人妖狩り 幻想郷逸脱審問官録   作:レア・ラスベガス

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こんばんは、レア・ラスベガスです。
第三録目、更新ですが本当なら昨日やるつもりでした、しかし急な用事が入り断念し今日も色々あってこの時間の更新となってしまいました、本当に申し訳ありません。
さて、私は小説を書くために常に情報収集を心掛けています。
テレビや新聞、ネットやラジオからの新しい情報から書籍などの古い情報まで様々な分野から幅広く情報を集めています。
小説は知識が少ないと書けませんし長続きしません、一見小説に関係ないような情報でも何かの拍子に小説のネタになったりする事もあります。
覚えた知識は決して無駄にはならない、私はそう考えています。
アニメは時間の無駄だとか漫画よりも参考書を読んだ方が良いという人達もいますがアニメや漫画は見ること自体が息抜きになりますしその話題で友人達と盛り上がったり新しい友人を作る事も出来ます。
遊びも勉学も学びでありどちらも無駄にはなりません。
ただどちらかに偏ると本当に時間を無為にしてしまうので五分五分になるよう心掛けると良いかもしれません。
相変わらず前書きが長くなりましたが第三録更新です。


第三録 逸脱審問官の始まりと人妖のなり損ない 三

逸脱審問官の本拠がとても充実している事に結月は感心していた。

てっきり逸脱者と戦うためだけの施設だと思っていたので設備も鍛冶場や宿舎以外最低限だと思い込んでいたのだが地下には様々な施設があった。

銭湯、洗濯屋、食事処、銀行、図書館、作戦企画室、喫茶店、床屋、整体店、娯楽施設(サイコロ・花札・卓球と呼ばれるものまで)など様々な施設が地下一階に充実していた。

「結構充実している」

そう結月はポツリと呟いた。

「逸脱者は何時何処で出現するか分からないから一刻も早く断罪に行けるよう多くの逸脱審問官がここにいた方が良いの、だからこそなるべくはこの本拠で事が済ませられるように施設が充実しているんだ、それでもやっぱり人間の里には行きたくなるけどね、流行の服や甘いものはここじゃ取り扱ってないしやっぱりここにはない施設もあるしね」

確かに言われてみればそうだ、逸脱者が出るまでここで長く待機となると何もないではとても退屈だろう、施設が充実しているのは当然の事だった。

「じゃあ次は精錬の間に行こうか」

そう言って鈴音は玄関から真ん中にある地下へと降りる階段を下る。

地下に降りていく途中、金属を叩く音や熱い物を冷やす音そして野太い男性の大きな声が下の方から響いていた。

下へと続く階段はまだ続くようだったが精錬の間についたようだった。

階段を降りるとそこは広い空間が広がっており熱気が凄かった、その空間は土造りで何十人もの鍛冶屋が休むことなく働いていた、炉で鉄を溶かす者、刃を鉄製の小槌で叩く者、金型に解けた鉄を流し込む者、鉄の原料が入った袋を運ぶ者、様々だった。

空間の両側の壁には空洞が空いており地面には線路のようなものが敷かれ金属の車輪のついた荷車がその線路を乗ってここに運び込まれていた。

しかし逸脱審問官のここを自由に行き来する事が出来ないのか、木製の作業台で仕切られていた。

「精錬の間って言って一言に言えばこの空間一帯が鍛冶場なの、鉄や木材、鉛や玉鋼などの原料を荷車で運び出しここで精錬して不純物を取り除いて刀や槍、銃や銃弾などを作っているの、その他にも私達が使う武器の改良や開発、道具屋の道具もここで作ったり直してくれたりするんだよ、ここからじゃ見えない奥の方でだけど」

結月は鍛冶場の様子を伺っていると人混みの隙間から基一と親方の姿が見えた。

基一は相変わらず親方に怒鳴られているようだったが結月には気になる事があった。

(一体いつ彼らはここに戻ったんだ?)

