ブリューヌ王国の六英雄   作:暗黒騎士2世

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第5話

 

 

 

俺たちが進軍しようとしたーーーそのときだった。

 

「前からジスタート軍だ!」

それを聞いた周りの貴族たちは一気に浮足立つ。副団長は冷静にその方向を見て、判断を下そうとしていた。

 

「………反転だ」

 

「反転……ですか。団長たちはどうします?」

 

「援軍には迎えないと伝令をだし、早めの離脱を指示する。俺たちは反転して、前のジスタート軍と戦うぞ!」

 

俺とダンさんはそれを聞くと、俺は周りに反転の指示をだす。それを聞いたヴァンベルクさんは命令をだす。

 

「俺たちは今から、前の敵を討つ‼︎後ろの敵は我らが団長に任せることになるが、俺たちは団長が負けないと信じて戦うぞ‼︎前の敵を討ち‼︎ブリューヌの力を見せつける‼︎」

 

五百人いる騎士団は一斉におうっ‼︎と叫び、各々武器を掲げる。

 

「全隊‼︎突撃‼︎」

俺たちは一斉にうおおおおおお‼︎と雄叫びをあげながら、駆け出した。

 

「伝令をだす!ジン!行け!」

近くにいた、新人のジンに伝令の指示をだす。

 

「了解です!」

それを聞いて、即座に駆け出すと、あっという間に見えなくなった。

 

「俺たちも前に出て、戦うぞ!カル!ついてこい!ダンさん!兵の統率を頼む!」

 

「任された!やはり、ヴァンは前に出て戦うのが性に合っているようじゃの!」

 

「フッ……そうみたいです!行くぞ!カル!」

 

「はい!」

俺と副団長は前線にで戦うため、一気に前に躍り出た。その時、味方のブリューヌ軍からも声があがる。

 

「アグニ騎士団だけにやらせるな!我らも続くぞ‼︎」

 

「ブリューヌの誇りを!戦神トリグラフの加護あれ!行くぞぉ‼︎」

おおおおおお!ーーー他の騎士団からも声が上がり、軍勢は約三千ほどに膨れ上がる。

 

「うおおおおおお!」

この軍勢のなかで戦うことになるとはな……士気があがるぜ!

 

「オラァ‼︎」

 

「シッ‼︎」

副団長は身の丈ほどある、斧を振るい、ジスタート兵を数人吹き飛ばした。

俺も負けじと槍を突き、敵を串刺しにする。

 

「このままーーー」

副団長が勢いのまま進もうとした時、その報は知らされた。

 

「ブリューヌ王国王子!レグナスを討ちとったぞぉぉぉぉ‼︎」

 

「な⁉︎」

それは一瞬の油断だった。

 

「チッ!カル!危ねぇ‼︎」

副団長は俺を突き飛ばすと、ジスタート兵の槍から俺を庇っていた。

 

「ヴァンベルクさん!くそ!」

俺は立ち上がり、敵を殺そうとしたがーーー

 

「ぐっ……ッラァ‼︎」

ヴァンベルクさんは刺された状態で、剛斧を振るい、ジスタート兵の頭を斬り飛ばす。

 

「副団長!」

 

「……はぁはぁ。怪我はないな?」

副団長は刺された場所を抑えながら、俺の無事を確認してきた。副団長の傷を見ると、鎧の上から、ポッカリと穴が空いており、そこから赤い血が流れ出ている。

 

「俺は大丈夫です!すいません……俺なんか庇って……。今すぐ、誰かーーー」

俺は近くの仲間を呼ぼうとすると、副団長はそれを手で制す。

 

「いや、大丈夫だ。今はそれどころではない。王子死亡の報で兵が浮足立っている。逃げ出す兵も多数出ているのだ。早くこの場から離脱するぞ」

副団長は冷静に状況分析すると、俺にも指示をだしてきた。

 

「カル お前はこのことをヴァルガスに伝えてくれ。俺はダンさんとアグニ騎士団を再編成し、王都ニースに戻る」

 

「……わかりました!ダンさん‼︎」

俺は了承の意を伝えると近くで指示を出していた、ダンさんを呼ぶ。

 

「なんじゃ⁉︎……ん?ヴァンよ、怪我をしてるではないか⁉︎」

ダンさんは俺に気づくとすぐに駆け寄ってきてくれた。そして、すぐに副団長の怪我の容態を確認した。

 

「これだったら、すぐに治療すれば大丈夫だ!すぐに治療をーーー」

 

「いえ、大丈夫です。それよりも俺と一緒に騎士団を再編成し、ニースに戻りましょう。この戦は……終わりです」

 

副団長……あんたはいつだって自分を後回しにしてきた。自分の身を削って、俺たちを助けてきてくれた。だから、この恩は必ずーー返す!

