人妖狩り 幻想郷逸脱審問官録   作:レア・ラスベガス

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こんばんは、レア・ラスベガスです。
ネットを見ていると「日本人は~」「アメリカ人は~」「中国人は~」と人種を一括りにして話をする人がいますが何故人種を一括りにして話をするのか疑問に思う所があります。
同じ人種でも考え方や価値観は人それぞれ違うのに何かある度に人種全体に話を持っていくのはどうなのかな?と考えてしまいます。
それでは第十八録更新です。


第十八録 月明かり覆う黒い翼 八

時刻は深夜、幻想郷は昼とは一転して暗闇に包まれた世界へと変わり光源と呼べるものは淡い月の光だけである。

しかし今宵は満月、月はいつにも増して優しい光を放っており本来なら綺麗な満月が浮かぶ夜空を見ようと人間が家の窓や庭などに出て夜空を眺めるはずだった。

しかし今日はそんな星空も空に浮かんでいるはずの満月を見上げる者は殆どいない。

というより見られないのが正確だろう、何故なら空には月を遮る様に小さな黒い影が至る所で群れをなして飛んでいるからである。

小さな黒い影の正体は蝙蝠であり見慣れた蝙蝠からあまり見ない蝙蝠まで飛び回っておりまるで幻想郷中の蝙蝠が星や月を蝕むかのように飛び回っているような感じだった。

その蝙蝠の群の一際蝙蝠が密集した群れの中にその巨体を隠すように飛ぶ蝙蝠の姿があった。

「うむむ・・・・・・・やはり満月とあってか一人で出歩いているものは少ないようだな」

大きな翼を持った蝙蝠は小さな蝙蝠と蝙蝠の間から見える地上を見ながらそう呟いた。

大きな翼を持った蝙蝠が探しているもの、それは人気のない道を出歩く人間であった。

それは何故か?それは襲って生血を啜るためでありその大きな蝙蝠の体を維持するためには毎夜一人の人間の新鮮な血が必要だからである。

この大きな翼を持った蝙蝠はもちろんただの蝙蝠ではなく、ましては妖怪でもない、人間から妖怪になった人妖であった。

蝙蝠の人妖は多種多様の種類がおり人妖となった体を維持する方法も様々であるが、この大きな翼を持った蝙蝠の場合、毎夜一人分の人間の生血を啜らなければ体を維持する事ができなかった。

だからこの蝙蝠の人妖は人妖を敵対視している博麗の巫女や件頭からの目を遮るように幻想郷中のありとあらゆる蝙蝠を従わせ飛び回らせ攪乱させ自分は蝙蝠の群に紛れて隠れるように移動し人気のない道や場所で出歩く人間を襲い生血を啜った後、血が抜けきった死体を遠くの場所に捨てていったのだ。

残った死体は腹を空かせた妖怪の餌になるか、他の人間に見つかったとしても現場より遠い場所なら妖怪に襲われた運の悪い人間として処理してくれるはずである。

そして今夜もまた生血を求めて飛び回っている訳だが今宵は満月、満月の夜に人気のない道を出歩く様な人間はあまりいない。

満月に影響される妖怪は数多く、満月の光は人間にとっては淡く優しい光に感じられるが妖怪にとってはその光は体に妖力が満ち溢れさせ活発に動き回るようになるからだ。

そのため旅人や商人は妖怪に出くわさないよう早めに宿屋に泊まり夜出歩く事はない。

しかも蝙蝠の大群が飛び回らせている事もあってさらに夜出歩く者を少なくさせている理由だろう。

「だが何処かにいるはずだ・・・・・夜の世界に運悪く取り残された人間が」

しかし人妖は分かっていた、何らかの理由で運悪く夜の世界に取り残された人間が必ず何処かにいる、帰りを焦ってしまったり道に迷ったりしている人間が必ずいる事を良く知っていた。

そういう運の悪い人間を蝙蝠の人妖は必死に探していた、必ずいるという確信はあったものの一方で焦りもあった、このまま人間の生血を啜れなければ妖力で変化させたこの体が維持できなくなり消滅してしまうからだ。

しかも昨日の出来事も蝙蝠の人妖の心を掻き乱す要因になっていた、昨日の猟師を襲った際、岩陰に隠れていた猟師仲間にその姿を見られやむなく殺したが大量の出血跡が残った上に焦って血が流れている方を運んで近くの鬱蒼とした人が近づけない森に運んでしまった。

