数日経ったある日、今日も湧いて出てくるPK達をしばき倒していると、
「お! 藍君からだ、えーと…ふんふん、おっけ!」
「隙ありだ!!」
「マジック・ボム」
ボン!
「じゃあ今日はこの辺にして帰るかぁ」
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「はい、今日はお集まりいただきありがとうございます」
「お前が俺たちを呼び出すなんて珍しいじゃねえか、一人じゃできないクエストでもあったか?」
「…それとも君の後ろに隠れてる弟君のことかな?」
「なんだ、いたのかお前」
今日は僕の数少ないフレンドを姉さんに呼び出してもらった。ジャックさんとギルギルさんだけしか来てないみたいだけど、人が少ない方が僕としてはあまり緊張しない。
「大丈夫なのか?精神的ストレス負荷に耐えられなくなって強制ログアウトってのは有名だがあんまり聞かない話だからな、心配してたんだが…いや、弟がな?」
「藍くんは大丈夫だって言ってるよ」
「なんでお前が代わりに喋ってんだよ」
ジャックさんが怒ったような声音で僕に話しかけてくる。
「おい!ちびっこてめぇ!俺との約束はきっちり覚えてんだろうな!」
「ジャック」
姉さんが大鎌を目にもとまらぬ速さでジャックさんの首にかけた、が、ジャックさんもどこからか取り出した短剣をいつの間にか鎌と首の間に滑り込ませて身を守っている。
ピリッとした空気が周囲に流れる、なんだか息苦しくなってきた。
「シャレになんねぇぞ」
「シャレにしてほしいの?だったら怒鳴り散らすのはやめてもらえる?わかってるでしょ、セーフティエリアでのPKKによるPKは例外的に『PKK側が必ず先手が取れる』」
「先手ぐらい譲ってやるよ、それでお前に負けるほどの差はまだないだろ?」
「まあまあ、今日は喧嘩に来たんじゃないだろ。弟君、何か話があるんだよね?」
ギルギルさんが話の舵を取ってくれた、冷や汗が滲んできたところなのでとてもありがたい。
「…今日は大事な話をしに来ました」
「結局お前が喋るのかよ」「ジャック、黙って」
「先日は途中で棄権してしまい申し訳ありませんでした、僕は元々人が怖くて会話もまともにできない人間です。姉さんに誘ってもらって、変わろうと思って、イベントにも出ました。でも駄目でした。僕には人と関わるのは無理でした。このゲームのことは好きなので今後も続けるとは思いますが、見かけても話しかけないでいただくと嬉しいです。本日はありがとうございました。」
全身が震えるけど言い切った、言いたいことちゃんと言えた、今日はもういいでしょ?こんなに頑張った。
僕はログアウトした
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「赤火、なんて顔してんだよ」
「…」
「ああいうことはお前が言っちゃダメだろ、あいつの口で言うべきだろ!?」
「…うるさい!!」
突然の大声にジャックとギルギルがたじろぐ、彼女がここまで取り乱しているのは見たことがなかった。
「私、私は藍くんが、ゲームを通して人に慣れてくれたらうれしくて、きっと、藍くんは立ち直れるって、おもってて、でも、でも」
「赤火、落ち着いて」
「無理してたんだ、ちょっとおかしかったんだ、人間不信なのに、ジャックとか怖い人と対面してたのに、ちゃんと会話、してたなんて、おかしかったんだ!私が悪いの、藍くんに、いいとこ見せたくて、レベル上げ、優先して、そばにいなくて」
足に力が入らなくなってしまったのか、赤火はその場にへたり込みうつむいてしまう。
「私たちは、失敗した、順調に、進んでしまう事に、警戒できなかった、藍くんが、あの子が、また、遠ざかってしまった、急いでしまった」
「おい、赤火、どうしたんだよお前…」
「ジャック、赤火は今日はもうだめだ」
ギルギルは赤火と藍の間にある関係のことはわからない、人様の家庭のことだし首を突っ込んでしまうのは余計なことだと思っている。
しかし彼は困っている人間を見ると、人一倍モヤモヤする。三日は胸につっかえて眠れない夜を過ごすのを彼は嫌っている。
「赤火、僕にできることはある?」
「ない」
「そんなこと言わないでさ、一人じゃできることも少ないよ」
「…何も知らないくせに、知ったようなこと言わないでよ」
「そうだね、でもほら、泣き言くらいは聞いてあげるよ、サンドバックにもなってあげる…ジャックが」
「は?」
ギルギルはうつむく赤火に合わせて膝をついて目線を合わせようとする。うつむいているので目線が合うことはないが、それでも同じ目線に立とうとすることは大事なことだとギルギルは思っている。
「このゲームでしか会ってないけどさ、β版からの唯一無二の友達だと僕は思ってるんだけど、どうだろう?」
「…知らない」
そう言って赤火はログアウトしていった。
*****
「取り付く島もなかったな、姉弟どっちにも振られたなぁ色男」
「からかうなよジャック、たしかにあまり手ごたえはなかったけどね、僕たちは味方で、縋ってもいい存在があるのは心に余裕ができると思うんだ」
「しっかり見ててあげようじゃないか、友達のことだからね」