人妖狩り 幻想郷逸脱審問官録   作:レア・ラスベガス

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こんばんは、レア・ラスベガスです。
昨日は更新できずすみませんでした、急な用事が入ったのが原因です。
予告がなかった事は悔やまれる事ですが時間も環境も自分を中心に動いてくれないのが常なので何卒ご理解のほどよろしくお願いいたします、
さて、長々と続いた人妖狩り四話もこれで完結です、次回は本編と外れて本当は『三話』が終わった後に投稿するつもりだった番外編を投稿しようと思いますので宜しくお願い致します。
何で忘れていたかと申しますとその番外編を書いてから時間が随分立っており書いた事すら忘れていたのが原因です、大した理由でなくてすみません。
それでは第三十三録更新です。


第三十三録 船底を伺う二又の復讐者 十二

霊夢の住居であり幻想郷を包む博麗結界が張られている場所でもあり幻想郷と現世の境目にあるとされる博麗神社は幻想郷の最も東にあるとされ人間の里から歩いて三日から四日、走って二日、守護妖獣で一時間の場所にある、この結果だけでも守護妖獣の地上に置いての運動能力の高さがうかがえる。

幻想郷に置いて神社は博麗神社と守矢神社の二つだけでありそれ以外の神社は公には存在しない、これは幻想郷があくまでも妖怪の楽園であり妖怪とは性質が違う神様という存在を祀る場所を幾つも作りたくないというスキマ妖怪の思惑がありからなのだろう。

では神社が少ないから参拝客が多いかと聞かれると人間の里と離れている事や霊夢の知名度が低い事もあってか参拝客は殆どない。

最も歴代博麗の巫女は人間の里や村や集落を周って仕事していたらしく当時はそれなりに参拝客もいたらしいが霊夢の時代になって博麗神社に妖怪がうろつく様になってからはめっきりいなくなってしまったらしい。

二又の逸脱者及び滝壺様の断罪から一夜明け、結月達は博麗神社に向けて守護妖獣を走らせた。

いつもは風をきる様な速さで走らせる守護妖獣も平常時は道を歩く人々を考慮して風を感じる程度で走らせる、なだらかに流れる風景を楽しみながら時折立ち寄った集落や村で休憩し井戸水を飲みながら博麗神社を目指して走っていく。

一番東にあるとされる集落を通り過ぎると舗装されていた道とは打って変わって狭い獣道となり万が一歩いている人がいないよう、速度を落とし駆け足の様な速度で走らせるが結月は歩いている人などいないだろう、と思いつつ守護妖獣の背中に乗っていた。

しばらく走っていると生い茂った森の向こうに開けた場所が見えてきた。

「見えて来たよ、結月あれが博麗神社の入り口だよ」

生い茂った木々を抜けるとそこには小高い山があり頂上に向かって石畳の階段が続いていた、ここまで徒歩で来た者はこの階段を見て大きなため息を漏らすだろうが動物的能力と妖怪的能力を併せ持つ守護妖獣にとって階段を駆け上がる事など造作もなかった。

「結月、後ろを振り返ってみて」

頂上を上り結月は鈴音の言われた通り振り返るとそこには狭いなんて感じさせないような広大な幻想郷という世界が広がっており中央には人間の里、遠くには一際大きな山、妖怪の山まで一望できる景色を前に結月は前に息を呑んだ。

同時に幻想郷の守護者に相応しい光景とも言えた。

かつてここまでやってきたであろう人間はこの景色を見て疲れを癒していた事だろう。

「こうして見てみると狭く小さな世界と比喩される幻想郷もそれ程狭い訳でも小さい訳でもないな」

幻想郷は小さく集約された世界である、現世を知る妖怪は口々にそう口にし訓練時代の時も小さな妖怪の理想郷と書かれる程だが日本中の忘れ去られた妖怪や古き神はおろか妖怪の糧である数多くの人間が暮らす幻想郷が本当に狭かったら既に満杯になっていた頃だろう。

結局は現世と比べたらと言う話であり実際は遠くに朧気な山脈が見えるくらい広い世界である。

「まあ、幻想郷の世界がここから一望できると言われれば何だか狭いようにも感じるけどね」

確かにそう言われてみればどれだけ広く感じてもこれ以上はないと思うと狭くも感じた、恐らく妖怪達にとって現世はどれだけ高い山から一望しても見えない世界がある恐ろしく広大な世界なのだろう。

