人妖狩り 幻想郷逸脱審問官録   作:レア・ラスベガス

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お久し振りです、レア・ラスベガスです。
約一カ月ちょっと振りの更新ですが・・・・・・先週は更新できなくてすみませんでした。
今週からは何とか更新できそうです、読者の皆様には待たせてしまってすみません。
さて一ヶ月と書けば長いようで短いような期間ですがこの間に自分は色々な事を学ぶことが出来ました、日本の将来、世界の将来、地球の将来、良い事も悪い事も色々ありますが一日一日を大切に生きたいと思わせてくれる一ヶ月でした。
これが小説に生かせれたらいいな、と考えています。
それでは第三十二録更新です。


第三十二録 船底を伺う二又の復讐者 十一

霊夢と滝壺様の戦いが繰り広げられる最中、結月と鈴音はその様子を警戒しながら見ていた。

「霊夢・・・・・・実力は確かだから大丈夫だと思っていたけどやっぱり少し心配だわ」

鈴音が心配に思うのも分からなくもない、霊夢は博麗の力を持っていたとしてもやはり人間であり彼女の輝かしい戦績はどれも幻想郷で定められた公平で必ず決着がつきそして誰も死なない事が前提の弾幕勝負によるものだった、対して今回は逸脱者を生み出す程の力を持った妖怪との実力勝負だ、博麗の力と滝壺様の力、どちらが上回るかの真剣勝負だ。

「そうだな・・・・・・だが霊夢も数々の異変を解決した強者だ、必ず成し遂げてみせる」

それにと言葉を続ける結月。

「霊夢には多額の金が掛かっている、いつも以上に気合を入れて戦うはずだ」

結月の言葉に鈴音はクスッと笑った。

「そうだよね、霊夢はお金が絡むと本気になるからきっと大丈夫よね」

そう結論付けた結月と鈴音は霊夢と滝壺様の戦いを注視する。

「はあっ!」

霊夢は手品の様に御札を取り出すと滝壺様に向けて何十枚もの御札を飛ばした。

ヒラヒラの紙で出来た御札は一見すれば投げても飛びそうもないのに霊夢の御札はまるで誘導されるように滝壺様目掛けて飛んでいく。

一方の滝壺様も大きな鋏から大量のシャボン玉を撃ちだし正面に展開する。

御札はシャボン玉に阻まれる様に衝突し幾多の爆発を起こす。

霊夢は滝壺様に向かって急降下を始めるとシャボン玉が爆発し出来た霧の中に突っ込んだ。

滝壺様からしてみれば霧の中から突如として霊夢が現れ面食らった事だろう。

「ていあっ!」

霊夢はお祓い棒を大きく後ろに振り上げると滝壺様の額に振り下ろした。

お祓い棒が滝壺様の額に直撃すると眩い電撃が走りピカピカッ!と点滅する。

「中々良い攻撃だ、だが・・・・・・」

しかしお祓い棒の強力な一撃も滝壺様にとってはあまり効果がないようだった。

元々蟹は甲殻類、厚く固い殻に全身を覆われている、その上妖怪だ、恐らくは物理にも揚力にも強い殻なのだろう。

「っ!思った以上に固いわね・・・・・」

そう呟いていた霊夢に大きな鋏が口を開いて噛み切ろうと迫った。

ガキンッ!金属同士がぶつかり合う様な音と共に鋏が火花を散らしながら勢いよく閉じた、霊夢は直前に後ろに移動し大きな鋏の攻撃を避ける。

しかしそこに滝壺様の左手の小さな(それでも人間を切断出来るほどの大きさだが)鋏が口を開けて近づいてくる。

再び金属同士がぶつかり合う音が響くが霊夢は素早く高度を下げ小さな鋏の攻撃をかわすと滝壺様との距離をとるように空に向かって飛んだ。

「逃がさぬぞ!」

滝壺様は距離をとろうと空へと飛びあがる霊夢に小さな鋏を構える。

その瞬間、小さな鋏から鋭く長細いもの撃ち出される。

撃ち出された鋭く長細いものは目にも留まらぬ速さで霊夢との距離を詰め死角である背中に向かって飛んでいた。

しかし霊夢はまるで後ろに目でもあるように飛んできた鋭く長細いものを左回転してギリギリでかわした。

霊夢のすぐ横を通り過ぎていく物体、それは先端が槍の様に鋭い氷だった。

(水を凍らせて尖らせる事で殺傷力を高めているようね、水鉄砲をぶつけるよりか威力はあるのは確かだけど)

