ぐらんどおーだー 人理の天地 カルデア脇役録   作:七⭐

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カレーは大体作りすぎる

けーす1 オカン

 

カレーが食べたい。

 

そうぐだ子先輩が騒ぎだしたのはランサー・カルナを呼び出した日のことだった。

 

「あれだね。きっと私のなかに眠るインドの血が叫んでるんだね」

 

一応いっておくが、ぐだ子先輩はどうみても日系の顔立ちで、髪を見ればわかる事であるが、お祖父さんから赤髪を遺伝したイギリス人とのクォーターである。

 

「でもルゥがない」

 

カルデアあるあるである。

俵藤太の活躍により食事情の大半を解決したカルデアであるが、無いものはない。

まして、とある島国の、とある人気食に必須な固形スパイスなどいくら山海の珍味の涌き出る鍋とは言え用意できるはずもない。

個人的にはジャワよりとろける派である。

 

「なに、それなら作ってしまえばいい。私がやろう」

 

と、いそいそとエプロン(投影)を着け始めたカルデアのオカンことアーチャー・エミヤ。

 

なんでもないワンシーン。

 

誰が知ろう、これこそがカルデアにて後に語られる「終わり無いはらはらドキドキイチャイチャ空間(アンリミテッド・イチャハラ・ワークス)」の始まりであったなどと…。

 

 

「うーん、だったら私も手伝っていい?ルゥの手作りなんて初めてだし、今日呼んだ(来た)カルナさんに"コレが私の国のカレーだよー"って食べさせたいし。勿論歓迎の意味を込めてね」

 

「ふむ。成る程マスターらしいな。となるとインドカレーより和風カレー。いや、カレーライスだな」

 

「やっぱりカレーは白いご飯と一緒でなきゃ!日本人の心だよ!」

 

"あんた何処の出身だよ"というツッコミ不在のまま食堂へと足を向ける二人。

エミヤにも異論はないらしく大所帯であるカルデアで作るのに適したレシピを頭に思い浮かべる。

途中磨耗した記憶から生前の同級生が大量生産する料理は得意だったな、と思いだし、以外にイケるその味を再現するのもいいかもしれないと、少しだけ笑った。

 

 

 

が、

 

 

 

「…マスター、ゴーグルいるか?」

 

「う"ん(っぐす)」

 

工程途中の玉ねぎゾーンでぐだ子が洗礼を受け泣き出した。

比較的冷蔵庫で冷やしておいた玉ねぎならそこまで影響は受けないのだが、量が多い事もあり、英霊であるエミヤはともかく、ぐだ子は粘膜にダメージがいったらしい。

 

ゴーグル(投影)を着け再度挑むぐだ子だったが、視界が変わったせいか手元が少し雑になっていた。

 

「あ、あれ?」

 

真っ直ぐに刃を入れたいのだが玉ねぎはコロコロと移動する。

 

「もう!」

 

やっとこさ猫の手で押さえるが、そこで鼻がムズムズしだし押さえた手で口元を防ごうと手を離してしまう。

ところで玉ねぎに含まれる硫化アリルは常温だと揮発しやすく、コレが"粘膜"に触れることで涙が出る。これは目に限ったことではない。"鼻や口"も含まれる。

 

「!!へくし!」

 

たまらないとくしゃみと一緒にゴーグル内を涙で溺れさせるぐだ子。

それを見て苦笑いのエミヤ。

 

「うぅ…」

 

「マスター…」

 

いや、料理初心者によくある事なので声をあげて笑いこそしないのだが、エミヤはぐだ子が後輩とたまにお菓子を作っているとこを見ている。つまり初心者と言うにはレッテルが剥がれているぐだ子の子供のような姿にそうするしかなかったのだ。

 

そう、うっかり、子供にそうするように、手をとって。

 

「エ、エミヤ?」

 

「ほら、ゴーグル外して、拭いてあげるからそれが終わったら手を洗うんだぞ?」

 

