人妖狩り 幻想郷逸脱審問官録   作:レア・ラスベガス

13 / 34
あけましておめでとうございます、レア・ラスベガスです。
今年も頑張って小説を投稿していこうと思います、よろしくお願い致します。
それでは第十三録更新です。


第十三録 月明かり覆う黒い翼 三

時刻は昼過ぎ、天候は良好で春らしい陽気に包まれていた。

木々は青々とした若葉が茂り、小鳥が囀り、動物が生き生きと活動する、空を見上げれば鳥と共に春告精(春になると現れる妖精でリリーホワイトとも呼ばれている)が春の訪れを告げている、いつもと変わらぬ幻想郷の春だった。

一見すれば何か不穏な事が起きているとはとても思えなかった。

そんな春の陽気の中、二人の人影が人間の里の方向に向かって道を歩いていた。

「それにしてもまさか結月が、一緒に人間の里でお茶しないかって誘ってくるなんて・・・・・結月はこういうの興味ないかと思っていたよ」

嬉しそうにそう言ったのは先頭を歩く鈴音。

結月は考えに考えた末、鈴音をお茶に誘う事にした。

甘いお菓子に大好きな鈴音なら甘いお菓子を食べて機嫌が直れば昨日の事など忘れてしまうのではないか?と結月は考えての事だった。

「練習も大事だが互いの信頼関係がなければいざという時に息の合った連携攻撃は出来ない、互いの信頼関係を築くため一緒にお茶を飲んで何気ない事を語り合うのも大切な事だ、それにここ数日朝から夜まで練習ばかりで心も体を疲れただろう、たまにはこういう息抜きも必要だ」

とはいえ、鈴音にそんな理由で誘ったとはいえるはずがない、話してしまえば昨日の事を思い出して気を遣わせてしまうからだ。

なので結月は建前の口実で誘った理由を説明した。

「もう、結月は固い、固過ぎるよ、素直に私と一緒にお茶がしたい、だけでいいじゃん」

しかし鈴音にとって結月の説明は堅苦しさを感じる物だった。

本当に交流したいとか息抜きしたいとか思っている人だったらそんな事をわざわざ説明しなくてもお茶がしたい、それだけで伝わるはずだ。

それは結月があまり人を誘った事がなく慣れてない証拠だった。

「そ、そうだな・・・・・すまない」

あまりの自身の社交性のなさに反省する結月。

今回はその社交性のなさを鈴音が知っていたおかげで結月は人と接するのが苦手程度しか思われなかったが下手したら今の説明が口実だとバレてしまう可能性もあった。

「でも私のあの時言った事、結月ちゃんと覚えていてくれたんだね、信頼関係を築く事、息抜きも重要な事、ちゃんと理解してくれたんだね、私とっても嬉しいよ」

後ろにいる結月に振り返った鈴音は笑顔でそう言った。

結月はその笑顔を見て内心安堵していた。

それは今見せた笑顔が昨日見た無理に作った笑顔ではなくいつもの鈴音らしい自然に出た笑顔だったからだ。

だからこそ、本当は昨日の事を忘れてほしくてお茶に誘った事に結月の良心が痛んだ。

まるで嘘をついているような気がしたからだ。(正確には嘘をついているのでなく本音は言ってないだけなのだが)

「後、本当に結月の驕りでいいの?」

鈴音がそう心配そうに聞いてきた。

実は結月は鈴音を誘う時、自分の奢りで行くと説明していた。

それはその方が鈴音により喜んでもらえると結月が思ったからだ。

「ああ・・・・・肉の塊のような逸脱者と猿の逸脱者を断罪にして多額の報酬がもらえたからな、お金には余裕がある」

逸脱者が現れた時、その逸脱者に多額の賞金が掛けられその逸脱者を討伐する事で多額のお金を逸脱審問官が受け取る事が出来る。

逸脱者の妖術を扱い人間離れした身体能力を持っている場合が多いため、幾ら体を鍛え守護妖獣の力を借りているとしても人間が逸脱者を断罪するのはいつ命を落としてもおかしくないほど危険な仕事だった。

そのためその逸脱者に見合った対価が天道人進堂で用意され無事断罪を成功させた逸脱審問官には労いと褒美として銀行に振り込まれるのだ。

ちなみに初日に討伐した肉の塊のような逸脱者には十万、一週間前の猿の様な逸脱者には十五万の報酬が支払われ結月と鈴音はそれを半分ずつ山分けした。

基準がないのでこれが高いのか安いのかは分からないが話では百万以上も支払われた逸脱者の断罪もあるらしい。

無論、逸脱者が長期間現れなくても逸脱審問官が飢えに苦しむ事はない、逸脱者が現れてないとき、体を鈍らせないための練習が彼らの仕事とであり、練習日数と時間で給料が支払われるのだ。

一カ月毎日練習をみっちり練習した場合、銀行には十五万程振り込まれる。

基本、住居は家賃・水道料・蝋燭料全て無料なので十五万貰えれば余程やり繰りが下手でない限り余裕のある生活が出来た。

そんな大金、支払っても大丈夫なのか?という疑問もあるが幻想郷に住む人間の中には天道人進堂の人としての道を外れる逸脱者は許すべき大罪人であるという考えに賛同してくれる人達がおり、支援金が天道人進堂に寄付されその中には名のある豪商や資産家も含まれておりハッキリ言ってしまえばそんな心配はしなくてもいいくらいお金があるらしい。