そう冷静に分析する霊夢に後ろから幾つもの鋭い氷が飛んでくるが霊夢はそれをヒラリ、ヒラリと空中で難なく避ける。

「ちいっ、これも駄目か・・・・・」

滝壺様は苦虫を噛み潰したかのような声でそう言った、一定の距離をとった霊夢は反転して滝壺様を眼下に見下ろす。

霊夢と滝壺様は互いに動きを止め見つめ合っていた。

互いに次の一手を模索しているかのようにも見えるしどちらが先に攻撃を仕掛けるか見極めている様に見えた。

「大抵こういう時は先手が不利になりやすいのよ、だから互いに後手を狙っている、だから互いに攻撃が止まってしまうのよ」

見極めている以上、先手の攻撃は見切られてしまう可能性が高い、一方で後手は攻撃態勢を保ったままの相手に反撃を行う事が出来た、最も先手は文字通り先に攻撃できる事やしっかりと狙って攻撃できる利点がある一方で後手は相手の攻撃を避けなければいけない欠点があった。

「さて、霊夢はどうでるか・・・・・・」

遠くから見ていた結月がそう思っていると霊夢は何も持っていない左手を上に掲げる。

「この手の技は苦手な方なんだけどね・・・・・・・」

すると霊夢の周囲に小さな光の玉が現れ掲げた左手の手の平に集まり一つの球体が構成されていく。

球体は小さな光の玉を吸収してどんどん大きくなり蜜柑程度大きさだった玉は林檎くらいの大きさとなり今は西瓜くらいの大きさになっていた。

霊夢の手の平で大きくなる光の玉を見て滝壺様は二つの選択を迫られた。

このまま霊夢に攻撃をさせて反撃を狙うか、それともこちらが先手を仕掛け霊夢の攻撃を阻止するか、考えあぐねているようにも見えた。

そうしている内にも光の玉は大きくなり霊夢の巫女服も五十cmの大玉となった光の玉から発せられる波の様な衝撃波を受けてはためいていた。

光の玉は凄い威力を秘めている事はその見た目だけでも容易に想像する事が出来た。

もしあれに直撃しようものなら滝壺様も只ではすまないだろう。

「くっ!」

滝壺様は意を決したように大きな右手の鋏を開くとそこから水の球体を撃ち出した。

霊夢の攻撃を阻止しなければ大きな痛手を負うと判断したのだろう。

しかし一分一秒で状況が大きく変わる戦闘に置いて滝壺様は判断に時間をかけすぎてしまった。

撃ち出された水の塊に向かって霊夢は光の玉を掲げる左手を大きく振り被った。

「滅光封幻玉(めっこうふうげんぎょく)!」

霊夢は掲げた光の玉を滝壺様に向けて全力投球した。

形の良いフォームで投げられた光の玉は迫っていた水の塊に貫き大きな穴をあけると楕円状の形になりながら滝壺様に目掛けて飛んでいった。

「う、うおおおおっ!!」

滝壺様は左の小さい鋏を開くとその間から水を出して両刃剣のような形の氷を作り迫りくる光の玉に向かって右上斜めに斬り上げた。

光の玉は氷の両刃剣と接触し電撃と閃光で辺りを激しく照らした。

滝壺様は左の鋏に力を入れると氷の両刃剣は光の玉に半分食い込むが氷の両刃剣に大きなヒビが入った。

しかしここで怯えていれば光の玉の直撃を食らうのみ滝壺様は全力で左の鋏を振り切った。

ガシャンッ!氷の両刃剣が光の玉を通り抜けた時、氷の両刃剣は粉々に砕け散る。

一閃された光の玉は二つに割れ間隔を広げ合うように飛んでいき滝壺様の左右を通り抜け地面に接触する。

大きな爆音と共に大地が震え土煙が舞い上がった、二分されあの威力なら本来の威力はもっと大きかった事が窺いしれた。

「はあ・・・・・はあ・・・・・はあ・・・・・」

極度の緊張から解放され息をあげる滝壺様に対して光の玉を切り捨てられてしまったのにも関わらず霊夢は不自然な程平然とした様子だった。

「あら、もしかしてもう気力切れかしら?大層偉そうな口調の割には大した事ないのね」

霊夢はそれどころか滝壺様を煽って見せた、その様子はまるで自分はまだ本気を出していないと言っているか様な姿だった。

手加減しているのか、それともハッタリなのかは定かではないが霊夢の口車に滝壺様は乗ってしまったようだ。

プライドが高い故かはたまた短気なのかは分からないが乗ってしまった以上、口喧嘩は霊夢の方が分はあるようだ。

ふざけている訳ではない、口車に乗せられるという事は挑発に乗りやすいという事だ、かつて歴史上でも挑発に乗せられ敵の罠に嵌った者も多い、挑発や煽りもまた戦局を左右する重要な要素だった。

