コメントが届いたのを見てまたやる気出したので、またじゃんじゃん(不定期)書こうと思います!
ヴァルガス視点
ここ最近のあいつの落ち込みようは火を見るよりも明らかだ。
あいつは唯一の家族を失ったのだから、それも当然なのだが、あいつは何かから逃げるように訓練に励んでいる。
朝から晩まで、ずっとだ。今までは俺に勝負なんて仕掛けてこなかった奴が、今では俺に1日50回は勝負を挑んでくる。鬼気迫る表情でだ……。実際、俺に戦姫の影でも重ねているのだろうがな。
「ダン……。俺たちはなんもできねぇよな」
「……うむ。今のわしたちにできることは、あいつの訓練に付き合ってやることだけじゃ。今回の戦いで失ったものが多すぎる。ヴァンも重傷を負ったしのう」
「だよな〜……」
これで完全に手詰まりか……。何かあいつにいい情報があればいいんだが……。
俺はあいつの姉が死んだと思っていない。ぶっちゃけると今もどこかで生きている可能性が高いと踏んでいる。
セレナ=レクシーダが率いていたサーマ騎士団はバラバラに逃げていたのか、王都に集まりつつある。その中でまだもどって来ないのは団長のセレナだけだ。サーマ騎士団の面々を見ていると何か隠しているのが感じられる。これは俺の直感だがな。
「それにあいつも捕虜にされるとはな……」
「んむ?誰のことじゃ?ヴァルガス」
「ああ、あいつだよ。ティグルだ」
ティグルヴルムド=ヴォルン……ブリューヌ王国随一の弓使い……だと思う。俺はあいつ以外に弓を卓越した人間はブリューヌ国内で見たことがない。
「なるほどのう……。わしもそれは心配じゃが、あやつなら無事なはずじゃ。悪運だけは、強い男じゃからの」
「ああ、カルのためにも生きいてほしいもんだ」
さて、今日もカルの相手をしてやるか……。
今日はラヴァの誕生日だったか、なんか買って帰るか。忘れるとすぐ拗ねるからな〜うちの嫁さん。
○○○○○○○○○
カル視点
俺はポッカリ空いた何かを埋めるように鍛錬に取り組んでいた。姉さんが行方不明と聞いた日に一度家に帰ったが、それ以来俺は家に帰っていない。帰ったところで姉さんはいないからだ。
団長は姉さんが死ぬわけないと言っていたが、俺もそう信じている。だけど、心のどこかで信じきれない自分がいる。ジスタートで慰みものになっているのではないか?ムオジネルに売り払われて、奴隷にされているのではないか?あたまのなかで最悪のケースだけが、延々と繰り返されている。
だから俺は、それを忘れるかのように鍛錬をする。友のティグルでさえ、あの戦場から戻ってきていないのだ。
「………フンッ‼︎」
突いて突いて突いて……目の前にジスタートの戦姫がいると仮定し、連続の突きを放つ。だが、俺が勝つ姿がまったく想像できない。それほどまでに戦姫の力は強大で、高い壁なのだ。
だから俺は、それを越えるため、団長に勝負を挑み続ける。何度だって諦めずに大事な人を守れなかった俺への戒めに……。俺は強くなくてはならない。それはブリューヌの六英雄に匹敵するほどの強さを……。ただの憧れではない。俺が手にするのは……絶対的な力だけだ。
「団長、これを」
「カル……こいつはどういうことだ?」
「見ての通りです。俺は騎士団をやめます」
俺は鍛錬だけじゃ強くならないと判断し、このアグニ騎士団を辞める決意をした。
「それがお前の答えなのか?」
「はい……団長……俺は強くなりたいんです。ここにずっといたら、居心地が良すぎて、自分がダメになる気がするんです!だから……お願いします……団長……」
「………は!辞めたら、どこに行くつもりなんだ?あてはあるのか?」
「……西方砦を守るザクスタンの天敵〝黒騎士〟ロランの下に行こうと思っております」
「そうか……。ナヴァール騎士団か……いいだろう!行ってこい!ロランには俺が話をつけておこう!」
「……いいんですか?団長」
「なーにしけたツラしてんだぁカル?俺は団員のことを本当の家族のように思っている。家族の旅立ちを気持ちよく送り出すのが、俺の役目だ!行ってこい!カル!そんで強くなって帰ってこい!」
「ーーー!……はいっ!」
「そんじゃあ、アグニ騎士団を出て行くお前に俺たちから贈り物だ!明日の昼!太陽が頂点に達したときに修練場に来い!いいな⁉︎」
「!はい!」
○○○○○○○○○
そして、日が真上に達した時に俺はアグニ騎士団の修練場にたどり着いた。そこで俺を待ち受けていたのは………
「よお!カル!来たか!」
団長……。
「ふむ、ちょっとはいい面構えになったんじゃないか?」
副団長……。
「若者は自分の道を進めばよいのじゃ。昔のわしのようにの!
