私は良くYouTubeで海外ゲームのプレイ動画を見ているのですがどの海外ゲームもグラフィックの凄さに驚かされます、水の綺麗さと良い、家具の使い古した感と良い、肌の質感や肉付きと良い、どんどんリアルに近づいてきているなとしみじみ思います。
とはいえグラフィックの向上≒ゲームの面白さに繋がらないのは日本ゲームも海外ゲームも同じみたいですが・・・・・・。
それでは第十七録更新です。
逸脱審問官の活動拠点、本拠の秩序の間玄関広場の左隅にある占い場「導」(みちびき)そこには逸脱審問官であり占い師でもある命の姿があった。
「・・・・・」
命は紫色の布がかけられた丸机の上にガラスのコップを置きその中に賽子(サイコロ)を五つの入れるとコップの口をひっくり返して丸机に円をかくように掻き混ぜ始めた。
円をかくように十周させた所で命はピタリと掻き混ぜるのをやめそっとコップを持ち上げる。
持ち上げられたコップの中には掻き混ぜられ五つの賽子の数字が何の関連性もなく並んでいた。
はたから見る分には博打の「半丁」をやっているようにも見えるがこれも命にとっては立派な占いの一つだった。
一定の力をかけ円を描くように混ぜる事で命は人間には感じられない様々な現象の摂理を賽子の目や位置を通じて見る事が出来るのだ。
「・・・・・・ほう、これは」
いつもと同じ抑揚のない声でそう呟いた命。
その呟きは偶然その場にいた鍛練を終えたばかりの鈴音と結月の耳にも聞こえた。
「どうしたの?命、興味深そうに賽子を見ているようだけど」
そう聞かれた命は鈴音と結月の方を向くと口元に笑みを浮かべる。
「いえ・・・・ここ最近の占いの結果は不吉なものしか出ていませんでしたがようやくそれ以外の結果が出たのでつい言葉に出てしまいました」
鈴音と結月が命の占い場に近づく、紫色の布がかけられた丸机の上には五つの賽子が転がっており恐らく賽子は数字と位置で何かを示しているのだろうが、それが何を示しているのか結月にも結月よりも付き合いの長い鈴音にも分からなかった。
「この賽子の数字と位置これが指し示す事・・・・・それは大きな転機、変化、そして悪夢の終わりです」
悪夢の終わり・・・・・・それが何を指示しているかは結月も鈴音を分かる様な気がした。
「恐らくはこの幻想郷で続いていた不吉な事象の終わり、もしくは不吉な事象に大きな動きがあるという事でしょうか、少なくとも私の解釈では賽子はそう示しています」
あくまでも根拠のない占いではあるが命の占いはとても良く当たるので妙な信憑性があった。
「近々、そう遠くない内に不吉な事象に変化をもたらす出来事が起きるのではないかと・・・・」
そう命が話していた時、隣にある禍の知らせの件頭が出てくる穴から見覚えのある件頭が現れた。
「おや、今回は私の占いが当たったみたいですね、もう大きな転機が訪れたみたいですよ」
命は件頭の方を見てそう言った。
結月と鈴音は命の驚異の的中率に本当ならその場で驚いていた所だったが、今はとにかく件頭の話を聞かなければならなかった。
「待たせたな、鈴音、結月」
穴から出てきたのは昨日結月達と会話した風馬であったが、その姿は昨日とは違い綺麗に着こなしていた黒装束は何かに襲われたかのように傷と穴だらけになっており汚れていた、首に巻いた黒い布も至る所が解れて見るも無残な姿になっていた。
「ふ、風馬!?どうしたの、その姿は?」
心配する鈴音に対して風馬は首を振る。
「何でもない、気にするな・・・・・それよりも蝙蝠の親玉の正体をついに突き止めたぞ」
風馬のその言葉に結月と鈴音の顔に緊張が走る。