「人間風情が図に乗るぁ!」

滝壺様は両鋏を開くと大きな鋏からは水の砲弾を小さい鋏からは槍のように鋭い氷を次々と打ち出す。

飛んでくる幾重もの槍の様に鋭い氷と水の砲弾を霊夢は空中で縦横無尽に動き回り次々とかわしていく、射撃戦となれば当然避ける事は弾幕勝負に慣れている霊夢が有利だ。

激しい対空攻撃が止む事なく続いたが霊夢に当てる事は叶わず滝壺様の苛つきが増していく。

「蠅の様にちょこまかと・・・・・・」

苛つきが最高潮寸前に達した所で滝壺様は大きな鋏から水の砲弾を霊夢のいる空に撃ちだす。

水の砲弾は威力こそ高いが撃ち出された後の空気抵抗のせいか速度はゆっくりとしたものであり霊夢にとって爆風を含めても避けやすい攻撃だった。

飛んでいく水の砲弾を避けようと意気込んでいた霊夢だったが水の砲弾は霊夢の五m手前で爆発する。

予想外の爆発に霊夢は何が起きたのか分からなかったが目の前の視界が水の爆発によって霧が立ち込めた事ですぐに滝壺様の狙いを読み取る。

すると霧の向こうから水が押し出されるような大きな音と共に突然、霧から水圧の刃が現れる。

霊夢は霧の向こうの滝壺様の姿は見る事が出来ないが滝壺様からは霧の向こうの霊夢の姿は妖怪的能力を使えば見る事が出来るからこその芸当だった。

しかし霊夢は突然霧の抜けた現れた水圧の刃をまるで分かっていたかのように避けた。

霊夢はとても勘が鋭い女性として逸脱審問官の中では知られていた。

それは博麗の力なのかそれとも彼女自身の力なのか、それはともかくとしても異変発生時も彼女の行く所は異変の元凶場所だったり異変に関しての手掛かりがあったりと何かと勘の鋭さは人間の理解の範囲を超えていた。

恐らく滝壺様の水圧の刃を事前に察知出来たのはその霊夢特有の勘によるものだろう。

勿論、勘だけでなく瞬時に反応して回避行動に移せる身軽な体と類まれな身体能力合ってこそ成し遂げられる技である事は確かだった。

水圧の刃は霊夢を切り裂こうとするがそれを霊夢は擦れ擦れ括、無駄のない動きで避けていった。

霊夢の視界を遮ったはずなのに彼女はまるでまるで霧の向こうの自分の姿を見通しているかのように避けていく姿は滝壺様の苛立ちを最高潮にさせた。

「ぐ・・・・があああっ!何故だ!何故当たらぬ!?」

完全に頭に血が登った滝壺様、そこに一枚の御札が霧を縫って飛んでくる。

冷静であれば御札を器用に撃ち抜く事もシャボン玉で防ぐことも出来ただろう、しかし頭に血が上った滝壺様は御札を大きな鋏で振り払おうとした。

ブオン、御札に向かって鋏を振った滝壺様だが御札は振った時に起きた風に乗って鋏を通り抜け滝壺様の額に張り付いた。

その瞬間、まるで電撃が走ったかのように滝壺様は項垂れるようにして動かなくなる。

「ぐっ・・・・こ・・・・・これは」

体に力が入らない事に戸惑っている滝壺様を他所にようやく霧は晴れそこには何事もなかったように平然とした様子の霊夢の姿があった。

一つ奇妙な点を挙げるとすれば霊夢の左手の手の平には幾重もの折り重なった紙が乗っている事だろう。

「雷染札(らいせんふだ)よ、それは張り付いた途端に体の動きを封じる電撃を流して妖怪の動きを止めるのよ、弾幕勝負じゃ反則だから使えないけど何でもありの真剣勝負ならではの御札よ」

滝壺様は一生懸命力を込め額に張り付いた御札を取ろうとするがしっかりと張り付いていて悪戦苦闘していた。

「式神系は紫の使いと被るから余り使いたくなかったけど・・・・・・」

そう言って霊夢は左手の手の平に乗った幾重にも折り重なった鳥を模ったような式神をチラリと見る。

一方の無防備な滝壺様は必死に額に力を入れて御札を弾き飛ばそうとするが全く取れそうもなかった。

そんな滝壺様の様子を一瞥した霊夢は滝壺様に向けて式神が乗った左手の手の平を向けた。

「博符紅白雀群(はくふこうはくすずめぐん)」

そう言った後、霊夢は手の平に乗る式神に息を吹きかけると一枚一枚飛んでいく。

そしてある程度飛んだ所で紙製だった鳥は守護妖獣が大きさを変える時と同じ白煙の爆発が起こし真っ白な体に一筋の鮮やかな赤い線が入る紛れもないふっくらとした鳥になって滝壺様に向かって羽ばたいた。

