ、彼らは狐や狼に怯えながらも必死に生きているじゃない?危険を冒して餌を探して大地を駆けて伴侶を見つけて子孫を残す、とても素晴らしい生活が送れるじゃない、人間も良く似ているわ、幻想郷でも人間は人間らしく生きる事が出来るのよ」

そう言い放つ鈴音に結月は素直にカッコいいと思った。

「例えそうだとしても寿命は遥かに短くひ弱な存在には変わらない、妖怪になれば寿命は延びて力を手にいれる事が出来るではないか、何故人間に拘る」

そんな言葉すら鈴音には通用しない、さらに反論する。

「馬鹿ね、人間は寿命や力で語れる物じゃないの、自分がこの幻想郷で何をしてきたか、その短い命でどんな生き方をしたか、胸を張って言える人生にこそ意味があるの、ただ意味もなく長生きしても力があっても幸せとは限らないわよ」

それにと言葉を続ける鈴音。

「それにどうやらあなたは望んだ妖怪には上手くなれなかったようね」

くっ!と痛い所を突かれ苦悶の表情(恐らく)を浮かべる逸脱者。

「人間が妖怪になり損ねた不完全態である未熟種、主に人妖になるための儀式の手順が抜けていたり人妖になるための魔法道具の使い方を誤ったりするとなってしまう妖怪のなりそこない、あなたが参考にしたであろうあの書物には人妖になるための方法が大まかにしか書かれてなかった、恐らくはあなたなりに調べて儀式をしたみたいだけどどうやら失敗したようね、そんな詰めの甘さでは妖怪になったとしても底辺確定よ、妖怪社会は厳しいわよ、せいぜいあなたは本物の妖怪に出会わぬようひっそりと暮らすしかないわ、それがあなたの望んだ自由かしら?」

かなり強気に攻める鈴音に逸脱者は業を煮やしているようだった。

「やはりあの書物では無理があったか・・・・・・おのれ、逸脱審問官・・・・・・・・言わせておけば」

完全なる逆恨みである、自分のせいなのにそれを指摘されて怒っているのだ。

「最もあなたはここで私達に倒されて幻想郷の大罪人として地獄に落ちる事になるけどね、最後に何か言っておくことはあるかしら?まあ、聞いたとしても覚えるつもりもないけど」

鈴音の渾身の煽りに完全に堪忍袋の緒が切れた逸脱者。

「っ!!・・・・・・・貴様らなんぞに殺されてたまるかぁ!むしろ貴様らを殺してくれる!」

肉の塊が裂け鋭利な牙が並ぶ口が現れたかと思うとこちらに向かって突撃してきた。

6本の手足で粉塵をあげて突進してきた逸脱者を鈴音と結月は左右に別れ避けた。

「結月、こいつは私に任せて、あなたは言われた通り援護に徹底して」

了解、と返事はしたもののどう援護すればいいのか、下手に援護すれば鈴音の足を引っ張りかねない。

(ここは鈴音の様子を見るか)

鈴音の戦い方を観察して学ぶ事も生き残るための術である、結月はそう思い邪魔にならぬよう一歩離れた所から様子を伺う。

「行くよ!月見ちゃん!」

その掛け声と共に鞘から刀を引き抜いた鈴音は月見ちゃんと共に逸脱者に向かって走り始め逸脱者の側面に鈴音は刃を月見ちゃんは鋭い爪を振り下ろした。

肉の塊は大きく引き裂かれ血が飛び散る、逸脱者がこちらに反撃する前に刀で肉の塊を横に切り裂き月見ちゃんはもう一度引っ掻く。

攻撃を受け鈴音の方を向いた逸脱者、口をパックリと開いて噛み付こうとするが鈴音は既にその動きを読んでいて月見ちゃんと左右に分かれて避けた。

そして攻撃の一瞬の隙を突いて今度は刀を構え突進し肉の塊に浮き出る目を突き刺した。

月見ちゃんも肉の塊に爪を引っ掻け、鋭い牙で噛み付くと引き千切った。

引き千切った肉と共に小腸らしき臓器を引きずり出す。

痛みに悶える逸脱者、しかしここで思いもよらない攻撃を仕掛ける。

鈴音と目の前にある肉の塊の何か黒い物質が現れる、危険を感じて刀を抜くと同時に体を逸らす。

その瞬間、鋭く尖った黒い針のような物が飛び出して来て数秒前鈴音の顔があった場所まで伸びた。

「防御触針ね、できそこないでもこれは出来るようね」

体の一部の細胞を硬化させ殺傷能力のある針状の物質を体から出す、近づいてきた敵を傷つける技だ、多くの人妖がこれやこれに似たような技を使えるため鈴音は経験済みだった。