あの時儀式の間を出て行ったのは結月が最初だった。

その後結月は来た道を戻り受付に寄った以外は寄り道していなかった。

彼等が先にここに到着しているなどありえないはずなのだ。

結月が受付している時に戻っていった可能性もなくはなかったが、あんな鉄製の重い箱を持ちながら、暗闇を結月よりも早く歩くのは困難であり同じ速度だとしても大変だろう、それに後ろから追ってくる気配すら感じられなかった。

(やはり何処かにここと契約の間を繋ぐ隠し通路があるに違いない)

そうでなければ説明がつかなかった。

「結月もせっかくその格好に着替えたんだから武器取ってきなよ、あそこにいる浅野婆(あさのばあ)が武器を渡してくれるよ、ほらあの分厚い眼鏡をかけた作業台に座って作業している女性が浅野婆だよ」

鈴音が手を差し出す方向、木製の作業台の上で細かい鉄の部品を器用な手つきで組み立てている田舎のお婆さんのような服装をした七十代の分厚い眼鏡をかけた女性がいた。

浅野婆だと思われる人物は部品の組み立てに集中しているようで周りの事など全く気にしていない様子だった、武器をもらうため結月は浅野婆の前に立つが浅野婆は結月が前に立っている事に気づかず自分の世界に入り込んでいた。

(声をかけるべきか、否か・・・・・)

武器を貸してもらうには声をかけなきゃいけないのだが、あまりにも熱心に取り組んでいるので声をかけると機嫌を損ねてしまうのではと思ってしまう結月。

それ程気難しい顔で部品の組み立てに取り組んでいた。

しかしこのままではいつまでたっても話は出来ない、機嫌を損ねるのを覚悟で声をかける覚悟を決めた。

「あの・・・・・・」

返事はない、意図的に無視したのか声に気づかない程自分の世界に入り込んでいるのか。

恐らくは後者だと思いたい。

「あの」

いつもよりも大きな声をかけると浅野婆が結月の方に顔を向けた。

怒っているのだろうか?結月がそう思っていると浅野婆は今まで繊細に扱っていた鉄の部品を手荒く小さな木箱に流し入れた。

「あっ!すまねぇ!また悪い癖が出ていたわい!若いのすまんの~」

意外にも怒ることなく笑顔を向けた浅野婆。

素早く作業台の上を綺麗にすると手を後ろに組む。

「ど~も作業をしていると周りの事が気づかなくなっちまってな、昔は浅野に向かって歩く足音位なら聞こえたんじゃが今は耳が遠いせいかど~も聞こえなくてな、許しておくれ」

どうやら自分の世界に入り込みやすい事以外は元気で親しみやすいお茶目なお婆さんのようだ。

「ん?浅野の記憶にない男だな、もしかしておめえが新しく逸脱審問官になった平塚結月か?」

また呼び捨てにされたものの、このお婆さんも恐らくは精錬の間で働いて何十年の人だろう、仕事は違えど逸脱審問官を支える重要な仕事だ、新参者である自分が呼び捨てされても仕方がない。

「ああ、そうだ」

そう答えると浅野婆はじっくりと結月を見る。

「おめえ、随分と若えな、まだギリギリ十代だろう?まだ若いのに逸脱審問官になっちゃって、あの坊主よりかはまだ大人みたいだが色々とやれる仕事はあったろ、他に未練はなかったかい?」

浅野婆も鼎程の圧迫感はないにしろ似たような事を聞いていた。

「俺は逸脱者を許さない、この仕事を知った時初めて俺がやるべき仕事に出会えたと幻想郷に貢献できる仕事に出会えたと思った、未練はない、命が尽きるまで戦い続ける覚悟だ」

はあ、と大きくため息をついた浅野婆、木製の作業台の中でゴソゴソしている。

「信念だけは立派だねえ、まあ浅野はおめえに説教するつもりはねえ、おめえがそう考えているならそう思えばいい、浅野ができる事があるとすればおめえが少しでも永らえるよう強くて頑丈の武器を提供するだけさ」