 

「無事にニースで会いましょうーーー必ず」

俺は近くにいた、乗り手がいない馬に飛び乗った。

 

「任せたぞ カル。ダンさん行きましょう」

 

「……そうじゃな。時は一刻を争う。全隊!隊を再編成し、王都ニースに戻る!」

 

ダンさん素早く指示をだし、隊をまとめる。

 

「副団長 ダンさん……武運を」

俺はそう言い、馬の腹をけってら本陣のある丘へと向かった。

 

 

 

 

○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

時は戻って、丘の上の本陣では団長のヴァルガス=ダンデルガがジスタート王国戦姫エレオノーラ=ヴィルターリアと対峙していた。

 

「俺の名はヴァルガス=ダンデルガ‼︎その容姿!ジスタート王国の戦姫と見受ける!相違ないか⁉︎」

ヴァルガスは意気揚々と名を名乗り、先頭に立つ白銀の髪をした少女に名を問いた。

 

「いかにも!私はジスタート王国 ライトメリッツを治める戦姫!エレオノーラ=ヴィルターリアだ!」

白銀の少女も不敵な笑みを浮かべ、それに返す。

 

「ライトメリッツ……銀閃の風姫《シルブラフ》か!」

ヴァルガスはよっしゃ!とガッツポーズをしながら、喜んでいた。

 

「その武勇、ブリューヌまで届いている。俺はそれを聞いて、ずっとあんたのことを……想っていた!」

瞬間、ジスタートからもブリューヌからもザワッとどよめきが起こった。

 

「……団長 聞きようによっちゃ、愛の告白と思われますよ」

ファルオンは呆れながら、ヴァルガスに注意する。

 

「アハハハッ‼︎おもしろい奴だな!お前!」

ジスタートの戦姫も笑いながら反応する

 

「そうだな……率直に言おう!俺と……勝負しろ!」

それを言った瞬間、ヴァルガスは馬を蹴り上げ、先頭にいた白銀の少女に向かって走りだした。

少女は迎撃せんと長剣を抜き放ち、彼女もまた馬の腹を蹴り駆け出す。そして駆け出した二人はーーーぶつかった。

 

「オラァァァァァァ‼︎」

ヴァルガスは背中に背負っている大剣は使わず、腰に差している剣で斬りかかると少女はそれをものともせず、受け流す。

 

「ハッ!」

受け流したあとは少女がヴァルガスに向かって、鋭い突きを放つがヴァルガスはそれをいとも簡単に弾き返す。

 

「っぶねぇ!なら!これならどう…だっ‼︎」

無数の斬撃が少女を襲うが、少女は動じず言葉を口にする。

 

「アリファール‼︎」

すると、少女の周りに風が吹いた。馬の巨体が宙に浮き、斬撃を避け、少女は再びヴァルガスと間合いをとった。

 

「なんだぁ?それは。それが竜具《ヴィラルト》とやらの力か……。風を操るみたいだな?その武器は」

ヴァルガスは冷静に分析し、答えを導き出す。それに驚いたのか少女は素直に褒めていた。

 

「何も考えない筋肉ダルマかと思ったが、しっかり考えてるいるみたいだな、ヴァルガス殿?」

少しだけ、皮肉を込めている棘のある言葉を目の前に立つ赤い髪の男にぶつけた。

 

「はん、小娘が生意気言うじゃねぇか?ヴィルターリアさんよぉ。言っとくが俺はまだ本気を出しちゃいないぜ!」

ヴァルガスは再び、馬を蹴り、少女に向かって突撃を始める。

 

「ふん バカのひとつ覚えみたいに突撃しかできないのか?先ほどの分析力は嘘だったようだな!アリファール!」

少女も綺麗な声で竜具の力を使うため、その名を叫ぶ。すると、今度は風が砂埃をヴァルガスの前に起き、一時的に視界を奪った。

 