ただ、逸脱審問官全員が皆金持ちなのかと言われるとそうでもなく、結構色々な事で支出しており一方で結月は逸脱審問官の中でもあまりお金を使わない方なので銀行には使う予定のないお金が溜まっていた。

「ただ、人間の里の甘味処には俺は詳しくない、だから鈴音がお勧めの店、行きたかった店に行くと良い、今日くらいは幾らでも払ってやる」

結月の強気の発言に鈴音の顔がパアッと明るくなる。

「本当!?ありがとう結月!丁度行ってみたい甘味処があったんだ!そこに行こうよ!」

そう言ってさらに足が軽やかになる鈴音。

そんな浮き浮きとした鈴音の姿を見てホッとする一方で一体どんな甘味処なのだろうと一抹の不安もあった。

(行ってみたい・・・・つまりそれはまだ行った事がないという事だ)

新しく出来た店なのか、それとも随分歩いた所にある店なのか、それともかなりの値段がするのだろうか?

そんな心配もあったがとにかく今は鈴音の紹介してくれる甘味処をまずは楽しむ事にして結月達は人間の里に足を進めた。

 

人間の里に到着した結月達だったが人間の里はいつもと違う異様な空気感に包まれていた。

「何か・・・・・変だね」

一見すれば人通りが多くいつもと変わらない人間の里の大通り、店も何処も閉まることなくやっており人気のあるお店には行列も並んでいる。

しかし逸脱審問官二年目である鈴音は今日の人間の里がいつもと違う事を敏感に察知していた。

「ああ・・・・・変だな」

結月もまた人間の里の異様な空気感を敏感に察知していた。

それはいつもあって今日はないものだった。

「こんなに人通りがあるのにちっとも活気がないよね・・・・・」

それは結月も同感だった。

そう今の人間の里、特にこの人気のあるお店が立ち並ぶ大通りにあるはずの活気が今日は一切感じられなかった。

人間の里は大妖怪八雲紫が張った結界で守られており人間を食べようとする妖怪や人間に悪意を持つ妖怪は入ってこられないため、人間の里は人間にとって数少ない気が抜ける場所だった。

いつもだったらこの大通りは商人達の客引き、大道芸人への拍手やどよめき、主婦達の井戸端会議、若い女性同士の談笑、荷物を運ぶ男達の掛け声、子供達のはしゃぎ声で犇めきあっており隣にいる人の話し声さえも聞こえにくい程騒がしい場所で当然今の鈴音の小声なんか聞こえるはずないのだ。

しかし今日は人通りこそ多いのだが何処か空気が重く感じられ至る所で色々な人達が内緒話をしているかのような小声で立ち話をしていた。

いつもの人間の里の大通りだったら聞く耳をたてなくても聞こえてくるほどの明るい声と笑い声で満ち溢れているはずなのに今日はそれが感じられない。

商人の客引きの声だけが響くためむしろそれが寂しく感じられる。

「みんなどうしちゃったんだろう・・・・・いつもはこんなに声が通る程静かな場所じゃないのに・・・・・」

いつもと違う人間の里の様子に戸惑いが隠せない鈴音。

結月は一体立ち話をしている人達が何を話しているのか知るためヒソヒソ声に耳を傾ける。

「・・・・・・しちまったんだ、これで四人目だぞ」

結月が耳を傾けたのは運び屋を生業としているだろう男達の立ち話だった。

「ああ、昨日は南東方面の畔見集落に住む女性が夕方人間の里まで買い出しに出掛けてからそれっきりらしい」

彼等が話している話はどうやら行方不明者が出たという内容だった。

「何でもある人の話だと人間の里で買い物している姿は数多くの人に見られているんだが買い物を終えて日が沈みかけた頃、人間の里を出ていく彼女の姿を最後に行方知らずになっているらしい」

どうやら畔見集落に住む女性が昨日の夜から行方不明らしい。

幻想郷で特に行方知らずになる理由もない人が行方不明になる事は珍しい事ではない。

ここは妖怪の楽園であり妖怪の支配する世界なのだ、そのため妖怪が人間を襲って食べてしまうなどごく自然な事だった。

妖怪に襲われなくても幻想郷を通る道の中には危険な道もあり険しい崖から落ちたりや川や湖で転落し流され行方知らずになる事も少なからずあった。

本来ならこんな多くの人で賑わう大通りがここまで空気が重くなるような事件でもない。

しかし結月はその話を聞いて何処かで似たような話を聞いたのを思い出した。

(確か昨日・・・・・桃花が似たような話を・・・・・)

そこで結月は昨日の桃花の話を思い出した。

(確かここ数日の間に夜間外出していた三人の人間が行方不明になっていると言っていたな)

さっき立ち話をしている男の一人がこれで四人目だと言っていた。

もし桃花の話と今回女性が行方不明になった話が関連あるのなら桃花の話と辻褄が合う。

「やっぱりあの蝙蝠の大群と何か関係があるんじゃねえか・・・・・蝙蝠の大群が夜空に飛び回り始めてから毎日のように何処かで人間が消えていく・・・・・きっと今頃、血を全て吸い取られた亡骸が何処かに・・・・・」