結月達は改めて正面を見ると綺麗に咲き誇る色とりどりの桜の森の開かれた場所に石畳の道が真っ直ぐ伸びておりその途中には大きな赤い鳥居がどっしりと石畳の道を跨ぐ様に建てられておりその鳥居の奥には派手さはないが風情が感じられる博麗神社があった。

「あれが博麗神社か・・・・・・思っていたよりも真新しく見えるが・・・・・・」

もっと古く少しガタついてそうな建物を想像していた結月にとって目の前にある博麗神社は古い木で数年前に建てたような古さと新しさが混在した中途半端な印象を覚えた。

鳥居を守護妖獣に乗ったまま通り過ぎ神社の前で守護妖獣を止め背中から降りると既に霊夢が縁側に座ってお茶を飲んでいた、箒が傍に置かれている事や箒で掃いていたであろう塵が集めきれてない所から見て休憩中のようだった。

「やっと来たわね、ずいぶん遅かったじゃない、何処で道草食っていたのよ」

霊夢の問いかけに結月は首を傾げる。

「何を言っている?途中で井戸水は飲んだが道に生えている草なんて食べてないぞ」

キョトンした様子の霊夢と苦笑いを浮かべる鈴音。

「結月・・・・・・道草を食っているは何処か寄り道をしていないかって意味だよ」

鈴音の言葉を聞いて珍しく動揺したような姿を見せる結月。

「・・・・・・貴方、鈴音よりかはしっかり者だと思っていたけどまさか冗談が通じない程真面目だったとはね、そんな性格じゃこの先苦労するわよ」

その言葉にデジャヴを覚えた結月、ふと思い出してみると竹左衛門が似たような事を口にしていた事を思い出す。

「あっ今!何気に今私の悪口を言ったわよね、そんなに私ってしっかりものじゃないの?」

霊夢は一口お茶を啜った後口を開いた。

「馬鹿ではないし間抜けでもない、只しっかり者かと言われるとそうは思えないって所ね」

所々詰めが甘い、霊夢は恐らくそう言いたいのだろう、だが結月には何故鈴音にだけこんなに厳しいのか分からなかった。

「・・・・・・それにしても博麗神社は幻想郷が生まれた頃からあったと言われる割には随分と建物は真新しいようにも感じるのだが・・・・・・」

結月がさっきから感じていた疑問をぶつけると霊夢が左手で神社の縁側を擦る。

「結月、新聞見てないの?って思ったけどあいつの新聞では知らなくても当然と言えば当然か・・・・・実はどっかの向こう見ずな天人(てんじん)が地震を起こして神社を壊したのよ、いつもは温厚な私でもその時は怒ってその天人を懲らしめたわ、そしたらその天人は弁償として幻想郷中の古い木を集めて見た目だけは元通りに建て直してくれたの、中は前よりも快適に過ごしやすくなったけどね、今から数年前の出来事よ」

そういえば、そんな話を訓練時代に勉強したなと思い出す結月。

天人は冥界の空の上、『天界』に暮らす仙人を越えた存在だと言われ当然仙人よりも凄い力を持つ種族とされ数少ない人間から合法的に外れる方法として知られているが人間が仙人になること自体とても難しく欲の塊である人間から全ての欲を取り払わないと天人にはなれないとされている。

だからこそ手っ取り早く比較的簡単に人間がやめられる人妖が横行している訳だが・・・・。

「それで報酬の四十万、ちゃんと持って来たのよね?」

心なしか嬉しそうにそう聞いてきた霊夢に鈴音は肩掛けのポーチから厚みのある札束を取り出す。

「それが目的なんだから忘れてくるわけないじゃない、でもこのまま手渡すのは味気ないから・・・・・・」

鈴音は札束を半分に分け結月に渡すとその札束を目の前にあるお賽銭箱に投げ入れた。

そしてその場で二回柏手をうつと合掌する。

「幻想郷から人妖になる人間が一人もいなくなりますように」

鈴音の願いはとても理想的だ、とにかく大きくそれでいて叶うのが難しい。

「早く一人前の逸脱審問官になれますように」

一方の結月の願いは現実的だ、小さいものの努力を続ければいずれは叶うかもしれない。

とにかく霊夢に直接渡すよりかはお賽銭に入れた方が一回願い事が出来る分お得ではあった。

「ちゃっかりしているわね~」

結月達のささやかな抵抗に霊夢はあきれた様子だった。

「二十万も入れたんだから叶ってほしいけど・・・・・・」

鈴音の理想に対して霊夢はお盆に乗せた湯呑にお茶を注ぎながら淡々と言葉を返す。

「叶うかどうかは分からないけど只願うだけでは決して願いが届く事なんてないわ、その夢を叶えようと努力する人間の願いを神様が気まぐれで叶えてくれるのよ、私は努力なんて好きじゃないから神頼みなんてしないけどね」