ワッハッハ‼︎」
ダンさん……。
「……ふん。覚悟しとけ、カル」
ファルオンさん……。
「覚悟しとけよーカル!」
ゴルドバ……。
「オラァ!カルゥ!遅いぞ!」
「盛大な祭りにしようぜ!カル!」
「俺たちを忘れられないようにしてやるぜ!」
「お前それは危ない発言だぞ……」
騎士団のみんな……。
「団長……これは一体……」
「おうよ!辞めるお前に俺たちからの贈り物……それは!アグニ騎士団が誇る精鋭だけの!百人組手だ!」
「えぇ⁉︎ちょっ!」
「テメェら‼︎問答無用だ!このアホを……袋叩きにしちまえや‼︎」
「「「「「おう‼︎」」」」
アグニ騎士団の精鋭は主に騎馬兵として、戦場を駆けているので馬なしでの戦いは慣れていないと思われがちだが、彼らは違う。
幾多の戦場を渡り歩いた精鋭たちは、白兵戦でも無頼の強さを誇る。それが束にかかってくるということは……。
「カル!覚悟しろや!」
「うっ!」
かなりきつい……というより無理があるのだ!
「おいおい!相手は一人じゃねぇぞ!ほらよっ‼︎」
正面から斬りかかってきた兵を跳ね除け、後ろの兵に対応する。
「ハァッ!」
俺の自信のある攻撃は突き……一心に研ぎ澄ましてきた俺の突きはそんじゃそこらの槍兵とは次元が違うレベルに達している。だが、この人たちはそれを軽く捌いていく。
「まずは俺から相手をしよう」
俺がやっと、周りの兵から距離をとったと思ったら、目の前に現れたファルオンさん。
「な⁉︎ファルオンさん⁉︎」
「ふん……覚悟しろといったはずだ」
そういうと、ファルオンさんは腰に差していた剣を抜きはなち、残像を残しているのではないかと見間違うほどの速度で俺に肉薄する。
「⁉︎⁉︎」
それをかろうじて防いだ俺は次の攻撃に対応するため、周りやファルオンの次の行動を予測する。
ファルオンさんの持ち味は騎乗しているときてはわからないが、その剣速と身体能力の高さだ。いちいち反応していたらきりがないので、予測と感で対応するしかない。
「カル‼︎殺すつもりでこい‼︎」
「⁉︎わかりましたよ……ッシィ‼︎」
俺はそれを了承し、ファルオンに己の全てを使って、肉薄する。それから、俺とファルオンさんの剣戟が始まる。周りの兵たちも、俺たちを囲い逃げられないようにする。
最初に俺は上からファルオンを斬り降ろす。だが、体を左に半分ずらすことで斬撃を躱し、剣を右手に持ち替え、俺の左腕を狙い、斬りかかってくる。今度は俺がそれを受け止め、そのまま力の方向をずらし、受け流した。それを何度か繰り返し、決着は突然訪れた。
「強くなったもんだな!カル!」
「これもファルオンさんやみんなのおかげですよ!」
「ハ!御託はいい!そろそろ本気だすぞ!」
「なら俺だってぇ!」
力を込めて、剣を思いっきり右に薙ぐ。それを受け止めたファルオンさんはもろに受け吹き飛んでいく。
「グオォ……。ふん……。〝赤剣〟と呼ばれた俺の実力……見せてやるよ!」
