ラブライブ!サンシャイン!! ─ キセキの星 ─ 作:またたね
まずは本編をば。
3話 奇跡のバーゲンセール
完全にやってしまった。
昼休みになっても、俺に話しかけて来るクラスメイトは誰1人居ない。そりゃそうだ。
──『俺の前で、2度とその単語を出すな』──
こんなことを言えば。
言った瞬間クラスの雰囲気は凍りつき、俺に向ける視線がとても歓迎とは呼べないものへと変わっていってしまって。
自分で言うのもアレだけど震えを呼び起こすような威圧感を纏った笑顔で、唐突の『俺』。そりゃあ引かれるのも無理はない。
自業自得極まりないけど、実際この空気は辛かった。
さて、どうするか……なんて考えていた時。
「……大丈夫?昴ちゃん」
「ん……梨子。あんま大丈夫じゃない」
「だよね……あ、お昼一緒に食べない?」
「えっ……いいの?」
「うん、どうせ私も1人だし」
「私も食べていいかな?」
俺と梨子の2人にかけられた、もう一つの声。
その声の主は、アッシュの効いたグレイの髪色をした、ショートカットの活発そうな女の子。
「君は…?」
「私は
弁当を片手に敬礼。ニカっとした笑みを見せた渡辺さん。その青く、蒼い笑顔からは空や海のように広く、大きな輝きが溢れ、彼女の魅力を引き立てている。
「あぁ、全然大丈夫だよ。一緒に食べよう。梨子もいいよな?」
「えぇ。一緒に食べましょ、渡辺さん」
「曜でいいよ!私も名前で呼んでもいい?」
「うん、構わないよ」
「やったね!ありがとう!」
机を向かい合わせていた俺と梨子の間に渡辺さん……曜は椅子を持ち寄り、2つの机を3人で囲んだ。
「わぁ!スバルちゃんお弁当かわいい!自分で作ったの?」
「ん…ありがと。これは母親の手作りだよ。俺が作ったわけじゃない」
「“俺”?」
「朝から思ってたんだけど……どうして昴ちゃんはそんな話し方を?」
……まぁやっぱ気になる、よな。
俺としては触れないでくれた方が助かるんだけど……
「あー……まぁいろいろあって。やっぱ変だよね」
「ううん!ちょっと珍しいから気になっただけだよ!」
「そうそう。別にそれで差別したりなんてしないわよ」
「2人とも……」
どうやら俺は、転校初日に素晴らしい友人を作れたらしい。明らかに不自然な俺のことを余計に詮索することもなく、笑顔で俺に接してくれる。
大切にしないと。この素敵な人たちを。
そんなことを考えていた時───
「ごめんね曜ちゃん!遅くなっちゃった!」
聞こえてきたのは、あの声。
「あ、千歌ちゃん!職員室にはもう行ってきたの?」
「うん!あの先生話長すぎ〜……あ!桜内さんと朝日さん!」
“千歌ちゃん”。曜にそう呼ばれたあの赤い瞳の彼女は俺たちに気づくとこちらに駆け寄ってくる。
「朝日さん、さっきはごめんね……?なんか気分悪くさせちゃったみたいで」
「んや……こっちも悪かったよ。いきなり変なこと言って」
申し訳なさから、彼女の顔を直視できない。
無邪気そうな印象を抱いていたけど、案外しっかりしてるんだな。
そんなことを思ったけれど──
「ねぇ……朝日さんは、どうしてスクールアイドルが嫌いなの?」
───どうやらそうでもないらしい
「もしかして、スクールアイドル知らないの?」
こいつは俺の心の地雷原の中を
「スクールアイドルってね、凄いんだよ!キラキラしてて、可愛くて──」
全力で踏み荒らして行きやがる
「それでね、あとは──」
「やめろ」
『っ!?』
静かに、それでも確かな威圧感を伴った俺の声で、目の前の彼女はおろか、曜と梨子の2人も息を飲む。
笑顔が消え、凍りついた3人の表情を見て初めて俺は我に帰る。
───また、やってしまった。
「……ごめん、トイレ行ってくるわ」
「あっ……」
「スバルちゃん!」
梨子と曜の静止を意にも介さず、俺は逃げるように教室から出た。
▼
こんなことがしたいわけじゃない。
唇を噛みしめ、俺は道も分からぬまま闇雲に早歩きし続ける。
怒りたくなんかない。笑っていたい。
けど。それでも。
その言葉だけは、ダメなんだ───
「スバルちゃんッ!!」
廊下全体に響き渡ったのではないかと錯覚するような声量で名を呼ばれ、振り返る。
「やっと……追いついた……」
「……曜」
「スバルちゃん、帰り道わからないでしょ」
「……あっ」
「えへへ」
大して疲れた様子も見せず、曜は俺に笑いかける。
「……それだけのために?」
「んーそれもあるけど……ごめんね、千歌ちゃんが」