そう言って浅野婆は作業台の上に刀と小刀と拳銃と予備弾倉を置いた。

「おめえがヘマして死ぬのは仕方ないが、武器の不具合で死ぬのはおめえに申し訳ないからな、腕によりをかけて作ったここの鍛冶職人自慢の武器さ、対人妖の呪いが刻まれた刀に同じ呪いが刻まれた小刀、そして米国のコルトM1851ネイビー・・・・・それを複製した拳銃さ、浅野達は和製コルトと呼んでいるが鼎さんは米国の愛称であるネイビーリボルバーと呼んでいるよ、あの人は日本人とか国産とかに拘らない人だからね」

米国の事を結月は参考書で勉強していた。

確か現世にある日本から太平洋と呼ばれる広大な海の先にあるとてつもなく大きな国で当時の日本とは比べ物にならない程、人口も技術も物量もあった凄まじい国らしい。

今は現世と切り離されて長い年月が経過し幻想郷でも米国の事を知っているのは長生きした妖怪、それでも数は少なく人間となるとほとんどいない。

しかし逸脱審問官や逸脱審問官に関わる者達は米国の事を良く知っていた。

「鼎さんは色々な西洋銃を何処からともなく仕入れてくる、それをここの鍛冶職人が研究しておめえ達、逸脱審問官が扱う武器の改良や開発に日々生かしている、それに鍛冶職人として幻想郷にあるかないかの幕末当時の最新の西洋銃の技術は鍛冶職人として胸が躍るものさ、提供してくれる鼎さんには本当に感謝しているが彼がこの現世から切り離された幻想郷で希少な西洋銃をどうやって手に入れているのか不思議で仕方ねえ、本当に謎な御方だよ」

それは結月も同意見であった、やはり鼎の存在を不思議がるものは結月だけではないようだった。

幻想郷の秩序のために逸脱審問官を創設する所から悪人ではないとは思うが善人と呼ぶにはあまりにも素性が不透明過ぎた。

「おお、つい話し込んじまったな、最後に浅野婆からの忠告じゃ、ここにある武器は過酷な仕事をする逸脱審問官が満足してもらえる様にここの鍛冶職人の技術の粋が集まった一級品の武器ばかりじゃ、正しく扱えばその真価を発揮できるが、扱い方を誤れば三級品の武器よりも劣る、ようは結局おめえの腕次第じゃ、武器が強ければ強くなる訳じゃないおめえの腕前で性能を最大限に引き出してこそ強くなるのじゃ、これで浅野婆の忠告は終わりじゃ、ほら持っていけ、鈴音が待ちくたびれている頃合いだぞ」

結月は刀と小刀をベルトにさしネイビーリボルバーをホルスターにしまい込み予備の弾倉をズボンのポケットにしまい込んだ。

「ありがとうございます・・・・ではこれで」

軽く会釈してその場を後にしようとする結月に浅野婆は最後の最後にと言葉をかける。

「武器はそれだけじゃねえ、色々な武器を取り扱ってあるから欲しい武器があったら相談するんじゃよ~、浅野婆はここで待っているからな~!」

それはもっと早く言うべきことではなかったか、と思いつつも鈴音の所に戻ってきた。

「随分話し込んでいたね、浅野婆はとてもお話し好きだから一度話しかけると結構話し込んじゃうんだよね、でも結月は口数が少なそうだからすぐ戻ってくるかなって思っていたんだけど結月もやっぱり話し込んじゃったの?」

結月からしてみれば聞かれたら答えていただけで浅野婆が一人で話し込んでいた感じだった、とても元気のある田舎のお婆さんというのが結月の印象だった。

「まあとにかく、武器もちゃんともらえたみたいだし次行ってみようか」

そう言って鈴音は案内を再開した。

彼女はさらに地下へと続く階段を下りていく。

今度は随分と降りていき上の方で騒がしく聞こえていた鍛冶場の音も次第に小さくなり階段が終わる頃には聞こえなくなった。

「着いたよ、ここが鍛練の間だよ」

地下へと続く階段の終わりには広大な空間が広がっていた。

土を掘って作られた空間だが床から天井までは十mもあり床には銃の射撃場、刀の試し切りの出来る場所、体を鍛えるための器具が設置された場所、森や草原、竹林や家屋など幻想郷に存在する様々な環境を真似た場所までありいわば逸脱審問官の訓練施設だった。

