人妖狩り 幻想郷逸脱審問官録   作:レア・ラスベガス

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こんばんは、レア・ラスベガスです。
今回の話で第三話は終わりとなります、第三話も投稿遅れなどあって読者の皆様の迷惑をかけてしまいましたがここまで読んで頂きありがとうございます。
第四話以降もよろしくお願いします。
それでは第二十一録更新です。


第二十一録 月明かり覆う黒い翼 十一

翌朝、逸脱者の頭はレミリアの槍に刺さったままの状態で人間の里の処刑場に晒され多くの人だかりが出来ていた。

逸脱者の頭は網目状の木格子を挟んで晒されておりその外側から人間の里の住人や旅人や商人、そして逸脱者に殺された者の家族や村や集落の住人が毎夜の蝙蝠の大群を操り人間を襲っていた犯人の姿を眺めていた。

「立て札によるとあの槍に刺さっている頭の奴が連日飛び回っていた蝙蝠の大群の親玉であり五人もの人間を襲っていた犯人だそうだ、しかもその正体は人妖だったらしい」

幾つも設置された立て札を見て人々は事の真相を知る事となった。

元々は人間だったとはにわかには信じられない絶望に歪んだ顔をした槍に突き刺さった人妖の頭を前にして人々の中にこの事実を疑う者はいなかった。

夜な夜な飛び回っていた蝙蝠の大群も行方不明者も人妖が仕業だったと知り集まっていた人々はざわめいていた。

「まさか人妖だったとはな・・・・・・人間だった者が人間を襲うとは何と恐ろしい事を」

犯人が人妖だったと知り驚く者。

「自分の欲望のために他の人様に迷惑をかけ挙句関係のない者の命を奪うとは・・・・・全く人妖とは愚かな存在じゃ」

人妖に対し嫌悪感を強める者。

「真弓・・・・・真弓・・・・・まゆみぃ~・・・・・・・」

娘を殺した犯人を前に嘆き悲しむ者。

「この・・・・・外道野郎が!地獄に落ちやがれ!」

殺された理由を知り怒りに震え逸脱者の頭に向けて石を投げつける者。

感じる事は人それぞれであったが共通して人々の中に人妖・・・・・逸脱者に対しての嫌悪感が処刑場に集まる人々の中で増し石が投げ込まれた事がきっかけで人々が連日続いていた蝙蝠の大群や行方不明者に対する不安や恐怖が怒りに変わり鬱憤を晴らそうと木格子の外側から逸脱者に向けて石が次々と投げ込んでいく。

逸脱者の的当て会場と化した処刑場、投げられた石の幾つかが槍に突き刺さった逸脱者の顔にぶつかりその衝撃で槍が揺れる、それでも逸脱者は断末魔をあげているかのような絶望に満ちた表情をして白目をむいた目は澄んだ青空を見つめていた。

夜の世界を飛び回る蝙蝠の姿をした逸脱者が光満ち溢れる世界で首だけの状態で晒される光景は逸脱者の短い栄光の終焉を示しているかのようだった。

その日を境に蝙蝠の大群と行方不明はパッタリと収まった事で蝙蝠騒ぎは収まり人間の里はいつもと変わらない日常を取り戻していった、そしてあれほど騒がれた紅い悪魔にかけられた疑惑も次第に消えていった。

 

結月と鈴音の姿は天道人進堂最上階の鼎の執務室にあった。

「そうか・・・・・・逸脱者の止めをレミリア嬢とフラン嬢に横取りされたか」

鈴音と結月は鼎に逸脱者の断罪に失敗した事を報告していた。

成功した場合は件頭に成功の報告をして終わりだが失敗したり先を越された場合は鼎に報告するようになっていたからだ。

「すみませんでした、あと一歩まで行ったのですが・・・・・」

だがあの状況ではレミリアとフランに止めを譲るほかなかった。

相手が吸血鬼である以上、ちっぽけな人間である自分達が逆らえる訳がなかった。

「逸脱者の断罪に失敗した場合、報酬は支払われない・・・・・確かそうだったよな?」

逸脱者の断罪に失敗したり先を越された場合は逸脱者にかけられた賞金は支払われない事になっていた。

もちろん結月も鈴音も賞金が欲しくて戦っている訳ではないが念のためそういう規則であった事を確かめる。

「確かに規則ではそうなっているな・・・・・・だが今回は特別手当として今回の逸脱者にかけられていた賞金と同額の30万を振り込んでおこう、後は二人で相談して分け合うと良い」