まさかとは思うが血を辿ってあの死体を見つけられないか、それが気掛かりで仕方がなかった。

その事もあって蝙蝠の人妖はいつもの冷静さと用心深さを失っていた。

もし蝙蝠の人妖がいつもの冷静さと用心深さを持っていたら彼を獲物にしなかったかもしれない。

「・・・・・ん?あれは」

蝙蝠の人妖の目に飛び込んできたのは雑草が茂る平原、編み笠を被った人間が歩いていた。

近くにこの人間以外の人影はなく、蝙蝠の人妖からしてみれば理にあった人間であったが不審に思う所もあった。

(何故あいつはあんなにも落ち着いているんだ?)

編み笠を被った男は恐らくは旅人か何か夜を出歩いているにしては不自然に落ち着いている。

妖怪が活発化している夜という事だけでも危ないのに満月の夜だ、満月の夜は危険と言う認識は幻想郷では常識中の常識だ、本来ならもっと急いでいる方が普通だ、見ている感じ怪我をしている様子もない、なのにまるで危機感を感じてない様に歩いていた。

それに場所も場所だ、妖怪が遭遇したら危険だというのに旅人は開けた平原を歩いている、これでは妖怪に見つけてくださいと言っている様なものだった。

だがそれにも増して今の状況があまりにも理想的すぎるという点も気になった、近くに誰もおらず一人出歩く人間、こちらにあまり気にしていない、狙うには絶好の条件だが反ってそれが怪しくも感じた。

そして編み笠を被った人間を見た時、蝙蝠の人妖は直感で嫌な予感を感じていた。

何処か普通の人間ではない、選ばれた人間の様な雰囲気を感じ取っていた。

本来ならこの時点で見逃していたかもしれない、しかしいつもの冷静さと用心深さを失い獲物が見つけられない焦りを感じていた蝙蝠の人妖は判断を急いでしまった。

編み笠を被った男を標的と捉え偽装である蝙蝠の群の中から飛び出し急降下しつつ速度を上げる。

(だがここであいつを見逃せば絶好の機会を逃す事になる・・・・危険はあるがこの先獲物を見つけられなければどちらにしろ、死が待っている、ならば!)

急降下しながら編み笠を被った人間に狙いを定めた。

編み笠を被った人間はまだ蝙蝠の人妖が接近している事に気づいていない様子だった。

蝙蝠の人妖は急降下をし続け足を構える。

(貴様の血・・・・・いただくぞ!)

編み笠を被った人間に前方上空二mまで接近し水平だった体を起き上がらせ勢いそのままに襲い掛かった。

しかし蝙蝠の人妖の足は虚しく空をきった、標的の編み笠を被った人間は素早く後ろに後退からだ。

「何っ!?」

今まで狙った標的は確実に仕留めていた蝙蝠の人妖にとって避けられたことは予想外だった、そのため蝙蝠の人妖の足は地面に着地し利点である速度を殺してしまった。

バァン!

その蝙蝠の人妖の隙を見計らうかのように大きな銃声が鳴り響く。

何処からともなく聞こえた銃声に驚き蝙蝠の人妖、しかし機動力を殺してしまった今、避ける動作など出来る訳がなかった。

「うぐっ!」

銃声が聞こえてから一秒も経たずに右胸の脇に激痛が走る、銃弾が体を抉りながらめり込んでいく感覚が伝わる、特殊な弾なのか撃たれた所から力が抜け大きくバランスを崩した蝙蝠の人妖は地面に倒れ込む。