「逸脱者がいない平常時は次の逸脱者の出現に備えるためにここで射撃や剣術の腕を磨いたり、体を鍛えたり、様々な地形が用意されていて色々な戦い方や戦術を試す事も出来るんだよ、後逸脱審問官同士で模擬戦も行う事も出来る場所もあるよ」

流石逸脱審問官の本拠、人間離れした逸脱者と戦う訳だから体を鍛える施設はあるとは思っていたがここまで充実していたとは結月も考えていなかった。

「実はこの案内が終わったら練習場所の詳しい紹介がてら私と一緒に訓練に付き合ってもらおうかなと思って結月にはその逸脱審問官の服に着替えてもらったんだ」

なるほど、これほど着脱がしにくい服を着せたのはそういう理由だったのか。

てっきり逸脱審問官は苦労していつもこの正装をしていると思っていたが、確かにこれでは厠やお風呂が大変だろう、考えて見ればそうだった。

そして鈴音の訓練の御誘いは結月にとってとても嬉しかった。この訓練施設をどう使えばいいか教えてもらえるし逸脱審問官の基本的な戦い方も教わる事が出来るからだ。

「そうだったのか・・・・ここが本拠の最下層なら案内はここで終わりのはずだな、という事はこのまま訓練のお付き合い事になるのか?」

首を横に振る鈴音。

「ううん、最後にある場所を紹介してから訓練には付き合ってもらおうかなって思っているの」

そう鈴音が話しているとこちらに近づく複数の足音が聞こえた。

「もしかしてお前が新入りの逸脱審問官か?」

声のした方を向くとそこには男性二名女性一名の三人組がいた。

声をかけたであろう中央の男は黒髪で髪を後ろに固めており額が良く見えた。目は細くちょっと強面な顔をしていて若干老け顔のように見えたが歳は恐らく二十代後半。

ガタイはとても良く、余分な脂肪のない引き締まった筋肉質の肉体をしていた。

その男の左隣にいるのは黒髪の短髪で黒縁の眼鏡をかけていた男性で、目つきはまるで悪人のように鋭く近寄りがたい雰囲気を出している、(結月に言えた立場ではないが)、体格は年相応だが厳しい試験に合格しただけに筋肉質のように思えた。

そして中央にいる男の右隣にいるのは、赤みのある茶髪の長髪で後ろ髪の最後の方をゴムで纏めており、おでこには自身が筆で「石如必中」と書いた布を巻いている女性。

大人の女性のような顔立ちをしており、細めな体格を含めかなりの美人だ。(鈴音はどちらかと言えば可愛い部類)

皆、逸脱審問官の正装を着ており彼等も結月と同じ逸脱審問官であり先輩だった。

とりあえず結月は自身の自己紹介を済ませる。

「平塚結月か・・・・・・・逸脱審問官を新たに迎えられた事を俺は頼もしく思う、これで強力な逸脱者や逸脱者が複数出たとしても対処しやすくなるからな、では俺の自己紹介をしようと思う、俺の名前は阿久津蔵人(あくつくらひと)歳は二十八で逸脱審問官になって八年目だ、そしてこれが俺の相棒妖犬の虎鉄だ、今はこの三人組の小隊の隊長をしている、これからよろしくな」

蔵人の肩に乗るのは手乗り程度の大きさの妖犬で背中には妖狐、妖猫同様翼が生えていた。

隊長である蔵人の自己紹介が終わると次は眼鏡の男性が自己紹介をする。

「では次は僕ですね、僕の名前は井門修治(いかどしゅうじ)、年齢は二十歳で逸脱審問官になってようやく一年目です、そしてこれが僕の相棒の妖狐の小太郎です、ようやく僕にも後輩が出来てうれしいよ、これから一緒に頑張りましょう、結月さん」