霊夢は努力嫌いとは聞いていたが別に努力する人間を否定するような事はしないようだった。

「そもそも神社と言うのは神様を祀って信仰する場所、博麗神社の神とは一体何なんだ?」

霊夢は二つの湯呑にお茶を入れると結月達の前に差し出す。

「博麗神社はこれと言って特定の神様を祀っている訳じゃない、幻想郷の秩序を保つための神社だから本来なら神社の定義からはずれているのかもしれないわね」

結月達は霊夢の手から湯呑を受け取る、湯呑に入ったお茶は湯気がたっており高温である事が見て取れた、ふうふう、と息を吹きかけ冷ました後、口をつけるがそれでも尚熱く感じる程だった。

「只神様を祀っていないという訳じゃないからあんたが信仰したい神様を信仰すればいいわ、只守矢の神頼みは止めといた方が良いわよ、一応商売敵だしやりたいなら妖怪の山に登って守矢神社で信仰しなさい、勿論その時は私と戦う覚悟でね」

淡々とそう言った霊夢だったが彼女の目は決して冗談ではなく本気だった。

守矢神社は現世からやって来た八坂神奈子と洩矢諏訪子の姿ある二神を信仰する神社であり妖怪の山の頂上に建てられており守矢教の総本山である。

かつてこの守矢が幻想郷でやって来た事が原因で異変が起こった事もあった。

「流石に宗教に縋る程未来を不安視してはいないし誰かに導いてもらおうとは思っていない、未来は自分の意思で切り開くものだからな、そういう意味では特定の神様を祀っていない神社の方が拝みやすくていい」

だからこそ神頼みは依存するものではなく支えるものであり後押ししてくるものであって欲しい、それが結月の神に対しての認識であり鈴音もそういう認識だった。

「理想は立派ね、でも人は弱い、追い詰められ心身ともに疲れ切った時、それでも自分の足で立とうと思えるかしら?」

湯気がたつ湯呑を見つめながら結月は霊夢に言葉を返す。

「一人ならそうだろう、だが人は集まれば集まる程強大な力になる、それこそ神を作る事も神を追い出す事も出来る程だ、疲れた時は神ではなく同じ人同士で支え合う、仲間がダメな時は俺が支えて俺が駄目な時は仲間が支えてくれればいい、立ち上がるのも歩くのも本来なら神なんて不要な存在だ、ただそれでも縋りたくなる時のために神はとっておくべきだ」

他力本願、と口にした霊夢だが内心は結月の考えに同意気味だった。

霊夢自身は支えてもらっている感覚はないのだが人間が神を生み出したのは結局、人間が人間の力を信じられず人間の力が及ばない力を持つ存在に頼ろうとしたのではないか?と思っていたからだ。

神の存在自体を嫌っている訳ではない霊夢だがだからこそ身を任せる気にはなれなかったし従うつもりもなかった、神奈子や諏訪子と戦ったのもそう言った反発からだった。

「そう言えばさっき博麗神社は特定の神を祀っていないって言ったけど博麗神社の存在が幻想郷の秩序を保つための存在なら考え方によれば博麗神社の神様は私なのかも知れないわね」

霊夢は傲慢な態度が見られたが別に霊夢は自分が偉いとは思っていなかった、自分本位であるのは間違いなかったが決して自惚れからではなく元々そんな性分だった。

神様発言も自分が偉いからではなく何となく思いついた事を口にしただけだった。

「大きく出たね、霊夢、でも流石に神様を名乗るにはちょっと・・・・・・その傲慢過ぎじゃないかな?どれだけ強くても人間は神様になれないと思うんだよね、仙人や天人にはなれたとしてもさ、人間には及ばない力を求めたからこそ神様が生まれたのなら人間は神様にはなれないと思うんだ・・・・・多分」

余程霊夢が苦手なのか鈴音はいつもと比べ発言が弱めだが言いたい事は霊夢も分かっていた。

「あら?言うようになったわね、鈴音、まあ、私も神様になりたいなんて思ってないけどね、力に溺れる者はその力に振り回されるのよ、何となく思いついたから言ってみただけよ」