一方の月見ちゃんの方にも防御針が飛び出していたが既にそこに月見ちゃんの姿はなく地面に着地して引き千切った逸脱者の肉をムシャムシャと食べていた。

守護妖獣は逸脱者の肉を食べる事で逸脱者に含まれる妖力を摂取する事が出来るのだ。

怪我を追っている場合妖力は回復に回され、そうでない場合は体内で蓄積される。

鈴音は逸脱者から距離を取り逸脱者を挑発する。

「その程度なの?やっぱりなり損ないの実力何てそんなもんだよね」

その言葉が挑発だと理解せず鈴音の方を向く逸脱者。

そして大きな口から茶色く濁った液体を吐き出した。

鈴音はそれを軽く後ろに跳躍してよけると茶色く濁った液体は地面に落ちるとその落ちた場所にあった石ころや草が溶けだし物の数秒で形がなくなる、どうやら強力な消化液のようだ、当たったら一溜まりもない。

逸脱者はその消化液を次々と鈴音に向けて吐き出すも鈴音は次々と避けていく。

「ほっ!よっ!とっ!」

逸脱者の攻撃を予測しているのか余裕を持って避けていく。

手玉に取られ冷静さを失う逸脱者、口の奥にある喉にこれでもかと消化液を貯め込んでいるとその喉に向かって何かが走り去った。

それは月見ちゃんであった、通り過ぎた瞬間、喉がパックリと引き裂かれ消化液が血と一緒に漏れ出した。

「これで消化液攻撃は出来ないわね」

鈴音が気を引いている間に月見ちゃんは食事を終えこちらへの注意が散漫になっている事を理解して絶好の攻撃の好機を伺っていたのだ。

まさに息の合った仲間だからこそ出来る芸当だった。

喉を引き裂かれ逸脱者の怒りの矛先が月見ちゃんの方を向く。

「が・・・・があ・・・・が」

喉を引き裂かれ上手く喋る事が出来ないみたいだが、殺意の言葉を口にしているのだろう。

肉の塊から大きな鎌のような部位が左右に現れその鎌のような物を月見ちゃんに向かって振り落とした。

しかし月見ちゃんは人工と言えど立派な妖怪、大振りの鎌の攻撃など人間より鋭い動物的洞察力と身体能力で難なく避けた。

逸脱者はこれでもかと鎌を振り回すが月見ちゃんは逸脱者を焦らすようにわざと擦れ擦れで避ける、その顔は「当てられないの?」と言っているかのようだ。

その焦らしに逸脱者は両鎌をあげ渾身の力で振り落とそうとする。

その瞬間だった、森の中に銃声が響いたのは。

放ったのは鈴音、彼女の右手にはネイビーリボルバーが握られており逸脱者が月見ちゃんに気を取られている間に場所を移動し離れた所から発砲したのだ。

放たれた弾丸は逸脱者の後方に命中し血をまき散らす。

逸脱者は痛みに悶えながらも両鎌を渾身の力で振り落とした。

しかし月見ちゃんはこれを垂直に跳躍し翼を広げて空を舞った。

守護妖獣の背中の翼はまさに空を飛ぶために存在する。

しかし妖怪のように自由に空が飛べるわけでもなく空を飛行できるのは短い時間だけだ。

(鼎曰く、守護妖獣の体に対して翼が小さいらしい)