「獲物が中々見つからず焦りか、判断を見誤ったようだな、逸脱者」

地面に着地した逸脱者と呼ばれた蝙蝠の人妖はハッとして編み笠を被った人間を見る。

そこには二十代くらいの編み笠以外はとても旅人とは言えないような姿をした男がこちらを見下ろすように見ていた。

被っていた編み笠を脱ぎ捨てる男、それは紛れもなく結月だった。

「お、お前は・・・・・まさか」

男の格好は見覚えのある姿だった、それは最も警戒しなければならない者達が着ている服だった。

そこへ森の陰で隠れていた男と同じ格好をした女が大きな猫の様な妖獣に乗って男の元に駆け寄る手には幻想郷に広く普及している火縄銃ではなく最新式の小銃が握られていた。

「現れたようね、逸脱者、あなたが犯した罪、逸脱審問官の名に懸けて断罪するわ!覚悟しなさい」

強い口調でそう言った女はもちろん結月の上司である鈴音である。

そして彼女の相棒月見ちゃんは今にも襲い掛かりそうな雰囲気で唸っていた。

蝙蝠の人妖・・・・・もとい逸脱者は結月達の囮作戦に引っ掛かり誘き寄せられてしまったのだ。

これは紅い悪魔が予感した通りだったがそんな事蝙蝠の人妖はもちろん結月や鈴音が知る者はいない。

「くっ・・・・・・この妖怪の味方が!」

一体逸脱者は何となく昨日の失敗が原因でバレた事を一瞬で悟った。

やはり駄目だったか、と後悔しつつも逸脱者はそう言葉を吐き捨てる。

「妖怪の味方?言い掛かりはやめてよ、私達は幻想郷の人間の誇りや尊厳を守り幻想郷の秩序を保つために逸脱者であるあなたを断罪するのよ」

一応紅い悪魔の件もあるがあれは人間である咲夜を助けるという意味もあるので妖怪の味方をしているという事は断じてなかった。

「人間の誇りや尊厳・・・・・・それはお前達がそんなものがあると思い込んでいるだけではないか・・・・・・実際は人間など妖怪に支配され常に妖怪に怯えて暮らしている・・・・・誇りや尊厳などあるものか」

しかし相変わらず鈴音は逸脱者の言葉に全く耳を貸さない。

「でもそれは決して人間に限った話ではないわ、兎とかも常に狐や狼に怯えながらも立派に兎として生きているわ、彼らは果たして惨めと言えるかしら?妖怪と人間も同じよ、妖怪に怯えつつも妖怪は人間がいないと自分の存在が危うくなるから影響の出ない許容範囲内で人間を襲っているわ、だから幻想郷でも人間は人間として誇りや尊厳を持って生きる事を出来るわ、私達は決して自然の生態系から外れた存在ではなく他の動物の同じ生き物よ、それなのに逸脱者になろうとするかしら?」

狐が生きるために兎を襲うのと同じで妖怪も人間に恐怖や畏怖を植え付けるために人間を襲うのだ。

妖怪がいなければ幻想郷は壊れてしまうため妖怪に襲われる人間は幻想郷を維持するための最低限の犠牲と言えよう、何だか残酷な話にも見えるが仮に狐を殺せば兎が増え草の消費量が増え人間の農作物を食べ被害を与えるのだ、結局は幻想郷も自然の生態系も同じなのだ。

さらに一年間に妖怪に襲われる人間の数は人間全体から比べても一%未満であり決してそれは人間が必ずしも妖怪に支配されているとはいえるものではなかった。

「古来人間とは常に上を目指し続ける生き物だ、猛獣、災害、病気など様々な危険が差し迫った時、知恵を絞って危険から退け自分達の立場を向上する事が出来る生き物だ、ならば妖怪という危険に対して怯えて支配されるのを甘んじて受けるのが人間の使命か、否!妖怪からの支配を逃れようとするのは人間として当然ではないか!」

蝙蝠の人妖に言っている事には一理はあるだろう。

しかし決して上を目指し続ける事が正しいとは限らない事も結月は良く知っていた。

「確かに人間は常に上を目指し続ける生き物であるのは認めるわ、でもね、そのためにどれだけのものが犠牲になったと思っているの?人間、動物、自然・・・・・・行き過ぎた進化は多くの犠牲と弊害を生んできたわ、それを分かっているはずなのに貴方は進化のために他の罪のない人間を犠牲にするのかしら」

