東方想本録   作:蒼霜

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第8話 笹平七々

「着いたぞ。ここが俺の家だ」

 

 

仁さんがそう言ったのは、一軒の豆腐屋の前だった。

 

 

「仁さんって豆腐職人だったんですね」

 

「この見た目ならそれしかねえだろ?」

 

「あ、いえ。初めて見るものですから」

 

(豆腐を作ってる人なんて、テレビや本でしか見たことなかったからなぁ)

 

「七々~遅くなってすまん」

 

「お父さんどこに行ってたの!」

 

 

仁さんの後について中に入ると、長い髪の女の子が出てきた。

仁さんの娘さんだろうか?

 

 

「いやー。また人助けをしててな」

 

「はぁ……まったくお父さんは……」

 

 

その子は額に手を当ててため息をついた。

……苦労してますね、娘さん

 

 

「……で、今回はあなたが?」

 

「はい。ここに住まわしてもらえる事になったので、しばらくの間よろしくお願いします」

 

「……ちょっとごめんなさい」

 

 

その子は引き攣った笑いを浮かべ、仁さんに向き直った。

 

 

「お父さん?」

 

「痛い痛いやめろ耳を掴むな!!!」

 

 

両耳を引っ張りあげられた仁さんが悲鳴をあげた。

……ちょっと待って、仁さん浮き上がってるし!?

ってことは、耳だけで体重を支えてるってことか!?

それよりも70kgありそうな仁さんを、中学生ぐらいの小柄な女の子が持ち上げてる!?

 

仁さんの耳がすごいのか、はたまた女の子がすごいのか……

 

 

「毎回毎回……どういう事?」

 

「今回は!今回はちゃんとした理由があるんだ!」

 

「いつもそう言いますよね?」

 

「待て止めろ放してくれ痛い痛い‼」

 

「あのー……」

 

「そもそも理由なんてあるんですか!!」

 

「だからあるって言ってるじゃねえか‼」

 

 

 

(終わるまで待つか…)

 

 

______________________

 

 

        ~10分後~

 

「あのー……」

 

「?あら、ごめんなさい」

 

収まった頃合いを見計らって声をかけると、ようやく気が付いてもらえた。

そして慌てて仁さんの両耳から手を放した。

 

 

仁さんを()()()()()()()状態で。

 

 

当然、仁さんは物理法則に従うことになり――

 

 

「いってぇぇ!」

 

 

――腰を強打することになった

 

 

______________________

 

 

 

「痛たた……」

 

「その程度の怪我はいつもの事じゃないの」

 

「人助けでよく怪我をするんですか?」

 

「だいたいは七々のせいだがな」

 

「それはお父さんが悪いからです」

 

 

また先ほどの状況になりそうだったので、話を変えることにした。

 

 

「僕は想手といいます。『想い』の『手』と書いて想手です」

 

七々(なな)です。先ほどは見苦しい所をお見せしてごめんなさい」

 

 

七々さんはそう言って頭を下げた。

悪いのは、きちんと説明しなかった僕の方なのだが……

 

 

「僕の事を説明しても良いですか?」

 

 

先ほどの反応を見る限り、七々さんは反対しているようなのでそう言ったが、「説明はいらない」と言われた。

 

 

「七々さんって反対じゃないんですか?」

 

「私は反対していた訳じゃないですよ。それよりお腹は空いてませんか?もうすぐ夕飯が出来上がるので、どうぞ上がってください」

 

 

誤魔化されている様に感じたが、急かされるまま奥に押されていった。

 

 

______________________

 

 

 

「お父さんが大丈夫だと判断したなら、私が言うことはありません。お父さんの判断は正しい事が多いですから」

 

 

後に七々さんはそう話していた。

誤魔化される様な感じは気のせいだったようだ。

 

 

______________________

 

 

 

夕食後、部屋で白紙の本を読んでいた。

仁さんが貸してくれた部屋は、2階で通りに面した部屋だった。

もちろん床は畳である。

マンションに住んでいたのだが、畳は祖父母の家ぐらいにしか無かった。

畳は板張りの床よりも好きなのでこれは嬉しい。

 

 

「想手。ちょっと良いかしら」

 

「駄目です」

 

 

紫さんが虚空から急に現れた。

ある程度の予想はしていたので驚かなかったが。

 

 

「ダメと言われても、勝手に失礼するわよ」

 

「じゃあなんで最初に訊いたんですか……」

 

 

職員室で「失礼します!」って言って、先生から冗談で「失礼をするなら帰れ」って言われた気分だ。

 

 

「さっきは急にいなくなって悪かったわね」

 

「何で居なくなったんですか?仁さんが来たから良かったものの、来なかったらどうしようも有りませんでしたよ」

 

 

笑い事じゃなく本当にどうしようも無くなっていただろう。

どんな理由かと紫さんの言葉を待っていると、予想していなかった理由だった。

 

 

「彼が来たから隠れていたの」

 

「仁さんが来たから……ですか?」

 

「そう。私がいなくなった後に運良く彼が来たんのではなく、彼が来たから私は居なくなったのよ」

 

「……何で隠れる必要があるんですか?」

 

「…彼に対して負い目があるからよ」

 

「負い目……ですか?」

 

「ええ……それと忘れられないほどの後悔も」

 

 

紫さんがここまで言うなんて、どれだけの後悔なのだろう。

 

 

「…これ以上聞かない方が良いですか?」

 

「……いいえ。ここで言わなくともすぐに分かることだから、今知っておいて欲しいの。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼はあなたと同じ。元々は幻想郷の外の人よ」

 

 

 

 


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