代わりに彼等には空を飛ぶことが出来る妖怪にはない地上での驚異的な身体能力を備えており、歩き慣れていない妖怪と比べると地上戦は守護妖獣の方に理があった。

月見ちゃんを取りのがした事で逸脱者の標的が離れた所から銃撃を行う鈴音に向く。

鈴音に向かって突進する逸脱者、鈴音は後退しつつもネイビーリボルバーの撃鉄を起こし引鉄を引く。

発砲音と共に銃身から放たれた弾丸は的確に肉の塊に浮き出る目や臓器を撃ち抜く、威力は中々のようで命中と共に血しぶきが広く飛び散る。

数発打ち込み、逸脱者との距離が短くなると鈴音は本格的に後退する。

追いかける逸脱者、背を向けて走る鈴音、鈴音の前には大きな杉木がそびえたつ。

逸脱者が大きな口を開け鈴音との距離が3mとなく大きな杉木が目の前にまで迫った時。

「はあああっ!」

鈴音は走ってきた勢いそのまま垂直の杉の木を足で登ると杉木を強く蹴って後ろに空中で反り返る。

逸脱者はそのまま大きな杉木に頭をぶつけ失神していた。

「よっと!」

華麗な宙返りを決めた後地面に着地した鈴音。そこへ月見ちゃんがやってくる。

「妖力は十分溜まってみたいね」

守護妖獣は妖力が一定量溜まると目が光って見えるようになる。

逸脱審問官はそれを見て守護妖獣の妖力の有無を判断し戦術を組み立てるのだ。

「よし!月見ちゃん!強力な一発をお見舞いしてやろう!」

その命令と共に月見ちゃんは地面に爪を立てて目を見開いて翼を広げて口を大きく開くと

月見ちゃんの口の前に小さなつむじ風のような物が現れ周囲の空気を巻き込んでいく。

つむじ風は風を巻き上げどんどん大きくなると形を変え球体状になった。

そして月見ちゃんが口を閉じると肥大化した風の集合体が圧縮され三十cm程度の球体になった、風が集まって出来たその球体は凄まじい風の音が響き砂埃を巻き上げていた。

「必殺!風圧弾!」

鈴音がそう言った時、月見ちゃんは再び口を開き咆哮をあげた。

「ガラララッ!!」

まるで虎の様な野太い声と共に圧縮された風が失神している逸脱者に向かって飛んでいく

物凄い勢いそのままに圧縮された風が命中すると圧縮された風が爆発する。

その威力は絶大で圧縮された風が解き放たれ音速の疾風が体を切り刻み逸脱者の体を宙に浮かし地面に叩きつけた。

ドシャンッ!と大きな音をたてて地面が少し揺れた後、仰向けになった逸脱者はピクリとも動かなくなる。

よし!と顔の前で拳を握る鈴音、とりあえず一段落したようなので結月が鈴音の元に近づく。

「あ、結月どうだった私の腕前は?」

先輩だからと少しは厳しい目で観察していた結月だが素直に感心していた。

「流石鈴音先輩だ、的確な攻撃と守護妖獣との巧みな連携、やはり熟練者は違う、勉強になる」

褒められて嬉しそうにフフンと自慢げに笑う鈴音。

「さて、本当に息の根が止まったのか確認してくるね」

鈴音はそう言って小刀を構える。

「鈴音先輩、気をつけろ、やられた振りをしてこちらの油断を誘っている可能性もある」

結月にそう指摘され一度頬を叩き気合を入れる鈴音。

「うん、大丈夫、ちゃんと分かっているから」

気合いが入った顔つきでそう言った鈴音、月見ちゃんと共にゆっくりと仰向けに倒れる逸脱者に近づく。

一歩また一歩と慎重に近づく、今の所動きはない。

やはりもう息の根が止まっているのか、そう結月が思ったその時。

彼は動かぬ逸脱者から一瞬の刹那を感じ取った。

「鈴音!何か来るぞ!」

え?と口にした鈴音、その瞬間鈴音の手足に何かが絡みつく。

それは地面から飛び出すように現れて赤黒い触手のようなものだった。

「きゃっ!」

月見ちゃんが助けようとすると月見ちゃんも地面から現れた触手に体の自由を奪われる。

「ぐへ・・・・ぐへええ・・・・・」

何を言っているか分からないが恐らくは嘲笑っているのだろう。

仰向けになった体を何とか元に戻すも既に生えていた手足を先程の風圧弾で失い歩行能力はない、その代わり肉の塊からは触手のようなものが幾つも出ており、恐らくはあれが逸脱者の切り札なのだろう。