鈴音の言葉に対してフン!と鼻で笑う逸脱者。

「他の妖怪が自分の体を維持するために人間を襲うように私もこの体を維持するために人間を襲わなければならない、妖怪から怯えなくするための必要犠牲だ」

その言葉に結月は心の底から怒りの炎が燃え上がるのを感じていた。

こいつが逸脱者を目指さなければ罪のない多くの命が失われる事はなかっただろう。

自分の都合で人間を殺しておいてそれを進化の犠牲だと言っているのだ。

「いいえ、あなたはもう人間ではないわ、人間の道から外れた人間『だった』者よ」

人妖は人間ではない、人妖は妖怪でも人間でもない全ての摂理から外れた存在である、それが天道人進堂の考えであり幻想郷の規則でもあった。

「自分の都合だけで罪のない人間を殺す逸脱者め・・・・・・逸脱審問官としてお前が奪った命の重さ・・・・・死をもって教えてやる、覚悟しろ」

そう言って結月は上着の収納袋の留め具を外すと中から手乗り程度の大きさの明王で飛び出し瞬く間に巨大化し逸脱者に向かって殺気を飛ばしていた。

結月は背中に携えたスナイドル銃(ロング・ライフルタイプ)を構えた。

「・・・・・・この姿を見られてしまった以上仕方ない、人間を凌駕するこの力を持って貴様らをここで殺してくれる!」

そう言って逸脱者は翼を広げ羽ばたくと空へと舞い上がる。

金属薬莢はもういつでも撃てるよう薬室に詰めてあるので撃鉄を起こし引鉄を引くだけで撃てるのだが撃鉄を起こした所で逸脱者は速度をあげると逸脱審問官に向かって飛んできた。

「来るよ!結月」

構えをやめて逸脱者の正面を避けるように左側に鈴音と月見ちゃん避け右側に結月と明王が避けた。

しかし逸脱者は結月や鈴音、守護妖獣の頭上を通り過ぎていく。

何もしてこなかった所を見ると一種の脅しなのかもしれない、自分の体の大きさを見せつける事でこちらの士気力を下げようとしたのかもしれないが鈴音も結月も守護妖獣も逸脱者との戦いはこれが初めてじゃない、この程度の脅しでは怯まなかった。

通り過ぎた時に起きた突風に反射的に防御姿勢を取ってしまうがすぐに態勢を立て直し逸脱者の場所を把握する、逸脱者は結月達や守護妖獣を通り過ぎた後、左に旋回し上空十mくらいを飛んでいた。

「鈴音、狙い撃つぞ!」

任せて!と鈴音は肩に銃床をつけて逸脱者に向かって銃口を向けると狙いと機会を伺う。

先に発砲したのは結月、逸脱者と直線距離で四十m程あり不規則に動く逸脱者を狙い撃つのは大変なのか銃弾は逸脱者の掠るように飛んでいく。

「ぐっ!狙いは良いが当てられなけれがっ!」

結月が外し逸脱者の飛行態勢が崩れた所を鈴音は正確に撃ち込んだ。

放たれた銃弾は左脇腹に命中し撃ち抜かれた所から血が噴き出す。

「流石だな、鈴音先輩、良い腕前だ」

結月に褒められどんなもんよ、と誇らしげな顔をする鈴音。

「俺も負けてられないな」

さっきは外したが次は必ず当てると決意し結月は遊底を開いて空薬莢を排莢すると腰ベルトに備え付けられた胴乱(弾薬が入った革鞄の事)から金属薬莢を取り出すと薬室に装填、遊底をしっかりと閉め撃鉄を起こす。