悪い冗談はやめろよ、と男の一人が呟くが彼もその言動に確かな自信は感じられない。

やはり男達が話していた女性の行方不明と桃花が話していた三人の行方不明者の話は関連性があるらしい。

「あながち嘘じゃねえかもしれねえな・・・・・これはたまたま聞いた噂話なんだが、何でも蝙蝠の大群の中に一際大きな蝙蝠の姿を見たっていう目撃者がいて大きさは曖昧なんだがその翼は大きくあの夜空に浮かぶ月すら覆い隠してしまうくらいだとか・・・・・」

一瞬聞けば与太話だと一蹴されそうな噂だが結月にはあながち否定は出来なかった。

月を覆い隠してしまう程・・・・・・・守護妖獣にも大きな翼は生えているがこれでも空を飛んでいられるのは短時間だ。

もし月を覆い隠してしまう程の翼で十分な飛行能力を秘めているとしたらその体の大きさは恐らく人間くらいかそれ以上ではないだろうか?結月はそう推測した。

無論普通はそんな蝙蝠なんていない、もし人間を襲う程の巨大な蝙蝠がいたとしたらそれは普通の蝙蝠ではない、恐らくは妖怪の類だろう。

もしそいつが妖怪だとしたら蝙蝠の大群を従える程の力と器があってもおかしくない。

何よりも現状ならそれが一番納得できる説だった。

「まさか・・・・・いやでももし月をも覆い隠してしまう程の大きな翼を持った蝙蝠なら人間を襲うかもしれないな・・・・・・・」

確かにそのくらいの大きさがあるなら人間を襲ってもおかしくない。

「という事はそいつが蝙蝠の大群の親玉かも知れないな・・・・・しっかし一体何者なんだ?」

蝙蝠の大群の親玉の正体、その答えを知る者は誰もいなかった。

一つだけ言えるとすれば人と同等かそれ以上の大きさのある蝙蝠はもはや蝙蝠の域を超えているという事だ。

蝙蝠の生態には詳しくない結月だがそれでも自然発生でそこまで大きな蝙蝠が生まれる訳がない事は分かっていた、そうなればその蝙蝠の親玉の正体は自ずと絞られる。

(恐らくは蝙蝠の姿をした妖怪であろう・・・・・だがもしかしたら・・・・・)

そこまで考えた結月だがすぐに考えるのをやめる。

それはそれを調べる専門として件頭がいて彼らの方が詳しいだろう、そして彼らから何も連絡がない時はまだ分からないか関係ないかのどちらかなのだ。

逸脱審問官の仕事は逸脱者を倒すのであって積極的に逸脱者を探す事はあまりしない。

結月は運び屋の男達の話に耳を傾けるのをやめると鈴音に近づき話の内容を報告する。

「鈴音先輩、どうやら四日前から現れた夜空を飛ぶ蝙蝠の大群と同時期に発生している連続行方不明者がこの人間の里の活気のなさと何か関連している可能性があるようだ」

鈴音は結月の話を聞いて特に驚いた様子もなく、結月の話を聞く前から分かっていたような感じだった。

「結月が聞いた話もその話題だった・・・・・立ち話している人の殆どがその話題で持ちきりだったよ、確かにこれなら人間の里に活気がないのも頷けるわね」

結月も人間の里の活気がない理由に察しがついた。

それは蝙蝠の大群が現れてから連日のように行方不明者が出ている事だ。

実の所、四日連続で特に失踪する理由もない人間が行方不明になるのは最近ではとても珍しかった。

幻想郷は妖怪の楽園のため人食い妖怪が人間を襲う事など珍しくないのだが最近では妖怪が人間を襲う事もほとんどなくなり、一週間に一人襲われるか襲われないかまで減少していた。

妖怪は別に人間を餌としているという訳ではなく人間の恐怖や畏怖を糧としているためそれさえあれば生きていけるのだ。

人間を襲う妖怪がいるのは主に人間の味を覚えてしまったか人間に恐怖や畏怖を植え付けるため他ならない。

妖怪研究の第一人者として知られる稗田阿求(ひえだあきゅう)も「今の幻想郷は妖怪としても人間としても過ごしやすい理想的な時代」と述べていた。

人間を活発的に襲う妖怪の代表に河童が挙げられるが河童は作戦を決め仲間を集め必要な分だけの人間を襲い川に引きずり込むため一日で四・五人の人間を襲う事もあるが連日に渡って行うような事はせずその日が終わればしばらくは人間を襲う事はない。

だからこのように連日のように行方不明者が出るのは珍しかった。

そして行方不明者が出るようになった夜から突然現れた蝙蝠の大群、日が経つ毎にその数は増えそれに伴い言いようのない不気味さが増していた。

夜は妖怪の活動時間なので人間が出歩く事は少なかったがそれでも夜間に様々な理由で守られた結界の外で出歩く人達にとっては蝙蝠の大群は恐怖の対象だった。

妖怪があまり人を襲わなくなった今日に置いては尚更である。

夜な夜な夜空を飛び回る蝙蝠の大群と連日の行方不明者の関連性は全く持って不明だが多くの人達がこの二つの事象には何か関連性があると思っており、蝙蝠の大群、もしくはその蝙蝠の大群の親玉が人間を襲っているという認識を持っている。