身動きを取れない鈴音は触手によって体を宙に持っていかれる。

抵抗しようも既に手足と腰回りを掴まれ身動きが取れない、それは月見ちゃんも同じだった。

すると逸脱者の赤黒い肉の塊から先端が鋭利に尖った槍の様な触手が現れる。

「!?」

鈴音がそれを見て表情がさらに険しくなる。

その槍の様な触手は鈴音に狙いをつけると勢いよく飛び出した。

真っ直ぐ早い速度で鈴音に向かって飛んでくる槍の様な触手、万事休すかと思われた。

一筋の鈍い光が飛んでくるまでは・・・・・・。

ザシュ、槍の様な触手の柔らかい部分に刺さった一筋の光の正体は小刀の刃だった。

その槍の様な触手は勢いよく飛んできた小刀に押されるように地面に叩きつけられ小刀が地面に刺さった事で動けなくなった。

「!?結月!」

小刀が飛んできた方を見るとそこには鈴音に向かって走る結月の姿があった。

「はあっ!」

結月は鞘から刀を引き抜くと鈴音に向かって跳躍した。

そして無駄のない剣術で鈴音に巻き付いた触手を斬り捨てる。

地面に着地する結月と鈴音、そして結月は再び跳躍し今度は月見ちゃんの触手を斬り捨てて月見ちゃんを解放すると月見ちゃんと共に着地する。

「ありがとう結月・・・・・・恥ずかしい所見せちゃったね」

そう感謝する鈴音に結月は頷いた。

「鈴音先輩、今の不意打ちを避けるのは難しい、気にする事でない」

そう言って結月は槍の様な触手の先端を刀で斬り落としてから小刀を回収する。

「うん、そうだよね・・・・・それにしても些か厄介だよ、触手が使える以上接近戦は危険だね、と言っても距離を取って攻撃できる武器は今持っているのだとこれだけだし・・・・・」

そう言って鈴音はネイビーリボルバーを手に持つ。

「そうだな・・・・・でも威力はあってもこれであの逸脱者に致命傷を与えるのは難しそうだ」

至近距離ならまだしも距離が離れているので正確に当てられるかどうかもあるし離れている分威力も落ちるだろう。

「鈴音先輩、俺に良い案がある、聞いてくれるか?」

しかしどうやら結月には妙案があるようだ。

「良い案があるの?せっかくだから聞かせてよ、どうすればいいの?」

鈴音はどうやら乗る気なようだ、結月は頷いて鈴音に作戦を伝えた。

「成程・・・・・分かった、やってみよう!」

互いに頷き結月と鈴音は逸脱者の方を見る。

そして結月はネイビーリボルバーを手に持って構える、親指で撃鉄を起こすと弾倉が周り、弾丸が装填される、そして人差し指で引鉄を引くと撃鉄が倒れその衝撃で雷管を起爆させ黒色火薬に引火させて燃焼、その衝撃で弾丸を放つ。

