「いい?夏海、夏休みだから遊ぶなとは言わんけどね、兄ちゃんも姉ちゃんも、それから一輝ももっと成績よかったよ………なんなのこの成績は?」
現在居間では母さんとナツ姉が向かい合っていた。母さんの手には10段階中最高5の通知表が握られていた。
俺とコマ姉、それからスグ兄はそれを襖を少しだけ開けて恐る恐る様子を見ていた。そこにはナツ姉が体を強張らせながら母さんの話を聞いていた。
「えーと……それはどこで見つけたのでしょうか……」
「あんたの部屋、掃除してたら机の裏にあったよ。もしかして隠してたんじゃないよね?」
「いやーそんな…………てか人の部屋勝手に掃除してほしくないんだけど……」
顔に冷や汗をかきながらナツ姉が文句を言ってみていた。
「あんたがちゃんと部屋片付かないのがあかんのでしょ」
全くもってその通りである
現在、まだまだ暑い夏の午後、母さんの怒りの温度も絶賛急上昇中、これからさらに上昇しそうである。
「で?この成績はどういうこと?怒らんから、黙ってないで言ってみ」
母さんが静かに通知表をナツ姉に見せながら質問しだした
「え……それは……その…………………だってテスト範囲広くて難しい問題ばっかだったし……」
「いいワケしなさんな!!」
「マイガーー!!」
いいワケするナツ姉に母さんの怒りが爆発した。
「ちょ…!!今怒らないって言ったじゃん!!」
「いいワケはしなさんな!!これ10段階で5が最高ってことは5段階で最高2.5ってことやないの!!」
「そういう言い方やめてよ!ひどい成績とったみたいじゃん!!」
「とったから言ってるんでしょ!!」
母さんの言うことは最もである
「だいたい夏休みの宿題まだほとんど手をつけてないよね!?」
そういやナツ姉が宿題やってるとこ最近見てない
夏休み開始とともに遊びに行くことがほとんどでおそらくほとんどやっていないのだろう…ちなみに俺はあらかた終わらせている。
「いろいろ忙しくてその……」
「だからいいワケはしなさんな!!最近あんた口答え多いよ!!母さんが話しているのに!!」
「だって2.5じゃないし!!5だし!!」
いやナツ姉、10段階で5だからね、実際の成績は10段階の5でも5段階の2.5もおなじだからね?そこんところしっかりわかってる?
「はぁ〜〜〜全くあんたはいつも口答えばっかして……その態度がいかんのよ……もっとちゃんと人の話聞いて、あんたはやれば出来る子なんよ、毎日コツコツ積み重ねて行くのが大事なの、わかる?だいたい母さんがあんたくらいの時は…………」
(ヤバい……母さんがどんどん話を進めて行く……これは結構かかりそうだぞ……)
そう思った俺はナツ姉に越谷姉弟で使われているハンドシグナルをナツ姉に送った。
『居間でテレビ見たいんだけど、まだ終わりそうにないの?』
すると、それにナツ姉が気づき、俺にハンドシグナルを送る。
『ちょうどよかった、テレビの前にウチのテストどっかに隠しておいて、あの忌々しいプライスレスツ…………』
『知らないよそんなの!!それってナツ姉の自業自得じゃん!!自分でなんとかしなよ!!』
『イヤイヤ何言ってんの一輝くん、テストがバレたらテレビよりすごいもん見ちまうよ…………我が家のアルマゲドンってやつをさ!!』
そうハンドシグナルを送って両手を頭の上にあげた途端、
「…………………………人が怒ってるのに……あんた……何してんの?」
まぁアレだけハンドシグナル送りあってりゃそりゃバレますね!!さて、ナツ姉はどう弁解する!?
「いや……えと……これはその……うさぎ?」
は?
「そうっ!!うっさぎちゃんだよーーん!!ぴょこぴょこぴょんのぬっぴょんぴょーーん!!」
ナツ姉……ごまかすにももう少しマシな手段がなかったのか……もちろん母さんの怒りを買いナツ姉は頭に通知表を叩きつけられた。頭には通知表が刺さってる。……てゆうか……通知表って武器になるんだ……?
「ん?そっちに兄ちゃんたちいるの?」
ヤバいっ!!母さんがこっちに気付いた!!このままじゃ俺たちまでとばっちりを受ける!!
「にげっ……」
ダダダダダッ
いつの間にかスグ兄が猛ダッシュでその場からにげていた。
「スグ兄速っ!?」
「そういえば姉ちゃん、英語の成績落ちとったよね?一輝も今回社会がかなり悪かったよ?いるならこっち来!!」
「逃げるぞコマ姉!!」
「ひいっ!!」
俺とコマ姉は慌ててその場から逃げ出した。
「ちょっ……どこ行くの!!あんた達も言ったって!!なんか言ったって!!」
冗談じゃない、俺たちまでとばっちりを受けるのはゴメンだ!!
「ちょっと!!兄ちゃん、姉ちゃん!!一輝!!」
俺たちは母さんの声を無視して外に逃げた。そこには既にスグ兄がいた。
「ふぅっ……なんとか逃げ延びたね……」
「…………(うんっ)」
「なんで私たちまで怒られなきゃいけないの」
全くだよ……
「あんたまで何逃げてんの!!話はまだ終わってないよ!!」
「あー!!セミが呼んでて体が勝手にーー!!」
どうやらナツ姉が逃げようとして母さんに捕まったようだ。そこを見てみると
「嫌じゃー!!もう嫌じゃー!!」
「柱に足をかけなさんな!!」
柱に足をかけて抵抗するナツ姉とそれを引き剥がそうとする母さんがいた。
「兄ちゃん姉ちゃん一輝助けてーー!!」
こちらに気付いたナツ姉は俺たちに助けを求めるが
スグ兄はメガネを直し
コマ姉は目をそらし
俺は手を合わせた。
「往生際悪いよ夏海!!」
「あぁぁぁぁ嫌ぁぁぁぁぁ!!」
バタン
襖が閉まり
『ギニェーーーー!!』
ナツ姉の悲鳴が聞こえて来た。
「…可哀想だしテストは隠してあげるか」
「うん、私隠してくる」
そう言うとコマ姉はナツ姉の部屋に向かった。
1時間後
『これからちゃんと予習復習やるんよ!!わかった?』
どうやらアルマゲドンは終わりを迎えそうだ……
俺たちがしばらくして襖を開けると母さんの姿はなくナツ姉だけだった。
「終わった?ナツ姉?」
「終わった終わった、こんなのテキトーにハイハイ言っときゃ終わるのよ、それにテストが難しいのが悪い、夏海ちゃん悪くないしー」
ほんと反省も進歩もないよ
「テスト隠してくれた?」
「うん、コマ姉が隠したよ」
「まぁ一応ね」
「さんきゅー」
俺たちはそのまま居間の座布団に座った。
「そういや母さんは?」
「布団干しにいった」
あぁなんだ布団干しに……え?
恐る恐るコマ姉をみると顔が強張っていた。
「コマ姉、テストどこに隠した?」
「夏海の……押入れの……」
嘘だろおい……
「……布団の……下……」
ダダダダダッ
足音が聞こえてくる
「にげろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
第2次アルマゲドン襲来である
早めに投稿出来ました