「蝙蝠の親玉の正体は逸脱者である事を示す信憑性の高い証拠を手に入れた、分類は飛行種だと思われる、逸脱者が毎夜の如く人間を襲ったのは恐らく人妖の体を維持するのに一人分の生血が必要だったと考えられる、そして逸脱者は逸脱審問官の事をとても警戒していたようだ、だからこそ自分の正体が逸脱審問官に知られないよう、蝙蝠を操って蝙蝠の大群で自分の姿を眩まし単独で出歩く人間を襲っていたのだろう、そして生血を吸った人間の死体を運び人気のない森の中に捨て妖怪や獣に食べさせて証拠を隠滅していたのだろう」
風馬の話から逸脱者は自分の命を狙うであろう逸脱審問官を脅威と感じており、正体を突き止められないよう証拠を隠滅していた所をみると、逸脱審問官は件頭の情報なしでは動く事が出来ない事を知っているという事なのだろう、つまり逸脱者は逸脱審問官の事を熟知している可能性がある事を示していた。
「蝙蝠の親玉が逸脱者だと分かった以上、これ以上のあいつを野放しする訳にはいかない、毎夜人間の襲われた事を考えると今夜も出現する可能性は高い、幻想郷の秩序を保ち人間の誇りや尊厳を守るために断罪に行ってもらえないだろうか?」
風馬の願いに対して鈴音は覚悟に満ちた笑みで頷いた。
「任せて風馬、あなた達の努力は決して無駄にはしないわ、必ず今夜逸脱者を断罪して見せるよ!」
結月も真剣そのもの顔で頷いた。
「もちろんだ、逸脱者を断罪するのが逸脱審問官の役目だからな、情報を探してくれた件頭の期待に俺達も答えなければならない、それに蝙蝠の親玉に殺されたであろう者達の無念を晴らさないといけないな」
逸脱者に身勝手な理由で唐突に殺されたであろう何の関係のない者達の無念、そしてとり残された家族の無念を背負い逸脱者に自らが奪った命の重さを教えなければならない。
「だが相手は空を飛び回る逸脱者、活動範囲は広大でその姿を夜の暗闇と蝙蝠の大群で隠している、こちらから逸脱者に接触する事は出来ない、だが逸脱者は単独で行動する人間を襲う傾向がある、それを利用して逸脱審問官が囮となって逸脱者を誘き寄せる事は可能だろう、だがそれには鈴音や結月だけでなく多くの逸脱審問官の協力が必要だ」
行動範囲が幻想郷の全域に及んでいるため逸脱審問官が旅人を装い単独で行動し逸脱者を誘き寄せる囮作戦を行わなければいけなかった。
逸脱者に逸脱審問官の方へ誘き寄せるためには鈴音や結月だけでなく他の逸脱審問官にも各地で同様の囮作戦を敢行しなければならなかった。
「なるほど、では私の方から蔵人達に話をつけておきましょう、もちろん私も参加しますよ、ただ本拠をもぬけの殻にする訳にはいきませんから竹左衛門には残ってもらう事にしましょう」
それでいいですか?と命はいつものように居酒屋「柳ノ下」で飲んでいる竹左衛門に聞く。
竹左衛門もしっかりと今のやり取りを聞いており任せておけという言葉と共に手を挙げる。
「出来るなら長期修業や遠征に行っている逸脱審問官もいれば心強いのですが・・・・欲を言えばきりがありません、あまり望んではいけませんね、いまあるだけの戦力で精一杯どうにかしましょう」
結月は確か訓練施設に通っている時、現在の逸脱審問官の数は十四人いると聞かされており結月は十五人目だった。
しかし現在、本拠にいる逸脱審問官は自分を含めて七名しかおらず残りの八名は長期修業と遠征などの任務を課せられて本拠を離れていた。
「あっ!そうだ結月、夜になるまでにはまだ時間があるよね?咲夜さんにこの事を知らせにいかない?咲夜さんきっと一安心するよ」
確かに蝙蝠の親玉が逸脱者だと判明し紅い悪魔が犯人ではなかったと証明されただけでも朗報だしそれを今夜断罪し逸脱者の仕業であった証拠を手に入れる事が出来れば幻想郷で広まる紅い悪魔の根拠のない噂も立ち消えるだろう。
「ああ、そうだな・・・・・今から紅魔館に向かって報告しても夕方にはここに戻れるだろう」