こちらに向かって飛んでくる式神に嫌な予感を感じ必死に御札が張られた額に力を入れる滝壺様であったが一向に取れない。

迫る雀の式神を前にして、もはやここまで、そう思った時、滝壺様に妙案が浮かんだ、滝壺の水を吸い上げ体が水を滲みださせると御札は濡れて書かれた文字がふやけた。

その瞬間、体がフッと軽くなり御札の効力が落ちた事を理解した滝壺様は全力で額に力を入れついに御札を吹き飛ばした。

もうすぐそこまで迫って来る霊夢の式神に対して滝壺様は急いで滝壺の中に沈んだ。

式神は滝壺様を追いかけるように滝壺の中に飛び込むと爆発音と共に水柱が立った。

その後も何十枚もの式神が滝壺に向けて特攻し水柱を立たせていく。

最後の一枚が特攻し一番大きな水柱を立てると辺りには滝の音しか聞こえなくなる。

終わったのか?そう思う結月達であったが霊夢は警戒を解いてない。

「・・・・・・・しつこいわね、逸脱者と同じで」

鈴音は霊夢の表情からまだ終わってない事を察する。

突然、滝壺の中から大きな鋏と小さな鋏だけが出てくると霊夢目掛けて水の砲弾と槍の様な氷を撃ち出す。

「引き籠りの癖に妙に知恵が回る」

お前が言うな、と言いかけた結月達だったが滝壺様と比べたら霊夢はまだ外出派だろう。

大きな鋏と小さな鋏の対空攻撃は厳しいものとなっており流石の霊夢はその場で避け続けるのは危険だと判断したのか逸脱者の射撃範囲を逃れるように時計回りに飛び始める。

しかしそんな霊夢を追いかけるように大きな鋏と小さな鋏も霊夢を追いかけた。

しかし動く霊夢を捉えるのは難しく避けなくても外れていく水の砲弾や槍の様な氷もあった。

激しい対空攻撃を避け続け一周回って元の場所に戻ってきた霊夢。

すると滝壺の中から隠れていた滝壺様が現れ大きな鋏を開いて力を入れると水の砲弾を撃ち出す。

しかし撃ち出された水の砲弾は似ているようで何処か違っていた、その違いが分かったのは撃ち出された水が冷気を纏っていたのを見た時だった。

(氷の砲弾・・・・・・一体何でそんなものを?)

そう思いながら撃ち出された氷の砲弾を難なく避ける霊夢、しかしすぐに霊夢の脳裏にある事が過った。

水の砲弾は爆発し霧をまき散らした光景が思い浮かんだ所へ氷の砲弾にヒビが入る映像が流れたのだ。

まさか、そう思い振り返ると既に氷の砲弾は大きく亀裂が入り今にも弾けそうだった。

その直後、細かい亀裂が氷の砲弾に入り弾け飛んだ、その際氷の砲弾は無数の大小様々な鋭く尖った欠片となって三百六十度全範囲に拡散した。

直前に気づいた霊夢は急いで距離をとり体を回転させたため多くの氷の破片を避ける事が出来たが一部の氷の破片が霊夢の巫女服を切り裂き霊夢の頬に小さな氷の欠片が接触し一筋の切り傷を作って見せた。

回転をやめ態勢を整えた霊夢、服は至る所が破け下地である白い布が切られた個所から垣間見えた。

そして切られた頬からは赤い鮮血が少しだけ流れ出ていた。

「あ~痛っ・・・・・・・手加減して戦っていたつもりだけど、顔に傷をつけられた以上、本気で戦わないといけないわね」

そう口にする霊夢であったが滝壺様はそれを鼻で笑う。

「強がりは止せ・・・・・・・我の絶大なる力が博麗の力を上回っているだけの事、人の魂を多く食らった我と不思議な力使えどか弱き人間であるお前とでは当然の差だ」

勝ち誇ったようにそう言った滝壺様だが声からはかなりの疲労が感じられた。

妖術を連続で使い続けた事で体内の妖力が大幅に減ってしまったためだろう。

霊夢はそんな滝壺様の様子を見て頬から流れる鮮血を右手でねぐると口元に笑みを浮かべる。

「あんたはそんなか弱き人間に池を追い出されたのよ、人間の力を甘く見過ぎじゃないかしら?」

霊夢は妖怪主義でもなければ人間主義でもない、だが傲慢な妖怪と対峙した時は自分が人間として生まれた事を感謝していた、何故なら妖怪は全てに置いて人間より秀でていると思っている長く伸びきった鼻をへし折る事が出来るからだ。