「ぐっ……。目が見えないのなら、気配で捉えるだけだ」

目を閉じたまま、振るわれた剣は固い何かを捉え、鉄が割れる音が辺りにこだまする。

視界が晴れて、目の前には白い馬に乗る少女が不敵な笑みを浮かべこちらを見ていた。

 

「折られたのは俺の剣だったか……まあ、感触でわかってはいた」

ヴァルガスは折られた柄だけの剣を捨て、背中にある大剣に手をかける。

 

「なら!俺もほんのちょっとだけ、本気を出してやる!行くぜ!ダンデルガ‼︎」

ヴァルガスが叫んだ瞬間、鞘におさまった大剣が火を吹いた。

 

「⁉︎ なんだそれは⁉︎ それも竜具なのか⁉︎」

少女もこれにはさすがにびっくりしたのか、その大剣のことについて、問いただす。

 

「これはブリューヌ王国の六英雄〝炎〟の英雄が使っていたとされる武器……人を守るために作られた、この武器を俺たちの間では勇具《スフィア》と呼んでいる。この剣の名はぁ……覇炎剣ダンデルガ。かつての英雄がこの剣を片手にブリューヌ全土を駆け巡った伝説の剣だ!」

ダンデルガを掲げ、その顔には自信に満ちていた。

 

「だから、俺のことは竜だと思っていいぜ?俺だって、普通の相手にはつかわねぇよ」

お前が戦姫だから使うんだと言い放つ、ヴァルガスは馬から降りお前も降りろと首で促す。

 

「やっぱり、こっちの方がいいわ〜。思う存分力を出せそうだ」

うーんっと背伸びをするヴァルガスを黙って見つめていた戦姫エレオノーラも馬から降り、長剣アリファールを構え直す。が、後ろから一人甲冑を着た副官らしき人物がエレオノーラの横に並んだ。

 

「エレオノーラ様」

 

「なんだリム?これから楽しいところなのだ、邪魔するな」

エレオノーラは剣をヴァルガスに向けながら、リムと呼ばれた少女には目もくれていない。

 

「いえ、ですが軍全体のことを考えると一騎打ちに及んでいる時間はないかと進言いたします」

副官……リムは個人のことではなく、軍の勝利をという考えらしい。個人のワガママで軍が負けたら元も子もないのだ。

 

「あの程度の数でしたら、我々の敵ではありませんがいかがいたしますか?」

 

「む……」

エレオノーラは構えをとき、顎に手をやって考え始める。

 

「まあ、俺たちにとっちゃ時間稼ぎだからなー。受けてくれりゃ嬉しいんだがそうもいかねぇな」

ヴァルガスも構えをとき大剣を肩に乗せ、頭を掻く。

 

「どうしますか?団長」

騎馬隊隊長ファルオンもヴァルガスの隣に来て、今後の動向を問う。がヴァルガスもどうするか悩んでいる様子だった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

(チッ……どうするか。ヴァンからの伝令はまだか?)

俺はこれからここをどう切り抜けるかで頭を一杯にしていた。

 

(逃げようとおもえば、逃げれるんだが……。まだあっちの状況がつかめない以上、下手に動くべきじゃないな)

俺がそう思った瞬間、伝令のジンが俊足を飛ばして、俺の隣にやってきた。

 

「ついにきたか!」

 

「はい!副団長は前から現れたジスタート軍からブリューヌ軍を守るため、こちらには向かわず反転しブリューヌ軍と戦っております!こちらも時間稼いで欲しいとの仰せです!」

 

「へっ……無茶言うぜぇ あのやろう。この状況どうやって打開するっていうんだ」

俺は自然と笑みがこぼれ、決して嫌ではない悪態を吐く。

 

「戦姫エレオノーラ=ヴィルターリアよ!ここを通りたければ、俺を倒してからにしやがれ!」

威勢良く啖呵をきる。

 

「ファルオン!お前は百騎を連れて、前衛に戻れ!俺はここで時間を稼ぐ!」

自分でもわかっている、俺がとんでもないことを言っているのを

 

「な⁉︎なにを言ってるのですか!団長!そんなことできるはずがーーー」

 

「いけ これは……団長命令だ!」

俺はその瞬間、戦姫に向けて走り出す。

 

「頼むぜー俺の体。もってくれよ!」

そして、戦姫の前にやってきた俺は大剣を大きく上に構える。大剣は火を吹き、ごうっと燃え上がる。

 

「景気良く、一発でかいのぶちかますぜ!フレアライド《燃える斬撃》‼︎」

渾身の斬撃を戦姫に叩きつけるが、戦姫もそれを落ち着いてさばこうとする。だが、この技の真骨頂はこっからだ!

