カナカナカナ…
ヒグラシの鳴く声が静かに響く中、少し広いこの家で葬式が行われていた。2人の男女の写真の前では小さな少年が暗い顔を無表情にして静かに正座していた。少年は交通事故によって両親を失ってしまったのである。
家族旅行の帰りだった。夜道だった。雨がひどかった。
そういった不運が重なり、しかし、運がいいと言っていいのか少年だけが1人助かったのである。しかし、彼にはもう甘える両親がいなかった。
『可哀想に…』
『ねえ、あの子…これからどうするの?』
後ろでは少年の親戚が彼の今後をどうするかについて話し合っていた。
『どうするって…ほっとくわけにはいかないだろ?』
『普通に考えて…誰かが引き取るか…施設に送るのどっちかだろうな』
『引き取れないわよウチ仕事でいつも忙しいし、今で手一杯よ…』
『それを言ったら俺のところだって…』
『でも誰かが引き取らないと…』
『あんなに幼いのにさすがに施設はな…』
『誰かいないの?』
『誰か…』
そんな声が後ろから聞こえてきた。彼らにも色々都合があるのだ。彼らは悪く無い…僕が我慢すれば良いんだ…施設でも大丈夫…僕は…大丈……
『まったく、さっきから何なの!?誰か誰かって…少しはあの子の気持ちを考えたらどう!?』
突然、そんな怒りを含んだ女性の声が聞こえたと思うと 後ろからこっちに近づいてくる足音が聞こえた。
『ちょっと!?あんたのところ確か子供が三人いたんじゃなかった?いくら何でも無理よ!』
『今更1人増えたってどうってこと無いわよ!!』
近づいてくる声の方へと振り向くと、黒い髪の女の人が優しく両肩に手をかけてきた。
『一輝くん、よかったら…おばさんのところに来る?』
その人は確か田舎に住む母さんの遠い親戚であった。何度か写真を見せてもらって知っていた。しかし、それ以上に、自分を見捨てず手を差し伸べてくれたことによって、今まで抑えていたものが一気に弾けた。
ぽたっぽたっ…
ふと気付くと目から涙が溢れて止まらなくなっていた。
そして、その人、越谷雪子さんに抱きついていた。
『ただいま〜ちょっとみんな来て〜』
『母ちゃんおかえり〜』
『おかえりお母さん』
『……………。』
車で長い移動の後、雪子さんの家に連れられると、雪子さんの声を聞いて赤髪の少女と茶髪の少女、そして、眼鏡の少年が駆け寄って来た。
『ん?母ちゃんの後ろに誰かいる!!』
すると、赤髪の少女が自分に気づいたのかこっちに近づいて来た。
『紹介するねみんな、この子は今日からうちで面倒みることになった、一輝よ。一輝、このヤンチャなのが夏海でこっちが小鞠、そして、こっちの男の子が卓よ。みんな私の子だから怖がらなくても大丈夫よ』
『マジで!?わーい!!ウチに弟が出来た〜!!』
雪子さんの言葉に夏海と呼ばれた少女は大喜びした。
『一輝、今日から私があんたのことを面倒みるから、困ったことがあったら遠慮しないで言いなさい。』
その優しい言葉に僕は再び涙がこぼれ、
『は…はい、よろしくお願いします』
こうして、僕は越谷一輝になった。
息抜きに始めました。
結構文字数少ないと思いますが気軽に見てください。