鼎は決して適当やいい加減な性格ではなかったがどんな時でも規則通りに従うような厳格な人間でもなかった。

「本当にいいのか?」

鈴音と顔を見合わせた後そう聞いてきた結月にああ、と答えた鼎。

「確かに逸脱者の止めは刺し損ねたがそれでもあと一歩の所まで追い詰めた事はちゃんと評価しなければならない、止めを奪われたから賞金なしではあまりにも君達に申し訳ないからな、人間の尊厳や誇りを守るために戦ってくれた事は事実だ、それに誇り高き優れた種族である吸血鬼としての面子もあっただろう、そういう事情も考えれば逸脱者の止めをレミリア嬢とフラン嬢にとられたのは致し方のない事だ」

レミリアとフランは誇り高き優れた種族である吸血鬼を名乗っている以上、レミリアとフランの考えがどうであれ吸血鬼の名を汚した逸脱者をこのまま逸脱審問官に全て任せてしまっては吸血鬼の面子が立たないと考えたのだろう。

だからこそ逸脱審問官と逸脱者との戦いを隠れた所から観戦し止めの直前に現れ自分達の手で止めを刺す事で逸脱審問官と吸血鬼、両方の面子をたてたのだろう。

逸脱者をあと一歩まで追い込んだのは逸脱審問官で止めを刺したのは吸血鬼、こうすれば互いに違う目的でも互いの顔が立つからだ。

「だがレミリア嬢とフラン嬢が動いていたという事は例え君達が動かなくても博麗の巫女に動きがなくても恐らく数日中に逸脱者は死んでいた事だろうな」

鼎は結月達に背を向けると天道人進堂の畑と牧場が一望できる窓に目を向ける。

「皮肉なものだな、妖怪からの支配に逃れようとして人妖になった者が反ってそれが吸血鬼の怒りを買う事になろうとはな・・・・・」

哀しそうな喋り方でそう言った鼎、それに対して結月は強い憤りを感じていた。

逸脱者は自分達や博麗の巫女が動かなくても吸血鬼によっていずれは殺される事が決まっているも同然だった、ならば逸脱者が殺した六人の人間はほぼ無駄死だったといえるからだ。

無論、生き残って欲しいと思う気持ちは微塵もない、だがいずれ殺される運命だった存在に巻き込まれ奪われた命は一体何だったのか?残された者達の悲しみは何処へ行くのか。

失われた命は二度と戻ってこない、だからこそ自分の体を維持するためという身勝手な理由で六人の人間を殺していた逸脱者に対して結月は憤りを感じているのだ。

「怒りに震えているようだな、結月」

鼎は窓から目を逸らしていないのに結月の考えを見透かすようにそう言った、もちろん後ろの目がある訳でもなく心を読んだ訳ではない、結月ならそう思っているだろうと見越しての一言だった。

窓を眺めていた鼎が振り返り再び結月と鈴音の方を向く。

「だからこそ、このような悲劇がもう二度と起きないよう情報専門の隠密集団である件頭が毎日、昼夜をとわず幻想郷の様々な情報を集めており、もし逸脱者が現れた時、一刻も早くその事を認知できるよう常に努力している、彼らのような存在がなければ君達、逸脱審問官がその力を発揮する事は出来ないのだ、そんな件頭の努力と期待に応えられるよう逸脱者の被害を最小限に抑え短時間で断罪できるようこれからも鍛練に精を出し給え」

幻想郷の秩序を保ち人間の誇りや尊厳、そして多くの失われてはならない命を守る事は逸脱審問官の願いでもあり件頭の願いでもあるのだ。

件頭の思いを背負って結月と鈴音はさらなる高みへと邁進していく決意を固めたのだった。

 