つまり蝙蝠の大群と言う多くの人に目に見える形で怪異が起き、そして四日連続で夜間に外に出掛けている人間が行方不明になるという事件が起き、挙句にその行方不明者は蝙蝠の大群かその親玉に襲われたという噂話が人間の里で出回り人間の里に不穏な空気が漂い、人間の里にいる多くの住人や旅人達は言いようのない不気味さと恐怖で緊張をしているのだろう。

「平和ボケも度が過ぎれば大概だな」

結月は別に決して平和である事を馬鹿にした訳ではない、ただあまりにも平穏に入り浸っているため多くの人間が恐怖というものが身近にある事を忘れている事を言っているのだ。

妖怪が人間を当たる前のように襲っていた昔の幻想郷なら皆が常に緊張感を持って毎日妖怪に襲われてもここまでの騒ぎになる事はなく多くの人間は恐怖が身近にある事をちゃんと理解していた。

それだけ強い精神力と緊張感を持って生きていたのだ。

そうでもしないと生きていけないような時代だったともいえるが・・・・・。

「平和な事は良い事なんだけどね・・・・・人間ってそういう所もあるんだよね」

鈴音も結月の言いたかった意味をちゃんと理解しそう言った。

鈴音も蝙蝠の大群と連日の行方不明者で人間の里、全体がここまで重い空気に包まれる事にある種の失望にも似た感情を持っていた。

件頭の調査によると幻想郷全体では妖怪に襲われなくても毎日二~三人の人間が事故や病気で亡くなっている。

大雨が降った日には土砂崩れで一つの集落が飲みこまれ二十~三十人死者が出た時もあった。

そんな日でも人間の里でその土砂崩れの話が話題にあがる事はあっても人間の里全体が今の様な重い空気に包まれるような事にはならない。

連日の行方不明者は毎夜一人ずつなのでこれ以上増えなければ正直に言えば大きく取り上げる事件ではない(行方不明者の家族やその近隣住民にとっては重大事件だが)。

幻想郷は妖怪が住み着く前提で出来た世界なのでその妖怪の餌であり糧である人間は例え毎日人間が五~六人亡くなったとしても人間の地位が崩れるような事はないからだ。

(もしもの場合は大妖怪である八雲紫が外の世界から人間を攫ってくる)

本来ならこれが普通の幻想郷の姿なのに平和を入り浸っていた多くの人間は恐怖が身近にある事を忘れているために蝙蝠の大群という怪異に戸惑いを隠し切れないのだ。

年に一度あるかないかの異変も経験してきたはずなのにいかんせん今まで起きた異変で死者は殆ど出ず妖怪は恐ろしい存在だという認識はあっても今の妖怪はあまり人間を襲わなくなったといういつ壊れるかもわからない安心感に縋っていたのだ。

特に結界の張られた人間の里で暮らす多くの人間達はそれが顕著だ。

そしてその安心感に亀裂が入った時、人間の里で暮らす人々は正常でいられなくなるのだ。

鈴音は過去にもこんな光景を何度も目撃しているため結月の気持ちがよく分かるのだ。

「それにしても蝙蝠の大群の親玉・・・・・月を覆い隠してしまう程の翼を持った蝙蝠の妖怪は一体どういう何者なんだ?」

本当に妖怪かどうかわからず、その存在すら曖昧だが親玉の存在なしに蝙蝠の大群が統制されているとは思えず、何者かが蝙蝠の大群を支配していると考えた方が辻褄は合う。

「蝙蝠の妖怪ね・・・・・・現世の世界は良く知らないけどとりあえず日本では名のある蝙蝠の妖怪はいないわね・・・・・いたとしても殆どの人間に知られていない妖怪だと思うよ」

名もあまり知られていない蝙蝠の妖怪が幻想郷にやってきて短時間で蝙蝠の大群を築くほどの力と器を持っているとは思えなかった。

もしそれだけの器があったとしたら現世で名前くらいは与えられるだろうし文献にも乗る筈だ。

現世で無名だったのは倒される程の脅威はなく大人しく表舞台に姿を現さなかった事に他ならず、強い力と器を持っているとは思えない。

無論、表舞台に出てないだけで強い力を持った妖怪もいたかもしれない、だがその確率は極めて低い。

「後幻想郷に元からいた蝙蝠の妖怪は・・・・あっ!一番有名な妖怪を忘れていたよ」

有名な妖怪?そう結月が聞いた時、確かに蝙蝠の妖怪と聞いて蝙蝠とよく似た妖怪みたいな存在が幻想郷にいたような気がしてならなかった。

「結月は知らないの?ほら霧の湖の湖畔に建っている紅魔館と呼ばれる建物に住んでいる『紅い悪魔』よ」

紅い悪魔、その言葉を聞いた時結月はハッキリと思い出した。

紅い悪魔の事は結月も知っており話によれば本人は吸血鬼を名乗っておりその姿は十歳にも満たぬ幼女のような姿だが背中には身長よりも大きな蝙蝠の翼のような羽根が生えているとされ幻想郷でも指折りの実力者で紅霧異変を引き起こした黒幕と聞いていた。