長身ゆえ覗きこむように背を曲げながらぐだ子の目をハンドタオル(投影)で拭うエミヤ。

見ようによっては、と言うか、両手で相手の顔を包み込むそれはキス寸前に見えた。

 

 

 

 

「先輩。後でお話があります」

 

マシュの顔は真剣そのものだった。具体的には両手に包丁がよく似合いそうだった。

 

「ま、待って!変なことはしてないよ!あれはエミヤの優しさの現れで…「えぇ、その後包丁指導で背中から手を回してとか真っ赤な顔してやってましたよね」く、工藤君!?」

 

見てたの!?と叫んでるが、よく考えて欲しい。食堂の調理場とはいえ共同スペースである以上節度は守るものだ。

 

「っく、先輩がエミヤさんとそんな関係だったなんて…!」

 

と衝撃を受ける後輩。今にも血の涙が出そうである。

 

「ちょ、違うから!私もエミヤもそんな感情持ってないから!」

 

でも、なーんか気にはなってるんですね。分かります。

 

「だ、大体エミヤはアルトリアを見る目がそれっぽいし。本人達もなんか意識してるぽいし…」

 

付け加えるなら、他にも候補がいるっぽいがなぁラヴ師匠(勝手に認定)。

マシュを見てる目が遠い誰かを見てるようだし、ジャックやぐだ子パイセンにも誰か重ねてるようだし。

 

「先輩がモテるのは気付いてましたが、まさか既に手を出されてたなんて…っは、まさかお父さんに何かされてませんよね?!」

 

「…、え?いやランス「それがだねマシュ?」工藤君!?」

 

 

 

 

けーす2 NTRナイト

 

 

「も、もぉいきなり変なこと(包丁指導)しないでよエミヤ!」

 

「す、すまないマスター…つい…」

 

ついなんだろうか、続く言葉次第ではエクスカリバるのも吝かではないが、真っ赤な顔でそこはかとなく悪い気もしない自分にも戸惑うぐだ子であった。

 

「兎にも角にも…出来たな」

 

「そうだね…でも」

 

「「作りすぎたな(ね)…」」

 

目の前には大鍋が五つ。宗教的にダメな奴もいるからとベジタブル、ポーク、ビーフ、チキン、シーフードとバリエーションを増やしたのだ。

しかしここで落とし穴。有り余る俵印の食材にこの二人ブレーキが効かなくなったのであった。凝り性な性格も災いしクオリティも凄い。

ぶっちゃけ店を開けるレベルであった。

 

「ま、まぁ、量があるのは良い。家は大飯食らいが何人もいるからな」

 

「もし残っても冷凍できるし、派生料理が多いのがカレーだからね!」

 

と自分達のしでかした事を正当化するものの、一部のスパイスは中々手に入るものではない。

ロマニはともかく資源の大切さをとく一部のサーヴァントには色々言われそうではある。

 

「…円卓勢はうるさそうだよね」

 

「…トップは何も言わず食い続けるだろうがなぁ」

 

ないしは食べながら怒る。

"おかわり"と言いながら。

具体的に想像の出来る相手な分、対策のしようがない事も分かり腹をくくった二人はとりあえず開き直るという振り出しに戻った。

 

と、そこへ

 

「なにやら刺激的な臭いがしますね」

 

件の騎士達の筆頭がやって来た。

 

 

 

 

 

「気にしすぎです。美味しいものなのでしたら皆でいただければ、我等円卓とて特に言うことはありません」

 

「そう言って貰えると助かる」

 

円卓を代表した発言に安心するエミヤ。

何が怖かったって、キャメロットで米騒動を起こした俵を見た敵騎士の視線こそ彼にとって一番怖いものだったのだ。

 

「ですが、こう食欲に響く香りですね…どのような物なのですかカレーとは?」

 

「あーそうか、イギリスではそこまでメジャーじゃないのかもね」

 

「そもそも時代が違うからな。しかしルゥカレーはフランス料理の流れだし、そもそもカレー粉を調合したのはイギリスだ」

 

「なんと!母国に我等が故郷まで関係のある料理でしたか!これは食事の時間が今から楽しみです!」

 

へー、と"カレー粉(万能)あってもあのレベル なのはどうしてなんだろう"。と考えてはいけない事を思いつつカレーうんちくを覚えたぐだ子は、

 

「?えっと、てことはランスロット達カレー見るの初めて?」

 

一つ確認しなければならないことに気づいた。

 

 

 

 

 

「………な、なんですか?この茶色いチャウダーは?」

 

こ、焦げてる?

