パソコンの調子が悪いのかもしれません、最近は色々と不調に感じる所があります。
新しいパソコン買おうにも金が掛かるので中々踏み切れません。
さて小説の話に戻りますがこの小説を書くに至って東方初心者の方にも読んでもらいたいという思いから東方キャラクターの説明や東方の知識をあえて書いています。
東方を前から知っているという人にはそんな事知っているよと思う部分があると思いますがご了承ください。
何分自分自身も東方に興味を持ったのはとある人の小説やイラストを見たのが切っ掛けだったので自分の小説を見て東方を知るきっかけになれたらなという思いで書いています。
その割に東方キャラクターが出てないのだけど・・・・と言われると返答に困ります、理想と現実は厳しい物ですね。
さて、第一録の前書きでこの小説のテーマを人間の複雑性や不透明感を感じ取ってもらいたいと書きましたが自分が書いた第一話~第二話を改めて見てみると・・・・・あまり人間の複雑性や不透明感を感じる描写が少ないような・・・・・。
まあ、第一話~第二話は天道人進堂や逸脱審問官がどういったものなのか、どんな風に東方キャラクターと馴染んでいくのか分かってもらえる話だと思ってもらえると嬉しいです。
それでは第二録更新です。
階段を登りきるとまばゆい光が目に差し込んでくる。
ずっと光のない場所にいたのだ、暗闇に目が慣れていたのでごく当たり前の光でも眩しくて直視できなかった。
それと同時に光のある有難さを再認識する、やはり暗闇では人間は生きられない。
そう実感させられた、逆に暗闇でも平気でいられる妖怪は比較的光を嫌う所がある。
これは光のある世界を好む人間と光無き世界を好む妖怪との決定的な差なのかもしれない。
最も妖怪の中には光の中でも平気でいられる個体もいるから全てではないのだが・・・・。
目が慣れてきてようやく周囲の様子がわかるようになる、そこは楕円形を半分に割ったような天井が高い土造りの開けた何もない空間だった。床は白く、壁は赤く、壁上部に左右に五つずつ作られた四角い簡素な窓がこの空間を光で照らしていた。この空間だけ見るならばここは幻想郷かと疑うくらいの異国の雰囲気が漂う空間だった。
最初ここに案内された時は何処か幻想郷らしくない雰囲気が漂うこの空間に戸惑い、そしてこの空間に唯一ある天道人進堂の最深部にある儀式の間に繋がる地下階段を見た時、この階段を降りたら幻想郷とは違う世界に迷い込んでしまうではないかと思う程、心の隅で恐怖を覚えた。
もしかしたら鼎の言動を考えるとわざとそうした創りにしたのかもしれない。
彼は逸脱審問官になろうとしている者をわざと煽り、その決意が本当かどうか試していた。
恐らくそれにちゃんと答えられた者が彼に取って相応しい人生をかける覚悟のある逸脱審問官であり臆病風に吹かれて逃げ出すような者は厳しい試験に合格しても逸脱審問官にしたくないのだろう。
だからこそこの空間もあの契約の間も恐怖を煽るように作ったのだろう。
「さて次は・・・・・」
鼎の言う通り地上に戻ってきたがその後どうすればいいか、結月は教えられていなかった。
ここで待っていれば鼎達も戻ってくるだろうが、どうすればいいか分からず、ずっと待っていましたでは何ともかっこ悪いのでとりあえず最初ここに案内された道を戻る事にした。
結月はこの空間を唯一の出入り口である扉を開ける、扉の向こうは簡素な屋根で覆われた壁のない木造の長い廊下一本、赤色と白色の二色を基調にした大きな木造の建物に向かって伸びていた。
あの赤色と白色の二色を基調とした大きな木造建築こそ天道人進堂の本部である。
廊下から一望できる外の風景はとても長閑で手入れされた草原と魚の泳ぐ池と小さな川があり奥には妖怪の住み心地が良い鬱蒼とした森が広がりそよ風の音がしっかりと聞こえる程辺りは静かだった。
結月は外の景色を見ながら廊下を歩いていると花々が咲き誇る場所に見慣れた妖魔の姿を見る。
半袖とスカートが一体となった服を着て幼い人間の幼女の様な姿をしているが髪色は緑や青と人間には染めなきゃ到底無理な地毛を持ち、背中には虫系や見た事もないような羽根が生えている。
