人妖狩り 幻想郷逸脱審問官録   作:レア・ラスベガス

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こんばんは、レア・ラスベガスです。
さて、先日この小説を事前に読んで評価して貰っている友人から前書きはあまり長く書かない方が良いと指摘を受けよく考えた上で自分でも一理あると思い、今回から前書きは短めにする事にしました。
今回から第三話に入りますが何卒宜しくお願い致します。
それでは第十一録更新です。


第十一録 月明かり覆う黒い翼 一

月が照らされ静寂に包まれた夜の幻想郷。

夜は多くの妖怪が活発になる時間帯なのだが彼らは人間のように騒いだりあちこち回ったりする様な事はあまりしない、多くの妖怪は自分のお気に入りの場所からあまり離れたがらない傾向があり出掛ける時は何かしら用事がある時か、それとも人間を狩りに行く時だけだ。

その人間狩りでさえお気に入りの場所で人間が来るのを待っている妖怪も多い。

そのため夜はとても静かで聞こえるのは囁く様な風の音と梟の鳴き声そして夜雀の歌声が遠くで聞こえる程度だ。

例外として騒霊で名高いプリズムリバー三姉妹の気紛れ演奏会や、月一である夜通し続く命蓮寺の読経、不定期に行われる鳥獣伎楽の演奏会のある日には妖怪も比較的活発に行動する。

とはいえ、それでも妖怪が活発に動くのは演奏会が行われている場所周辺のみであり、幻想郷中に住む妖怪が最も活発になるのは年に一度あるかないかの「異変」の時のみである。

月光が照らす森林、その中でも一際大きい木の茂みに人影があった。

それは黒づくめの忍者の様な衣服に身を包み、首には黒の長細い布をマフラーのように巻いている、左目に大きな傷跡のある人間だった。

「夢見刻、優しく照らす、月夜かな」

人間が寝静まり夢の世界に旅立っている頃、幻想郷を照らす夜空の月は夢見る人間を優しい光で包み静かな眼差しで見守っている。

星空に浮かぶ月を見上げそう一句したためた。

風馬(ふうま)そう呼ばれているこの人間は件頭であり天道人進堂が設立されたころから件頭として幻想郷に暗躍している熟練者中の熟練者で他の件頭にとって憧れる存在だった。

性別は男で年齢は30代後半、経歴が全くの不明で鼎との出会いの経緯もよく分からない。

腕前は凄腕だが多くの事が謎に包まれた男だった。

「・・・・・・」

風馬は月を見上げてからじっとその視線を月から放さない。

件頭になって随分と長い、自分が件頭になってから現在に至るまで幻想郷の様々な場所を周り様々な出来事を経験してきた。

昼間は幻想郷を走り回り様々な情報を集め、夜になれば休息がてら空を見上げ月を、月がない時は星空を見てその日の疲れを癒すのが風馬の日課だった。

だからこそ月を見上げると過去に経験してきた出来事が脳裏を駆け巡るのだ。

「後二日経てば満月か・・・・・・」

風馬は少しだけ欠けた月に自身の記憶にある満月を重ね合わせそう言った。

長く件頭をやっているため並みの人間よりも様々な出来事を経験した風馬の中でも印象深い出来事があった。

それはまだ風馬がまだ件頭になって間もない頃の今の彼からは想像できないくらいの失敗談だった。

あの大きな失敗は今でも鮮明に覚えており風馬が気持ちを引き締めたい時に常に思い出すそんな出来事だった。

 

それは何事もない平穏が続いていた時だった、突如赤い霧がたちこめ数日たっても晴れる兆しがなく、むしろ幻想郷中に広がっていき、ついには結界の張られた人間の里も赤い霧に覆われた。

この赤い霧は日の光を遮り夏だというのに肌寒く感じられるほど気温を下げ幻想郷を薄暗い世界に変えてしまった、さらに赤い霧には微力の妖力が含まれており人間がその霧を吸うと気分が悪くなった。