「でも・・・・・多分この蝙蝠の大群と行方不明者は紅い悪魔とは関係ないと思うよ」

結月も鈴音の言葉で紅い悪魔の事を思い出したが紅い悪魔がこの蝙蝠の大群や連日の行方不明者に関与しているとは考えられなかった。

「だって紅い悪魔は・・・・・」

鈴音がその理由を話そうとした時だった。

「しらばっくれるんじゃねえ!」

突然何処かから男の怒鳴り声が響いた。

「さっきの怒鳴り声、あっちから聞こえたよね?結月、行ってみようよ」

鈴音の言葉に結月はこくんと頷いた。

もし喧嘩が起きそうなら止めなくてはならない。

人間の番人である逸脱審問官としては里の秩序が乱れるような行為は止める義務があった。

もし対話に応じず抵抗する場合は相手を大人しくさせるため制裁と言う名の攻撃を加える。

最終手段ではあるがもし喧嘩が起きれば混乱が起き関係ない人に危険が及ぶからだ。

怒鳴り声のした方には既に人だかりが出来ており結月と鈴音は野次馬を掻き分けて最前列に出た。

人だかりの中心地、そこには天道人進堂の喫茶店の店員と衣装と似たような衣服を着た女性とごく一般的な旅人の服装をした男女合わせて八名が距離を置いて対峙していた。

「一体何の事でしょうか?お話しの意味がよく分からないのですが」

怒鳴り声をあげた男に対してその女性は動じる事無くそう答える。

「とぼけるんじゃねえ!お前なんだろう?お前のとこの主がうちの村の真弓(まゆみ)を襲ったんだろう!?」

そう怒鳴り声をあげる男は既に頭に血が上っていて目は血走り怒りで体が震えている。

どう見たって興奮している状態だ。

「そうよ!私の真弓を返してよ!」

年増の女性が泣きながら必死な声でその女性に訴える。

「ですから、私は何も知りませんし、お嬢様は幻想郷に住んでいる人間を襲う事なんてしませんわ」

一方のその女性は殺気だった男女八名に対して特に怯える事も嫌な顔をする事もなく自分は関係ないと主張していた。

どうやらこの女性、見た感じ恐らく同じ人間だと思われるがどうやら只者じゃない者に仕えている従者のようだ。

もちろん、その言葉で納得してももらえる筈もなくむしろ逆上させていた。

「見え透いた嘘をつくな!」

そう言って前に出てきたのは一人の若者だった。

「俺は見たんだ!あの日真弓が行方不明になった日の夜、俺達の暮らす集落の上空には蝙蝠の大群が飛び回っていた、その小さな蝙蝠の大群の中に紛れるように一際大きな翼を持った蝙蝠が飛んでいるのを俺はこの目でちゃんと見たんだ!」

彼等の話もまた人間の里の人々と同じ蝙蝠の大群に関する話だった。

どうやら彼も蝙蝠の妖怪の姿を見た目撃者の一人のようだ。

彼の話に信憑性があるかどうかは不明だが恐らく目撃者は彼だけではないだろう。

「おまえのとこの紅い悪魔も蝙蝠の妖怪で背中に大きな蝙蝠の様な翼を持っていて蝙蝠を操る事も出来るらしいな、最近の蝙蝠の大群も真弓を襲ったのもお前の主だって言っているようなものじゃないか!」

どうやらこの女性はあの紅い悪魔に仕えている人間らしい。

結月も紅魔館には不思議な力を持つ人間の女性が一人、紅い悪魔に仕えていると聞いていた。

どうやらこの女性がその人物らしく、この八名の団体は紅い悪魔に恨みを持っており、紅い悪魔に仕えているこの女性に対してその事を問い詰めているようだった。

「何度も申しあげますが、お嬢様は幻想郷の人間を襲う事はありません、幻想郷の人間を襲ってはいけないという大妖怪との契約にお嬢様は同意しています、ですから蝙蝠の大群も人間を襲っているというのもそちらの誤解ですわ」

その女性がそう言った時、興奮していた男が一際大きな声で黙れ!と言った。

「そんな話信じられるか!現に夜に蝙蝠の大群が飛び回るし真弓を含めて四人もの人間が行方不明になっている!幻想郷に蝙蝠の妖怪なんてお前の所の妖怪くらいじゃねえか!襲っているんだろう!?真弓も襲ったんだろう!」

その男の怒鳴り声と共に他の八名も声をあげる。

「そうだ!さっさと認めろ!妖怪の肩を持つ人間め!」

一人が罵声を浴びせると他の人達もそうだ!そうだ!と声を上げる。

「妖怪の味方をするお前なんて人間の恥さらしだ!」

暴言罵倒を浴びせられても女性は全く動じず黙っていた。

「人間の里から出ていけ!」

次第にその声は取り巻きで見ていた野次馬達からも聞こえ始め次第に八方から罵倒中傷が女性に向けられる。

「私の真弓は何処へやったのよ!答えなさいよ!」

年増の女性は目元が張れる程泣きながらそう言った。

恐らくこの年増の女性は真弓という人物の姉妹か母親なのだろう。

今にも均衡が崩れ誰かが殴りかかってもおかしくないほど緊張が高まったその時だった。

「ちょっとみんな!やめなさいよ!まずは落ち着きなさい!」

誹謗中傷を浴びせられる女性を守るように前に現れたのは鈴音と結月だった。

「鈴音さん?どうしてここに?そしてあなたは・・・・・?」

どうやらこの女性も鈴音とは顔見知りのようだった、鈴音は振り向くようにして女性の方を見ると真剣な面持ちをしながら小声で問い質す。

「さっきの言葉、私に対してもハッキリと言える?」

その言葉に女性は小さくもしっかりとした声で答える。

「はい、勿論です」

小さくもしっかりとした声で答えた女性に対して鈴音は安堵した表情を見せた。

「結月、彼女の話は本当よ、私が保証する、だから・・・・・」

分かっている、と簡潔に答えた結月、鈴音とこの女性は顔見知りであり鈴音が彼女の言葉を信頼する以上、鈴音を信頼する結月もまた彼女を守る決意を固め八名の団体と向き合った。