「いいわ、手加減して戦ってあげていたけど顔を傷つけられたからには本気を出してあげるわ、後悔してももう遅いわよ!」

霊夢は右手に持っていたお祓い棒を一振りすると霊夢の左右から白黒の球体が現れた。

「陰陽玉(おんみょうだま)・・・・・・あれを使うという事は霊夢も本気になったようね」

陰陽玉とは代々の博麗の巫女が継承してきたとされる博麗の力を具現化した秘宝とされ幅広く様々な使い方が出来る博麗の巫女の補助的な役割を持つ道具である。

弾幕勝負時には陰陽玉から御札を撃ち出す事も出来れば陰陽玉から博麗の力を引き出して強力な技を繰り出す事も出来た、その一方で遠い所にいる妖怪と連絡が取る事や御札を入れられる等から様々なものを収納する事も出来るとされ、博麗の巫女について書かれた古い伝承の中には『色々な香りが出せる』とか『小さな妖精に変身できる』など様々な事が出来るとされているが真偽は定かではない。

一説には陰陽玉は博麗の力次第で如何なる事も可能になるため用途は無限大なのではとも言われている。

とはいえ今までの霊夢は陰陽玉なしの状態では実力の四割程度しか発揮できないと言われているため陰陽玉を二つ出した時点で実力七割程度は出している事は間違いなさそうだった。

(戦いながらあいつを観察していたけど滝壺から出る事はなかった、恐らく滝壺から動かない理由は滝壺の水を吸収して自身の妖力を混ぜて妖術として使っているのが妥当な所ね・・・・・・となればやる事は一つ)

霊夢は陰陽玉を飛ばすと一つを川の水が崖から流れ落ちる直前の場所にもう一つを滝壺と川の境目に沈めた。

「境界(きょうかい)の力使わせてもらうわよ」

その言葉と共に水の中に沈んだ陰陽玉が回転し始めた。

「な・・・・・何だ!滝の水が・・・・・・」

滝壺様の視線が滝に向かう、何と滝の水が急激に少なくなりものの数十秒で滝がなくなったのだ。

それなのに川の水は少なくなっておらず滝が流れ落ちている時の水量を保っていた。

「境界の力・・・・・そうか、スキマ妖怪の力を使って陰陽玉同士で『道』を作ったか」

霊夢とスキマ妖怪の紫は幻想郷の創造主と幻想郷の守護者として深い関係にあった。

霊夢は深い関係にあるとされる紫との縁を辿り遠くにいる紫と陰陽玉を繋ぐ事で紫の能力である境界を操る程度の能力を引き出したのだ。

紫の能力である境界を操る程度の能力は概念(その物の本質もしくは存在意義)と概念の間にある壁、川と陸、人と影、現実と理想などありとあらゆる概念と概念の間にある壁・・・・・境界を意のままに操る事の出来る能力であり概念同士の境界を取り払って繋げたり境界を弄って概念を変えてしまったりする事が出来る妖怪の中でも最上位に入る能力であり幻想郷の創造主である紫に相応しい能力だった。

恐らく霊夢は紫の境界を操る程度の能力を使って緩葉川と悲願の滝の『境界』と悲願の滝の滝壺と緩葉川の『境界』を断ち切って滝から落ちる前の緩葉川と滝から落ちた後の緩葉川を境界で繋いだのだ。

「これで滝壺の水は有限となった・・・・・・滝壺の化物が水を使った妖術を使えば使う程不利になるな」

今までの戦いを見る限り滝壺様は滝壺の水を使った妖術攻撃を主軸に置いているようだった。

それは水が滝から流れ落ちる限り無限に使う事が出来る事や一から妖力で水を作りだすよりかは周囲にある豊富な水に自分の妖力を加えた方が妖力の節約になるからだ。

だが滝の水を断ち切れば水は今滝壺にある分だけとなり水を使った妖術攻撃を使い続ければいずれは滝壺の水は底をつき滝壺様は攻撃手段を大幅に失う事だろう。

「確かに滝を封じ込めてしまえば我の妖術も限りが来よう・・・・・・だが滝壺にはまだ大量の水がある、それが底を尽きるまで逃げ続ける事つもりか青臭い少女よ」

だが滝を断ち切っても滝壺には滝壺様を隠す程の豊富な水がありもしひっきりなしに妖術攻撃をしたとしても尽きるのは恐らく一時間はかかるだろう、それまで避け続ける事は霊夢の体力的にも難しいし何より霊夢がそんな戦法をするとは思えない。

