忙しかったんだよ。悪いか(悪い)。
その顔を覚えている。
炎の中、私は最初に音を手放した。
次が痛みで、その次が熱。
視界だってボヤけて、言葉はいつの間にか消えていた。
漠然と確信していた。此処で死ぬのだと。
幸せだった日々の思い出はあっという間に通りすぎて、三度目のリピートを試みている。
もっともここから出たことの無い私に思い返せるものは少ない。
走馬灯というのは、生きようとする体の反応らしいから、どんなに無意味でも、そういう意味では、私は正常だ。
でも、こればかりは仕方がない。
それはもう眠いからだとか、お腹から下を感じないからだとかではなくて、ただ単に、いつの間にか始まった日々だから、突然に終わるのが当然だと、そう思ったからだった。
なのに、
自分だって逃げれない現実の中で、貴女は私の手を握ってくれた。
怯えからではなく、優しさで、迫り来る恐怖からではなく、ただ死にゆく私の見るものがせめて少しでも美しいものであるように、と必死に笑顔を形作って、
あぁ、覚えている。
そりゃ、私のせいでこの人まで巻き込んでしまったとか、この人ともっと話せば良かったとか、色々思ったけれど、決意としては唯一つ。
そう、だから、あの時決めたのだ。
「先輩につく悪い虫はデストロイ!!」
この人(の貞操)を護ると!
「モノローグ台無し‼」
そぉい!と叫びながらカルデアの廊下を耕すマシュから逃げ続け凡そ20分。
こんにちは。そろそろ体力の限界を迎えそうな工藤です。
ダ レ カ ボ ス ケ テ !
の叫びもむなしく、会う方々に眼をそらされまくっております。
遂には公平ジャッジなルーラーズ(ジャンヌ・マルタ)にも"あぁ、またか"な目線で処理されました。
あかん(絶望)
いやマジで、なに?そんな恒例化してましたっけ?いや、確かに誰かに追われるのはこれがはじめてじゃないけどさ、デスランなんぞやりたぁないわ!
"うむ、元気があってよろしい"じゃないですよ!アタランテ姐さん的には良いかもしれませんが、追い越す前にドッカンドッカン打ってきてるんですよ!狩りの基本?ここは現代の雪山です!
「勝利への脱出!!」
廊下を走る勢いそのままに食堂へとダイナミックエントリー。
助けてエミヤ先生!
『何か、磨耗した記憶が「ニゲロ ニゲロ ドアヲアケロー」と、とてつもなく訴えるので、部屋に帰る。厄介・厄災・工藤以外の用はそちらに頼む。
本日は終了いたしました。』
そんなお役所仕事な!
備え付けのホワイトボード(投影)に達筆で書かれた不在通知。鷹の目はこんなことまでお見通しだというのか!?
後、オレのカテゴリー分けに違和感。
赤いコートの似合う人間台風じゃあるまいに、むしろ憧れてたのはアンタだろと…
「(っがし!)つーかーまーえーたー…!」
ぎゃーーーーー!!(声にならぬ悲鳴)
私の愛馬は凶暴です!
マーシューカー脅威の握力が肩甲骨を締め上げるーー!っビクン!ビクン!
やめて!人間の肩は取り外し出来るようには出来ていません!
「ひーとーりーさーん。あーそびーましょー」
あぁ、遂に親愛の証先輩呼びまで…!
嫌ぁ、遊びたくない!
工藤、目の光る知り合いなんてインド出身のランサーとスチームコンピュータ位しか知らないもん!
「大丈夫です!痛くなんてしませんから!峰打ちですから!」
それ城じゃん!
後、峰打ちって言えば配慮したみたいな風潮やめて。それどちらかと言うと鈍器ですから、撲殺する気で圧殺出来る代物ですから!
何?ぴぴるぴるぴる…?エスカ…バカ、ヤメロ!
「じゃあ、野球しましょう!私バッターやるんで、工藤さんはボールね?まそっぷ!」
言うが早いか頭の上を通りすぎる円卓。
アムロばりに直感が効いてなかったら直撃だった。
そして遠ざかる呼び方。
「はわわわわわわ…やめてください死んでしまいます!」
そして、いつものかわいい後輩に戻って!プリーズ!!