そのため人間の里を含め幻想郷中にある村や集落に住む人間は一歩も外に出る事が出来ず家に閉じこもって出られない異常事態になっていた。

無事だったのは鼎が天道人進堂の周囲に設置した結界の発生させる術式が刻まれた結界石によって作られた強力な結界の中だけだった。

そのため天道人進堂は人間の里や村や集落から逃げるようにやってきた人間でごった返していた。

それでも大きな混乱が起きなかったのは鼎の迅速で正確な対応と備蓄していた災害が起きた時用の大量の食糧があったからこそだった。

後に「紅霧異変」と呼ばれるこの異常事態の最中、若かりし風馬はこの赤い霧の発生源を探していた。

かつてない幻想郷の異変に若気の至りからか鼎の命令である天道人進堂での待機命令を破り赤い霧の正体と発生源を掴もうとしていたのだ。

「話によればこの先のはずだ・・・・・・・」

風馬は赤い霧発生直後から情報を集め天道人進堂に避難してきた人達からの話を分析し赤い霧の発生源である場所を大まかに特定していた。

赤い霧の正体と発生源を突き止め出来るなら止めようと思ったのだ。

忍者さながら森の木々を飛び移りながら発生源へと向かう風馬、彼はこの時のためにある程度の武装を集め、酸素や窒素などは通すが妖力は通さない不思議な素材で出来た布で口と鼻で覆いマスクのようにしていた。

これである程度の時間なら赤い霧の中でも活動が出来た。

森を抜け地面に着地をするとそこは妖怪山の麓にある霧の湖だった。

ここは異変でなくとも昼間は常に霧で覆われている事で有名な湖だが、赤い霧で幻想郷が覆われている今、霧の湖の霧も赤く染まっていた。

「大分ここは霧が濃いな・・・・・」

赤い霧の濃度が高くなり妖力を通さない布の限度を超え赤い霧の妖力が微量ながらも体に入って来る、今は少しだけ倦怠感を感じる程度だがそう長くないうちに気分が悪くなりそのうちにその場から動けなくなってしまうだろう。

そうなる前に早くこの赤い霧の正体と発生源を突き止め、止めなくてはいけなかった。

一方で赤い霧の濃度が高くなったという事は発生源に近づいているという証拠でもあった。

(発生源はこの湖の近くなのか?)

霧の湖を見渡す、しかし視界は赤い霧のせいで不良であまり良く見えなかった。

しかしじっと目を凝らして視線を動かすと赤い霧の奥でぼんやりと浮かぶ大きな影を見つけた。

「あれは・・・・・・」

風馬はぼんやりと浮かぶ影の正体を突き止めるようと走り始めた。

もしかしたらあそこが発生源ではないか?そう思ったからだ。

ぼんやりと浮かぶように見えていた大きな影は徐々に鮮明になっていきついにその全容が分かった時、風馬は足を止めた。

「これは・・・・・一体なんなんだ?」

ぼんやりと浮かんでいた大きな影の正体、それは高い塀に囲まれた巨大な西洋建築の建造物だった。

その大きな建造物には窓が着いている事や屋根が着いている事から恐らく何者かの屋敷である事は間違いなかった、屋根の上に煙突と何故か時計塔が設置されており煙突からは煙が出ていた。

風馬は確信した、恐らくこの建築物の何処かに赤い霧の発生源がある事を・・・・・。

(この建築物の入る場所を探さなければ・・・・・)

正面玄関には門番らしき女性が立っており実力は分からないが赤い霧の中でも平然としている様子から人間ではなく妖怪である事は理解でき、門番を任せられるくらいだから確かな実力を持っていると思われた、玄関からの侵入は無理そうだった。

そこで風馬は身体能力の高さと身軽さ、そしてかつて忍者が使っていた技巧を最大限有効活用し屋敷を囲む高い塀を飛び越えた。

「ここは・・・・」

風馬が降り立った場所、そこはこの建築物の中庭だと思われる場所だった。

幻想郷と飛び回る風馬でも見た事ない花が植えられており、茎に棘が生え葉っぱも棘状な赤い花びらが幾つも折り重なった花が綺麗に咲いていた。

赤い霧に覆われているはずなのにその赤い花はしっかりと自分の色を主張していた。

綺麗に一寸の狂いもなく赤く咲き誇る花々の世界に一瞬心を奪われそうになるが自分の役目を思い出す。

(見とれている場合ではじゃない・・・・早く赤い霧の発生源を突き止めなくては・・・・)

風馬はそう思い気配を殺して進もうとしたその時だった。

「あら?私のお花畑に先客がいるみたいね」

声のした方を見るとそこには見た目は十歳もいっていないであろう人間の子供くらいの体形をしているが背中には大きな翼の生えた幼女と十代後半だと思われる女性がその幼女に寄り添って立っていた。