後日、受付嬢の桃花が秩序の間の玄関広場を訪れた。

本来なら彼女はここを自由に行き来する事は出来ないのだが逸脱審問官宛に届け物がある時だけは入る事が出来た。

「鈴音様~、結月様~、お届け物ですよ~」

受取人は結月と鈴音であり差出人はレミリアだった。

届け物は肌触りの良い紫の布に包まれており赤色のリボンで結んであった。

結月と鈴音は一体何の事かと思いながらも互いの自室に戻りリボンを解くと布がハラリと開き中から西洋風の綺麗な細工が施された金属製の箱が現れた。

その西予風の綺麗な細工が施された金属製の箱の蓋を開けると中には一通の封筒と焼き菓子の詰め合わせそして鈴音にはワイン、未成年者の結月には葡萄ジュースが入っていた。

封筒には差出人や宛先等は書かれておらず代わりに封筒の開け口には紅魔館の紋章と思われる朱肉で留められていた。

封筒を開けると中には手紙が入っており恐らくレミリア直筆の文章が短いながらも書かれていた。

「我が従者を助けてもらった件を含め吸血鬼に濡れ衣を着せた人妖と戦ってくれた事を深く感謝する これはその感謝の意を込めて贈らせて頂く レミリア・スカーレット」

達筆の英語の様な書き方で書かれた日本語の文章は若干読み辛かったがどうやらこの前のお礼のようだった。

受け取った時、何となくは察しがついていたがまさかレミリアからあの時のお礼が届くとは思わなかった。

見た目こそ十歳も満たないような人間の幼女の様な姿をしているが相手が人間であっても筋は通すあたり中身は見た目ほど子供ではないようだ。

「吸血鬼・・・・・どれほど恐ろしいものかと思っていたが、案外悪い奴ではないかもしれないな」

レミリアとフランとの出会いは結月の中にあった吸血鬼のイメージに変化を生じさせるものだった。

もちろん異変を起こしたり人類を遥かに凌駕する力を持っていたりと恐ろしい面もあるが一概に悪い奴とはいえないのかもしれない。

(鈴音がレミリアとフランと顔見知りと分かった以上、これからも何かの縁で関わる事になるだろう、もう少し様子を見ながら見極めても良いだろう)

そう思いながら結月はクッキーを取り出すと口の中に入れた。

 

その日の夜、夜空に月が浮かび暗闇と静寂に包まれる幻想郷を優しく見下ろしていた。

先日まで至る所を飛んでいた蝙蝠の群れはパッタリと見かけなくなりいつもの静かな夜が訪れていた。

そんな静かな夜に聞こえるのは梟の鳴き声とそよ風の音、そして遠くから聞こえる夜雀の歌声くらいだ。

特に夜雀の歌声がとても甘美で耳を澄ましたくなるような美声で歌を歌っているがそれに決して耳を澄ましてはいけない。

彼女が歌を歌うのは人間を誘き寄せるためでありこの歌を聞き続けた者は一時的に鳥目になってしまい道が分からなくなった所で夜雀に襲われて食われてしまうのだ。

彼女の歌声が突如として止まる時それは彼女が獲物となる人間を襲ったという合図である。

距離がある程度離れていれば多少ばかり歌声が耳に届いても魅入られる心配はない、しかし聞き過ぎればやはり鳥目になってしまう。

木々を飛んで移動する件頭にとって視界を奪われれば枝から足を滑らせ大怪我をするし、打ち所が悪ければ一撃でお陀仏である。

そのため件頭の規則では夜間移動中は夜雀の歌に耳を澄ましてはいけないとなっている。

しかしそんな規則であるにも関わらず新人の件頭はつい夜雀の美声に聞き入ってしまい視界がぼやけてその際、木から滑り落ちて怪我をする事案が度々発生しており件頭の長である風馬の悩みの一つだった。

大木から飛び出るように出た枝の上に乗る風馬は夜雀の歌声を聞き流す程度で済ましていた。

件頭の長である風馬ですら少しくらい耳を傾けたくなる様な甘く蕩けてしまいそうな美声なのだ。

件頭の間では一時期夜間は耳栓をしたらどうかという話もあったが視界が悪い時だからこそ聴覚は情報収集や身の危険を察知するために聴覚が頼りになる事や逆に夜雀の美声がないと調子が出ないという者もおり結局却下された。