「距離は先程よりも開いているが・・・・・」

そして再び肩に銃床を置くと直線距離で五十五m程離れた逸脱者に狙いを定める。

狙いを定め引鉄を絞り引く、銃声と銃口から放たれた銃弾は山なりを描きながら逸脱者の方向へと飛び今度はちゃんと逸脱者の左翼の皮膜を突き破り体に命中させた。

逸脱者は体勢を崩したものの何とか持ち直し落下はせず飛行を続ける。

「結月いいよ!その調子!」

互いを褒め合う事で士気を上げる行為は状況を前向きに考え状況を悲観的に捉えないようにする利点がある。

物事を悲観的に考えてしまうと自ずと命中率が悪くなり戦術も思い浮かびづらくなるからだ。

鈴音が遊底を開き薬室に金属薬莢を詰め遊底を閉じた時、逸脱者に変化が訪れる。

再び左に旋回し結果的には楕円を描くように飛んでいた逸脱者が翼を閉じ地面に着陸する。

逸脱者との距離は四十mくらい離れているものの油断できない状況だった。

妖力を使っての攻撃を有り得るからだ。

「結月、気を付けて何か仕掛けてくるかも・・・・」

確かに用心に越した事はない、不測の事態に備えよとは何処かの誰かが口にしたありがたいお言葉だ。

逸脱者が不自然な程距離を空けたのも気になった、これでは撃ってくださいと言っている様なものである。

しかし攻撃しない訳にはいかない、銃の利点は遠距離からの攻撃を行える事でありまさにこの距離感が理想的だった。

鈴音が撃鉄を起こそうとした瞬間だった。

逸脱者は大きく太い腕で地面押し上げるように自分の体を正面に放り投げた。

大きく太い腕の力は凄まじく山なりを描きながら鈴音達に向かって飛んできた。

羽を畳んだせいかその速度は先程の飛行速度よりも早く手は前に突き出していた。

結月と鈴音それに守護妖獣は逸脱者の意表を突いた攻撃に驚きながらも冷静に対処した。

逸脱者が結月達のいた場所に勢いそのまま地面に着地する。

しかし肝心の爪の攻撃は空をきり地面に大きな爪痕を残すのみだった。

結月と鈴音それに守護妖獣はとっさに脚力を生かして左右に飛び込んだのだ。

鈴音と月見ちゃんが左側に飛び込んだのに対して結月と明王は右側に飛び込んだ。

結月は地面に転がりながらも態勢を立て直す。

鈴音もまた既に態勢を立て直しており逸脱者の方向を見る。

逸脱者は勢いをつけすぎたのか中々止まらない様子だったが地面に爪を立てて体を百八十度回転させながらようやく止まる。

百八十度回転して事で背中を晒さなかった事を考えるとこれも作戦だったのかもしれない。

逸脱者の動きが止まった所で鈴音はスナイドル銃を構え撃とうとする。

「させるものかっ!」

逸脱者は突き刺している爪で抉り土を掘りだすと鈴音に向かって投げた。

土の塊は大小あるが中には直撃したら痛そうなものもあった。

「!」

鈴音と月見ちゃんは飛んでくる土の落下地点を考えながら後ろに向かって跳躍した。

しかし地面にぶつかった土は細かい土になって跳ね返り鈴音は目に細かい土が入らない様に腕で覆い視界が遮られる。

その間に逸脱者は結月の方を見ると細く短い足に力を込め結月と明王に飛び掛かる。

腕と比べると細く短い足ではあるものの人間離れした力を持つ逸脱者、大きな体と翼を宙に上げるくらいの事は出来るようだ。

右翼を大きく振り被り着地の直前、結月に向かって鋭利で鋭い爪を振り下ろす。

地面が揺れる程の衝撃が起き土埃が舞い上がる。

しかし結月達は冷静に後ろへと跳躍し逸脱者の攻撃を避けていた。

「ふん!ふん!ふん!」

逸脱者は翼を交互に振り上げ結月や明王を狙って振り落としていく。

右翼を振り落としては左翼を振り被り、左翼を振り落としては右翼を振り被り、隙のない連続攻撃を繰り出す。

振り下ろされた爪は地面にぶつかり衝撃と共に土埃を舞い上げるが結月と明王もまた共に後ろへと跳躍する。

「明王」

攻撃を受けながらでも結月は明王に視線を向ける、明王もまた結月から視線から何かを受け取っていた。

「結月!今助けるよ!」

鈴音は無防備の蝙蝠の肩付近を狙う、背中を狙えば誤って結月や明王に誤射してしまう可能性があるからだ。

しかし逸脱者も背中ががら空きなのは承知の上だった。

背中に生えた毛が少し引っ込む、そして鋭く細い鋭利な毛が背中から撃ちだされ鈴音と月見ちゃんの方に向かって真っすぐ飛んでくる。