幻想郷に有り触れた存在である「妖精」というものである、自然現象に宿る意志であり本質である、本来は人間の目には見えぬ存在であるが幻想郷では次元が歪んでいるため常にその姿を見る事が出来るらしい(逸脱審問官に目指す者達に渡される公式の参考書の一冊に書いてあった)もちろん全てではないが・・・・・・。
妖精は二匹おり、摘んだ花で花飾りを作り遊んでいた、髪色や服装、せめて羽さえなければ人間の女の子とあまり差異はない。
妖精というのは知能もあり実は人間と普通に会話できるものもいる、そのため昔は妖精を労働として使役出来ないか試みられた事もあったようだが、妖精は基本自分優先でやりたい事があったらそれを優先するので、まともに働いてくれずあげくの果てには仕事道具を壊されるは工場を滅茶苦茶にされるはで結局、諦めたらしい。(それも参考書に書いてあった)
「結局、自然現象は人間の手には収まりきらぬが摂理か・・・・・」
それは人間が自然現象を完全に掌握する事など出来ないという自然の摂理を表しているような話だった。
こうしてその可愛らしい姿を遠くで見るのが無難なのである。
「コンコン」
うんうんと頷く肩に乗る手乗り妖狐、まるでこちらの言葉を理解しているようだが本当に理解しているかどうかは定かではなかった。
結月は妖精を見るのをやめると再び廊下に歩き始めた。
天道人進堂は変わった構造で出来ている。
建物自体が六角形で組み上げられており三階建てで見た目は何処かアジア系の建物である。
地上の施設は表向きの仕事である慈善社会活動拠点であり多くの職員が働いている、その多くが人間の里出身であるが集落や村からやってきている人達もいる。
また数名であるが物好きな妖怪も働いておりある意味では幻想郷で有数の人間と妖怪が平等な地位で働く希有な組織である。
一~二階が慈善社会活動拠点として使われているが三階はここの大旦那である鼎玄朗の執務室であり呼ばれない限りは入る事の許されない部屋である。
そして慈善社会活動拠点である三階建ての六角形の左右には一戸建ての六角形の建物が併設されており、正面玄関から左が畑で採れた野菜を管理する建物、右が家畜で育てた動物を管理する建物になっている。
天道人進堂の周囲(特に正面玄関)は人間が歩くための一本道以外は全て畑と家畜小屋であり安全安心そして美味しい食材を収穫している。
その食材でお弁当やお菓子を作り人間の里で販売しており、これが天道人進堂にとって貴重な収入源となっている、ちなみにお弁当やお菓子は結構評判良く大手銀行や大手雑貨屋から会社ぐるみで注文を受ける事もある。
そんな天道人進堂の室内もまた独特である、室内も木造で柱は赤色、壁は白色、床は滑らかな木の板を並べるように組まれており、壁には幻想郷では珍しい白黒の写真が額縁に入って飾られており幻想郷の様々な場所の風景が写されている、吸血鬼が住むという紅魔館、桜の木で有名な冥界にある白玉楼、迷いの竹林の先にある永遠亭まであり一体誰が撮影したのか?(いや大体あの人しかいなさそうだが)と思うような写真ばかりである。
大広間のような玄関には中央に小さなヤシの木と南国の植物が植えられここに来る人を驚かせと同時に楽しませる工夫がされており、幻想郷では珍しい珈琲店があり美味しい珈琲の他にもココア(カカオ豆と砂糖などの甘味料を加えた飲み物)も飲む事が出来る。
どれも大旦那である鼎玄朗の発案であり結月には鼎がどのようにしてその技術を手に入れたのか、また何処で幻想郷にはない植物の種子を手に入れたのか、それを手に入れる鼎とは一体何者なのか?計り知れなかった。
結月が今いる場所は先程の廊下を抜けた先、天道人進堂の裏口だった。
結月の前には地下へと降りる階段があり二人の武装した男性が守っていた。
恐らくあそこが逸脱審問官の地下総合施設に繋がる階段なのだろう。
秩序の間は関係者以外立ち入り禁止なのでああやって守っているのだ。
結月は契約の儀を終え晴れて逸脱審問官になったので通れるには通れそうなのだが本当に通っていいのか、彼は迷った。
「やはり一度聞いてみるか・・・・・」
結月はそう思うと地下総合施設に行く階段を通過し玄関にある受付に向かう。