見た目は近寄りがたい程悪人顔だが性格はとても素直で気さくそうだった。

それに結月の事をちゃんとさん付けに呼んでくれた所にさりげない優しさを感じた。

「最後は私ね、私の名前は卯ノ花智子(うのはなともこ)、年齢は二十三歳、逸脱審問官になって四年目よ、そしてこれが私の相棒の妖猫の紫陽花よ、おとなしくて皆の動きをじっと観察するのが好きみたい、後私は射撃には自信あって狙撃手を任されているの、蔵人や修治みたいに前線に立って戦う事はないけど後方で相手の急所を狙って撃つ事で的確に逸脱者に外傷を与えられるわ、中々あなたとは一緒に行動することはあまりないけど何か分からない事があったら相談しなさい、今日逸脱審問官になったばかりで分からない事だらけでしょ?出来る限りは答えてあげるから、お互い頑張りましょう結月」

狙撃手と聞いて結月は彼女の背中を見る。

彼女の背中には確かに小銃の銃身が見えていた、しかし小銃一丁ではいざ逸脱者に狙われた時心もとないと思っているのか刀、小刀、拳銃の標準装備はしているようだ、結月は智子がこれだけの重装備で辛くないのだろうかと思っていた、男女比較するのは良くないがやはり女性とあって若干体は細身で大分負担をかけているのは見るに明らかだった。

(狙撃手も大変だな・・・・・・)

後方にいるから楽という事ではないようだ。

「それにしてもまさかお前に教え子が出来るとはな、にわかに信じられないな」

蔵人は鈴音に向かってそう言った。

「何よそれ!どういう意味なのよ!」

鈴音はムッとした表情で聞き返す。

「そのままの意味だ、良くもまあお前が二年間も生き延びてしかも教え子まで出来るとはな、という事だ」

お前ほどの奴が・・・・?一体どういう意味だろう?結月は気になった。

「あっ!酷い!それじゃまるで私が弱いみたいじゃない!」

そう言い返すが蔵人は否定しなかった。

「確かに初めてあなたがここに来た時、どうしてあなたが逸脱審問官の厳しいテストに合格できたのか不思議に思う程弱そうだったもの、今みたいに明るくなくて気弱だったし、この子はそう長くは生きられないとあの頃は思っていたわ、今でもあんまり強そうに見えないけど・・・・・」

智子も蔵人と同意見だった。

「酷いよ!みんなして!私は一生懸命戦ってきたのに・・・・・」

散々な言われように鈴音は少し涙目になりながらそう言った。

何も言ってないのに自分まで言ったような扱いにされた修治は戸惑っているように見えた。

「一生懸命戦っているのは俺達も同じだ・・・・・・お前でも二年間生き残れたのは運が良いという事だ、運も実力の内と言われるからそれは誇っても良いんじゃないか?」

明らかに馬鹿にされている事に鈴音は腹をたてているようだった。

「結月、お前も大変な上司の部下になったものだな、苦労もあるだろうが頑張れよ」

そう言って蔵人達はその場を去っていった。

鈴音は怒りで体が震えているようだったがため息とともに体の力を抜いた。

「もういいよ、言いたい奴には言わせとけばいいって偉い人も言っていたし気にする必要なんてない、運だけあっても生き残れないよね、実力も確かじゃなくちゃ、うん俄然元気が沸いてきた!」