「そんな、かわいいだなんて…そうやって先輩も…!」
ちがーう!…けど、流れはこの間と…同じ、(ガチャ)…じゃないな!うん!
ヤバイ、何を言っても虎の尾を踏んでしまう。
このままでは壁の染みにジョグレス進化してしまう。
大体いつオレはぐだ子先輩を攻略したと言うのか?
マシュがヤンデレ属性を開花させている事といい記憶に全く無い…。(そりゃそうじゃ)←オーキ◯
「ダ、ダメー!!」
登場と共にマシュとオレの間に入るぐだ子先輩。もう嫌な予感しかしないが、止めれるのは貴女だけです!が、次の瞬間!!
フッ…!
「な、消え…!ったぶぇ!!」
一瞬、視界から姿を消すぐだ子!
勿論人間が物理的に消えるはずが無い。
瞬間的にしゃがみ溜めたバネを解放し抱きつく行為…人其をタックルと呼ぶ。
しかもかちあげ式。全盛期のサクラバのごとき動きであった。
耐えれるのは範◯さんちの長男坊位だろう。
「ひ、ひとり先、先輩?!」
思わずマシュが素に戻る程キレイに入ったそれは工藤のみぞうちに頭をめり込ませ意識を一瞬で刈り取る。
後に残るのは受け身もろくにとれず蟹のように泡吹く工藤とその上に抱きついたぐだ子のみであった。
「…めだもん。やっぱりマシュでもダメだもん!」
ダメなのは貴女の認識です。と、喉まで出か掛かったマシュだが、呑み込み冷静になろうと呼吸を整える。
「お、落ち着いてください先輩。あぁ、そんなにグリグリと、グリグリと頭を擦り付けてはいけません!ええ、精神的にもですが、ひとり先輩の口から泡が洗剤のように…!昇りきってます!間違いなく横隔膜が昇りきって、呼吸困難の最上級ですぅ!!」
「イヤァーーー!!」(グリグリグリグリグリグリ)
「はわわわわわ、ひとり先輩が紫色に…!わ、分かりました!いりません!マシュ・キリエライトは(元から)ひとり先輩なんていりませんから!」
幼児退行でもおきているのか、なかなか工藤を離さないぐだ子。
男性的には羨ましいが、同時に「いや、あれはねーわ」と言いたい。というか、隅でイケメンじゃない方のランサーズが言ってた。
「…ぐす、ほんと?」
今度は工藤の頭を確保しながら見上げるようにマシュを問質す。
泣き顔といい、仕草といい見た目は幼子のようなのであやしたくて仕方がないマシュだが、確保された工藤の頭がこれから捻kill動きにしか見えず血の気が上がったり下がったりと忙しくて仕方がない。
別に工藤の事が、命が、どうこうなのではなく、先輩が前科持ちになるのがなあたりマシュらしいと言えたが、
「ほ、ほんとですとも!少し、本当に少し癪ですがお二人を認めますとも!」
但し一線越えたら…!とも思っている。
ぱぁあ…!と、輝きだすぐだ子。だがこの子自分の恋心自覚してまだ数時間である事を思い出してほしい。
つーか、ここまで、工藤の意志全無視。
何よりここはカルデア、その中央にある食堂である。
「何ですの?先程からさ…わがし…い…」←清姫
「あらあら、まぁまぁまぁま…あ"…(ぴき)」←頼光
とたん、お外に負けじと吹き荒れる冷気!
口元を扇で隠してる筈なのにチロチロ見えるヘビ亜目の舌。
メンチきってる雷神さまは言うに及ばず、溢れ出る雷が、リノリウムの床を焦がす。
「「マシュさん?」」
「あ、あのこれは…」
「「静謐さん(の)」」
「…はい」
何処からともなく現れる黒い影。
勝手に寝床に入ってくるトリオまさかの集結。
ちなみにぐだ子的には頼光(抱き締めてくるので呼吸しずらい)や清姫(角が当たる)に比べると静謐はまだ良いらしい。
実はマシュを加えてパジャマパーティー等普通にする仲である。
ここら辺の危機感のなさが"たらし"たる由縁であろう。
後は言うに及ばず。実は四話くらい前から潜んでいた静謐により工藤の運命は決まった。
セブンイレブン限定のアストレイグリーンフレームがあるらしい。
でも、ガーベラ持ってるからあれはレッドフレーム(緑)だよね?