 

「今だ!ダンデルガ‼︎オラァァァァ‼︎」

すると大剣が火を噴射し、俺の腕をもぐんじゃないかという勢いで戦姫に向かっていく。

 

「な⁉︎アリファール‼︎」

やっと慌てた表情がみれたな!この野郎!

ズドォォン‼︎……あたりに衝撃が響く。先程までいた戦姫の場所には土煙とクレーターが広がっている。

 

「チッ またその剣か!」

 

土煙から晴れて現れたのは多少埃まみれになっている戦姫の姿だった。

 

「今の危なかったぞ……私は少し退屈していたのだ。これほどまでに手応えのない戦いに……。私は勝つために様々な策を用意した。だが、結果はたった一度の奇襲で潰走……。だから、私もそんな貴殿に敬意をもってこの戦いに臨もう!」

 

そう言って、再び長剣を構え直す戦姫エレオノーラ=ヴィルターリアは真剣な眼差しでヴァルガスを見据える。

 

(肝の座った顔をしてやがる……だが、勝つのはーーーおれだ!)

俺は剣を肩に担ぎ、再び突撃する。

 

「なら、かかってこいよ!そして、俺を倒してみせろ!俺の相手はお前だけじゃない……お前の軍全部だ!」

俺はそのまま戦姫に突撃はせず、通り過ぎ後ろの騎兵たちに飛びかかった。

 

「うらぁ‼︎」

俺は横に大剣を振り、馬ごと吹っ飛ばす。それに馬が多少びっくりしたのか、ちょっとした隙ができた。

 

「隙だらけだ!」

今度は近くにいた、騎兵を下から斬りあげる。すると、馬と人間がまるで、重力に逆らうように上に飛んでいく。

 

「ハッハァ‼︎」

 

「させるかぁぁぁ‼︎」

俺が騎兵相手に戦っていると後ろから戦姫が飛びかかってきた。俺はそれを大剣の腹を使って、防ぐ。

 

「ぐうっ!」

こいつ!この華奢な体のどこからこんな力が!

 

「ハアッ‼︎」

そのまま戦姫は長剣を横に振り、俺はそれを防いだがそのまま吹っ飛ばされる。

 

「チッ!」

初っ端から勇技《ブレイブバースト》を使うんじゃなかったぜ……。体に力が入らねぇ!

 

「先程の力は残っていないようだな!ヴァルガス!」

 

チッ……これで何度目だ舌打ちは……。ファルオンはもう行ったな。だがまだ、危険を免れた訳ではないだろうが、俺はあいつらのために最後まで……俺の力の一滴まで使い果たせ‼︎

 

「うおおおおおお‼︎」

いつの間にか俺の周りには騎兵はいなく、戦姫と俺の一騎打ちになっていた。こいつだけはここで倒す!

魔人も!竜も!殺すことができる、親父から教えてもらった技!

 

「イグニート……」

俺のありったけの力を大剣に込め、ダンデルガを構える。

 

「戦姫でいう、竜技《ヴェーダ》か……。なら私も対抗せねばなるまい!ハアァァァ‼︎」

戦姫エレオノーラ=ヴィルターリアのかざす長剣に風が集まっていき、剣を中心に纏わり付くように渦を巻いている。それは風が圧縮されていると思われる。

そして、お互いに技を出そうとした瞬間、三頭の馬が走ってきたのだその内の二頭には人間が乗っている。

 

「ヴァイ「ハァッ!」んなっ⁉︎」

ヴァルガスの必殺技が放たれようとした瞬間、ファルオンの剣がそれを邪魔したのだ。それは戦姫エレオノーラも同じだった。戦姫にはカルが渾身の一撃で剣を上にそらしたので、戦姫の竜をも殺す一撃を空中にそらすことができたのだ。

 

「クッ!何者だ!」

戦姫も久方ぶりの真剣な戦いをどこの誰とも知らない奴に邪魔され、ご立腹のようだった。

 