単なる冗談である事は結月達も分かっていた、霊夢は神様という大きな器を持ってしても収まりきらない存在、と認識していたが正解だろうか。

種族的には人間で間違いないだろうが彼女を人間の定義に当てはめるには特異点が多すぎる一方で言葉には出来ない魅力もあった。

「ああ、そうだ、これも頼まれていたな」

結月は右収納袋から数枚の万札を取り出す。

「何そのお金?まだ叶えたい願いでもあるのかしら、願いが多くなるほど叶いづらくなるわよ、二兎追う者は一兎も得ずっていうじゃない」

首を振る結月、別に結月は二つ目の願いを叶えようとしている訳じゃなかった。

「いや、これは仲間の静流先輩が博麗神社に行くならついでに自分のお願い事をしてきてくれと頼まれ渡されたものだ」

結月にはあの静流が神頼みするとは想像できなかった、神の存在なんて信じていないと思っていた所があったからだ、否、特定の神を信仰してない博麗神社だからこそ神頼みをしても良いと思ったのだろうか?真意は定かではなかった。

「え?静流が・・・・・・あっ!そっか、静流は謹慎処分で一ヶ月外出が禁止されているから結月に代わりを頼んだんだね」

一瞬何故静流はわざわざ結月に願い事を託したのか、ピンとこなかった鈴音だがすぐに静流の状況を思い出し納得する。

「謹慎処分って・・・・・・その静流っていう人は一体何をしたのよ?一ヶ月の謹慎処分ってそれなりの事よね?」

霊夢の問いかけに結月と鈴音は顔を見合わせた後、ため息をついた。

「えっと・・・・・・・好きだった女に振られた男が逆恨みしてその女を小刀で人質にとって橋から身を投げて無理心中をしようとしていたんだけど静流は男の人の左腕を力づくで骨折させて持っていた小刀を奪ってその小刀を右腕に刺してその上で川に投げ込んだのよ、私達が素早く救助したから幸い加害者の男は命に別状はなかっただけど、鼎は逸脱審問官の地位を揺るがす行為だとして罰として謹慎処分にしたのよ」

事の顛末を掻い摘んで話した鈴音、霊夢は動じる事無く話を聞いていた。

「ふ~ん、確かにやり過ぎといえばやり過ぎだけど、逸脱審問官ならそれくらいやってもおかしくないと思っていたわ」

霊夢の中での逸脱審問官の認識はどうも逸脱者の断罪の時のイメージが強いようだ。

「そ、そんな事ないよ!相手が私達に危害を加えようとしたら自己防衛と相手を大人しくさせる目的で武力行使をする事はあるけど基本揉め事は被害者も加害者も無傷で済ませる事が最優先事項なんだから、私達が罰を与えるのではなく法が罰を与えるのだから必要以上の危害を加える事は職権乱用になり得るからね、私達が法ではなく法が私達を動かしているんだから」

結局、逸脱者の断罪するのは逸脱者が人間の掟を破り死に値する罪を犯し逸脱審問官が償わせているだけなのだ、個人的な怒りや執念があったとしてもそれは二の次だ。

「意外とお堅い役職なのね、逸脱審問官は、まあでも権利を私情で振り回すようになったら人間の番人を名乗っているだけあって逸脱審問官の地位も揺らぐのは確かね、鼎はなんでそんな人をいつまでも手の内に置いておくのかしら?」