ファルオンさんはすぐさま起き上がると前傾姿勢で真っ直ぐこちらに向かってきた。剣の切っ先を俺に向け、刺突の構えをしている。
「……ふーー……。対策はしてある……。考えた通りに!鍛錬通りに!」
俺は背中に背負っている槍を左手に持ち、右手に剣を持った。
「フッ‼︎」
俺は右手の剣を突撃してくるファルオンさんに投げつける。さあ!どうくる⁉︎
「……ッシ‼︎」
キィン‼︎……刺突の構えを解いて、剣を弾いたか……。予想通りだ‼︎
「うおおおおおお‼︎」
俺は投げつけた瞬間に駆け出し、槍の刃の付いていない部分をファルオンさんに向け、それを突き出した。
ドスンッ‼︎
「ガッ……ハアッ‼︎」
ファルオンさんの走った勢いに俺の突き出した槍がカウンター気味に入り、勢いよく吹っ飛んでいった。
周りからおぉっ!とざわめきが起こり、俺から距離を置く。
○○○○○○○○○
ヴァンベルク視点
「大丈夫か?ファルオン」
俺はそこで倒れ伏している、我らが騎兵隊長に歩み寄り、状態をきく。だが、ファルオンは目を開き、口を開いた。
「チッ……俺もヤキが回った……。一からまた始めるさ」
「そうしてくれ、カルの抜けた穴をお前一人で埋めれるようにな」
「無茶言ってくれるな……ヴァン。お前は戦わないのか?」
「まだ怪我で療養中だ。ちなみにダンさんも出ないぞ。代わりにーーー」
俺の目線の先、そこには我らが軍師ダルバンシェルの孫。
「カルゥ‼︎勝負だぁ〜‼︎」
ゴルドバがカルに向かっていって、吹き飛んでいくのが見える。俺はそれを見て自然と笑顔が浮かぶ。
「新たな葉が芽吹いてきたな……。まあ、俺もまだまだ、そんな歳ではないがな、はっはっは‼︎」
○○○○○○○○○
大体、半分を倒したところか……?相手も減っているように見える。副団長が指示をだして、けが人を運んでいるからか。
俺の前にいる集団の向こうに団長が仁王立ちして、こちらを射殺すような目で見ているのが見える。俺が今やるべきことは仲間を倒し、目の前の最強の男を倒さなきゃいけないことだ!
「うおおおおおお‼︎」
突いて、薙いで、弾いて、突いて……。腕の感覚がなくなっても槍を振るい続けた。時には蹴りを、拳を相手の体に叩きつける。俺たち騎士団のモットーは手加減はするな‼︎だからな‼︎
「カルの勢いが止まらねぇ!」
「誰かあいつ止めてこいよ!」
「無理だ!近接戦であいつに勝てんのは団長か、副団長くらいだ!」
「やーっと俺の出番かぁ!カル!楽しい闘いにしようぜ!」
ついに出たな……。
「団長‼︎」
ここからが本番だ。絶対……倒す‼︎
そのあと、俺はボコボコにやられ、一日療養として、団長の家に泊まることになった。
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「狭いけど、ゆっくりしてけや。自分の家だと思ってな!」
「はい……」
いや、ゆっくりできねぇよ。団長の家にきて、元・副団長のラヴァさんがいるのは心が持たないわ!