結月も鈴音の提案に賛成し二人は急いで階段を上がり天道人進堂の正面玄関を目指す。
「あっ!結月様、鈴音様、丁度いい所に」
天道人進堂の受付の方から呼び止められる、声のした方を見るとそこには桃花の姿があった。
「桃花さん、どうしたの?長話になるようなら後にしてもらってもいいかな?」
既に時刻は二時半頃になっており急がないと夜になってしまう、長話をしている時間はなかった。
「大丈夫ですよ、すぐに終わりますから、実は先程紅魔館のメイド長である十六夜咲夜さんがここを訪れて日用品を買われた後、喫茶店で一息していったんです、そして帰り際に結月さんと鈴音さんによろしくとお伝えておくよう頼まれました」
その言葉を聞いて互いに目を合わせる結月と鈴音。
「桃花さん、咲夜さんが帰ったのは何時頃なの?」
鈴音の問いに桃花は確か、と小さく呟いた後少し考える。
「丁度三十分前ですよ、今日も職員の殆どが早退なので早めに喫茶店で休憩する時に咲夜さんといたので同席して色々な話をしていましたよ、咲夜さんも色々大変みたいですね」
三十分前、天道人進堂から紅魔館までは距離があるので恐らくはまだ帰路の途中だろう、時間を操ってなければ恐らく十分程度で追いつきそうだった。
「ありがとう桃花さん、行こう結月、咲夜さんに追いつくよ!」
ああ、と答えた結月は鈴音と共に正面玄関に出る。
「行くよ月見ちゃん!紅魔館の道を辿ってちょうだい!」
肩に乗っていた月見ちゃんがニャアンと言う掛け声と共に飛び出し巨大化する、結月の明王も同じように肩から飛び降りると巨大化し結月と鈴音は互いの守護妖獣に跨る。
「行くぞ、咲夜さんの所まで」
結月の掛け声と共に走り始めた明王と月見ちゃん。
三回目という事もあり結月も慣れてきたのか上手く乗りこなしているように見えた。
しばらく紅魔館に続く道のりを走っていると前の方に見覚えのある後姿が見えてきた。
「咲夜さ~ん!」
鈴音の声に足を止め振り向く咲夜、そして少し戸惑った様子をしていた。
巨大な守護妖獣が二頭こちらに向かって走ってきているのだから戸惑うのは無理もない。
「す、鈴音さん?それに結月さんも・・・・・わざわざどうしたんですか?」
咲夜の数m手前で守護妖獣は停止し鈴音と結月が守護妖獣の背中から降りる。
「ごめん、驚かせちゃって・・・・・ただ咲夜にどうしても伝えたい事があったの」
伝えたい事?そう呟いた咲夜に結月が説明する。
「蝙蝠の親玉の正体が分かった、蝙蝠の親玉の正体は人妖・・・・逸脱者だった」
人妖、その言葉に少し驚いた様子を見せる咲夜。
「人妖・・・・・・・そうですか、でもまさかお嬢様や妹様という存在がいながら蝙蝠の人妖になろうとする者がいるなんて思いませんでしたわ」
それは結月も咲夜と同じ考えを抱いていた。
幻想郷では蝙蝠と聞いて連想する事と言えばもっぱら紅い悪魔などの吸血鬼である、これは蝙蝠の妖怪があまりいない事や夜間、紅魔館の周囲を多数の蝙蝠が飛び回っているからであり、吸血鬼は自分達と共通点の多い蝙蝠を使い魔として従えているからではないかと言われてきた。
そのため人間の多くは蝙蝠に関わる事を避けており、大人達は子供に蝙蝠には悪戯しないように蝙蝠に悪さをすれば紅い悪魔の呪いで不幸が訪れると教えており、そんな世間の考え方を考慮するならば蝙蝠の人妖になどなろうとする者はあまりいないだろう。
「逸脱者は紅い悪魔の事を気にしていないのか、それとも軽視しているのか・・・・・」
かつて異変を起こしたほどの強大な力を持つ紅い悪魔を軽んじているとは思えないが、逸脱者になろうとする者の考えている事だから分からなかった。
「もしくは、逸脱者になる方法をそれしか知らなかったのかもしれない・・・・・」
