宇宙航騎スペーシア・ナイツ   作:gazerxxx

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第3話:変幻の月夜

夜の港で、ソラリオンは人質を取ったクリアノイド、そしてまだ姿を見せない敵に怒りの火花を散らす。

 

「お前ら…何で関係ない女の子まで巻き込むんだ!狙いは俺と博士の二人だろ!」

 

「馬鹿だねえ。あたしゃ下請け仕事しかない下っ端どもとは違う。お前を倒す以外にも、この力で人さらいのシノギして、儲けたいんだよ」

 

前回白瀬博士を狙ったクリアノイドの二人は、あくまで拉致を依頼された雇われチンピラで、それ以外は何も知らされていないし、しようともしなかった。

だが、今回の怪人・アストロノイドは、その力を拉致の任務だけでなく、自分たちのシノギである人身売買にまで利用しているのだ。だから一般人まで平然と巻き込める。

こいつらからはソラリオンが倒された後で、人質を解放する気など、さらさら感じられない。となると、ソラリオンにできることは、要求を出す相手への徹底抗戦。

 

「お前らに利用されると、分かってて渡せるかよ…隠れてないで姿を見せろ!」

 

その返事の代わりに、鋭い怪鳥音が耳をつんざき、ソラリオンの体に衝撃が走る。

 

「うぐああああっ!!」

 

「おやまあ、変身してれば簡単には殺られないと高括ってたかい?抵抗できないお前を殺すなんて簡単なんだよ!」

 

暗い港のどこからか、ソラリオンを嘲る声がする。今の攻撃は隠れながら仕掛けたらしく、依然として姿は見えない。さらに見えない敵からの一方的な攻撃が連発され、ソラリオンを痛めつける。

 

「まだだ…。こんな汚い真似するってことは、正面から戦う自信がないってことだろ?卑怯者に俺は倒せないぜ!」

 

ソラリオンは衝撃でふらつきながらも倒れない。クリアノイドたちはその姿を見てどよめき、人質のロープを締め上げてさらに脅す。ロープが少女たちの柔肌に食い込み、苦痛の声を上げさせる。

 

「クソッ、早く変身を解け!でないとこいつらの命は…」

 

「そう言いながら人質を手放さないのは、その瞬間に俺が反撃できるのを恐れてるからだろ?」

 

「ゲッ!」

 

ソラリオンは怒りを込めて、クリアノイド達の図星を突く。隠れている敵の方はともかく、クリアノイド達ではソラリオンにかなわない。だから人質は彼らにとっては命綱だ。変身も解いていないソラリオン相手に手放せば、その直後に怒りの反撃を受けるのは明白だ。クリアノイド達は気圧されて、思わずロープを緩める。

 

「俺はこのまま耐えて、お前らを倒す突破口を見つける。…みんなも信じて、待っていてくれ」

 

ソラリオンはクリアノイド達に啖呵を切った後、サムズアップして人質の女の子を励ます。彼はまだ反撃のチャンスを諦めていない。攻撃を受けながらも、限界まで粘って半夏の糸口を見つける気だ。

 

「もしかしたら、あの人なら、できるかも。メットでよくは見えないけど……まだ死相が出てない」

 

「それ、本当…?」

 

「嘘でも安心するよ、エルハームちゃんが言うならさ」

 

吊るされながらも、ソラリオンが生き残る未来を信じようとするエルハームに、親友二人も勇気づけられる。

 

「いきがってんじゃないよ!やせ我慢すれば勝機があると思ってんのかい?」

 

「勝機は最初からあるもんじゃない!今から俺が見つけ出す!」

 

「このガキが……なら、お前じゃあたしには勝てないって教えてやるよ!」

 

敵が痺れを切らして叫ぶと、同時に海面がうねり、何かの影が蠢く。敵は海にいたのだ!

 

「そこか!」

 

ソラリオンは「レーザー spectrum」を発動し、可視化光線で海の中を照らし出す。夜の海が昼間のように鮮明な透明度になり、海の底に潜む姿を映しだした。

 

そこにいたのは、無機質な蝋のアーマーを纏ったトーチヒュプナスとは対照的に、生物的な衣装を持つアストロノイド。夜の海に溶け込むモノクロの体色で、スウェットスーツのような質感。オルカ特有の白黒模様で目や口元が描かれた不気味なマスク。頭頂部には背びれのようなアンテナ。大型魚の腹のように大きく湾曲した胸部アーマーや、水かきをもった細い足などから、女性的なフォルムに見える。同様に細い腕には、鋭利なひれ状の刃を装備して非力な印象を補っている。

彼女が海向こうからのブローカーが変身したアストロノイドの正体、ペルソナ―ハンターだ。

 

「ケケケ!あたしの居場所が分かったとしても、そこからどうやって攻撃する気だい?」

 

「居場所が分かれば、光線で十分だ!喰らえ!」

 

ソーラーレイガンに変形し、捉えた敵に一矢報いようとするソラリオン。収束レーザーをペルソナ―ハンターに向けて発射する!