弾丸が逸脱者の体に命中したかと思うとすかさず鈴音もネイビーリボルバーの撃鉄を起こし引鉄を引いた。

交互に撃ちだされる弾丸が次々と逸脱者に命中し逸脱者を苛つかせる。

「ぎ・・・・ぎえええええあああ!!」

距離をとって攻撃を仕掛けてくる逸脱審問官に痺れをきらし逸脱者は触手を伸ばしてきた。

「明王、出来る限り引き付けろ」

こちらに向かって伸びてくる触手から逃げるように結月と鈴音と相棒の守護妖獣がそれぞれ散開し走り出す、触手もそれを追いかけるように別れ伸びていく。

触手の速度は速く少しでも手間取ったら追いつかれそうだった。

ただでさえ整備されていない杉木の森だ、足場はそれほど良くはない。

守護妖獣は持ち前の動物的身体能力で触手を引き付けながら丁度良い距離をとっていた。

一方の鈴音と結月は意識を集中させ足場に足を取られぬよう森を駆け抜ける。

「あっ!」

途中鈴音が根っこに足を取られ倒れる。

触手は足に絡みつくが鈴音はすぐに後ろに反り返りすぐに小刀で触手を切り捨て再び立ち上がり走り始める。

結月は跳躍し木を蹴って飛びジグザグに走る事で触手を惑わせつつ触手との距離を保つ。

「ぐへ・・・・・ぐへへへ・・・・」

逸脱者は逸脱審問官が攻撃に転じられず逃げ惑う姿を笑っていた。

自身の体がどうなっているかも知らずに。

「頃合いだな」

結月は触手を引き付けたまま逸脱者の方に向かって駆け出した。

「ぐへ・・・・・へへ・・・・へ?」

逸脱者は正面から向かってくる結月に触手を出して挟み撃ちにしようとするが、ここで自身の体の異変に気づく。

触手が出ないのだ、伸ばそうとしても出ない。

「どうやら、触手の無限に出せる訳ではなさそうだな」

結月の目の前にいる3mはあったであろう逸脱者の巨大な肉の塊は1m程にまで縮んでいた。

結月は見抜いていた、先程触手が鈴音と月見ちゃんを捉えた時、体が少し縮んだのを見て結月は細胞を変化させて触手を作っているのではないかと仮定した。

そしてそれは事実だと証明された。

「明王、お前に俺の命力を注ぐぞ」

其の言葉と共に双血の刻印に刻まれた呪いの力を使い明王に流れる血と自分の血を同調させる。

ドグンッ!と大きく心臓が鼓動する。

すると結月が左手に握られた刀の鍔から真っ赤に燃える炎が噴き出し刃に纏わりついた。

「必殺、灼熱刀」

触手も使えず戦う手段を失った逸脱者に結月は灼熱の炎を纏った刀を構えて接近する。

「はああっ!!」

結月は刃で肉の塊を横に切るとそのまま駆け抜ける、刃は逸脱者の体を横に斬り裂き続け

最後は体を一回転する程の勢いで刃を斬り抜けた。

束の間の静寂、結月に斬られた傷から炎が噴き出し逸脱者の体を包む。

「ぐえああああああああっっ!!!!」

逸脱者の断末魔が森の中響いたかと思うとそのままぐったりと倒れ息を引き取った。

炎は伸ばしていた触手に燃え移り瞬く間に灰に変わる。

逸脱者の肉の塊は炎に焼かれ溶けていた、その炎はまるで不浄な存在を焼き払う聖なる不動明王尊の炎のように見えた。

「はあ・・・・・はあ・・・・」

結月は刀に付いた血と火を振り払うと鞘に納める。

そこへ鈴音と守護妖獣が駆け寄る。

「やったね!結月!初めてなのに逸脱者を仕留めるなんて凄いよ!」

そう褒めると結月は何処か嬉しそうにしつつも謙虚な態度をとる。

「いや・・・・・・それ程でもない、殆ど鈴音先輩が大きな損傷を与えて俺は止めを刺しただけだ」

そう謙虚に対応しようとするも嬉しさが隠しきれていない。

(無愛想なのかなって思っていたけど根は意外と素直なのかも)

鈴音は心の中でそう思った。

とはいえ止めを刺しただけと謙虚な結月だが鈴音は結月の優れた素質を見抜いていた。

ピクリとも動かない逸脱者の殺気をいち早く察知し自分に警告した事、自分に向かって槍の様な触手が伸びた時小刀を上手く命中させた事、僅かな変化に気づける驚異的な観察能力を持ちそしてその観察から元に仮定を導き作戦をくみ上げた事、そして的確に逸脱者に止めの一撃を刺した事。

鈴音は最初結月に会った時、見た感じ強そうだなと思っていたが見た目通りの強さを持っている事にとても頼もしい反面、少し先輩として不安もあった。

(何か私よりも戦闘能力ありそう・・・・・このままだと少し不味いかも)

今はまだ、戦闘経験の差があるが、なくなってきたら自分を追い抜いてしまうのだろうか?

それは逸脱審問官としては嬉しい事だが先輩としては少し不安な事だった。

「鈴音先輩の戦いを見て俺はまだまだだと思った、一生懸命模擬戦闘もしたから大丈夫だと思っていた、でも違った、模擬戦は所詮模擬戦だった、いつか鈴音先輩と上手く連携して戦えるように努力する、ご指導のほどよろしく頼む」

先輩として慕われているのは嬉しい事だが一体これがいつまで続くか鈴音は複雑な気持ちだった。

(まあ、抜かされてもそれはそれでいいんだけどね)

教え子が出来自分が上司になった事が嬉しい鈴音だったが別にその関係にそこまで拘る性格でもなかった。

「うん、これから一緒に頑張ろうね!私も精一杯教えていくからさ」

そう言うと互いに笑い合った。(結月は少し口元に笑みを浮かべる程度だったが)