鈴音の推測がもしかしたら一番近いかもしれないと結月は思った。
「とにかく、逸脱者と分かった以上、恐らく今夜も現れるであろう逸脱者を断罪しに出掛てくるよ、あっ!でも今回は空を自由に飛び回っている相手だし私達以外の逸脱審問官にも協力してもらうから私達が断罪できるかは分からないけどね」
しかし咲夜は心配そうな眼差しで鈴音達を見ていた。
「今夜断罪に・・・・そうですか、逸脱者は人間離れした能力を持つ存在、分かっているとは思いますが恐らく命懸けの戦いなると思います、ですが絶対に生きて帰ってきてくださいね」
咲夜に言われなくても何ども逸脱者戦った事のある結月と鈴音は良く分かっていた。
しかし逸脱者は咲夜の言った通り人間離れした身体能力と妖力を持っているので一瞬の油断や些細なミスでも命を落としかねない事を咲夜の言葉で再認識して結月と鈴音は気を引き締めた。
誰も命を落とさずに逸脱者を断罪する、これが最も理想的な逸脱者の断罪だからだ。
「任せてよ!今夜逸脱者を断罪して咲夜さんや紅い悪魔にかけられた疑いも晴らしてみせるよ!そしてまた人間の里でお茶をしましょう」
もちろん、咲夜や紅い悪魔にかけられた疑いを晴らすというのは逸脱審問官の使命としてではなく結月と鈴音の個人的な気持ちの表れだった。
「はい!もちろんですわ、鈴音さんや結月さんもどうかお気をつけて」
咲夜は笑みを浮かべ逸脱者との戦いに向かう鈴音達を見送る。
「じゃあ、私達は天道人進堂に戻るね!咲夜も日が暮れる前に帰ってね!じゃないと逸脱者に狙われちゃうよ」
そう言って鈴音と結月は相棒である守護妖獣の背中に跨る。
「あの鈴音さん、最後に蝙蝠の親玉の正体を突き止めたのはどなたでしょうか?」
咲夜の質問に鈴音は自慢げに答える。
「風馬、情報専門の隠密集団件頭の長をしている人よ、件頭の誰よりも抜きん出ていて件頭の誰もが彼を尊敬しているわ、彼の情報は正確で間違いはないから安心してね」
風馬、その名前に咲夜は心当たりがあった。
彼女の脳裏にかつて紅霧異変の時、博麗の巫女より白黒の魔女より先に紅魔館に辿り着いて見せたあの男の姿が過った。
「じゃあね咲夜さん、無事断罪出来たらちゃんと報告に行くからね」
そう言って鈴音と結月は天道人進堂に向かって走り去っていった。
「・・・・・・早くお嬢様にこの事を報告しないといけませんわ」
鈴音達を見送った後咲夜は急いで紅魔館に向かった。
時刻は進み空には無数の星と共に綺麗な満月が浮かんでいた。
満月の夜は妖怪にとっても吸血鬼にとっても最も妖力が高まる時でありいつも以上の力を発揮する事が出来た。
ただ、この状態が長く続くと気持ちの高ぶりや自我が保てなくなり暴走してしまう妖怪もいるため吸血鬼を含めほとんどの妖怪が毎日満月だと良いと思っているものなどいない。
何事もほどほどが良いのだ、ほどほどだからこそ価値がある。
「そう・・・・・・やっぱり人妖だったのね」
紅魔館の昨日と同じ一室、紅い悪魔は昨日と同じ椅子に腰かけ特に驚いた様子もなくそう言った。
相変わらず部屋は光源が窓から入る月明かりしかなく紅い悪魔の全貌は分からなかった。
「お嬢様は蝙蝠の親玉の正体が人妖だと分かっていたのですか?」
咲夜から蝙蝠の大群の話を聞いた時、何となく人妖の仕業ではないかと紅い悪魔は思っていた。
その根拠たる所以は彼女が現世から幻想郷にやってきた存在であるという事であった。
「現世の特に日本では蝙蝠の妖怪はあまりいなかったし、増してや幻想郷に住む人間を震え上がらせるほどの蝙蝠の大群を操れる妖怪なんていないに等しかったわ、吸血鬼も・・・・私達以外にはあまり数はいなかったし、いたとしたらとっくの昔に幻想郷にきているはずよ」