数時間前契約の義を行うためにやってきた時、ここの受付嬢が契約の間に繋がる地下階段をある場所まで案内してくれたからだ、何か知っているのかもしれない。
確か後ろ髪に桜の枝風の髪留めをした茶髪の若い女性だった。
玄関に行き受付の方を見ると桜の枝風の髪留めの茶髪の女性がいた。
「すみません・・・・・」
声をかけると受付嬢が結月の右腕を見るなり思惑を含むような笑顔を見せた。
「結月様ですよね、無事に契約の儀を終わらせたみたいですね、おめでとうございます、それで・・・・・どうされましたか?」
その顔はどうしてここに?という顔だった、その顔を見た時結月は次に自分が何処に行けばいいか大体理解したのだがとりあえず念のため聞いてみる。
「契約の儀は済ませたのだが・・・・・次に何処にいけばいいか、鼎さんから聞いてない、もし知っているなら教えてほしい」
ああ、それでしたらと彼女はさっき結月が通り過ぎた道の方に手をかざす。
「結月様は逸脱審問官になられましたので本拠に通行可能ですよ、番人の方に右腕を見せれば通してもらえますよ、その後は地下一階「秩序の間」で結月様の専属上司の方がお待ちしていますのでその方の指示に従ってください」
どうやら地下総合施設は本拠と呼ばれているらしい。
ああ、やっぱりそうかと思い、心の中で恥ずかしくなる。
「ありがとうございます」
そう言って立ち去ろうとした時、受付嬢が話しかける。
「気にしなくてもいいですよ、鼎様は雰囲気を結構大事にする御方なのでたまに言葉足らずになる事があるんです、前にも二・三人あなたのようにここに来た新人の逸脱審問官もいましたし・・・・・気を落とさないでください」
自分以外にもそんな人がいる事に驚きつつも自分以外にもいる事に内心ホッとしていた。
確かにあの時、契約の儀の緊張感と雰囲気に流されて、次にどうすればいいか聞き逃した逸脱審問官も多そうだろう。
すまない、と口にしつつ結月は来た道を戻り二人の番人が守る本拠に繋がる階段前にたつ。番人は無言で槍を構えて立ち尽くしており常に臨戦態勢をとっているように見えた。
本当に通っても大丈夫なのかと戸惑いつつも右腕を見せる。
番人は顔色一つ変えない、実は精巧に作られた人形だと言われても気づかない程、微動だにしなかった。
「・・・・・・」
とりあえず見せたので警戒しながら階段に足を踏み出す。
門番に動きはない、階段を二・三歩降りた所で安堵として階段を降りた。
階段を降りるとそこは人工的に作られた空洞が広がり契約の間と比べ綺麗に土が掘られており床には木の板が張ってあった、また木材や鉄で各場所に補強がされており契約の間と比べると強度はありそうだった。
そして契約の間と違いこちらは各所に松明や灯篭や蝋燭が設置されており明るかった。
もちろん、空気の換気口もちゃんと掘られている。
恐らくここが逸脱審問官の活動拠点である秩序の間、その玄関なのだろう。
円状の空間には色々なものがあった、右側の壁には掲示板が張られ、様々な情報が書かれた紙が貼られておりこれまでに幻想郷で確認された人妖の数や種類も表で詳しく掲示されていた。
また、右側には簡易的な雑貨屋があり様々な物が売られていた。
店構えは簡易的ではあるものの品ぞろえは良さそうだった、生きていくために必要なものは大抵揃っている感じだった。
その雑貨屋の隣には道具屋もありこちらは逸脱者を断罪する時にあると役に立つかもしれない補助道具が売られていた、様々な姿や特性を持つ人妖に対して有利に戦うためには補助道具にはとてもお世話になる事だろう。
左側にはお酒の飲む居酒屋がありこちらも簡易的ではあるものの御品書きは豊富そうだった、こんな昼間にも関わらずもう一人座って飲んでいた。
居酒屋の隣には床に絨毯がしかれその上に小さな鐘突きが設置された場所があり壁には人一人が通れそうな穴幾つも掘られていた、用途は不明だが恐らく何らかの逸脱審問官に関連ある場所なのだろう。
そしてその隣には紫色の布がかけられた机があり占い師が使うような水晶玉が小さな座布団のようなものに置かれていた、占いもしてもらえるのだろうか?
