②ジャングルでカヌーとかやってみたいな
の場合
「うわぁ…すっげー」
「カヌー乗り場に行く前からジャングルみたいだね」
朝食を食べ終えた俺達はシュノーケリングとカヌー、それぞれが選んだ方へと向かった。どっちも楽しそうで迷ったが今回俺はカヌーを選んだ。俺の他にも蛍、コマ姉、このみさん、スグ兄、一穂先生がカヌーを選んでいる。ナツ姉、ひか姉、れんげと駄菓子屋はシュノーケリングを選んでいる。
「変な虫とかいないかなー?」
「だ、大丈夫ですよきっと…」
「まぁ気をつけた方がいいかもね」
毒虫なんかがいるところはルートにならないって言ってたから心配ないと思うけど気をつけた方がいいと思う。
「ほら3人とも、立ち止まって他の人の邪魔にならない様にしろよー」
すると、一番後ろを歩いていた一穂先生が俺達に注意する。
「おーなんかかずちゃんが教師っぽい」
「いやまぁ教師ですし」
たしかにこのみさんの言う通りだ。いつもなら一番後ろをぜえぜえ言いながら歩いてるのに今日の一穂先生は珍しくしっかり先生してる気がする。
「お、見えてきたよ」
しばらく歩いてるとカヌー乗り場が見えて来た。
「皆さーん、パドルは両肘が直角になる様に持ってくださーい。あとカヌーは1人乗りのものと2人乗りのものがあるので、カヌーを選ぶ際にお申し付けくださーい」
カヌー乗り場に着くとガイドのお姉さんが俺達にカヌーの乗り方などを教えてくれた。
「ふむ、どっちのカヌーにしようかな…」
俺はどっちのカヌーにするか悩んだ。
「コマ姉はどっちに…」
「2人乗りがいい」
俺が聞こうとするとすかさずコマ姉が答える。
「2人乗りがいい」
「いや聞こえてるから」
「1人だと怖いっていうか…ひっくり返った時助けてもらえないし…」
「いやひっくり返ったら2人まとめて落ちるから」
それに2人乗りはバランスを取るのが難しいそうだからそっちの方が…
「とにかく私は2人乗りにする。蛍、一緒に乗ろうよ」
「うーん…じゃあ蛍、コマ姉の事まかせていい?」
「わかりました、一緒に乗りましょう先輩」
俺が頼むと蛍は快く受け入れてくれた。
「よっこいせ」
俺は1人乗りのカヌーに乗ると係員の指示に従い岸を離れた。教えられた通りにオールを漕ぐと水をかき分け思った以上に進んだ。
「ぶゅわっぷ!?」
「せんぱーい!?」
コマ姉と蛍の叫び声が聞こえそちらを向くとコマ姉がカヌーに乗るのに失敗して水の中に落ちた様だ。
「大丈夫かなコマ姉…」
「うわぁ〜〜〜!!」
カヌーを漕ぎ進めていくと景色がどんどんひらけてきた。青空の中に燦々と輝く太陽、澄んだ川、そして無数に生い茂るマングローブの木々、生まれて初めて見る光景に心が躍った。
「ん?あれは…」
ふと岸を見ると巨大なハサミを持つカニがいた。前に図鑑で見たシオマネキというやつだろう。さらにその近くには変な顔の魚、トビハゼが地面を這っていた。
「すごいなぁ…あんな生き物が本当にいるんだ。」
図鑑でしか見たことがない珍しい生き物達、実際に見てみるとその感動に感動した。
「うわぁー!!一輝助けて〜!!」
すると、先の方からコマ姉の助けを求める声が聞こえた、
「コマ姉どうしたの?」
「カヌーが枝に引っかかっちゃったのー!!助けに来てー!!」
どうやらマングローブを近くで見ようとして枝に引っかかってしまった様だ。
「まったくしょうがないなぁ」
俺は2人を助けるためにそちらへ近づこうとする。
「ん?」
すると、白い大きな蝶が俺の目の前を飛んできた。
「うわぁ…こんな蝶初めて見た」
大きさも模様も村で見たことのあるどの蝶とも違っており思わず見惚れてしまった。
「うわぁっ!!なんだ!?」
すると、突然衝撃が走り仰反ってしまう。前方を見ると俺のカヌーの先端が枝に挟まっていた。
「先輩大丈夫ですか!?」
「なんで一輝まで挟まっちゃうの〜!!」
「く、くそっとれない…」
まさかミイラ取りがミイラになってしまうとは…なんとか枝を取ろうとパドルで押すが枝がしっかり挟まってしまい動かない。誰かに枝を引っ張ってもらわないととれなさそうだ。すると、離れたところにこのみさんとスグ兄が2人乗りカヌーを漕いでるのが見えた。
「このみさーん、俺達カヌーが挟まっちゃったんだ。なんとかこっちに来れるー!?」
「えー!?流れがあるから川上にはいけないってー!!」
たしかにそうだ、今俺達がカヌーをしているのは川だ。湖とはわけが違う。
「どうしましょう一輝先輩…」
「このままじゃ…」
蛍とコマ姉が心配そうにこっちを見ている。
「うーんどうすれば…」
俺も景色に夢中で随分ゆっくり漕いでたからだいぶ後ろの方だったし…あと他に後ろにいるのは…
「あ」
すると、一穂先生がゆったりと1人乗りのカヌーを漕いで来た。
「一穂せんせー!!」
「枝に引っ掛かっちゃったの〜!!」
「助けて下さーい!!」
俺達は藁にもすがる思いで一穂先生に助けを求めた。
「あらー何してるの君達」
