「というかここは何部なんだ?」
比企谷がそう質問すると、雪ノ下がそっと本を閉じる。
「当ててみて」
「んー、そうだなあ。文芸部とか」
「その心は?」
「この部を見渡すと特別な機材がない。そしてお前はずっと本を読んでいる。したがってここは文芸部だ」
「ハズレ」
「ぐぅぅ……。参った、降参だ。答えをいえ」
「芥川くんなら、わかるわよね」
「え、俺?」
無関心を貫いていたが突然話を振られてしまう。
いや、なんとなくは推測できているがなんで俺?
「わからないの?」
「いや、なんとなくはわかってるけど」
「なら言ってみなさい」
「わかった。ここは奉仕部というところだろう?」
「その心は?」
「まず平塚先生から依頼を受けてるのがあからさまに文芸部とは違うだろ。あの暴力的な先生」
言いかけた時どこかからドンって音がした。
「もとい元気な先生が文芸部の顧問であるはずがない。それに一回は小耳に挟んだことがある。奉仕部というのをな。まあ、本当にあるとは思ってなかったが」
「そう。正解よ」
「ん」
特に嬉しくもない。別に正解してもな。
俺には関係ないし幽霊部員になるつもりだし。雪ノ下なら俺の事情わかってくれるだろ。
だって雪ノ下は……。
俺の過去を知っている
からだ。
雪ノ下とは同じ学校だったから嫌でも関わっていた。まあ、そこから始まるのが問題だし、そこから俺は闘争心無くしたんだけどさ。
「奉仕部へようこそ二人とも。歓迎するわ」
「そりゃどうも」
別に歓迎しなくてもいいんだぞ雪ノ下。俺なんか歓迎することもない。
俺がまた本に視線を戻す。
比企谷と雪ノ下がなんらかの会話をしているが、別に俺には関係ない。
「雪ノ下、邪魔するぞ」
「先生、ノックを」
「悪い悪い。比企谷の更生に手こずっているようだな」
「本人が問題の自覚をしていないからです」
「別に自覚してるしてないじゃねえよ。ただ単に他のやつに自分を語られたくねーんだよ。変われとか変わらないとか。他人に言われて変わった自分が自分なわけないだろ」
「あなたのそれは逃げているだけ。変わらなければ前に進めないわ」
「逃げてるのはどっちだよ。本当に逃げてないなら変わらないでそこで踏ん張んだよ。どうして今の自分や過去の自分を肯定してやれないんだよ」
「それじゃあ悩みは解決しないし、誰も救われないじゃない」
その時の雪ノ下はとても怖かった。
あと、昔の俺のことを思い出しているのか、その罪悪感からかそう言ったのだろう。かつての俺は雪ノ下が自分を肯定して俺は……。
まあこの話はいいだろう。俺だって気にしてない。
「二人とも落ち着きたまえ」
平塚先生から止めが入る。
「古来より、お互いの正義がぶつかった時は勝負で雌雄を決するのが少年マンガの習わしだ」
先生、なんでノリノリなの?
「こうしよう。1年間でもっとも依頼を解決したやつの勝ちとしよう。勝ったやつは負けたやつになんでも命令できる」
やめろ。それは危険だ。
「お断りします。この男が相手だと身の危険を感じます」
あからさまに引いてる。
「さしもの雪ノ下といえど負けるのが怖いのか?」
…………あー。そういうことするんだな。卑怯なやつめ。
結局雪ノ下は勝負を受けた。
「何をそこで無関心を貫いている。お前も参加するのだぞ?芥川」
「はあ?」