逸脱審問官がそんな運頼みするような組織にはとても思えなかった結月には不思議でしかなかった、それともこれだけ過酷な仕事だと藁にも縋りたくなるものなのだろうか。
そして正面にあるさらに下に行く地下階段の頭上には天道人進堂の掟が書かれた大きな額縁が飾ってあった、あれを見ていると一人の逸脱審問官になった身として引きしまる気がした。
そんな充実した玄関を見渡していると横から声をかけられた。
「もしかして、あなたが平塚結月さん?」
声をした方を向くとそこには自分と年齢が近いであろう女性が立っていた。
茶髪のセミロングでカチューシャを着けており、パッチリとした目をしておりあどけなさ残る顔立ちをしている。
見た目年齢相応の体格をしているが童顔のせいで若干幼く見えた。
服装は洋式の紺色の上着とズボンと靴を装着しており、ズボンにはベルトが巻かれ拳銃を入れるホルスターと大小の刀と小刀が携えられていた。
しかしよく見ると露出しているはずの手や足首に首回りに黒い密着したゴム製のようなものが見えるため、上着やズボンの中に何かを着こんでいるのは確かだった。
「そんなにジロジロ見ないでよ・・・・・恥ずかしいじゃない」
顔を赤らめながら女性にそう言われ結月は女性の体をマジマジと見ていた事に気づき謝る。
「すまない・・・・・逸脱審問官にこうして面を向って会うのは初めてだったので」
確かに幾ら興味があっても女性の体をマジマジと見ては品定めを受けているようで女性は不愉快に感じるだろう。
冷静さを保っている結月だったが心の奥ではちゃんと見た逸脱審問官の服装に心臓がドキドキしていた。
「まあ、そういう理由なら仕方ないよね、そういえば私も初めてここに来た時はあなたと同じ様な反応をしたような気がするし」
何処か懐かしそうにそう語る女性、その目は何処か懐かしんでいるようにも見えたし悲しそうにも見えた。
何かあったのだろうか?結月は気になったが話しかける前に話が戻った。
「ところで返事がもらえなかったけどあなたが平塚結月さん?」
しかし寂しげな表情はすぐに変わって明るい笑みを浮かべながら結月に興味を示す女性。
「ああ、そうだ、自己紹介が遅れてすまない、俺の名前は平塚結月、年齢は19、肩にいるのは俺の相棒になった守護妖獣の妖狐だ・・・・もしかしてあなたが俺の上司になる・・・・」
うん、としっかりと頷いた女性。
結月はここでこの女性がこれから一年間共に行動し一人前の逸脱審問官に教育してくれる上司である逸脱審問官である事を知った。
「自己紹介がまだだったね、私の名前は飯島鈴音、歳は21歳で逸脱審問官になった二年目だよ」
21歳、結月は女性の年齢を聞いた時、顔には出さないが少し驚いていた。
驚いたのは別に上司が女性だったからではない、結月にとって自分を教育してくれる逸脱審問官がちゃんとしっかり教えてくれる人を望んでいたので男性でも女性でも良かった。
彼に性別に特に区別意識はなかった。
彼が驚いたのは二歳しか違わぬ年齢だった。
てっきり結月はそれこそ五年や十年逸脱審問官を務めた熟練者で年齢も三十代以上とかを想像していたので、まさか自分より二歳しか違わずそしてまだ逸脱審問官になって二年目の人が自分の上司である事に驚いていた。
(熟練者はやはり逸脱者の断罪で忙しくて新人の教育する暇なんてないのか、それともこの女性は二年目にして熟練者と呼べるほどの優秀なのか)
もしくは、熟練者になる前に死亡するので熟練者なんていないのか。
一番恐ろしい憶測だがありえない話ではなかった。しかし結月はあえてその憶測だけは考えないようにした。