どうやら鈴音の考え方は前向き思考らしい、結月はこの前向き思考も生き延びられた一因ではないかと思った。

「さあ、最後に重要な場所に案内するよ、着いてきて」

そう言って彼女は来た道を戻り始めた。戻るではあれば何故途中で紹介しなかったのかと結月は思っていた。

到着したのは秩序の間の玄関だった。

ここはもう紹介したはずじゃ、そう結月が思っていると鈴音は結月が最初何に使うか分からなかった壁に穴空いて床には絨毯が敷かれ鐘突きが設置された場所の前にたった。

確かにそこはまだ紹介されてなかったし何の場所なのか知らなかった。

「ここは『禍の知らせ』と呼ばれる場所で幻想郷中を走り回って逸脱者の情報を探る隠密集団「件頭」が逸脱者の情報を手に入れた時ここにやって来てこの鐘突きを鳴らして逸脱者が出た可能性が高い事を逸脱審問官に知らせて同時に逸脱審問官をここに集めて逸脱者の情報を逸脱審問官に教えてくれる場所なんだ、それで私達は件頭が教えてくれた情報を頼りに武器と道具を選んで狩りに出掛けるんだよ」

隠密集団「件頭」の事を結月は講習会で学んでいたので知っていた。

かなり謎に包まれた集団で大雑把な数だけで五人~三十人と曖昧、しかも逸脱者に感づかれないよう一般庶民に変装しており、中には表向きは猟師や露店の商売人として普通に暮らしている者もいるという、さらに情報を常に提供してくれる協力者(鷹の目と呼ばれている)を含めたらかなりの数は要るという噂だった、しかしどれだけの件頭がいるのかどのくらいの鷹の目がいるのか、ちゃんと把握しているのは鼎ただ一人だけらしい。

「天道人進堂の周辺には隠し穴があって逸脱者の情報を手に入れた件頭はその隠し穴を滑ってこの壁に空いた穴の中から・・・・・・」

鈴音はそう説明していたその時、説明していた穴の中から何かが滑ってくる音が聞こえた。

その音と共に何かが滑ってきているとわかって数秒後、薄暗い穴の中から飛び出してくるように現れたのは全身黒づくめの忍者の様な姿をした人だった。

説明していた鈴音は突然現れた黒づくめの忍者に話が途切れる。

「おお、丁度いい所にいたな、鈴音」

声の音程からして三十代くらいの男であろうその者は些か緊迫しているように見えた。

声をかけられハッとして緊張感のある表情をする鈴音。

「件頭!?・・・・・という事はもしかして」

件頭と呼ばれた男は頷く。

「ああ、逸脱者が出た、場所は人間の里から西へ十kmの白露(しらつゆ)の集落その周辺の森、姿は確認できていないが恐らくは未熟種、それ程は強い力を持ってないと思われる、まだ人間に被害は出てないが一刻も早い断罪を望みたい、行ってくれるな?」

逸脱者が出た、その言葉にさっきまでの朗らかとした雰囲気は立ち消え一気に緊張が張りつめる。

鈴音と結月の顔色も変わり先程の穏やかな表情から真剣な表情に変わる。

「博麗の動きは?」

鈴音の聞いた博麗とは博麗神社に拠点としている幻想郷の守護者である巫女「博麗霊夢」の事である。

彼女もまた人妖を幻想郷の秩序を乱す者として敵視しており、彼女自身とても勘が良く先手を取られ標的である人妖を倒してしまう、逸脱審問官の好敵手的な存在だった。

共通の敵なので敵対こそしてはいないが逸脱審問官としては霊夢より先に人間の誇りにかけて逸脱者を断罪することが使命となっている。

「鷹の目からの情報ではまだ動きはないらしい、だが気づくのは時間の問題だろう」

その言葉に良かった、という顔をする鈴音。

そして結月の方を見て問いかけた。

「結月、逸脱審問官になったばかりで悪いけど早速逸脱者が出たみたいだよ、どうする?」

さっきまでの楽しそうだった鈴音の声も打って変わって気合の入った声でそう聞いていた。

「行こう、俺は大丈夫だ、この日のためにちゃんと練習してきたんだ、いつも通りやれば良い」

結月は人間の里にあった、訓練施設での訓練を思い浮かべる。

逸脱審問官の厳しい試験に合格した者が通う事が出来る、正式な逸脱審問官になったその日から戦えるよう本格的な対逸脱者の戦闘訓練を教えてもらえる訓練施設で昨日まで結月は毎日雨の日も風の日も通い詰め体を鍛え戦闘の基礎を学んだのだ。