そんな時だった。

「どうやら、もう終わっているみたいだぜ」

何処からともなく若い少女の声が聞こえる、辺りを見回すが自分たち以外人間の姿は見えない。

おかしい、人の気配など感じられない、ましてや妖怪の気配は全くない。

「ええそのようね、どうやら先を越されたみたいね」

今度は別の若い少女の声が聞こえた、その声に鈴音が反応する。

「結月、上だよ」

鈴音は空を見上げていたので結月も空を見上げる。

そこには宙に浮く二人の少女の姿があった。

「よう、逸脱審問官、こんな場所まで人妖狩りに来てわざわざご苦労様だな」

宙に浮いていた二人の少女は大きな螺旋状を描きながら結月たちの前に降り立った。

先程話しかけてきた方の少女は白と黒の二色を基調とした魔女の様な服装をしており幻想郷では珍しくもないが人間としては珍しい金髪で髪の長さは肩から少しはみ出すほどで頭にはこれまた魔女の様な黒い帽子を被っていた。

歳は恐らく十代後半、結月は自分と近い歳なのではないかと思った。口元には笑みを浮かべており手には右手には箒を握りしめていた。

そしてその隣にいる少女は先程の少女同様、肩を少しはみ出すほどの綺麗な黒髪をしており、深く透き通った眼をしておりこちらの考えを見透かしされているような感じがした。

脇の開いた巫女服を着て、頭には大きなリボンを着けていた。

歳は恐らく先程の少女と同じ十代後半、感情はちゃんとあるようだが表情には豊かと呼べるほどではない、右手には大幣(幻想郷ではお祓い棒と呼ばれている)を持ち左手には御札を持っていた。

同じ人間のはずなのに、何故か彼女だけ別の次元にいるような感じがした。

結月は金髪の魔女の様な少女は恐らくは初対面であるが、その隣にいる黒髪の巫女の様な少女は博麗霊夢である事を理解した。

「確かあなたは・・・・・・霧雨魔理沙だったよね?」

どうやら鈴音は魔理沙の事を知っているようだ、結月は魔理沙と呼ばれた少女を何処かで見た事がある様な気がしていたが思い出せない。

「お、覚えていてくれて光栄の極みだな、私はお前の名前を忘れてしまったけど」

ガクッとなった鈴音。

「私は飯島鈴音だよ、名前聞いても思い出せない?」

その名前を聞くと魔理沙はああ、と口にした。

「そうだった、鈴音だったな、最近全然会ってなかったから忘れていたぜ・・・・・所でお前の隣にいる奴は恐らく初めて見る顔だな、それとも鈴音同様忘れてしまったのか」

首を横に振る鈴音。

「ううん、この子は今日逸脱審問官になったばかりで、私の教え子なの、平塚結月って言うんだ」

鈴音に紹介されて自己紹介をする結月。

「平塚結月だ、年齢は19、鈴音先輩が言った通り今日逸脱審問官になったばかりだ、そして俺の相棒の妖狐の明王だ」

結月は大きな明王の背中を叩く、魔理沙は驚いた表情を浮かべていた。

「お前に教え子が!?そうかお前にも教え子が・・・・・それにしても大変な上司の部下になったものだな・・・・・結月さんとやら」

結月はその言葉に何処か聞き覚えを感じた、そして蔵人が同じような事を言っていた事を思い出す。

(鈴音はそんなにも頼りにされてないのか)

にわかには信じられない結月、先程の戦いを見る限りでは十分強い方なのだが・・・・・。

「あっ!魔理沙もそう言うんだ!酷いよ!みんなして!」

そして鈴音はあの時と同じことを言った、確かに仲間だけでなく知りあい(恐らく)からもそう言われては鈴音の気持ちにも理解できる、しかし怒る鈴音を無視して魔理沙は結月に話を続ける。

「自己紹介が遅れたな、私の名前は霧雨魔理沙、魔法の森で魔法関係の何でも屋をやっているんだ、賭け事の予測から妖怪退治まで何でも引き受けるぜ、あっ!でも秘薬の調合とかは勘弁な!そういうのは苦手なんだ、よろしくな結月」