「そしてこれが私の相棒の妖猫の月見ちゃんだよ、かわいいでしょ?でも可愛いだけじゃなくてしっかり者で結構強いんだよ!」
彼女の背中に隠れていた薄青色の翼の生えた手乗り妖猫が鈴音の肩に乗る。
「そういえば結月の相棒はもう名前決めてあるの?」
名前を呼び捨てされた事に結月は気にはなったが考えて見れば上司として部下に「さん」付けはそれはそれで違和感を覚えるだろう。
それに鈴音は逸脱審問官としては先輩だ、呼び捨てされても仕方のない。
それはそうと鈴音にそう聞かれ結月は自分の肩に乗る妖狐を見る。
妖狐も結月の方を見ていた。
「・・・・・・まだだ」
これから一生を共に歩む事になる相棒だ、名前はとても重要だった。
しかし結月は妖狐の名前に関して案がなかった。
鼎からは最終試験に合格し規約書に署名した後、相棒となる守護妖獣の話を聞かされており名前も決めておくように言われたが考えても考えても浮かばなかった。
結月にとってそれはまだ会った事のない相棒の名前を決めていいものかと言う悩みでもあった。
結局、名前が決まらず契約の儀の行う日を迎えてしまったのだ。
「そっか・・・・・・でも名無しじゃ可哀相だよ、せっかくこれからの人生の一生を歩むのに」
それは結月も分かっていた、だから今一生懸命考えているのだ。
「・・・・・色々と考えたんだがやっぱりちゃんと会ってから決めたかった」
結月の答えに鈴音はおお、と口にした。
「結月はその妖狐とちゃんと出会ってから決めたかったんだね、それはとても良い事いいと思う、お互い納得がいく名前がいいよね、私は真っ暗な夜に明るくも寂しく光る月を見るのが好きだったから月見ちゃんって名前にしたの、結構この子も気に入っているんだよ」
鈴音は嬉しそうにそう語った、月見ちゃんもゴロニャ~ンと喉を鳴らしている。
「ちなみに妖狐の属性は何なの?」
鈴音の口にした属性、それは守護妖獣が持つ妖怪的能力の中で最も重要な特性である。
守護妖獣は人工的とはいえれっきとした妖怪なので、幻想郷に暮らす妖怪が持つ基本的な能力を持っている、夜でも視界がハッキリと見えたり、妖怪の気配を感じたり、幻術や催眠術等が効き辛かったりなど様々ある。
だが基本的な妖怪的能力の他にも妖怪には個性である属性というものがある。
それはその妖怪にしか出せない特徴であり、時折似たり寄ったり、もしくは被る事もあるが妖怪一人一人が一つずつ持っており誰もが出来る訳ではないその妖怪の個性である。
逸脱審問官は相棒の属性を上手く使いこなし逸脱者と戦う事が生死を大きく別つと参考書には書いてあった。
「・・・・・・まだ、確認していない」
考えて見れば情けない話だろう、名前も決めてない属性も確認していない。
自分はこの相棒である妖狐とこれからの一生を共に歩むというのにその自覚が薄いのだ。
逸脱審問官になったという事で頭が一杯だった事もあるが、それにしても疎かであった事は反省しなければならなかった。
さっきまで歩いている途中でちゃんと確認すれば良かったと思う。
「そうなんだ、相棒になってまだ間もないもんね、私も名前は考えていたけど属性は出会ってここに来て上司の前で確認したし気にする事じゃないよ、ほら自覚だってまだ薄いだろうしこれから仲良くなっていけばいいよ」
しかし結月の自覚の薄さを鈴音は責めず、逆に自分の体験談を交えてそう擁護した。
「妖狐、何か得意な事はあるか?」
人間の言葉がちゃんと伝わるか不安であったが、そう聞くと妖狐は正面を向いて息を吸い込む。
ブフォ!