逸脱者御馴染みの攻撃、防御触針だった。

「くっ!」

鍛え抜かれた動体視力で飛んでくる認知し小さな防御触針を左右に別れ避ける。

鋭くも小さく細い防御触針は当たればそれなりに痛そうだった。

最もこの程度の小さく細い防御触針なら逸脱審問官の正装服と対人妖装着甲冑である程度は防げるのだが顔は無防備だし防御している部分も過信してはいけない。

防御触針は地面や木に突き刺さる。

逸脱者は鈴音と月見ちゃんを近づけまいと幾度も小さく鋭い防御触針を撃ちだす。

例え当たらなくても威嚇射撃にはなった。

その間に逸脱者は結月と明王を仕留めようとする。

次々と繰り出される攻撃を鍛えられた身体能力と洞察力で避ける結月と明王だがいつまで避けられるかは分からなかった。

しかし結月と明王は既に次の一手を考えていた。

「ちょこまかと!」

攻撃が中々当たらない事に苛ついた逸脱者は大きく左翼を振り上げて結月達に向かって振り下ろす。

それをバク転して避けて見せた結月と明王、そして明王は一転して地面に着地すると逸脱者に向かって走り始め振り落とした左翼に飛びつくと皮膜に爪をたてしがみつく。

「なっ!離れろ!」

大事な空を飛ぶための皮膜にしがみつかれた逸脱者は明王を振り落とそうと振り回すが逸脱者は結月から目を離す羽目になった。

結月は逸脱者が明王に気を取られている内に逸脱者に接近する。

「しまった!あの男は・・・・」

しがみつく明王に気を取られながらも結月を探すが結月の姿はない。

結月が何処にいるのか知ったのはすぐだった。

「ぐあっ・・・・・」

口から血が溢れる逸脱者、逸脱者から見て右側から結月が飛び出した。

結月は逸脱者が明王に気を取られている内に振り上げた右翼から懐に飛び込み逸脱者の腹を小刀で切り裂いたのだ。

「くっ!」

逸脱者は右翼で左翼にしがみつく明王を叩き潰そうとする。

しかし明王は右手がこっちに近づいている事が分かると前足で一気に左翼に登りそこから逸脱者の背中に向けて飛び移る。

不安定な場所からの跳躍だったが爪をたてて背中にしがみつく。

「離れろ!このっ!」

振り払おうと暴れる逸脱者だが明王は前足後ろ足でしっかりとしがみつき離れない。

「グルルル!」

明王は足の爪で逸脱者にしっかりと爪をたてて固定すると前足の爪で何度も逸脱者の背中を引っ掻く。

背中から大量の血が噴き出し明王の上半身は真っ赤に染まる。

明王は吹き出すその血を口で受け止める、まるで飲み干すかのような勢いだった。

だが逸脱者もやられてばかりではない、背中の毛が引っ込み鋭く光る。

明王は危険を察知し後ろ足の爪を抜き背中から飛び降りる。

その瞬間、背中から何十本の防御触針が飛び出した。

「ぐっ人間の癖に中々やりおる」

反転し結月達と守護妖獣の方を見る逸脱者。

「これがあなたがやめた人間の力よ?驚いたかしら?」

鈴音の挑発を鼻で笑った逸脱者。

「まだだ・・・・・本当の力を見せてやる」

逸脱者は大きく翼を広げ飛び上がるとぐんぐん高度を上げ月が昇る位置まで飛び上がった。

その大きな翼を広げ月に重なる様に羽ばたく逸脱者は、噂通り月明かりを大部分覆い隠すような大きさをしていた。

そして蝙蝠の声とは思えない魔獣と呼べるような声で咆哮をあげる。

すると逸脱者の先程自分の姿を隠すために使っていた蝙蝠の群が地面に急降下する。

そして蝙蝠の群れは隊形を変化させとても長い一列を作る、そして蝙蝠の群れは結月や鈴音それに守護妖獣を取り囲むように円陣を作り周る様に飛び始めた。

「これは・・・・・!」

蝙蝠が作った円陣は徐々に狭まり始め結月達も徐々に円の中心へと追いやられていく。

蝙蝠の列を突っ切ろうとしてもあまりの速さで飛ぶ蝙蝠の列に飛び込めば大量の蝙蝠の体当たりを大量に食らう羽目になり突っ切る前に地面に蹲ってしまうだろう。

じりじりと円陣は狭まり円の中心へと追いやられていく結月と鈴音それに守護妖獣。

「これで一網打尽にしてくれるわ!」

結月達と守護妖獣が中央へと集められるのを見計らうかのように月を覆うような翼で羽ばたく逸脱者は口を大きく開けると妖力を集める。

「結月!あれ!」