「・・・・・・」

風馬の腕には結月と鈴音が貰った西洋風の細かい細工が施された金属製の箱を抱えておりその箱から視線を外さなかった。

夕方、今日集めた情報を鼎に報告しようと天道人進堂の執務室を訪れた時、鼎から紅い悪魔からお届け物を預かっていると言われ手渡された物だった。

「吸血鬼にかけられた疑惑を晴らしてくれて感謝する そなたこそ天狗に勝るとも劣らぬ人間随一の耳と目を持つ男であろう レミリア・スカーレット」

そう書かれた手紙と共に焼き菓子の詰め合わせとワインが入っていた。

レミリア・スカーレット、名前は良く知っていたが風馬は二つ名である紅い悪魔の方が気に入っていた、紅霧異変を起こし幻想郷を支える一柱として相応しい名だと思っていたからだ。

そんな紅い悪魔から幻想郷で情報屋として飛び回るあの天狗と同等の耳と目を持つとまで称された風馬だったが彼の顔に喜びの色はない。

(紅い悪魔としては人間にしては良く頑張った方と思っているのだろう・・・・だがこの結果は決して満足できるものではない)

結局、逸脱者によって六人もの人間が殺されるまで逸脱者の正体を特定できなかった、幾ら自分達が人間だとしても幾ら相手が逸脱者で自身の正体をバレないよう証拠隠滅していたとしても特定に五日も掛かってしまった事は悔やまれる事だった。

風馬からしてみれば自分が不甲斐無かったばかりに六人の人間を見殺しにしてしまったのだ。

もちろん風馬も人間なので六人の人間の死を全て風馬の責任にする者はいない、だが人間だからしょうがないと甘んじてもいけない。

常に上を目指し続け逸脱者が現れた時、いち早く逸脱者を認知できるよう常に正確で信頼できる情報を集める、それが件頭の使命であり、一人も人間の犠牲を出さずに逸脱者を見つけ出し逸脱審問官に願いを託す、それが風馬の理想であり望みであった。

彼は決して立ち止まらないそれは逸脱審問官も同じだろう、互いに逸脱者の一刻も早い断罪を目指して努力を続け経験を積んでいくのだ。

風馬もまた完成された存在ではなく不完全であり、されど今も尚成長を続け理想を目指しているのだ。

「・・・・・・今宵も月が綺麗だな」

風馬は空に浮かぶ月を見上げるとそう呟いた。

蝙蝠の群れで遮られる事が多かった月もようやく綺麗に見る事が出来た。

こうして久しぶりに見る月の感覚は紅霧異変が終わりベッドで横たわっていた時に見た月と似た様な感覚だった。

「時経てど、変わらぬ月の、美しさ」

長い時間が経ち自分はあの頃と比べ色々変わってしまったが月はあの頃と同じ美しい姿で幻想郷の夜空に浮かんでいる。

感じた事をそう一句認めた風馬は月を見て今日もまた様々な思案に耽る。

月はあの頃と何一つ変わらない儚げながらも優しい光で幻想郷を照らしていた。




第二十一録読んで頂きありがとうございます。
いかがだったでしょうか?最初の頃は初投稿とあって迷惑ばかりかけてきましたが今は操作の方は大分慣れてきました。
投稿遅れなどもありましたがとりあえず第三話が投稿出来てほっと一安心しています。
ただ第四話以降は更新が月二回程度まで減るかもしれません、自分の身の回りの状況が変わった事や執筆が遅々として進まなかったのが原因です。
毎度ご迷惑をおかけしますがご了承をお願います。
さて、後書きを書いていて気を付けている事があるのですがそれは同じ内容の後書きはなるべく書かないようにする事、当たり前のように思えて結構難しいです、先週や先々週の後書きは覚えていてもそれより前になると振り返らないと分かりませんし初期の後書きや前書きに至っては何を書いたのかよく覚えておりません。
ボケているとか思わないでください、元々私は物覚えが悪い方ですし、今まで書いた前書きや後書きの内容を事細かに覚えている人の方が珍しいのではないでしょうか?
何を書こうかは少し考えれば思いつくのですが前に書いた後書きや前書きに被ってないか心配になります。
もし前回と同じ内容の前書きや後書きを書いていたら・・・・・・・あっこれ前読んだ事あるな、と思って読み飛ばしてください。
それではまた金曜日に。

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