妖狐は口から小さな火を噴きだした。若干顔の周りが温かく感じた。
「炎か・・・・・・」
結月と鈴音は驚きながら妖狐を見つめる。
「結構攻撃的な属性だね、応用も多彩そうだし戦闘に向いている属性ね」
鈴音はそう評するが、結月は単純な属性故に対策もされやすく耐性を持つ逸脱者もいるであろうと予測した。
(だが鈴音の言う通り、応用もし易い上に逸脱者に大怪我を与えやすい属性であるのは確かか)
結月にとって妖狐の属性に不満はなかった。
さて、属性も分かったので本格的に名前を考え出さなければならない。
炎・・・・・守護妖獣・・・・・・相棒・・・・・戦友・・・・・逸脱者。
結月の頭に妙案が浮かび手を打った。
「明王(みょうおう)」
明王?と聞き返した鈴音。
「仏教の教えに出てくる仏の一人で不浄な存在を聖なる炎で焼き尽くす不動明王尊、幻想郷に置いて逸脱者・・・・・人妖は秩序を乱し人間の誇りと尊厳を踏みにじる存在、そんな逸脱者を聖なる炎で焼き尽くし平和を保つ妖狐になってほしい、そんな願いを込めて明王という名前はどうだろう?」
ん~?と賛成も否定もせず口ごもる鈴音。
「悪くはないけど・・・・・・何だかそれじゃあ戦うためだけの存在みたい、確かに守護妖獣は身体能力が人間離れして妖術も使えるようになった逸脱者と戦いやすくするために生み出された存在だけど私はそれだけじゃないと思うの、あなたにとって守護妖獣は戦うための武器なの道具なの?私は違うと思う・・・・・・・それは親友であり強大であり子供であり相棒であり自分自身だと思うの、この子の体にも私と同じ血が体内に流れているからそう思うの」
自分自身、結月は妖狐の顔を見る、この妖狐の体には確かに自分の血が混血していてそしてその血で結月と妖狐は間接的に繋がっているのだ。
鈴音の感性に驚きつつも確かに今の名前じゃまるで戦うためだけの存在価値しかないように思えてしまう、別に自分にそのつもりがなくとも他の人から見ればそう思われてしまうかもしれない。
「だからさ、名前はそのままにして読み方を変えたらいいんじゃないかな?『あきお』なんてどうかな?」
あきお・・・・・・・確かに明王をあきおと呼ぶことも出来たが結月は本当にそんな名前でいいのかと思ってしまった。
「・・・・・・妖狐、あきおという名前どう思う」
優先順位は名付けられる本人だ、試しに聞いてみると。
「コン!コン!」
意外にも物凄く喜んでいた、妖狐はとても気に入っているようだった。
「・・・・・・わかった、妖狐お前の名前は明王(あきお)だ、いいな」
妖狐がそれでいいのなら結月もそれに従う事にした。
明王という名をもらい嬉しそうに肩の上で器用に一回転した妖狐。
「良かったね~、ご主人から良い名前がもらえて」
鈴音も自分の守護妖獣でもないのにとても嬉しそうだった。
きっと鈴音は自分の事でなくても身近な者が幸せであれば自分も幸せになれるのだろう。
「そうそう、妖狐に名前が決まった所で結月にこの逸脱審問官の本拠を案内するね、結月もここに入るのは初めてだから色々と教わりたいでしょ?」
初めてなのは当たり前だが案内してくれるのは嬉しかった。
「ああ、頼む」
そう言うと鈴音は嬉しそうに微笑んだ。
「うん、任せてじゃあ行こっか」
結月は鈴音の後ろについて本拠の案内をさせてもらった。
秩序の間の大広間のような玄関は大体確認したので結月から見て左側の道に入る。
少し歩くとそこには真っ直ぐな通路の左右に木で出来た扉が幾つもついた場所に出た。
通路の先には大きな扉がある。
鈴音の後について歩く結月だったが、右側にある三番目の扉の前で足が止まる。