先ほどまでの笑顔が一転、曜は俺に申し訳なさそうな表情を見せた。
「曜が謝ることじゃないだろ。それに悪いのは俺だ」
「……千歌ちゃん、本当にいい子なんだ。さっきのも、絶対悪気はなかったんだと思う。スバルちゃんにスクールアイドルのこと、わかって欲しかったんだと思うんだ……」
……なんていい人なんだろう。友達思いで、心優しい。同い年ながら、俺は感心に近い感情を抱いていた。
そんな曜に言われなくても、わかってるよ。
あの子は、本当にスクールアイドルが好きなんだって。目を見れば、声を聞けばそれがひしひしと伝わってくるから。
だからこそ。
「……わかってるよ、曜」
「スバルちゃん……」
「でもだからこそ俺は───」
彼女がスクールアイドルを愛するからこそ──
「───あの子とは、仲良くできないかも」
「……っ」
「ごめんな……曜」
あからさまに傷ついた顔をした曜を置いて、俺は教室に戻るために歩き出した。
「……スバルちゃん」
「……ん?」
「───教室そっちじゃないよ」
「あっ、はい」
「ふふっ」
色々と思うことはあっただろう。しかし次の瞬間には曜はケロっと笑って見せた。出会って間もない俺からは、曜の感情はわからない。それでも、何も変わらぬ接し方をしてくれる曜に感謝をしながら、俺は曜に連れられて教室に戻った。
▼
「あなたが今日から働いてくれる朝日さんね」
「あ、はい。朝日昴です。よろしくお願いします」
時は流れ放課後。
俺は今日からお世話になるバイト先へと挨拶に来ていた。
ここは家の近くにある旅館で、遠方から来た俺が働くことを快く承諾してくれた。
旅館に入るなり、女将さんと思わしき人が俺の方へと駆け寄って来る。
「東京から来たんですって?こんなところまで大変ね。
私は
わからないことがあったら遠慮なく聞いてね」
そう言って柔らかい笑顔を見せた志満さん。
よかった、見た目通りの優しそうな人だ。
「ありがとうございます。ここの女将は志満さんがやってるんですか?」
「いいえ。元々この旅館は母方の祖父から受け継いだもので、私の母が女将をしているのだけれど今いろいろあって母親が東京にいて。それで私が女将の代理をやっているの」
「なるほど……いや、女将だとしたらえらく若く見えるなぁって」
「まぁ、朝日さんはお世辞が上手ね」
いや、本心です。
どう考えても30は行ってないし、下手したら20代前半の容姿ですからあなた。
ふふふ、と笑った志満さんを見ながら俺はそんなことを考えていた。
「そういえば朝日さん、浦の星に転校してきたのよね?」
「あ、そうです。浦の星の2年生です」
「そうよね!それならそこに私の妹がいるわ」
「え、本当ですか!」
なんと、それは驚きだ。
志満さんの妹となると、さぞ可愛くて淑やかな女の子に違いない。早く会って友達になりたいな。
「多分そろそろ帰ってくるんじゃないかしら。悪い子じゃないから、よかったら仲良くしてあげて」
「もちろんです!」
「ふふふ、ありがとうね──」
「───ただいまーー!」
「あ、噂をすれば帰ってきたみたい」
「…………です……ね」
背後から聞こえた声。それを聞いた途端、俺の脳が警報を鳴らす。
まさか、まさか。
「聞いてよ志満姉!今日転校生が2人も──」
この声は、俺が今日聞いたあの声に似ている。
いや、“似ている”じゃない、まるで本人──
「──ってあれ!?朝日さんだ!」
「あら、
「うん!同じクラスだよ!」
「まぁ、そうだったのね!彼女、今日からここで働くのよ」
「えぇーー!!そうなの!?」
「あ、あぁ……」
───よりにもよって。
よりにもよってこいつなのか。仲良くするとは言った、言ったけれども……!
そして彼女は叫ぶ。
朝も聞いた、その言葉を……赤い瞳を目一杯に輝かせて。
「────奇跡だよ!」
ああそうだな、奇跡だな。
でも神様よ。
奇跡をこんなに大安売りして、いいんですか?
はい、お久しぶりです!
前回投稿からどれだけの月日が流れたのでしょうか()
失踪しないことが目標とは一体()
リアルの影響やら何やらで遅くなってしまいました申し訳ありません……
これからもゆっくりではありますが投稿を続けて行くので温かい目で見守ってください!
それから同時投稿されました『背中合わせの2人』もよろしくお願いいたします!
それでは今回もありがとうございました!
感想評価アドバイスお気に入り等お待ちしております!