同時にそれは吸血鬼と呼べる存在がもう自分達くらいしかいない事を指していた。
その事を淡々と語る紅い悪魔だが何だかその口ぶりは寂しそうにも感じた。
「それにしても咲夜、蝙蝠の親玉の正体を突き止めたのは本当に風馬なのよね?」
だが紅い悪魔は余韻に浸る事無く別の話題に切り替える。
はい、としっかりとした声で答えた咲夜に紅い悪魔の口から笑みが零れる。
「そう・・・・・あの風馬がね」
風馬が蝙蝠の親玉の正体を突き止めた事は紅い悪魔の予想通りだった。
(五日か・・・・・まあ、能力のないただの人間にしては上出来な方かしら)
話を聞く限りでは恐らく逸脱者は逸脱審問官や件頭に自分の正体を悟られぬよう証拠を隠滅していた可能性もあった、それを含めると五日で逸脱者の正体を突き止めた事は紅い悪魔を満足させる結果だった。
あの時、紅魔館に侵入して見せた男が期待に通りの成長を遂げていた事に紅い悪魔は上機嫌だった。
「まさかあの時の紅魔館に侵入した男の方がまさかお嬢様の着せられた濡れ衣を晴らしてくれるとは思いませんでしたわ」
咲夜は言葉こそ驚いているような感じだったが紅い悪魔が見る限りでは大して驚いていない様子だった、紅い悪魔とってもそれはおかしくも何ともない事だった。
あの時自分は誰よりも先に紅魔館に辿り着いて見せた風馬の実力を賞して咎めず見逃してあげた、それが巡り巡って自分に戻ってきたのだ。
紅い悪魔にとってこの奇妙な運命の巡り合わせは決して珍しい事ではなかった。
「そう言っている割にはあまり驚いてないようだけど?」
何故自分は答えが分かっている質問をするのだろう?しかしその答えも紅い悪魔はちゃんと分かっていた。
「まあ、私もお嬢様の能力は良く理解していますから・・・・・それはもう身をもって」
やはり紅い悪魔が予想していた答えが咲夜から返ってきた。
その言葉が聞きたくて自分はこんな無意味なやり取りを楽しんでいるのだろう。
「風馬が人妖だと突き止めた以上、もう逸脱審問官は動いているのよね?」
聞かなくても分かっている事である、しかし念のために紅い悪魔は咲夜に問い質す。
「ええ、鈴音さんは今夜逸脱者を断罪しに行くとおっしゃられていましたのでもう断罪に行かれていると思いますよ」
当然の答えである、逸脱審問官は人間の掟を破る逸脱者の断罪が使命であり霊夢のように様子を見るなんて野暮な事はしないはずだ。
「もちろん、私達の疑いを晴らすためではないわよね?」
紅い悪魔のその問いに対して咲夜は苦笑いをする。
「鈴音さんと結月さんはお嬢様の疑いを晴らすと言ってくれましたけど、あくまでも逸脱審問官の役目である幻想郷の秩序を乱し人間の誇りや尊厳を穢す逸脱者を断罪するためだと思いますよ、それと逸脱者に殺されたであろう人間の無念を晴らすためでもあると思いますわ」
鈴音は咲夜と顔見知りなので鈴音と結月個人の気持ちとしてそう言ったのだろう。
「人間の誇りや尊厳ねえ・・・・・・咲夜は人間で良かったと思う所はあるかしら?」
そう聞かれ少し考えているかのような仕草をする咲夜。
「そうですねえ・・・・・あっでも、百年も二百年もお嬢様の御世話をしなくていいという点については人間に生まれてよかったと思いますわ」
それはさり気ない咲夜流の愚痴だった。
「それを私の前で堂々と言うかしら?」
そう言う紅い悪魔だが口元には笑みが浮かぶ、それは本人も自分の我儘で咲夜を振り回しているという事をちゃんと理解しているからだ。
咲夜と紅い悪魔の関係は只の主従関係ではなく心から分かり合える強い信頼関係で結ばれていた。
「大丈夫ですよ、生きている間はお嬢様の御側にいますから」
咲夜は人生の一生を紅い悪魔に忠誠を尽くす覚悟を持っていた。