見上げる鈴音の言葉に空を見上げる結月、逸脱者の口前に妖力が集まり妖力の球体が出来ていた。

結月はそれを見て次に何が起きるかすぐに察知した。

「まずいな・・・・・・逸脱者はあれで俺達を片付けるつもりだ」

もしあの妖力玉が今自分達のいる蝙蝠の円陣の中央へ放たれれば例え自分達に直撃しなくても衝撃波で全滅するだろう。

しかし逃げようにもこのさらに狭まり蝙蝠の密度が高くなった蝙蝠の壁は厚く通り抜けそうにない。

蝙蝠を操り逃げ道をなくし敵を集めそこに強力な攻撃を仕掛け一気に片付ける、蝙蝠の逸脱者らしい巧みな戦法だった。

万事休すかと思われたが結月は状況を理解するや否やすぐに次の一手を打ち出した。

「明王、血はしっかりと飲んだか?」

結月は明王の方を見る、明王の目は光を放って見えた。

目が光る、それは体内に妖術が出来る程の妖力が溜まっているという証拠であった。

「よし明王、体内に貯め込んだ妖力で特大の一発を放ってやれ」

ガウッ!と返事をした明王、円陣の中心体を構えしっかりと地面に足をつけ爪で固定すると逸脱者に向かって口を開ける、すると明王の口前に灼熱の炎の球体が現れ大きくなっていく。

炎の球体は物凄い速度で大きくなり逸脱者の口前にある妖力玉と同じくらいになっていく。

その間にも蝙蝠の円陣は小さくなりついに円の直系が三mくらいになりほほ結月達と守護妖獣が円の中心へと集まった。

「死ねえ!逸脱審問官共!」

それを待ったかのように逸脱者は妖力玉を結月達と守護妖獣に向けて放とうとした。

しかし先手をとったのは逸脱審問官の方だった。

「必殺、火炎砲」

結月の言葉と共に明王は一度口を閉じそして大きな咆哮を上げた。

その咆哮と共に火炎玉が逸脱者に向かって放たれた。

それに遅れるように逸脱者も妖力玉を放つ。

二つの玉の進む進路は互いに直線状に並んでいた、それは結月の狙い通りだった。

妖力玉と火炎玉はかなりの速度で距離を縮めていきやや逸脱者よりの場所でぶつかり合った。

妖力玉と火炎玉のぶつかり合った瞬間、高い密度の妖力玉と火炎玉は反発し合い電気が迸り一時周囲が眩しく点滅する。

しかし光の点滅はそう長くは続かなかった、形が保てなくなった妖力玉と火炎玉は互いに大きな爆発をした。

爆発と共に黒煙が広がる、相打ちに思えたがそれは見立て違いだった。

黒煙の中から無数の火の粉が逸脱者に向かって飛んできたからだ。

「なっ!」

逸脱者は咄嗟に防御姿勢をとる、その直後逸脱者は火の粉を雨粒の様に浴びた。

主の危機を感じたのか、それとも主が攻撃された事で統制がとれなくなったのか円陣を作っていた蝙蝠達は飛散し逸脱者のもとへと戻っていく。

「やったね、結月!」

計画通りだった、全ては結月の素早い状況把握とそれを踏まえた戦術の立案そして明王の力がもぎ取った作戦勝ちだった。

「ああ、だがまだ戦いが終わった訳じゃない、気合を入れていくぞ」

気合いの入った顔で頷いた鈴音、逸脱者との戦いはようやく折り返しに入った所だった。

 




第十八録読んで頂きありがとうございます。
いかがだったでしょうか?さて前回の前書きで良くゲームのプレイ動画を見ていると書いていましたが私は自分がこの先遊ぶ予定のないゲーム動画を見るようにしています。
遊んでみたいと思うゲームのプレイ動画を見てしまえば楽しみも面白さも半減してしまうと思ったからです。
こうやって書くと反感を覚える人や反発を覚える人もいるかもしれません。
ですが私自身全てのゲームを買える程のお金もなければそこまで技量がある訳でもありません。
だからこそこの先遊ぶ予定のないゲームのプレイ動画だったらそんな思いもしなくてすむ、そう思ってゲーム動画を選んでみているのですが最近になってその考えは甘かったとつくづく思っています。
とあるゲームプレイ動画を見ている時、最初は買うつもりはなかったのですが見ている内にどうしても自分の手でやりたくなってしまいつい先日ダウンロードしてしまいました。
ゼルダの伝説スカイウォードソード・・・・・・・ゼルダの伝説大地の汽笛以来のゼルダの伝説です、完全クリア目指して頑張ろうと思います。
それではまた金曜日に。

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