「さっきから話を聞いていたが、いくらなんでも話が飛躍しすぎてないか?」

結月の言葉に頭に血が上っている男が怒りに任せて怒鳴る。

「誰だ!?お前達は!そいつの仲間か?」

鈴音はこの天道人進堂の喫茶店の店員と似た服を着た女性とは顔見知りのようではあるが一方の結月は彼女とはこれが初対面だ、だがこの女性の味方になりたいのは事実だった。

「まずは名乗るべきはあんた達だろう?そもそもあんた達は何者なんだ?」

恐らくは見当は着いているものの念のため確認する。

結月の問いかけに男女八名の中から一人の三十代後半の男が前に出て説明を始めた。

「俺達はガラキ丘にある早高集落に住んでいる者達だ、二日前の夜、蝙蝠の大群が俺達の暮らしている集落の上空を飛び回っていて俺達は気味悪がって家に閉じこもっていたんだがこの女性の一人娘である真弓が急な用事を思い出して隣の集落まで出掛けたんだが結局帰ってこなかった、朝が明けて集落総出で辺り一帯を探し回ったんだが真弓は見つからず代わりに道半ばに真弓の髪留めが落ちていたんだ、俺達は妖怪に襲われたか人攫いにあったんだと思ったんだが、見張り番をしていたこの男が昨日の夜に飛び回っていた蝙蝠の大群の中に一際大きな翼を持った蝙蝠を見たって言ったんだ」

結月は確か行方不明者が出た村や集落の一つに早高集落があったのを思い出していた。

「この幻想郷は幾ら妖怪の楽園と言えど蝙蝠の妖怪はそういない、蝙蝠の大群を操り人間を襲うなんて事をする蝙蝠の妖怪はあの紅い悪魔と呼ばれる存在以外有り得ない、俺達はこの夜な夜な飛び回るようになった蝙蝠の大群と連日の行方不明事件は紅い悪魔が犯人だと思って人間の里までやって来たんだ、紅い悪魔に仕えている人間が時折人間の里に買い物に来ると聞いてな、待ち伏せして問い詰めてやろうと思ったんだ」

話を静かに聞いていた鈴音は一息入れて喋り始めた。

「集落の住人である真弓さんが行方不明になって必死になっているあなた達の気持ちはよく分かるわ、でもだからといってそう考えるのはちょっと飛躍し過ぎだと思うわ」

な、なんだと!?と声をあげた男に対して鈴音は冷静に説明を行う。

「まず、真弓さんは本当にその大きな翼を持った蝙蝠に襲われたのかしら、あなた達全員真弓さんがその大きな翼を持った蝙蝠に襲われている所を目撃していないのよね、大きな翼を持った蝙蝠を偶然見かけたからそう思ったのよね、他の妖怪に襲われたとか、動物に襲われたとかは考えなかったの?」

鈴音の言葉に顔を見合わせる早高集落の者達。

「確かにそうだが、蝙蝠の大群が現れてから今日までに真弓を含めて四人もの人間が行方不明になっている、これはどう考えてもその大きな翼を持った蝙蝠に襲われたとしか・・・・」

結月も恐らくは真弓と言う女性を含めた行方不明はその大きな翼を持った蝙蝠に襲われた可能性が高いと考えてはいるものの、それはあくまで推測の域であり断定できるものではなかった。

どう考えても、という考え方は大きな翼を持った蝙蝠しかいないという先入観が入っている他ならない。

その事を鈴音は的確に指摘した。

「逆に言えばその真弓さんを含めた四人の行方不明者がその大きな翼を持った蝙蝠に襲われた所を目撃した人も証拠もないわ、行方不明者を襲った明確な犯人が分からないからこそみんな怖がっている訳だし、何故それで大きな翼を持った蝙蝠に襲われたと言えるのよ、あなた達は大きな翼を持った蝙蝠を見たと聞いただけでその蝙蝠が犯人だと決めつけているだけじゃない」

それに、とさらに言葉を畳み掛ける鈴音。

「もしその大きな翼を持った蝙蝠が犯人だとしてもその大きな翼を持った蝙蝠が紅い悪魔とは限らないわよ」

何を言ってやがる!と一番頭に血の上っている男が声を荒げる。

「幻想郷で蝙蝠を操り人間を襲いそうな蝙蝠の妖怪は紅い悪魔くらいしかいないだろ!」

怒鳴るようにそう言った男に対しても鈴音は冷静に反論を述べる。

「じゃああなたは幻想郷には紅い悪魔に以外に蝙蝠の大群を操って人間を襲う蝙蝠の妖怪はいないと断言できる証拠はあるのかしら?」

その言葉に頭に血が上っている男は言葉を詰まらせる。

「幻想郷は現世に居場所がなくなった日本中の妖怪が移住してくる世界よ、それこそ数えきれない程の妖怪が住んでいるわ、如何なる妖怪学者でも全ての妖怪を把握しきっている人なんていないわ、妖怪の中には人目につく事を極度に嫌う妖怪も少なくないし人間があまり入らない場所に住んでいた妖怪なんかもいるわ、果たしてそれで蝙蝠の妖怪は紅い悪魔しかいないと断言できるのかしら?」