「ファルオンさん!できるだけ、早くお願いします!ハァッ!」

カルはファルオンになにか指示すると、自身は再び戦姫に向かい、攻撃を仕掛ける。

 

「団長!乗ってください!」

ファルオンは団長に乗り手のいない旨を目の前に連れてくる。

 

「な⁉︎ファルオン!テメェ逃げろって言っただろうが!」

 

「元から俺たちは団長と心中する覚悟はできている!俺はあの時からあんたに救われていたんだよ!今度は俺があんたを救ってみせる!」

 

「ファルオン……。すまねぇな!おし!行くぞ!」

ヴァルガスも用意された馬に飛び乗ると、カルの下に駆け寄る。それについていくようにファルオンも背を追った。

 

「シッ‼︎」

カルは依然と戦姫に向かって戦っていた。何度何度も槍の特性を活かし、突きを放つ。

 

「反撃する隙は与えない!ハァッ!」

 

「ブリューヌにはこんなにも強い奴がいるのか!侮っていたよ!貴殿の名を聞いてもよろしいか?」

戦姫は突きを弾きながら、余裕そうにカルの名を聞く。それに答えるカルもまだまだ余裕がありそうだった。

 

「俺の名はっ‼︎カル!覚えなくてもいいぞ!シッ‼︎」

名乗ると再び、連続の突きを繰り出し、戦姫を翻弄するが戦姫も馬鹿ではない。

 

「アリファール!」

戦姫の周りに風が起こり、戦姫を覆う。

 

「風影《ヴェルニー》‼︎」

すると、戦姫は宙に浮き、空を飛んで、カルの突きを避ける。

 

「化け物か……!」

カルも馬を引き、間合いをとる。歯噛みしながら、戦姫を見ていた。

 

「女性に向かって、化け物とはひどいな……」

エレオノーラも苦笑いしながら、頬をかいて、カルと対する。

 

「カル!」

すると、ヴァルガスとファルオンがカルに向かって、走っていき横に並ぶ。

 

「団長!ご無事でなにより!団長の尻拭いは今回限りですからね!」

額に浮かぶ、汗を拭い槍を握り直す。

 

「ああ!すまねぇなカル。今回は助かった」

ヴァルガスが素直に礼を言うと、カルは団長が礼を⁉︎と驚きを隠せなかった。

 

「戦姫よ!今回はこれで終わりだが、いずれ!また戦おう!いくぞ!お前ら‼︎」

 

「「おう!」」

ヴァルガス、ファルオン、カルの三人組は戦姫たちに背を向けると走り出しす。

 

「フッ……。近いうちに会える気がするな……。リム!このまま追撃はできそうか?」

 

「はい。囮となっている、四千の兵はブリューヌ軍の足止めに成功していると報告がありましたので、今から追えばなんとか……」

副官リムアリーシャはエレオノーラの馬を連れながら、横に並ぶ。

 

「そうか……。よし!追うぞ!全軍に告ぐ‼︎我々はこのまま追撃を開始する!この戦は既に我々の勝利だが!戦いを挑んだことを後悔させてやろう!黒竜旗《ジルニトラ》を掲げよ‼︎」

おおおおおおお‼︎……戦姫率いるジスタート兵は士気は十分なため、今にでも突撃する勢いだった。

 

「全軍!突撃!」

戦姫の声が辺りに響き渡ると、それは怒号となって帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

「……」

俺たちは団長を助け、馬を走らせ王都に戻っている最中なのだが、俺の心は別のところにあった。

 

「……姉が心配か?カル」

 

「!……はい」

俺は王の身辺を守っていたサーマ騎士団団長セレナ=レクシーダの心配をしていた。彼女は俺の唯一の姉であり、家族なのだ。心配して当然だと思う。

 

「そう心配するなよ。あいつはお前が思っている以上に強い女だ。なんせ、俺と引き分けたんだからな!」

団長は俺を慰めてくれるが、俺の心は晴れない。だが、今は姉の心配よりも自分たちの心配をするべきだと思う。まだ、安心はできないからだ。

 

「……そうですね。今は王都に戻ってから、考えます」

 

「おう!そうしろ!よーし!カルのためにもとっととニースに帰るぞ!」

 

「そうだな 馬の速度を上げるか」

 

「ありがとうございます。団長、ファルオンさん」

 

そのあと、王都に帰った俺たちの前に姉さんは現れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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