魔理沙が笑顔でそう自己紹介した。

「何でも屋って言っているけど魔法の森が人を受け付けない程、鬱蒼としているしその上魔理沙自身家を留守にしがちだから実際は泥棒家業の方が本業だけどね」

淡々とそういった霊夢にガクッとなる魔理沙。

「酷いぜ!霊夢その言葉は、仕事をするつもりがない訳じゃない、頼みに来る人がいないだけだ」

やはりこの巫女は博麗霊夢か、そう思った結月。

霊夢ならば空を飛べるのも頷ける、彼女は空を飛ぶことが出来る程度の能力者だからだ。

「だったらあの鬱蒼とした魔法の森から引っ越して人間の里に家を構えればいいじゃない?そしてあまり出掛けず家でじっとしていれば仕事は舞い込むわ、私としても毎日あんたの相手のするのは面倒だからその方が嬉しいんだけど」

しかし霊夢の提案を魔理沙は拒否する。

「断固拒否だぜ、魔法の森は私のお気に入りの場所だし家でじっとしていると考え方が偏っちまうからな、どっかの図書館の魔女みたいにな、それに博麗のお茶は美味しいからつい来ちゃうんだぜ」

はあ、とあからさまに嫌そうな顔をする霊夢。

「お茶くらい自分で入れなさいよ、全く・・・・・・」

それも断固拒否だ、と魔理沙に笑顔で言われ頭を抱える霊夢。そして結月の方をチラリと見た。

「ああ、忘れていたわね、私の自己紹介、魔理沙を相手にしていたら話が逸れちゃったわ、恐らくは知っているとは思うけど私は博麗霊夢、博麗神社の巫女よ」

めんどくさいという感情を出しながらも自己紹介をする霊夢。

「え~と・・・・・・結月で良いよね?色んな仕事がある中でよりによってなんでこの仕事を選んだのかしら?」

今日で何度目の質問、霊夢が「なんで」と口にした当たり恐らくは厄介者が増えたと認識しているのであろう、霊夢からしてみたら逸脱審問官は自分の標的を横取りする霊夢の思い通りにいかない連中という認識だろう。

結月は同じことを口にする。

「俺は逸脱者を許さない、人間の誇りや尊厳を踏みにじる逸脱者は人間の敵であり同時に幻想郷の秩序を乱す存在だ、この仕事を知って俺はようやく幻想郷のために何かやれる仕事を見つけたと思った、幻想郷の秩序を保つため人間の誇りや尊厳を守るため命が潰えるまで逸脱者と戦うつもりだ」

結月の決意にため息をつく霊夢。

「人間の誇りや尊厳ね・・・・・・私もこれでも人間だから否定はしないけど、そのために命を削って命がけで人妖と戦うなんて馬鹿のやる事よ」

鋭く尖った霊夢の言動が結月に突き刺さる。

「確かにそうかもしれないな・・・・・・」

あら?もしかしてその程度の決意だったの?と言っているような含みのある笑みをする霊夢。

「だが俺はお前みたいに器用に生きられるような人間じゃない、不器用ながらも幻想郷のためにそして自分に誇れる人生を送りたいんだ、命は寿命では語れない、そうだろ霊夢さん?」

途端に霊夢は無表情でじっとこちらを見つめる、その目はやはり心の弱さを見透かそうとしているようにも見えた、そして再びため息。

「霊夢で良いわよ、さん付けは柄じゃないの、親しみを込められても困るし貴方達と友人になるつもりなんてないから」

本来なら呼び捨ての方が親しい仲である証拠であるはずなのだが霊夢の価値観は違うようだ。

「ま、あんたの人生なんだから勝手にすればいいけど」

そう言って霊夢は鈴音の方を見る。

「鈴音・・・・・珍しく今回は先を越されたみたいね」

幻想郷の秩序を保つ役割を持つ博麗神社の巫女である霊夢もまた人妖を敵視する存在で逸脱審問官とは好敵手的な関係に当たるのだが霊夢の言葉からは先を越された悔しさなど微塵も感じられずただ淡々と状況を語っているようにも感じた。