鈴音の反論は次第に攻勢に変わる。

「もしかしたらその大きな翼を持った蝙蝠はつい最近、幻想郷にやってきた妖怪かも知れないわよ、現世にもまだ妖怪は残っているはずだからね、その妖怪の中には決して表舞台には出てこなかったけど蝙蝠の大群を操り人間を襲う程の実力を持った蝙蝠の妖怪が幻想郷にやってくる可能性もなくはないわ、元から居た、現世からやってきた、どちらにしても大きな翼を持った蝙蝠を見たというだけで紅い悪魔の仕業だと決めつけるのは安易だと思うわよ」

もちろん鈴音の話に正解があるとは限らない。

だが犯人が紅い悪魔とは限らないという話では十分に説得力があった。

「くっ・・・・・・てめえらこそ、一体何者なんだよ!紅い悪魔に仕える人間なんかに味方しやがってよ!」

結月と鈴音は顔を見合わせると鈴音が頷いた。

「私達は天道人進堂に所属する逸脱審問官よ」

逸脱審問官、その言葉に周囲の人間がどよめいた。

「い、逸脱審問官だと・・・・・、逸脱審問官は人間の味方じゃねえのかよ!」

しかし鈴音はその言葉をバッサリと切り捨てる。

「私達、逸脱審問官は人間としての誇りや尊厳を厳守する人間を守るためにあり、ただ大きな翼を持った蝙蝠を目撃したという証言だけで犯人が紅い悪魔だと決めつけて紅い悪魔に仕えている人間に対して心無い誹謗中傷浴びせるような人間の味方ではないわ」

しっかりとした言葉でそう言い放った鈴音に対し早高集落の人達も野次馬も反論ができず静まり返った。

「集落の仲間を失って辛いのは分かるわ、でも何の証拠もないのに紅い悪魔や紅い悪魔に仕えている人間を責める事は私達、逸脱審問官が許さないわ、もし紅い悪魔が犯人だというのなら確証性のある証拠を私達に見せなさい、見せてくれたら貴方達の邪魔はしないわ」

それは・・・・と口にした後、言葉が出ない早高集落の人達。

周りの人間もさっきとは打って変わって早高集落の人達に厳しい視線を向けていた。

「くっ・・・・・くそ、このままで済むと思うなよ!」

そう言って早高集落の人達はその場から逃げるように去って行った。

状況からしてみればこの女性を正統性のない誹謗中傷から助けたのだから喜んでいいのだが結月と鈴音は素直にそれを喜ぶ事が出来なかった。

「・・・・・ああは言ったけど、早高集落の人達も大切な集落の住人である真弓さんが行方不明になって必死なんだよね」

周囲から冷たい視線を浴びながら逃げるように去っていく早高集落の人達の後姿を見て鈴音はため息をついた。

確証的な証拠や証言もないのに噂話と思い込みだけで紅い悪魔が犯人だと決めつけその紅い悪魔に仕えている少女に対して心無い誹謗中傷を浴びせた事は容認できることではないだろう。

しかし、早高集落の人達もまた蝙蝠の大群が飛び回る最中、大切な集落の住人である女性が行方不明になって悲しみと怒りで正常な判断能力を失いこのような事をしてしまったのだ。

彼等もまた蝙蝠の大群に惑わされている被害者の一員なのだ。

「ああ、早くこの騒動が収まるといいんだが・・・・」

幻想郷は妖怪が人間を支配する世界なので人間は襲われても仕方がないのだがそれでも度が過ぎると幻想郷の秩序を守る博麗神社の博麗霊夢に幻想郷の秩序を乱す存在と位置付けられて退治、場合によっては成敗されてしまう。

そのため妖怪も度が過ぎないよう過度に人間を襲わないようにしており、結果的に今日の人間は妖怪に支配されつつもただの餌ではなく人間として生きる権利が与えられた世界が保たれている。

今回の蝙蝠の大群は異変と呼ぶにはまだそれ程ではないが幻想郷全体に脅威が及んでいる事を考えると博麗霊夢もそう遠くない内に重い腰を上げる事になるだろう。

それか蝙蝠の大群を操る大きな翼を持った蝙蝠がその前に人間を襲うのをやめるかのどっちかである。

(だが、果たしてこれは妖怪の仕業なのか・・・・・?)