となると霊夢に何かしら考えがあるのは間違いなさそうだった。

「別に滝壺の水がなくなるまで避け続けるつもりなんてない、次で決めるわ」

次?次で決めるのに何故滝を封じ込めたのだろう?結月には霊夢の狙いが読めなかった。

霊夢は結月達や滝壺様が考えてないであろう一手を決めていた、意表を突くには敵も味方(?)も予想していないやり方の方が良い。

霊夢は何を思ったか滝壺様に向かって急降下を始めた。

「万策尽きて決死の特攻と来たか!ならば望み通り死ね!」

滝壺様は左右の鋏を霊夢に向けると水の砲弾と槍の様な氷を次々と撃ち出す。

心なしか滝壺様には疲れが感じられ撃ち出される対空攻撃には隙があった・

それを霊夢は擦れ擦れでかわしながら滝壺様との距離を縮める、近づくにつれ避ける事が難しい妖術攻撃に対しては御札をぶつける事で威力を相殺していった。

疲労気味とはいえ滝壺様と十mも離れてないのに鋏から撃ち出される攻撃を瞬時に認知して反応できるのは流石、博麗の巫女と言った所だ。

「真っ二つに切り裂いてくれるわ!」

目の前まで迫った霊夢に対して滝壺様は両鋏を水で凍らせ両刃剣へと変え迎撃の態勢を取る。

そして滝壺様は大きい鋏の方で近づいてくる霊夢に向かって豪快な一振りを振るった。

しかし両刃剣の一振りは虚しく空をきった、霊夢は鋏の両刃剣の攻撃範囲外ギリギリで急停止したからだ。

攻撃が空振り滝壺様は霊夢の攻撃を備え構えるが霊夢からの攻撃はなかった。

霊夢は迎撃態勢をとった滝壺様の頭上を通り過ぎた、まるで滝壺様など最初から興味なかったかのように。

予想外の行動に呆気にとられる滝壺様、それは遠くから見ていた結月達も同じだった。

だが結月達は見ていた、霊夢が滝壺様の通り過ぎた時、霊夢が何かを滝壺に落としたのだ、滑り落ちたのではなくわざとであった事は霊夢の顔を見れば明らかだった。

「あれが・・・・・・決め手か」

何を落としたのかは分からないがわざわざ危険を冒して接近して滝壺様の背後で落とした事を考えれば霊夢が先ほど口にした決め手に相応しいものなのだろう。

霊夢はそのまま真っ直ぐ飛び滝壺様と距離をつけると滝壺を出た所で空高く飛び上がる。

そして滝壺様が後ろを振り向くと再び霊夢が空高くから見下ろしていた。

「固い殻に覆われている割には随分と臆病なのね、中身も大部分が殻で身は少ないんじゃないの?」

小心者、と遠回りに煽る霊夢に滝壺様は怒り心頭だった、やはり煽てられやすい者程、扱いやすく愚かな者はいない、少なくとも戦いに置いて冷静になりきれない者は早死にするだろう、滝壺様は霊夢の思う壺だった。

「に・・・・・人間如きがあああっ!地面にたたき落としてくれるわ!」

滝壺様は左右の鋏を開くと再び水の砲弾と槍の様な氷を次々と撃ち出す。

まるで昔合ったとされる合戦を再現しているかの様な物量で飛んでくる水の砲弾と槍の様な氷を霊夢は魚が水の中で泳ぐ様にしなやかな体を生かして避けていく。

彼女の空を飛ぶ程度の能力は鳥の様に羽ばたいて飛んでいるのではなく自在に空を移動できるというものなので急旋回も急降下も急上昇も急停止も彼女の思い通りなのだ。

だから霊夢の空を飛ぶ姿は違和感を覚えない自然さがありながら何処か不自然にも感じるのだ。

霊夢は激しい対空攻撃に対して反撃する事なく避け続ける、当てられないの?と言っているかのような動きはむしろ滝壺様の攻撃を誘発させているようにも見えた。

一撃でも当たれば即死のはずなのに霊夢には笑みを浮かべるだけの余裕があった、それと同時にその微笑みは勝利の確信している様なそんな表情だった。

「そろそろ効いてくる頃合いかしら」

激しい対空攻撃の合間を縫うように滝壺様の水圧の刃が放たれるが霊夢は激しい弾幕の中ぐるん!と一回転して避けた。

しばらく続くと思われた対空攻撃だがここで変化が現れる、激しかった対空攻撃は徐々に緩やかになり始め飛んでくる水の砲弾や槍の様な氷も次第に減り始めた。

だが一番大きな変化が現れたのは滝壺様だった。

がっしりとした体が揺ら揺らとふらつき、息切れのような声が頭に響く、囁キがどんな場所でも自分の声を届かせる反面、自分の状態を相手に伝えてしまう短所があった。

結月達は最初こそ霊夢が滝壺様に毒を盛ったと思ったがどうも滝壺様の様子からして違う、もがき苦しんでいる様子もなく苦痛を感じている様子もない、今の滝壺様の様子を言葉で表すならば倦怠感という言葉が一番当てはまる。

空に向けていた左右の鋏も震え大きい右の鋏がゆっくりと滝壺に沈んでいきしっかりと地面を支えていた足もガクガクと震え力が抜けていくように右側の足が体を支えきれず挫くと体も右側に傾いた。