風馬と翼の生えた幼女とその傍いる女性とは距離があり霧が濃い事もあってハッキリとその姿は見えない、ぼんやりとした陰影だけが浮かんで見える程度だ。

「ええ、そのようですね、お嬢様」

目の前に侵入者がいるというのに幼女の様な妖怪に寄り添う女性はまるで警戒していないようだった。

「お前達は・・・・・何者だ?」

赤い霧の事も聞きたかったがまずは相手が何者なのか知りたくなった。

それは彼女達と赤い霧との関係性が不明なためまずは彼女達が何者なのか知る必要性があった。

「あら?わざわざ侵入しておいて自分から名前を名乗らないなんて失礼じゃない、件頭さん?」

大きな翼の生えた幼女の口からごく自然に出た件頭という言葉を風馬は一瞬聞き逃しそうになった。

(何故この幼女・・・・いや幼女の様な妖怪は何故自分が件頭である事を知っているんだ?)

件頭は村や集落は愚か人間の里でもまだ認知されていない最近設立されたばかり隠密集団だったからだ。

件頭を認知しているのは鼎を含め件頭である自分と仲間、そして一部の人間だけだった。

「戸惑い・・・・・あなたの心に戸惑いを感じるわ、何故自分が件頭である事を私が知っているのか、何故私が件頭の事を知っているのか・・・・・さしずめ理由はそんな所かしら?」

大きな翼が生えた幼女の様な妖怪は的確に風馬の心を読んでいた。

「あなたが何者なのかこちらは分かっているのよ、さっさと名乗ったらどう?」

この大きな翼が生えた幼女の様な妖怪はそのいでたちや従者と思われる女性も連れている事からただの妖怪ではなさそうだった。

少なくとも戦っても勝てそうもない相手である事は理解できたので今は言われた通りにした方が身のためだった。

「・・・・・風馬だ、それが俺の名前だ」

風馬は仕事上での名前であり本当の名前もあるが決して名乗ってはいけないとされていた。

「そう、それがあなたの仕事上での名前なのね」

大きな翼の生えた幼女の様な妖怪は風馬が本当の名前ではない事も分かっていた。

それは件頭が一体どういう存在なのか、良く理解している事を示していた。

「・・・・・・・本名は決して語らぬ以上、風馬は仕事上での名前でもあり実質本名だ、自己紹介はした、今度はそちらの番だ」

そう聞いた風馬だが大きな翼の生えた幼女の様な妖怪はすぐには返答をしなかった。

「・・・・・・あなた、幻想郷中を回って情報を集めるのが仕事ならこんな噂位は聞いた事はあるわよね・・・・幻想郷の何処かに『紅い悪魔』(あかいあくま)が住んでいるって」

紅い悪魔、その言葉を耳にした時、風馬は息を詰まらせた。

幻想郷に何処かに紅い悪魔と呼ばれる遠い異国からやってきた人間の生血を吸う吸血鬼と呼ばれる異国の妖怪が住んでおり、幼いながらも幻想郷を揺るがすような強大な力を持っているとされている。

幻想郷に住む人間の多くがその噂を一度は耳にした事があり風馬も例外でなかったが、誰もその吸血鬼を見たという人間はおらず、また住んでいる所も誰一人知らないため、ほとんどの人間が信憑性のない噂か作り話だと思っており風馬も自身もそうだと思っていた。

この時までは・・・・・。

「その紅い悪魔こそ私よ」

あの噂話は本当だった事を知り心臓が一気に跳ね上がる。

大きな翼の生えた幼女は妖怪ではなく吸血鬼であり、もし噂が全て本当なら目の前にいる幼女の様な吸血鬼は幻想郷の中でも八雲紫と並ぶ指折りの実力者という事になる。

今自分の目の前にいるのは人間とは比べ物にならないほどの絶大な力を持った存在かもしれないのだ。

もしそうだとしたら今の自分はうかつにそんな力を持つ吸血鬼の攻撃範囲に不用意に飛び込んできた愚かな人間だという事になる。

風馬は自分の迂闊さを後悔していた。

「でも、まさか博麗の巫女より先にここに辿り着く人間がいるとわね」

一方紅い悪魔は風馬が自分の所まで辿り着けていた事を褒めていた。

風馬は紅い悪魔の言葉を聞き逃さなかった。

紅い悪魔はここに博麗の巫女・・・・・博麗霊夢がやってくると思っている。

幻想郷の秩序を保つ役割を任させている霊夢がここにやってくるという事はここが赤い霧の発生源である事やこの紅い悪魔がそれに一枚噛んでいるという事を示していた。

しかし気になる事もある。

霊夢が赤い霧の発生源を止めるためここにやってくるのは考えられる事だろう、しかし彼女の口ぶりでは幻想郷の創造主であり幻想郷の所有者である妖怪の八雲紫や他の妖怪ではなく人間の巫女である博麗霊夢がやって来るという事を事前に知っているようだった。

一体これはどういうことなのか?