「あら、嬉しい言葉ね、でも生きている間だけじゃなくて死んだ後もずっと御傍にいますよ、くらい言ってほしかったわね」
しかし流石の咲夜もそれは無理な相談だった。
「そう言って欲しいのならもう少し大人になられたらどうですか?お嬢様の子供の様な我儘に付き合うのも結構大変なんですよ」
そう語る咲夜はワザとらしく困った様子で今にもため息がもれそうな顔を作っていた。
「そうね・・・・・善処するわ」
その言葉は咲夜にとって意外なものだった。
「あら、いつになく前向きなお言葉、いつもだと言葉を濁すはずなのに」
咲夜のその言葉に対して紅い悪魔はフランの方をチラリと見た。
「私が異変を起こした時よりも年齢が上になったフランを見ているといつまでも子供じゃいられないと思うのよね」
吸血鬼はとても長生きなので見た目年齢と実際の年齢は大きく違う、紅い悪魔もフランも年齢は五百歳(しかし吸血鬼の年齢としてはまだ子供)超えており見た目はともかく知識や精神に関しては人間の子供を越えているはずなのだがフランはいつになっても幼稚な考え方だった。
「お姉様、そんなに大人になるのが嫌なら私が一生大人になれない体にしてあげてあげましょうか?」
自分が馬鹿にされた事に無邪気な笑みを浮かべながらも殺意に満ち溢れた目で紅い悪魔を見るフラン。
しかしそんなフランを前にしても紅い悪魔は全く動じる事はない。
「フラン、そうゆう所が子供っぽいのよ、少しは大人になりなさい」
しかし紅い悪魔の言動と反して子供っぽい仕草で嫌がるフラン。
「え~子供の方がいいよ、大人になんてなりたくないわ」
そう言うフランに対して紅い悪魔はため息をつく。
「残念ね、あなたがどれだけ我儘をいっても体は少しずつ大人になっていくのよ、諦めなさい」
ふ~んだ、と子供の様な拗ね方をするフランに紅い悪魔は首を横に振った。
「さて・・・・・どうしようかしら?」
フランの事はもう放っておいて紅い悪魔は蝙蝠の人妖と逸脱審問官の事を考える。
人妖だと分かった以上、逸脱審問官は既に動いているだろう、今日断罪できるかは不明だが少なくとも逸脱審問官が動いている以上、長くても数日で事は済むだろう。
しかしこのまま、逸脱審問官に任せてもいいのだろうかという考えも紅い悪魔にはあった。
蝙蝠の人妖は自分達と同じ蝙蝠を従えさせ我が物顔で幻想郷の夜空を飛び回り人間を襲っている、蝙蝠の人妖の故意かはたまた無知か、とにかく吸血鬼に在らぬ疑いがかけられ一連の行方不明事件が自分のせいにされている、これらは吸血鬼に対する侮辱の何物でもなかった。
紅い悪魔自身はどうでも良かったが、誇り高き優れた種族である吸血鬼としては泥を塗った蝙蝠の人妖に対しそれ相当の報いを与えなければ吸血鬼の面子もたたないだろう。
先代で紅魔館当主であるスカーレット卿や歴代の吸血鬼達があの世で泣いていたり怒り狂っていたりする姿が目の浮かぶ、紅い悪魔にとってそんな事どうでも良い事ではあるが。
それよりも逸脱審問官である鈴音や結月の事の事が気掛かりだった。
彼らは咲夜を窮地から救い出し、自分達に疑いの目がかけられる中、生活に必要な日用品を提供し、さらには自分達に着せられた濡れ衣を晴らすため蝙蝠の人妖と戦おうと、いやこうしている間にも戦っているかもしれないのだ。
彼等にかなりの借りを作っている(鈴音達にとってはそんなつもりではないにしろ)はずなのにこのままじっとしていていいのかと思ってしまう。
しかし自分を含め紅魔館は天道人進堂とは邪魔もしないが協力をしないという関係を維持したい思惑もある、人間側の組織である天道人進堂と繋がりを持つのは避けたい所だった。
少し考え込む紅い悪魔であったが決断は思いのほか早かった。
紅い悪魔は椅子から立ち上がり数段だけの階段を降りる。