それを言ったら道中で会う妖怪を問答無用で退治する霊夢もかなりグレーゾーンなのだが。

「鼎は静流先輩のやり方は決して正しくないと思いつつもそういう人材も必要だ、と考えているようだ」

そう言って結月は飲み終えた湯呑を霊夢に返すと階段を上がってお賽銭箱に直接入れ柏手を二回打ち合掌する。

「足の指で編み物が出来るようになりますように」

結月の口から出た言葉に鈴音も霊夢も耳を疑った。

合掌を終え何も言わず階段を降りる結月、呼び止めたのは鈴音だった。

「えっ?ちょっと待って結月、静流はそんな願い事を本当に頼んだの?」

にわかには信じられない様子の鈴音だが結月がそんな冗談を口にするとは思えなかった。

「ああ、静流曰く謹慎中の間、編み物に挑戦しようと思い立ったらしいが只編み物するだけではつまらないからと足の指で編み棒を持って編み物をするつもりらしい」

ええ・・・・、と戸惑っていた鈴音だったがすぐに戸惑いの表情は消える。

「・・・・・・まあ、変わり者の静流らしい願いと言えば願いね」

鈴音も静流との付き合いは長い、新人の頃から一緒に仲間として過ごしてきたのだ。

今でも驚かされる事はあるが大方は慣れていた。

「そうだな、変わり者を自称しているだけの事はあるな、普通では考えない事を良く思いつく」

結月も鈴音も静流は自他ともに認める変わり者と言う認識だった。

「ほんとそうだよね~、まるで私達とは見えている世界が違うみたいだよね」

結月と鈴音の話を聞いていた霊夢だったがふと心の内に思っていた事を口にする。

「私からすれば人間の誇りや尊厳のために命を擦り減らしながら人妖と命を賭けて戦うあんた達も十分『変わり者』と思うけどね」

その言葉に結月と鈴音の視線が霊夢に向く、霊夢は平然とした様子で湯呑に残っていたお茶を啜った。

「そもそも普通って何かしら、何の起伏もない人生?両親が普通にいる暖かい家庭?冴えている訳でもないが馬鹿でもない程々の頭の良さ?酷い事をされたらやり返す行為?特徴的のない中肉中背?誰に対してもそれなりに優しく出来る心?そんなの人其々、共通する認識はあっても全てがあっている人なんていない、誰もが違う普通の定義を持っていてその上で自分の内にある普通の定義から外れた存在を『異端』として扱うのよ」

普通の定義は存在しない、物事を鋭く見ている霊夢だからこそ気づいた事だった。

「普通の人間なんていない、誰もが変わり者なのよ、只大半の人が自分の内にある普通がこの世の普通だと思い込んで自分はこの世界の普通の人間だと考えているから気づかないだけ、普通である事に拘るからこそ異端扱いされないよう周囲の空気に流され続け意思のない人間になってしまう、ホントに馬鹿な話よね、そういう意味では静流は自分が変わり者である事を自覚して尚自分の意志に忠実なのは凄い事だとは思うわ、私自身がそうだからこそそう思うのかもしれないけどね」

異端であり続けるという事は他人の普通に反目し続けるという事であり誹謗中傷も避けられないだろう、孤独感に押し潰されそうになる事もあったはずだ、それを幾度もなく経験してきた霊夢は静流の普通である事に拘らない事を評価したのだろう。

そう考えるならば静流だけでなく白鷹や影狼やわかさぎ姫は普通から外れた変わり者ではなくそれもまた一つの個性なのだ。

「普通なんていないか・・・・・・・そうだな、普通である事に囚われるなんて俺もまだまだだな」

そう言って結月は左収納袋に手を入れると何かを取り出す、それは先日静流から貰った動物の干し肉だった。

「結月?それは何?」

結月からすれば干し肉だと分かっても鈴音からすれば赤黒く長細い何かの切れ端にしか見えないだろう、実際干し肉にしては色が悪いし品質も腐っていると評されても間違いではないだろう。

「静流の非常食であり静流の意思だ」

そう言って結月は干し肉を齧った、固く黴臭く血生臭い味は決して美味しくはなかったが静流の事を少しだけ知る事が出来たような気がした。

結月はこの味を忘れない様にしようと心の内に決めた。




第三十三録読んで頂きありがとうございます。
いかがだったでしょうか?今回で四話は終わりです、いざ確認しながら読んでいるとかなりの文章量に本当に自分が描いたのか疑ってしまいます。
とはいえつい最近書き終わり確認作業をしている五話も同じ位の文章量なので恐らくは自分が書いたのだと確信しています。
ただ五話と四話では文章量が同じでも書けた時間は段違いでした。
五話は話の見通しが甘かったせいで何度も修正を重ねた事や仕事の都合や小説を投稿する事への重圧やとある事が切っ掛けで一時的に小説を書く心の余裕がなくなった事が原因で時間が大幅にかかってしまいました。
改めて小説を投稿する事の難しさや苦労を知る事が出来ました、苦い経験でありこれからの影響の事を考えると気が重くなりますが小説を投稿したからこそ直面し経験できた事なので苦くとも薬だと思っています。
次に書く小説はその反省を生かしてある程度の見通しを立てしっかり練り込んで根気よく書いていこうと思います。
読者の皆様には苦労や迷惑をかけるとは思いますがそれでも読んでくれるなら精一杯書きますので宜しくお願い致します。
それではまた再来週。

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