「ここは逸脱審問官の宿舎で逸脱審問官はいつ逸脱者が出現しても断罪しに行けるよう、ここに住んでいるんだよ、そしてこれが結月の部屋の鍵だよ」
くるりと体を結月の方に向け鈴音は服に施された胸の収納袋から鉄製の鍵を渡した。
鍵には持ち手の部分に五番と刻まれていた。
受け取り自分の部屋となる扉を見る結月。
「どんな感じになっているか気になるならちょっと覗いてみれば?」
そう言われ扉に鍵を指して扉を開けてみる結月。覗いてみたものの部屋暗くて良く見えなかった。
「あ、そうだった・・・・・蝋燭に火を付けないと部屋暗くて見えなかったんだ」
彼女は部屋の中に入ると携帯用火打石で蝋燭に火をつける。
明るくなった部屋の様子は意外にも床や壁の一部は木で作られており天井と壁は漆喰で作られており窓がない事以外はここが地中とは思えなかった。
玄関には靴入れと木製の衣装棚、部屋にはベッドや机と椅子、箪笥や水道まで設置され決して広くはないが一人で過ごす分には快適に過ごせそうな部屋だった。
「大抵の物は揃っているけど足らない時は玄関にある雑貨店に行ってみるといいよ、あそこには本当に大抵のものはそろっているから」
鈴音は蝋燭の火を消し結月の部屋から出ると鍵を閉めたのを確認してから案内を再開する。
「次はここだよ」
鈴音が次に足を止めたのは通路の中間辺りにある左側の扉だった。
「ここはロッカールームって言ってどういう意味かは分からないけど、とにかく逸脱審問官が狩りに出掛ける時はここで着替えるの、更衣室みたいな所ね、ロッカールームの奥の扉には簡易滝風呂(今で言うシャワー室)っていう所があって上部に取り付けられた細かい小さな穴が沢山開いた蛇口からお湯が出て体を洗う事が出来るんだよ、練習や逸脱者を断罪し終わった後、着ていた逸脱審問官の衣服を脱いで専用の箱状の入れ物に投げ入れた後、簡易滝風呂で土汚れや逸脱者の返り血を綺麗に洗い流すんだよ、ちなみにここは男性用、反対側にあるのが女性用だよ、間違えちゃ駄目なんだからね」
扉の上を見ると左の扉には「男性」右の扉には「女性」と書いてある小さな金属製の表札が着いていた。
「せっかくだし結月もこの服に着替えてみようか、部屋と同じ鍵で開くよ、ロッカー番号も鍵に刻まれた数字と一緒だし、着替える時はまず下着姿になってその上からこれ・・・・・対人妖装着甲冑って言って守る所はちゃんと守りつつも機動性を重視した鎧を着けた後に上着とズボンと靴を装着してベルトとホルスターをつけて着替え完了だよ、一度つけると脱ぐのが大変だから厠は事前に済ませておくといいよ、ちなみに厠はその隣にあるから」
一応厠の場所を目で確認するも今は大丈夫だった。
これに袖を通すのをどれだけ望んだ事か。
「大丈夫だ、では着替えてくる」
そう言ってロッカールームに入った結月。
ロッカールームの中は蝋燭の火が灯されており無機質な金属で出来た縦長い箱状の衣装棚の様なものが両壁に敷き詰められるように幾つも並んでいた。
金属で出来た衣装棚の反対側には上に丸い穴が空いた箱状の入れ物があった。
恐らくあれが鈴音が言っていた練習が終わった後や逸脱者の断罪が終わった後に着ている衣服をいれる入れ物なのだろう。
そして奥には扉があり開けてみるとその中は松明で照らされており、四角い薄緑の石が壁と床に敷き詰められ、正面に金属で来た回転式の取手が着いておりその上部に金属で出来た小さく細かい穴が沢山ついた蛇口が着いた個室が壁で仕切られるように三つあった。
体を洗ったり拭いたりする厚みのある布や石鹸などの備品もあるほか、規格別の下着も用意されていた。
(文字通り簡易的だな、だが汗や血を洗い流すには丁度良さそうだ)
そう思い結月は扉を閉め再び衣装棚の方を見た。