霊夢にそう言われ顔をしかめる鈴音。

「鈴音、私が言うのはなんだけど先輩を名乗るんだったら私よりも先にちゃんと人妖を仕留めて見なさい、それが出来なくてもせめて・・・・・」

霊夢は鈴音を強く睨みつけた。

「あいつの二の舞いにはならないようにね」

霊夢のその言葉に鈴音は怯えた表情を浮かべる。

「もうここにいる必要はないから私は帰らせてもらうわ、じゃあね鈴音、それと結月」

霊夢はそれだけを言うと体を空中に浮かせる、ふわりと宙に浮く体はまるで風に散って舞う桜の花のように優雅でそして何処か儚げだった、そしてその体は杉木よりも高く上がると飛び去って行った。

「あっ!待てよ!霊夢・・・・・それじゃあな鈴音、結月」

ニヤリと笑いながらそう言って魔理沙は箒に跨る。

「それにしても霊夢が忠告するなんて珍しいな・・・・・あんな事いう奴じゃないのに」

そう独り言を口にしつつ魔理沙は箒を空中に浮かせ飛び去って行った。

結月はそれを見送ったが鈴音はうつむいていた。

魔理沙を見送った後一息つき結月は鈴音の方を見る。

鈴音は俯いたままだった。

「先輩?」

声をかけるとハッと結月の方を向いてぎこちない笑顔を見せる。

「あっ!結月!ごめん、私は大丈夫だよ、霊夢はいつも私が狙う逸脱者を先に仕留めちゃう事が何度もあったから私ちょっと苦手なんだ、ただそれだけだから」

聞いてもないのにそう言った鈴音。

しかし結月には不可解な点があった、霊夢が口にした「あいつ」その言葉に酷く怯えていた。

一体どういうことなのだろう?鈴音の過去に何かがあったのだろうか?

「と、とにかくこれで逸脱者の断罪は完了だよ、後の処理は件頭がやってくれるから早く本拠に帰ろうよ、結月もお腹空いているでしょ?本拠に美味しいピザっていう食べ物があるから頑張ってくれた結月のために先輩として私が驕るよ、だからさ早く帰ろうよ?」

しかしそれを聞く間を与えず鈴音はそう言って帰り始めた。

結月もそれを問い質すのは悪い気がしたので聞かないようにした。

「・・・・・・・騒がしい一日だった」

結月は今日の出来事を思い出す。

守護妖獣との永遠の繋がりを刻んだ契約の儀、上司である鈴音や仲間との出会い、初めて見る人間をやめた大罪人である逸脱者、そして幻想郷の守護者である巫女博麗霊夢と可愛らしい魔女霧雨魔理沙との対峙。

「色々と大変だが一緒に頑張ろう、明王」

最後に結月は明王を労って頭を撫でた、明王は嬉しそうに喉を鳴らす。

「結月、どうしたの?早く帰ろうよ」

先に行っていた鈴音が結月に声をかける。

「さて、帰るぞ明王」

結月は鈴音の後を追い歩き始めた。

こうして逸脱審問官の道を一歩歩み出した結月。

彼にどんな運命が待ち構えているのか、それを知る者は誰一人もいない。

ただ一つだけ言えるのは、これから待ち受ける運命を結月は相棒となった明王と共に進むのだ。

命尽きるその日まで・・・・・・。




第四録読んで頂きありがとうございます。
これで第一話完結となります、ここまで読んでくれた読者様本当にありがとうございます。
投稿する前は「第一話は既に完成しているから初投稿だけど難なく終わる」と思っていたのですが終わってみれば七転八倒の結末でした。
人間の複雑性や不透明感を感じてもらいと書いておきながら内容がテーマと沿っておらず読者様の期待を裏切ってしまった事。
投稿する前の最後の確認を怠り不完全な状態で作品を投稿してしまった事。
東方初心者にも読んでもらいたいと謳っておきながら肝心の東方要素が少なかった事。
誤りであると分かっていながらすぐに修正を行わなかった事。
第三録を投稿してから何度も修正を行った事。
全ては私の責任であり読んでくれた皆様の期待に応えられず申し訳ありませんでした。
一日中、何でこんなことをしてしまったのだろうという後悔の念を常に感じていました。
元々万人向けする話ではありませんでしたが今回の件で読者様が離れてしまった事でしょう。
それでも尚、続きが読みたいであればこの上嬉しい事はありません。
今週の金曜日は用事があるので土曜日から第二話である第四録を投稿しようと考えています。
こんな私でありますが読んでくれるのであれば一生懸命書きますので宜しくお願い致します。

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