「カル、久しぶりね。元気してた?」
「あ!はい!ラヴァさんも元気そうでなによりです!」
「ふふ、ありがと。じゃあ、ご飯作ってくるから、適当にくつろいでね」
「はい!」
ラヴァ=ダンデルガ……アグニ騎士団の団長がまだアヴァンさんだったころ、その息子ヴァルガスがアグニ騎士団でナンバー2として王国内で有名になり始めたころだ。そのヴァルガスが突然現れた女に負けたという噂が流れたのだ。それはまぎれもない事実だった。そのヴァルガスに勝ったのが、何を隠そう、ヴァルガスの妻ラヴァ姉さんだったのだ。ラヴァ姉さんは瞬く間に騎士団の中で名を上げ、女の身でありながら、アグニ騎士団のナンバー2の地位に座ったのだ。
アヴァンさんが引退を宣言し、団長を決める大会を開いたのだ。
当然、ラヴァ姉さんも参加した。当時、騎士団の中で出場を予想されたラヴァ姉さんを筆頭にヴァルガス、ヴァンベルク、ダルバンシェル、ファルオン、その他、実力のある騎士達。
当然のごとく、名があがった5人は勝ち上がり、ヴァルガス対ラヴァ、ヴァンベルク対ファルオン、ダルバンシェル対騎士のカードで決まったという。そこで、ヴァルガスはラヴァ姉さんを倒し、そのあとプロポーズをして、ラヴァ姉さんはそのまま騎士団を辞め、ヴァルガスを裏から支えるという新たな役目を得た……俺の知ってる話はここまでだ。詳しい話はまた今度に話そう。
「カル、ロランには俺が話をつけといたからよ。この紙をちゃんと番兵にわたせよ」
そういうと団長は俺に封のされた手紙を渡してきた。
「これは?」
「まあ、俺からロランへの手紙だ。おっと!中身は見んなよ?お前の信用に関わるからな」
「それくらいはわかってますよ。何から何まですいません。この恩は必ず返します」
「おう、そのうち返してくれや。俺たちは気長に待ってるよ」
団長は大笑いしながら、俺の背中を叩く。
俺は笑いながら、目から涙が浮かんでいるのがわかった。
○○○○○○○○○
「ロラン、アグニ騎士団団長ヴァルガスから手紙が来てるぞ」
ナヴァール騎士団副団長オリビエ……ロランの副官として、軍団の指揮にあたる人物。ロランから絶大な信頼を得ている。
「ん?あいつからか……貸してくれ」
ナヴァール騎士団団長ロラン……〝黒騎士〟という異名を持つブリューヌ最強の騎士。13歳で試練をうけ騎士となり、以外一度も負けたことがなく、国王より宝剣デュランダルを下賜され、17歳という若さで騎士団長になった。
「………ほう」
「なにが書いてあったんだい?」
「ああ、〝うちから一人生きのいいやつをやるからしつけてくれ〟と
一文だけ書かれていた」
ロランはそういうと手紙を机の上に置く。目を閉じなにが考えるように黙り込んだ。
「どうした?ロラン?」
オリビエも心配そうにそう聞いて、やっと口を開いた。
「あいつが人に頼みごとをするのは稀でな、そういうときは必ず不吉なことが起こるんだ。……まあ杞憂であって欲しいがな」
ロランは腕を組み、やれやれといった表情を見せる。
それを見たオリビエは意外そうにしていた。
「ははっ!ロランにも嫌なことがあるのか」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ?俺にだって一つや二つ嫌なことだってある。それが奴なだけだ」
腕を組みながらだが、オリビエを見るロランの表情にはフッ……と笑みがこぼれていた。
「何はともあれ来るのが楽しみなのに変わりはない」
「そうだな、あー後、斥候からの情報で国境付近にザクスタンの兵を目撃したようだ。またなにか仕掛けて来るおそれがある」
「ネズミどもが、またチーズに齧り付こうとしている……か。昔の先人たちはよく例えたものだな。お前のことだ準備はさせているんだろ?」
「ああ、兵士たちには言ってある」
「ならそれでいい。奴らが仕掛けるの待つだけだ。来たときは俺が今度こそ来れないよう叩き潰す」
ロランの顔は憤怒の表情に変わり、この時オリビエにはロランがゆらゆらして見えたという。
「まずはカルとか言う奴が来るのを待つ。オリビエ兵たちには鍛錬し、よく食べ、充分に休息を取るように伝えろ!俺は自分自身の目で国境付近を見て来る!」
ロランはガバッと立ち上がると、すぐさま部屋を出て言いった。
オリビエはロランが出た方向見つめ、ぼそりと呟く。
「やれやれ、これから大変だな……」
その言葉はオリビエしかいない部屋にとけていった。