結月は見た事もない無機質な金属の縦長い衣装棚の様なものに戸惑いつつも五番と書かれた金属の衣装棚の様なものを見つけ鍵穴に鍵をさして扉を開ける。
金属を擦る様な音と共に開かれた衣装棚の様なものの中には上着とズボンと革靴、そして鈴音が言っていた対人妖装着甲冑が入っていた。
肩にとっていた妖狐が空気を察して地面に降りて結月の傍で着替えを見守っていた。
まずは言われた通り服と靴を脱ぎ下着姿になると対人妖装着甲冑を手に取る。
黒色をした伸縮性の高い素材で作られており、胸や手の甲や足首の辺りには鎧の様な装甲が施され、頭と首以外の全身を包むような作りで穴が空いているのは首元だけだった。
結月は首元を掴み伸縮性があるかどうかを確かめてから座って手で首元を広げそこに足を入れ次に体を入れ最後に手を入れた。
その上から上着を着てズボンを穿き革靴を履いてベルトを巻いてホルスターをつけた。
ロッカー扉の裏に取り付けられた鏡には逸脱審問官の正装に身を包む結月の姿が映る。
その姿を見て結月は逸脱審問官になった事を実感する。
着ていた服を金属の衣装棚に入れ鍵を閉めるとロッカールームを出た。
「お、出来た?・・・・・おお、かっこいいね、身も心も引き締まっているよな感じ・・・・・いやもしかして結月痩せすぎ?」
鈴音は結月の体をジロジロと見る女性が男性の体を執拗に見るのも失礼に当たらないだろうか?
「鈴音先輩、ジロジロ見るのはどうかと思う・・・・・」
ああ、ごめんと一歩後ろに下がる鈴音。
「う~ん、もしかして結月って着痩せする体質?何だか物凄く痩せているみたい」
結月は言われてみれば確かに思い当たる節があった。
「確かに同じような事言われた経験がある」
やっぱりと答えた鈴音、その目は羨ましそうだった。
「いいな~着痩せする人は、私甘いもの大好きだから食べるんだけどすぐ体型にでちゃって、良いのか悪いのかこの仕事とても過酷だからすぐ痩せるからいいんだけど・・・・・」
はあ、とため息をついた鈴音、しかしすぐに自分のやるべきことを思い出し案内を再開する。
「じゃあ次の場所を案内するね」
そう言って鈴音は案内を再開した。
第二録読んで頂きありがとうございます。
いかがだったでしょうか、中途半端な所で終わっているなと思う人もいるとは思います。
実を言えば元々は丸々一話を区切らずに投稿するつもりで最初は書いていたのですが、それでは読みづらいという事で途中から一録一録区切って書く事となり既に完成していた第一話は十ページ~十五ページ間隔で無理に区切ったためこのような事になっています。
第二話からはその辺は修正されているはずですのでお許しください。
さて、天道人進堂はどんな所なのか、結月の上司になる飯島鈴音はどんな人物なのか、分かってもらえたでしょうか?
読者の皆様の中にはもしかしたら飯島鈴音がこの小説のヒロインだと思っている人もいるかもしれませんが、自分自身は鈴音をヒロインとして書いているつもりはありません。
私は鈴音を結月と同等の主人公の扱いで書いているつもりです。
口数が少なく感情の起伏が乏しい冷静な結月と口数が多く感情豊かな明るい鈴音の組み合わせあってこそ互いの良さを出せると思って書いています。
ある意味この組み合わせはテレビドラマ「相棒」の影響を私が受けているせいなのかもしれません、一時期は毎週楽しみに見ていましたから。
そう考えるとこの小説も今まで生きてきた経験から生まれたものだと考えるととても考え深いものを感じます。
相変わらず長い後書きになりましたがここまで読んでくれた皆様、ありがとうございます。
追記
・こちらも和製英語と英語と思われる部分をなるべく修正しました。
・英語と和製英語の修正、誤字脱字・表現方法を修正しました。