「流石はあの男が件頭に選ぶほどの者ね」

あの男、紅い悪魔は風馬の主人でもある鼎の事も知っているようだ。

何故、紅い悪魔は鼎の事を知っているのだろう、風馬の謎は深まっていくばかりだった。

「ここまで来れたご褒美として教えてあげるわ、この赤い霧は私が作ったものよ、つまり今起きている幻想郷の異変は私が引き起こしたのよ」

大体予測は着いていたが、いざそう言われると驚きを隠せない。

この幻想郷を覆う赤い霧はこんな小さな吸血鬼によって引き起こされたのだ。

つまりそれはこの幻想郷を覆うほどの赤い霧を出せるほどの力を持っているという事でもあった。

どうやら噂は全て本当だったようだ。

風馬は自分の思い上がった正義感から出た行動がどれほど甘かったか反省・・・・いや後悔していた。

「何故こんな事をする?・・・・・何が目的なんだ?」

畏怖すべき紅い悪魔を前に震えながら、そして赤い霧を吸い続け倦怠感が強くなり呼吸すら大変になりながらもそう聞いた風馬。

万が一ここで殺されようとも何故こんな事をするのかそれだけは知りたかったからだ。

「知らない方が良いわ、知ってしまったら多分、腰が抜けてここから動けなくなるもの」

一体どんな事なのか?幻想郷の均衡が変わってしまう程なのか?

「あなたと話し込んでいたら花見をする気が削がれたわ、それにそろそろ博麗の巫女を迎撃する準備をしないといけないわね」

霊夢は幻想郷の守護者を任せられるほどの人間なので人間の中では強い力の持っており並大抵の妖怪相手なら簡単に蹴散らしてしまう程の実力者ではあるがそれでも人間なので、これ程の力を持つ吸血鬼と戦っても勝ち目は薄そうなのだが・・・・。

紅い悪魔はそんな風馬の考えを見透かしたかの様な笑みを浮かべ少し思慮した後、風馬に話しかける。

「そうね・・・・・せっかくだから伝言を頼めるかしら?帰ってあの男に伝えなさい、一度しか言わないからよく聞きなさい」

鼎への伝言?一体何を伝えようとしているのか?

聞き逃さないよう耳に精神を集中させる風馬。

「今日を持って幻想郷の規律が変わった、私達は殺し合う武器を捨てあなた達は殺し合う武器を持った・・・・・そう伝えなさい」

流石は件頭という事もあって一字一句聞き逃さなかった風馬。

殺し合う武器を持った・・・・その意味は理解できた。

恐らくは天道人進堂で件頭と同時期に設立された逸脱審問官の事を指しているのだろう。

人間が人間だった者を殺すための存在、結局は人間同士で殺し合う存在が生まれた事を紅い悪魔はそう比喩したのだろう。(悪意の有無は定かではないが)

しかし前半の言葉の意味は全く分からなかった。

妖怪が殺し合う武器を捨てる?もう二度と妖怪同士で争わないという話だろうか?

だが妖怪が仲良く手を取りやって和解する姿など風馬には想像できなかった。

「ここまで来られたあなたの勇気を讃えて無断侵入した事は特別に見逃してあげるわ、早くあの男の所に戻りなさい」

風馬は逃げるように紅い悪魔の屋敷を後にすると満身創痍の状態で天道人進堂に戻ってきた。

着いて間もなく意識を失った風馬は天道人進堂の医療室に担ぎ込まれ治療を受けた。

他の人間より濃い赤い霧を吸ったせいで機能疾患を起こしてしまったのだ。

意識を取り戻したのはその数日後で、目を覚ましたやいなや鼎がやってきて風馬は厳しいお叱りを受けた。

「風馬よ・・・・・・私は動くなといったはずだぞ、危険に身を飛び込むのは帰れる算段があってこそだ、今のお前はどうだ?思い上がりな正義感がどんな結果をなるか・・・・身に染みただろう」

そして命令を破った罰として十枚に及ぶ反省書の提出と一カ月の謹慎(これはどちらかと言えば休養に近いが)をもらった。

風馬は鼎から自分が気を失っている間に博麗の巫女と箒に乗った霧雨道具屋の娘が赤い霧の発生源であったあの建築物・・・・・紅魔館(こうまかん)に乗り込み紅い悪魔を打ち負かし異変を解決した事を聞かされた。