 

逆転を賭けたその攻撃は……海中をわずかに進んだ途端、敵に命中する前に消失。ペルソナ―ハンターは寸前で消えた攻撃に余裕の表情を見せている。

 

「レーザーが効かない!?お前、何をした!」

 

「あたしゃ、何もしちゃいないよ。……お前、気づいてないのかい?海水は光線を大幅に遮断するってことを」

 

「何だって!」

 

光線は速度や威力にエネルギー効率など、どれをとっても汎用性の光る能力である。その最大の弱点は、軌道が直線的であり、その軌道をゆがませる要因が数多く存在することだ。

気温が高すぎれば空気中で光線が曲がってしまい、砂漠で見られる蜃気楼のようにあらぬ方に光線が向かってしまう。他にも電磁波で引き寄せられることもあれば、大気中に発生するプラズマに影響されることもある。

ペルソナ―ハンターは、海水が光線を通しにくいことを利用している。具体的には、海水を通れば大抵の可視光は、3メートルほどで明るさが半減される。当然ながら、光線の威力も激減する。ましてや数十メートルの海面下に潜っている敵に、光線は届かないのである。

 

「ほらほら、あたしを倒すんだろ?え?やれるもんならやってご覧よ!ケケケケケ!」

 

先ほどのソラリオンの決意を茶化すかのように、挑発し返してくるペルソナ―ハンター。確かに光線技を主力とするソラリオンでは、海中にいるペルソナ―ハンターに手出しができない。それが明らかになった時点で、反撃のチャンスは潰えた。

 

「何だよそれ…俺の攻撃は、最初から届かなかったってことかよ…」

 

「いい気になってかっこつけてたのは、お笑い草だったねえ!そしてあたしは攻撃できる。喰らいな!」

 

ペルソナ―ハンターが海中から再び超音波を発する。

 

「ぐあっ…」

 

衝撃がソラリオンの足を撃ち抜き、とうとうソラリオンは膝をつく。

 

ペルソナ―ハンターが頭部に搭載する超遠距離ソナーは、暗い海上の標的であっても的確にとらえる。そして、ソナーから発する超音波は、音声通信だけでなく、衝撃波を生み出す狙撃武器にも転用できる。つまりは、遠く離れた魚影しか見えない敵を、一方的に攻撃して狩ることができる。

 

ソラリオンがなす術なく痛めつけられる姿は、人質の少女たちの心を抉る。

 

「やばいよ、このままじゃ……」

 

「本当にあの人、死んじゃうよ!」

 

「もうやめて!それ以上酷いことしないで!!」

 

エルハームが悲痛に叫ぶ。それは、自分たちの命の危機よりも、目の前で体を張る人を見ていられなくなったが故の、必死の叫び。

 

「へえ、やめてほしいのかい。でも、こいつが変身解かない以上、攻撃して解かせないとねえ」

 

ペルソナ―ハンターはにべもなく断ろうとするが、エルハームが懇願しているのは……。

 

「これ以上、私たちの代わりに苦しむのはやめて……。もう見ているのが、辛いよ。今なら、まだ助かるかもしれないんだよ……」

 

エルハームは、無理押しで攻撃に耐え続けるソラリオンから、死の予感を感じ取っていた。だからそれだけは避けようと、まだ命あるソラリオンを死なせまいと、泣きながら懇願している。

 

「お前らが頼もうが、こいつが意地張ってるんだから仕方ないねえ。まあ、生意気な口利いたこいつも命乞いするなら、聞いてやろうかねえ」

 

ペルソナ―ハンターは、エルハームの涙を嘲りながら、ソラリオンにも命乞いを水向けする。

 

「待ってくれよ……。変身を解く…女の子を泣かせてまで、意地を張るつもりはねえ…」

 

ソラリオンがフラフラになりながらも、悔しそうに身を震わせながら降伏宣言する。そして、本当にソーラーレイガンの銃身に指をかけ、レイガンモードを解除しようとしている。

 

「やっと自分が木偶の棒だって気づいたのかい?変身解除したら、グリップを投げてよこしな。そうすりゃこいつらは放してやる。ケケケケケ!」

 

哄笑するペルソナ―ハンターの姿に、ソラリオンは…最後の光明を見ていた。

 

(やはり変身解除の瞬間が、最後のチャンスだ。どうにか、捕まってるエルハームちゃんたちだけでも助け出す!!)