「流石に逸脱審問官になったばかりの結月を一人で戦わせる訳にはいかないよ、結月はまだ慣れてないと思うから先輩である私が逸脱者の相手をするから結月は援護に徹底して、ここは先輩として腕を見せておかないとね」

逸脱者は自分が倒すと意気込んでいただけに結月は自分が援護側に回る事に少しだけがっかりしていたが、確かに言われてみれば初めての逸脱者との戦いで守護妖獣との息を合わせて行動するのも初めてなので鈴音の言う通り、まずは離れた場所から経験豊富な鈴音の戦い方をじっくり見てみて戦い方や守護妖獣との連携を学んだ方が次の逸脱者の断罪に役に立つと思ったからだ。

(焦るな自分、初めてが二番目に危険で慣れてきた頃が一番危険だ)

逸脱者の出現に昂ぶる気持ちを結月はそう諫めた。

「それじゃ、行こうか!」

互いに顔を見合わせ頷いた鈴音と結月は階段を駆け上がり天道人進堂を後にすると広い道に出た。

「行くよ!月見ちゃん!」

そう声をかけると月見ちゃんはニャアン!と気合の入った鳴き声をあげ鈴音の肩から正面に向かって飛び降りた、すると白い煙の爆発が起きその煙がたち消えるとそこには人が跨れそうな大きさまでになった月見ちゃんの姿があった、手乗りの時と比べると可愛さは抑えられ代わりに虎のような筋肉質な体になっており顔も虎の様な厳つい顔をしていた。

「よいしょ、と・・・・・ほら結月も明王をこの姿にして」

鈴音は巨大化した月見ちゃんの背中に跨る。

逸脱者が出た時、逸脱審問官はこれに乗ってその場所まで移動するのだ。

鈴音にそう言われ結月は肩に乗っている明王の方を見る。

「明王、行けるか?」

そう問いかけると明王はコン!と口にして飛び降りる、先ほどと同じように白い煙の爆発が起きそれがたち消えるとそこには並の狐よりも遥かに大きい、堂々たる妖狐、明王の姿があった。

「背中・・・・・乗ってもいいか?」

ガウ、と返事をした明王、それが「はい」なのか「いいえ」なのか分からないがとにかく背中に乗ってみる、抵抗はない、という事は「はい」だったのだろう。

「よし!それじゃあ行くよ結月!しっかり掴まってないと振り落とされちゃうよ」

そう言って鈴音は月見ちゃんに発破をかけると月見ちゃんは物凄い速度で走り始めた。

結月も鈴音の動きを真似して発破をかけると明王は物凄い速度を出して月見ちゃんの後ろを追っかけ始めた。

「!?!」

物凄く速い上にかなり揺れるので、結月は振り落とされないよう必死に掴まっていた。

一方の鈴音は手馴れた様子で乗りこなしていた。

きっと鈴音は自身が風になったかのような爽快感を感じているのだろうが結月にはそれを感じる暇がなくただひたすら到着するまで振り落とされないよう必死だった。




第三録読んで頂きありがとうございます。
いかがだったでしょうか?読んでいてカタカナが気になった人がいるかもしれません。
実はこの小説を先に読んでくれる友人達から「幻想郷は江戸時代から明治初期の日本の様な世界だからカタカナはあまり使わない方が良い」と言われていました。
確かに幻想郷という世界観から見てカタカナをは不自然に感じますね、使わないよう努力している方なのですがどうしてもカタカナの方が伝わりやすい場面があり無意識の内に使ってしまいます、なかなか難しいですね。
実際二話以降はカタカナを使わないよう努力したのですが一話はカタカナが結構使われています、本当に申し訳ございません。
別にカタカナがあっても大丈夫だよ、と思っている読者様がいれば嬉しいのですが、修正するべきなら修正するので宜しくお願い致します。
では、後書きはこれで終わりです。

追記
・こちらも和製英語と英語と思われる部分をなるべく修正しました。
・英語と和製英語の修正、誤字脱字・表現方法を修正しました。

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