焦げてない焦げてない。

これが元々の色合いなんだ。

 

と、やはり思った通りの反応を見せるランスロットに少々不安を覚える。

 

「これだけ色が着くくらいスパイスを使ってる料理なんだよ。…匂いは美味しそうでしょう?」

 

「そ、それはそうですが…」

 

日本でこそ白いご飯に茶色いカレーは違和感がないが、海外ではこの組み合わせはあり得ないらしい。

贔屓目(と言うのもおかしいが)に見ても、カレーライスの写真は泥水をかけているようにしか見えないらしい。

 

「…まぁ、せっかく小分けに注いだのだ一口味見してみてくれないか?ランスロット?」

 

「え"?…いや、エミヤ殿の料理の腕前は知っていますが…」

 

美味しいよ?と勧めても相手は泥水に思っているのだ、当然戸惑いを隠せていない。

だが、だからこそ二人(カルデアキッチンズ)は確信していた。

食えばハマる。違いねぇ。

 

「む、むぅ」

 

「「さぁ!」」

 

ノロノロとスプーンを取るランスロット。

牛歩の歩みで開いた口へと進んでいく…が、行き先が鼻に変わった。

嗅いでいる。むっちゃ嗅いでいる。良い匂いである。芳しいスパイスのハーモニーである。それだけでヨダレがでそう、というか出てる。

今度こそとまた口に進むカレー。

しかし再び止まる手。今度は目線の高さまであげられた。カレーである。具のジャガイモも良い案配で色付いている。が、見た目泥み…いやいや、聞けばマスターも手伝われたらしいではないか、まさかそんな…ましてメインシェフは"あの"エミヤである。我等が王。ブリテンの騎士王が一目置く料理人…いや、アーチャーだった。ランスロットうっかり。いやだが、戦場より厨房が似合うアーチャーとはいったい。大体アーチャーか?アーチャーなのか?双剣使って料理する執事ってなんだ?アーチャーなのか?アーチャーじゃないだろう?じゃあなんだ?この茶色い物体はなんなんだ?カレー?インド?シエ…

 

「だぁー!まどろっこしい!!」ズボ

 

アーチャーがゲシュタルト崩壊しているランスロットの動きにぐだ子暴走。

掴んでツッコム。

 

そして

 

騎士の目から一筋の涙が流れた。

 

 

 

 

 

 

「…そう、あれはまさしく"あーん"だったよ」

 

「「いや流石に無理がある」」

 

息を合わせて反論された。バカな。

 

「と言うか、なんで泣いたんですかお父さん…」

 

「…感動に理由はないらしいよ」

 

まさかの号泣である。"これがあればまだ戦えた…"と何処かで聞き覚えのあるフレーズにエミヤは苦笑いが止まらない一日だったと後に答えた。

 

「え?美少女からの"あーん"に感動したんじゃないの?」

 

流石工藤(バカ)である。予想の斜め上の答えに行き着く。

 

「美少女だなんて(っぽ)」

 

「頬染めないでください先輩。…ひとり先輩も、よくよく考えたらどっちも見間違いじゃないですか」

 

「いやあの後廊下で静かに咽び泣くランスロを見る目はダメンズに惚れる女性の目だった」

 

「続きがありましたか、その辺り詳しくお願いします」

 

「マシュ!?」

 

 




全てがもはや遠い…


(意訳・カレーでテンション上がっていた頃が懐かしい…。)

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