しかし今までの話はその大きな翼を持った蝙蝠が妖怪であるという前提での話である。

結月はその大きな翼を持った蝙蝠が妖怪であるという考えには懐疑的であった。

それは鈴音も同じだろう、だがその大きな翼を持った蝙蝠が妖怪ではないという証拠がない以上、推測の域を出る事はなかった。

「・・・・・あっ、ごめん!大丈夫だった?咲夜(さくや)さん」

鈴音は早高集落の人達を見てつい感傷的になっていたが後ろにいる咲夜と呼んだ女性の事を思い出し振り返る。

「ええ、鈴音さん方のおかげで助かりましたわ、ありがとうございます」

咲夜と呼ばれたこの女性、見た目からして年齢は二十代前半くらい、体格は年相応で鈴音と大差はない(若干この女性の方が高い)。

自分達と同じ人間だと思われるが、髪色も衣服も何よりその雰囲気すら幻想郷に住んでいる多くの人間のものとは違うような感じがした。

結月はその異質なこの世界の人間ではない雰囲気は何処か霊夢にも似ているような気がした。

髪は銀髪で肩まであり頭には白いフリルの様なカチューシャがつけられており左右の横髪は三つ編みになっており緑のリボンで結んである。

青色の質素なドレスを着ておりスカートの裾は白いフリルが着いている。

その青色のドレスの上から白いエプロンを身に着けており胸元には髪のリボンと同じ色のリボンが結んであった。

見た目は天道人進堂の喫茶店の店員の衣服と似ているものの彼女の衣服は喫茶店の衣服と比べ華やかさはなく、キュッとしまった慎ましさを感じるものだった。

「結月紹介するよ、彼女は十六夜咲夜(いざよいさくや)さん、紅い悪魔の住む紅魔館でメイド長をしている女性なんだよ、私よりも家事とか料理が上手くて流石あの紅い悪魔に仕えているだけの事はあるよ」

十六夜咲夜と呼ばれた女性は鈴音の言葉に謙虚に対応する。

「そんな事ないですわ、鈴音さんも料理や家事が上手くてもし逸脱審問官でなかったのなら一緒に働いてほしかったですわ、他の妖精メイドは働いているのか遊んでいるのか分からない程働かなくて、いないよりマシ程度ばかりで困りますわ」

そう言ってため息をつく咲夜。

メイド長と聞いて一体どんな職業なのか分からなかったが聞く限りでは御手伝いさんのようなものだった。

紅い悪魔が住んでいる紅魔館で働く御手伝いさんの一番上という事であるからやはり只者ではないのだろう。

「それにしても大変な目にあったね、偶然私達がここを通りかからなかったらどうなっていた事か分からなかったよ」

咲夜が早高集落の人達と対峙し人間の里の人々に囲まれて八方から誹謗中傷を浴びせられていた時の雰囲気はただならぬものだった。

凄い怒りや殺気で包まれ、いつ咲夜に向かって石が投げ込まれても起きてもおかしくない程だった。

鈴音の言う通りもし自分達が止めに入らなかったら咲夜は只じゃ済まなかったろう。

紅い悪魔の従者だと分かっているはずなのに皆そんな事など気にしていない様子だった。

「鈴音さん方のおかげで大事にならずに済んだ事はとても感謝しますわ、でももし何かあっても私にはこれがあるので大丈夫ですよ」

そう言って咲夜はエプロンの内側から金属製の懐中時計を取り出した。

「ああ、咲夜にはそれがあったわね、確かにそれがあればあの場から簡単に逃げられたよね」

結月には話の意図が一瞬理解できなかったが、すぐに咲夜もまた霊夢や魔理沙の様な特殊能力を使える人間だと理解した。

しかも懐中時計から見るに時間系統それも空間的に作用する能力であるという所まで推測した。

「それにしても一体どうしたのでしょうか、前に来た時は私を避ける人間はいても殺気染みた眼差しを向けてくる人間なんていませんでしたし、先程の方々の蝙蝠の大群や行方不明者の話の内容は分かっても一体何のことか理解できなくて・・・・私がここを訪れていない間に何が起きたのでしょうか?」

どうやら、咲夜は蝙蝠の大群の話も連日の行方不明者の話も初耳のようだった。

真意は定かではないが初耳なら身に覚えがないのも当然だろう。

「それに鈴音さん、そちらの方は?」

咲夜は結月の方を見てそう言った。

「そうね・・・・・話したい事は山々だけどちょっとここでは無理そうね」

早高集落の人達が逃げるように去り一段落したものの騒ぎが大きかったせいか人が集まり注目の的になっていた。

「・・・・・咲夜さん、今時間ある?」

ええ、と答えた咲夜に対して鈴音は結月の方を見る。

「結月、せっかくだから咲夜さんも一緒にお茶に連れてっても良い?お金は私の割り勘でいいから」

咲夜と一緒にお茶をするのは構わなかったが一つだけ譲れない事があった。

「言ったはずだ、今日は俺の奢りだ、咲夜の分も俺が払ってやる」

別に好意が惹きたい訳ではない、結月は自分が決めた事は基本的にやり通す方だった。

「おお!今日の結月は太っ腹だね!じゃあお言葉に甘えて・・・・行こう咲夜さん!一度行ってみたかった甘味処があるからそこに行くよ」

鈴音の案内のもと結月と咲夜は甘味処へ足を進めた。




第十三録読んで頂きありがとうございます。
いかがだったでしょうか?さて、小説を投稿し始めてから二ヶ月くらい経ちました。
最初はどうなるかと不安でしたが不安通り七転八倒の有様で読んでくれている読者様に大変申し訳ないです。
小説だけでなく前書きや後書きを見てみると・・・・・・随分偉そうな事ばかりまるで自分が誰よりもこの世の中を分かっているみたいな書き方でした。
自分自身としては日々の生活の中で思っている事を書いていただけなのですがまだまだ自分も未熟者だと反省しています。
しかし後悔してばかりでは前に進みません、これからは駄目だった所を修正し創作に生かしていこうと思います。
こんな私ですが今年も何卒宜しくお願い致します。
それではまた金曜日に。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。