風馬にとってそれはとても信じられない話だった。

そして風馬は紅い悪魔から受け取った伝言をつたえると鼎はある事を教えてくれた。

「そうか・・・・・幻想郷は大きな転換期を迎えたのだな」

鼎は紅い悪魔の言葉の意味を瞬時に理解し風馬に説明し始めた。

妖怪同士が対立した時、互いの実力をぶつけて戦う事で決着を着けていた従来の決闘のやり方は幻想郷の均衡を崩しやすく、また一部の強い妖怪が幻想郷の頂点を目指そうと殺し合う事で妖怪全体の影響力が弱体化し、さらには幻想郷の自然や人間にも甚大な被害をもたらす危険性があった。

そこで弾幕勝負というスペルカードを用いた、実力関係なく平等な場で平等な力で勝負し勝敗が決まりやすく、負けても死なない全く新しい決闘方法が八雲紫の他、幻想郷指折りの妖怪達によって作られ幻想郷中に施行され幻想郷に住む妖怪達にこの決闘方法を従わせた。

その弾幕勝負の制定には紅い悪魔も深く関わっており、彼女は平穏が続き平和ボケをしていた人間達に妖怪の力を見せつけるため赤い霧を発生させ人間達を恐怖と不安に陥れた後、赤い霧を止めにくるであろう霊夢が次々と現れる妖怪に対して新しい決闘方法、弾幕勝負で挑み勝ち続け、最後は自分と戦う事で弾幕勝負の有効性を試していたのだ。

つまり一連の赤い霧の異変は平和ボケをしていた人間達に妖怪への怯えと恐怖を刻みつけるのと新しい決闘方法である弾幕勝負が本当にちゃんと機能するかの実験だったのだ。

そのため紅い悪魔自身は勝っても負けても人間である霊夢が弾幕勝負で自分の所まで辿り着けただけでも目的は達成していたのだ。

最も紅い悪魔自身は吸血鬼が日の光を浴びると灰になってしまうという致命的な弱点を持っているため赤い霧で幻想郷中を覆えば日の光が遮られ昼夜問わず外に出て遊ぶ事ができるのではないだろうかという単純かつ自己中心的な理由で起こしたのだろうと鼎は語った。

それを聞いた風馬はあの時の紅い悪魔の言葉を思い出して頭を抱えた。

(腰を抜かすか・・・・・確かに腰が抜ける・・・・あまりにも下らな過ぎて)

そんな理由のためだけにどれだけ多くの人間が苦労した事か・・・・・。

そんな呆れの一方で紅い悪魔と名乗っておきならまだ幼い姿をした吸血鬼らしい理由だなとある種の尊敬の念を感じずにはいられなかった。

妖怪とは本来自分勝手な物だ、吸血鬼も例外ではない、そう考えるならばこれも立派な異変の理由だろう。

「私にも妖怪にもそれなりの人脈があってだな・・・・弾幕勝負の事や紅い悪魔が何かしらの異変を起こす事を事前に聞かされていたのだ、博麗の巫女が異変を解決しに来る事もな、霧雨道具屋の娘は予想外だったが・・・・とにかくそういう理由があったからこそお前に待機命令を出していたのだ、もし私も事前に何も知らなかったら情報収集するよう命令を出していた、もし命令に納得できなければまずは私に言いに来なさい私も人間だから間違っている事もあるからな、これ以後勝手な個人行動は慎むように」

そう諫められ項垂れる風馬に鼎は最後にこう言った。

「私はお前が一流の件頭になってお前の後に続く件頭の憧れになれると見込んでいるからな」

その言葉を聞いて風馬が顔を上げた時、鼎は既に医療室を後にしていた。

風馬はその夜、医療用のベッドに横たわりながら窓から月を見ていた。

赤い霧が半月以上に渡って覆っていたためこうして月を拝むのは久しぶりだった。

幼い頃から身近に月があったため特に何も感じず夜空に浮かぶ天体と言う印象しかなかった。

しかし今こうしてみている月はとても暖かく優しい光に溢れていた。

月はその暖かく優しい光を惜しげもなく幻想郷に振りまく。

その月の光は風馬を優しく慰めているように感じた。

そんな月に対して風馬は自らの失敗を素直に受け止めると共にこの失敗を乗り越え立派な件頭になってみせると心に決めたのだ。

 