極度の疲労状態にも見えたが長期戦で疲労気味だったとはいえ今までの激しい戦いから見ても短時間でここまで疲労するとは思えなかった。

「く・・・・・くそっ!」

滝壺様は左の鋏を精一杯の力で霊夢のいる空へとあげ槍の様な氷を放つが放たれた氷は尖っておらず初速も遅く、動いていない霊夢の五m下を通り過ぎるという有様だった。

「か・・・・・体に力が入らぬ・・・・・ま、まさか、毒を・・・・・・一体何処で?」

滝壺様は霊夢の突撃の際、自分の顔を小さな鋏で守る様に隠していたため霊夢が滝壺様の背後で何かを落としたのを知らないようだ。

体が傾き右側の大半が滝壺に沈んでいる滝壺様の前に霊夢が空から降りてきた。

その顔には既に勝ち誇ったかのような笑みが浮かんでいた。

「毒?そんな物騒な物なんて持ってないわよ、持っているとすればこれね」

そう言って霊夢が得意げに脇から取り出したのは茶色の陶器、その陶器の蓋には酒の一文字が書かれていた。

「酒・・・・・なるほど、だから霊夢は滝の水を封じ込めたのか」

遠くで見ていた結月達は霊夢の狙いを理解した。

滝壺様は滝壺の水を使って妖術攻撃を仕掛けていた、なので霊夢は滝壺様に突進し滝壺様の背後でお酒を落とし遠くから挑発して妖術攻撃をさせる事で酒が混じった水を滝壺様に吸収させ泥酔状態にさせたのだ。

滝と川を境界で繋いだのも滝壺の水が滝の水で薄まらない様にするためだった。

全て霊夢の計算通りだった、滝壺様はまんまと霊夢の策略に嵌ったのだ。

「このお酒は私が宴会用に仕込んで置いた妖怪用のお酒なのよ、どんなに酒に強い妖怪でも酔えるよう濃度を濃くしてあるの、それこそ人間が飲んだら一口で倒れるくらいのね」

霊夢が目の前にいるのに全く体が思うように動かない滝壺様、この時点で既に勝敗は決していた。

「馬鹿な・・・・・・我が・・・・・我がこんな青臭い少女の手玉にされるなど・・・・・」

動かない体を何とか持ち上げようとする滝壺様だがついに左側の足も崩れ体が滝壺へと沈んでいく。

「久しぶりの真剣勝負だったから長く楽しめるよう手加減して戦っていたけどあんたとの戯れもそろそろ飽きてきたわ、次で止めを刺してあげる」

そう言って霊夢は手に持っていた酒壺を右の袖にスッとしまった、陰陽玉と比べたら地味ではあるが博麗の巫女服も特別な存在なのかもしれない。

そして霊夢は真剣な表情になると滝壺の縁に移動しお祓い棒を水面に向けると滝壺を時計回りになぞっていく。

すると霊夢がなぞって行った所が光の筋となり一周すると滝壺に大きな光の円が浮かび上がる。

「日天昇龍水泉(ひてんしょうりゅうすいせん)」

霊夢のその言葉が放たれたと同時に滝壺の大きな光の円が強く輝いたかと思うと滝壺の水が空に向かって花火の様に打ち上がった。

その滝壺の水位が急激に下がり大きな水柱が現れる、その勢いに巻き込まれる様に滝壺様が空へと打ち上げられた。

霊夢は打ち上げられた滝壺様を見上げると目を閉じて何かを念じるように眉間に皺を寄せた次の瞬間、一瞬にして霊夢が消えたかと思うと空高くにいる滝壺様の近くに現れた。

博麗の力の一つとされている瞬間移動である、その名の通り行きたい場所を頭に浮かべ念じるだけで離れた所でも一瞬のうちに移動してしまう凄い能力だが行きたい所が遠い場所程念じる時間が長くなり瞬間移動できる距離も限度がありそもそも瞬間移動自体が人間の体には無理があるらしく体力の消費が激しいため真剣勝負や余程差し迫った時しか使わなかった。