一穂先生は俺達に近寄るとまず初めにコマ姉達の枝を引っ張った。
「枝持ってるからパドルで押してみ?」
「う、うん」
コマ姉は一穂先生の指示に従いパドルで押すとカヌーは見事抜け出すことが出来た。
「ほい、一輝くんも」
「あ、ありがとうございます」
すぐさま一穂先生は俺のカヌーを抑えている枝を外してくれ、俺は脱出することが出来た。
「よし、それじゃあ皆とはぐれないように早く行こうかー」
そう言うと一穂先生は俺達をみんなの元へと程よいペースで誘導した。その時の一穂先生は何故かとても頼もしく見えた。
「あ、3人とも大丈夫だった?」
「はい、一穂先生が助けてくれたんです」
岸にたどり着くとこのみさんが心配そうに駆け寄ってきた。
「確かここから山に登るんですよね?」
「そうだよー上のところでご飯食べるって」
頂上でご飯か、上の方から見るジャングルがどうなってるのかとても気になるな。すると、このみさんがバッグからお茶を取り出してそれを飲んだ。
「あ、私お茶車の中に置いてきちゃった。」
「え、飲み物持ってくる様にって言われてたじゃーん」
「あ、私もお茶忘れてきちゃいました」
「えー?」
コマ姉と蛍はお茶を忘れてきてしまったらしい。
「しょうがないなぁ…俺のお茶まだ結構あったからそれを…」
俺はバッグを開くとお茶を取り出そうと中身を探る。
「……………あれ?」
おかしい、無い。たしかに入れたと思ったのに…
「もしかして…俺も忘れた?」
「え、一輝君まで!?どうするのー?」
まずい、このままじゃ俺達3人喉がカラカラの状態で山を登ることに…
「お茶なら2人のは車に忘れていたから持ってきたよー」
すると一穂先生がコマ姉と蛍のお茶をバッグから取り出して渡した。
「あと一輝君のはこれ、さっきバッグから落ちてたから拾っておいたよ〜」
「あ、ありがとうございます!!」
一穂先生に俺のお茶を渡されて俺はお礼を言った。どうやらバッグが少し開いていたみたいだ。
「すいません一穂先生、さっきから迷惑かけてしまって…」
「いいよーこれくらい」
俺が謝ると一穂先生はいつものようにニコニコしながらそう返した。
「あと疲れた時様に、飴と冷却シートもあるよ」
そう言って一穂先生はバッグから飴と冷却シートを取り出した。
「おお…」
おかしい、一穂先生がしっかりしてる。いつもぐうたらでまったく頼りない一穂先生が
「一穂先生、体大丈夫?どこか異常ない?」
「ん?絶好調だよ」
俺が心配すると一穂先生は首を傾げながらそう答えた。
「お待たせしました〜今から出発しまーす」
すると、準備ができたのかガイドのお姉さんが俺達に呼びかける。
「お、じゃあ行こうか」
「あ…はい」
ガイドのお姉さんの案内に従いついていくと
「うわぁぁぁぁぁ!!」
大きく美しい滝壺が見えてきた。滝から落下した水は水飛沫となって離れた場所にいる俺達にまでかかってきた。
「お疲れ様でした〜ご飯の用意ができるまで、ここで泳いでいただいて結構でーす」
「だって、2人とも行こっ」
「はい!!」
「よっしゃ行こ行こ」
「うわっつめたーい」
「でもすごい綺麗だよ」
水は透き通っておりとても美しかった。でも夏だと言うのにすごい冷たくてびっくりした。
「でもこれだけ冷たいと急に泳いだら体に悪いかも」
「そうだね、まずは体を慣らしてから泳ごうか」
「はいっ!!」
俺がそう言った次の瞬間、誰かが岩の上から勢いよく飛び込んできた。
「ぷはっ冷たくて気持ち〜」
水面から出てきたのはなんと一穂先生だった
「か…一穂先生…やっぱり今日なんか生き生きしてない?」
カヌーの時から思ってたけど今日の一穂先生は妙にしっかりしてるし元気に満ちていて頼り甲斐がある。
「いやーなんだろうねー?こう陽気な気候の中にいると、こっちも陽気になるって言うか…童心に戻ってはしゃいじゃうのかなー」
そうか、しかし一穂先生が言ってることも理解できる。自然に満ち溢れたこの場所はそこにいるだけで俺も元気になっていく。しかしあの一穂先生がここまで元気になるとは…大自然の偉大さに俺は驚きを隠せなかった。
「とか言って、帰り道でへばらないでよ〜」
「大丈夫大丈夫、今のウチはパワーに溢れてるから」
心配するコマ姉に一穂先生は元気よく返事した。
「かずちゃーん、写真撮ってあげるからポーズとって〜」
すると、このみさんがカメラを手に俺達に呼びかけてきた。
「お、サンキュー」
「はいポーズ」
「うーん本当に生き生きしてるな。これがbefore」
このみさんが撮ってくれた一穂先生の写真には生き生きとした笑顔でポーズを決める一穂先生が写っていた。
「で、こっちがafter」
「ほらかずちゃん、車運転しないと帰れないよ」
「…やだ、運転したくない」
あれだけ元気だった一穂先生は電池が切れたかの様にぐったりしながらぐずっていた。
「太陽光が…ウチをむしばむ…」
「やっぱり一穂先生は一穂先生だったな」
なんとも言えないオチに俺はため息を吐いた