そして現在、風馬は「鼎の千里耳」と呼ばれる程の一流の件頭になっていた。

情報専門の隠密集団件頭の長であり、鼎も風馬を最も信頼し風馬が戻ってきた時は常に風馬の話に耳を傾け、重大な任務を任せる際には風馬、もしくは手練れの件頭と風馬の同行で生かせるほどだった。

あの大きな失敗があったからこそ風馬は一流の件頭になり、他の件頭から憧れる存在になったのだ。

だからこそあの大きな失敗の起因でもあり原因でもある紅い悪魔の存在は風馬にとって特別印象深いものだった。

「思えばあいつとの出会いが俺を大きく変えた」

色々な経緯が経て鼎に見込まれ件頭となったものの最初の頃は他の件頭と比べてもさして秀でているという部分はなく、件頭の中でも中の中くらいだった。

それが紅い悪魔と出会ってから風馬は件頭としての頭角を現し数々の困難な任務を達成し経歴実力ともに一流の件頭に上り詰め隠密集団件頭の長にまでなった。

そういう意味では紅い悪魔との出会いが風馬にとって大きな転換期だった。

もしあの大きな失敗がなければ紅い悪魔と出会ってなかったら今の自分はなかったのかもしれない。

だからこそあの大きな失敗と紅い悪魔の存在は風馬の胸に強く深く刻まれていた。

「まるであの紅い悪魔に運命を変えられたような気分だ」

そう感慨深げに月を見上げていた風馬がふとある方向を見る。

夜空に飛び回る幾多の小さな黒い影、ここからは良く見えないが妖怪ではなく動物、鳥に近い姿をしているが普段我々が見る鳥ではない。

羽ではなく膜の様な翼、黒い体、口には二本の小さく鋭い牙が生えている。

蝙蝠、昼間は洞窟や屋根裏など日の当たらない所でじっとしているが夜になると動物の血を求めて単独あるいは群れを成して飛び回る動物だ。

噂ではあの紅い悪魔の使い魔も蝙蝠とされている。

蝙蝠の様な翼を持ち生血を主食とし日が沈んだ夜に活動するなど共通点も多いため吸血鬼の使い魔としてはとても良く似合っているだろう。

「今日もか・・・・・」

風馬がそう呟いたのはこの光景を見るのは今日が初めてじゃないからだ。

ああやって蝙蝠が群れをなして飛び回るようになったのは二日前からで蝙蝠の数は日に日に増えている。

蝙蝠は群れを成して飛び回るのは珍しい事ではないがあそこまで多いのは滅多になかった。

蝙蝠の中でもかなり強い個体が生まれ周辺の蝙蝠を支配下に置いているのか、それとも・・・・・・。

「・・・・・やはり最近起きている『あれ』と関連性がある事なのか?」

風馬には一つ心当たりがある事があった、それは蝙蝠の群れと同時期に発生している不可解な事件である。

風馬は不穏な胸騒ぎを感じずにはいられなかった。




第十一録読んで頂きありがとうございます。
いかがだったでしょうか?さて今日はクリスマスですね、クリスマスは元々キリスト教のイエス様御生誕を祝う祝賀行事でしたがそれがどういう訳か日本ではサンタクロースが子供達にプレゼントと夢を送る行事になってしまいました。
時代の移り変わりや場所によって意味ややる事が変わっていく行事は多いですがクリスマスは既にこの形に固まりつつあり今更ああではない、こうではないというのは余り良くないと私は思います、正確には間違っているのは確かですが時代や場所によって変わっていくのは致し方ない部分もあります、従来の形をそのまま押し付けたって浸透はせずその土地に合わせていく事も必要なのです。
バレンタインデーも元々はキリスト教関連の行事でしたがお菓子メーカーの陰謀で・・・・・冗談はさておいて異性にチョコを送り合う行事となりました。
最近では異性だけでなく親しい人や家族、自分自身に送る人も増えて来てまた形を変えつつあります。
形だけにこだわり廃れていく行事がある中、形を変えつつも残り続ける事には意味があるのではないかと考えてしまいます。
そう考えるならば最近騒がれるハロウィンもあれ程大きく騒がなくてもとは思います、私はあれは日本の形に合わせたクリスマスやバレンタインデーに次ぐ新たな行事だと思っているのですが・・・・・・。
とはいえ迷惑行為をする人達がいるのも事実、ハロウィンが新たな日本の行事として加えられていくのか、それとも廃れていくのか長い目で見守っていきたいです。
それではまた来週、金曜日に。

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