「咲夜、武器庫から一本、手頃な槍を持ってきてくれないかしら?」
紅い悪魔の意図する所を咲夜はすぐに察知した。
「行かれるのですか?蝙蝠の人妖の所へ」
槍など大した敵対勢力のない紅魔館では無用の長物である存在である、それを用意するという事は今の状況を考えれば紅魔館を出て蝙蝠の人妖を仕留める事を指していた。
「逸脱審問官に任せてもいいのだけど、蝙蝠の人妖にここまでされて何もしないのでは吸血鬼の面子がたたないのよね」
しかしこれは建前であり事実上の口実だった。
「かしこまりました、すぐにお持ちいたしますわ」
次に紅い悪魔は拗ねたままのフランの方を見る。
「フラン、何いつまで拗ねているのよ?一緒に外へ出掛けるわよ、せっかくだからあなたも連れてってあげるわ」
紅い悪魔のその言葉に拗ねていたフランは嬉しそうな目で紅い悪魔の方を見る。
「本当に?外に出てもいいの?」
フランもまた強力な力を持っているが故に紅い悪魔から外に出る事を禁じられていた。
いつも紅魔館に軟禁されているフランにとって外出許可は心躍る事だった。
「あなたも昨日、誇り高い吸血鬼として蝙蝠の人妖に身の程を教えてあげたいって言っていたじゃない?ならあなたにも吸血鬼として手伝ってもらうわよ、ただし遊びに行くわけじゃないからね、その事は頭に置いておきなさい」
しかしそんな忠告を聞いているのか聞いてないのかフランは子供の様にはしゃいでいた。
「全く・・・・・」
フランの行く末が心配になるもののそれよりも紅い悪魔には楽しみにしている事があった。
(しばらく会ってないけど鈴音はどれだけ成長したのかしら?上司が務まるくらいの実力まで成長したのか、そして鈴音の部下になった結月という男は一体どんな人物なのだろうか、今からとても楽しみだわ)
相手は幻想郷の空を飛び回る蝙蝠の人妖、逸脱審問官も幻想郷の各地に配備させて蝙蝠の人妖を誘き寄せているのだろう、だから蝙蝠の人妖が鈴音達と戦うとは限らなかった。
しかし紅い悪魔は蝙蝠の人妖が鈴音達と戦うのではないかと予感していた。
根拠はひとつもないが強いてあげるとすれば鈴音達は私達の疑いを晴らすという思いを背負っている分、他の逸脱審問官よりも強い決意、強い意志で蝙蝠の人妖との戦いに臨んでいるはずだ。
強い意志は運命を自然と本人が望んだ方向へと導き自分以外運命も変えてしまう程の力がある事を紅い悪魔は良く知っていた。
「さて・・・・・もう鈴音達はもう戦っている頃かしらね」
鈴音の成長と結月という人物に期待しつつも紅い悪魔は妹と従者を連れ動こうとしていた。
第十七録読んで頂きありがとうございます。
いかがだったでしょうか?さてこの小説も書き始めて一年半くらい経とうとしています。
最初の方は平日は二ページずつ休日は五ページくらい書けていたのですが最近は中々小説の執筆が進みません、執筆意欲は決して薄れた訳ではないのですが中々ここまで長く書いていると他の小説が書きたくなる衝動に駆られてしまいます。
私は二次創作もオリジナルも書く方なのですが二次創作は東方projectと星のカービィを中心に書く事が多いです。
東方はともかく星のカービィ?と思ってしまう読者様もいるかもしれませんが私自身星のカービィのファンであり星のカービィは二次創作としてとても使いやすい作品だと考えています。
特にカービィはコピー能力や身体能力の高さもあって扱いやすい事や物凄く強いのに単純で御人好しで正義感の強い所が二次創作として広げやすい事も気に入っています。
いずれは中高生や大人向けの星のカービィも書いて投稿してみたいな(ハーメルンで任天堂作品って投稿できたかな?)と考えていますが今はまずは人妖狩りを頑張って書いていこうと思います。
それではまた金曜日に。