「目に焼き付けとくといいわ、この美しい幻想郷の景色を、あんたが最後に見る絶景になるのだから」

霊夢はそう言って左手を滝壺様の前に突き出す。

「っ!・・・・・これは」

その時、地上にいた結月と鈴音は奇妙な光景を目にした、水と一緒に流れ落ちて出来たであろう河原の石が次々と空へと浮かび高く飛んでいく。

数百個、数千個にも及ぶ大小形様々な石が空高く飛んでいき宙に浮かぶ滝壺様の周囲を展開するように浮かんだ。

「最後に一つだけ教えておくわ、出る杭は打たれる、幻想郷の常識よ」

そう言って霊夢は開いていた手の平をギュッと握りしめた。

その直後滝壺様の周囲を展開していた数千個にも及ぶ河原の石が一斉に滝壺様目掛けて飛んでいく、滝壺様に様々な石がぶつかり幾つかは殻を破り食い込んでいく。

石が滝壺様の体を覆っても尚次々と石の塊となった滝壺様に張り付いていく、それと同時に滝壺様に張り付いた河原の石が圧縮され石の塊が徐々に小さくなっていく。

「う・・・・・うおおおおお」

体に張り付く無数の河原の石に押し潰され呻き声をあげる滝壺様、滝壺様の体を覆っても尚石は石の塊に向かって張り付いていくが石の塊自体はそれに反して小さくなっていく。

そして宙に浮いていた河原の石が全て張り付いた所で霊夢は止めを刺す。

「罪罰(ざいばつ)大岩封じ」

そう小さく霊夢が呟いたと同時に一気に石の塊は縮小していく、それと同時に滝壺様の体が圧力で砕け散り潰れていく音が鳴り響いた。

そして全てが終わった時、河原の石は一つの大岩となり滝壺様は四分の一の密度まで圧縮されてしまった。

滝壺様の墓標と化した大岩は重力に引かれるように落ちていき滝壺横の河原に激突し結月達の衣服や守護妖獣の毛並みをはためかせる程の衝撃と共に罪埃が辺りに舞い上がる。

しばらくして土煙が収まり視界が良くなるとそこには物動かぬ大岩が鎮座していた、

霊夢は静かに大岩の前まで降りてくると御札を取りだした。

「これでおしまいっと・・・・・・」

霊夢が御札を大岩に貼り付けると大岩から大量の妖力が放出されていく、自分の体よりも小さい岩の中にいる滝壺様に残っていた妖力だ、妖怪は妖力あってこそ存在できる、それを全て絞られれば消えてなくなってしまう、恐らくは霊夢の御札で滝壺様は完全に死んだのだろう。

戦いは終わった、死闘を生き残ったのは霊夢だった、否死闘と呼ぶには余りにも力の差がありすぎたようにも感じる戦いだった、彼女は最後以外本気ではなかったのだから。

とはいえ滝壺様が倒された事により半日村連続行方不明事件にも完全な終止符が打たれた。

ふう、と一息を着いた霊夢、手加減していたとはいえ短時間ながらも身の詰まった戦いは弾幕勝負よりも疲れるものだった。

命のやり取りをしているという極度の緊張感も彼女の疲れを増やす原因になっていた。

だが霊夢は弱い所を人に見せる事をとても嫌った、霊夢は戦いを見届けていた結月達の方を見るとまだ余裕がありそうな笑みを浮かべる。

「全然たいしたことなかったわ、これで四十万貰えるなら儲け物ね」

そう言って見せた霊夢だが結月達はそれが本心ではない事くらい分かっていた。

ただそれを口にするとめんどくさい事になるので結月達は二つ返事で返した。




第三十二録読んで頂きありがとうございました。
いかがだったでしょうか?さて、今日から九月に入りましたが読者の皆様にとって今年の八月はどんな感じでしたか?
陽射しが少ない、雨が多い、夏らしくない、私の所はそんな感じの八月でした、陽射しが少ない分、汗が噴き出る様な暑さはなかった一方で陽射し不足や雨の多さから野菜や米の育ちが悪く病気もつきがちで農家は大変そうでした。
雨不足だった六月七月とは打って変わってのこの天気、農家の苦労は絶えませんね。
こういった異常気象は日本だけでなく世界各地で起きており中国では豪雨、ヨーロッパでは熱波、アメリカではハリケーンと様々な形で表れています。
異常気象で最も打撃を受けやすいのは農業です、人間と違って地面に根を生やしている彼等は逃げる事も隠れる事も出来ません、そのため想定される被害を避ける事が出来ず大きな損害を出してしまいます。
人類の人口が七十億に突破しはや数年、二千四十年頃には九十億を突破すると言われ消費が増える一方、生産量を余り増えておらず将来的には減産していくらしいので食料自給率の低い日本は近い将来、飢餓や飢饉が発生するかもしれません。
一方で将来の危機に備えて食の研究が進んでおり中には人類の食糧事情を救ってくれる技術も幾つかあります。
将来人口が増えても安定した食糧供給が出来るかそれとも全世界で飢饉や飢餓が各地で発生するのか、未来の事はまだ分かりません。
ただ一つだけ言えることは望めば望んだ未来が行ける可能性がありますが望まなければ望まない未来に必ず辿り着きます。
もう駄目だ、何をやっても無駄、諦めるしかない、そんな発想では良い方向に向かう訳がありません、出来る限り良い方向、良い未来を夢にてそれに近づけるよう努力していきましょう。
それではまた再来週。

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