 

もう奴らは勝利を疑っていない。変身を解くふりをしてグリップを操作。レーザーでクリアノイドを倒して、人質が解放された瞬間、ソラリオンの運動能力を生かし、落下する真下に跳んでキャッチする。

その後ペルソナ―ハンターに海中から狙われるだろうが、彼女たちを奴らの手に渡しておくよりは、よほどましだ。あの衝撃波に耐えながら、岸まで泳ぎ着けば、勝負を仕切り直せる可能性はある。

 

「おら、早くおし!グズグズ引き延ばすんじゃないよ!!」

 

「ああ、分かってるさ…」

 

緊張した声を出しながらも、動作を遅らせ、相手にタイミングを計らせないようにする。張りつめた警戒心は、長くは続かない。ソラリオンは、クリアノイドたちが既に勝利を確信して警戒を緩めたのを見逃さなかった。

 

ソラリオンは変身解除のキーを押しかけていた指をずらして、「レーザーpectroscopy」と「レーザーpolarizations 」のキーを押しながら、クリアノイドたちに銃口を向け、レーザーを発射する。

 

「何ッ?」

 

クリアノイドたちは慌てて人質で脅す余裕もなく、屈んで射程からそれて、レーザーを避けようとする。だが、レーザーは空中で三筋の光に分裂、さらにフォークボールのように下へ屈折し、クリアノイド3体に正確に命中した。

 

「がはっ…」

 

新技「レーザーフォークシュート」をまともに食らい、短い断末魔を上げて、クリアノイド達は昏倒した。

 

「レーザーpectroscopy」のキーは、光線を偏光させて、好きな方向に光線を屈折させることができる。直線的な光線の動きを変えられる機能だ。

「レーザーpolarizations 」のキーは、光線を分光させて、複数の光線に分化させることができる。複数の標的を、同時に撃ち抜ける機能だ。

 

クリアノイド達が倒れたことで、ロープを固定する者はいなくなり、繋がれていた少女たちが重力に従って、海に向けて落下する。

 

「キャアアアッ!!」

 

「間に合え…フッ!」

 

絶叫する少女たちを助けようと、ソラリオンが跳ぶ。岸からのジャンプで、一気に空中で到達し、少女たちをもう少しでキャッチできるとなった、その時。

 

「ケケケケケケケケケ!!!」

 

「うぐあっ、この音は…!」

 

ソラリオンの耳を、鋭く甲高い高音がつんざく。余りの音に耳を揺さぶられ、平衡感覚が狂い、体勢は崩れて、ソラリオン自身もジャンプから落下へと、急転直下する。

 

(やばいっ、あいつ、こんな奥の手を隠してたのかっ!)

 

この強烈な音源は、間違いなくペルソナ―ハンターだろう。奴は超音波で海中からも攻撃できる。今度は超音波による衝撃ではなく、音に威力を持たせて攻撃してきたのだ。

見ると、この音にはエルハームたち3人も苦しめられている。苦しんで叫んでいる顔つきだが、その声すらソラリオンには聞こえていない。この不協和音による攻撃には、周囲の全員を巻き込むようだ。さっきまではクリアノイド達がいたから、使わなかっただけ。人質が解放された途端、遠慮がいらなくなるのは敵も同じだったのだ。

 

(このままじゃ、エルハームちゃんたちも、俺もっ……。すまねえ、博士、衛斗……!)

 

オルカの嘲笑に似た不協和音に苛まれながら、少女諸共落下していくソラリオン。

 

走馬灯のように衛斗を思い返していたのは、彼だけではなかった。生身で超音波に晒されながらも、エルハームは兄に思いを馳せていた。

 

(私たちも、助けてくれた人も死ぬ未来なんて、こんなのないよ…。助けて、衛斗お兄さん!!)

 

その祈りが通じたか、夜空から何かが飛来する。暗い夜の月明かりに映し出された何かの影は、人が乗れるほどの大きさをした、平たい円盤の形をしていた。その円盤が海水面ギリギリを滑空し、飛行の勢いで水しぶきを上げながら、落下する4人の真下に移動してくる。そして、加速がついて海に衝突するかと思われ4人は、その円盤に衝撃をいなされて、優しく受け止められた。不思議なことに、その円盤に着地した瞬間、あの不協和音も聞こえなくなった。

 

「……助かった、のか?」

 

最初にソラリオンが、呆然とつぶやく。

 

「あたしたち、生きてる……」

 

「怖かったよぉ……」

 

「よかった、みんな……」

 

彼の声が聞こえたことで、少女たちも墜落と不協和音の恐怖から助けられたと気付き、息をつく。

 

「後少しってところで……誰だい、邪魔をするのは!!」

 

超音波を中断し、地声で怒り狂うペルソナ―ハンター。それに対して答える声は、なんと船のスピーカーから聞こえてきた。

 

「あなた方の邪魔をするのは、世界でも指で足りるほどしかいないでしょう。僕はスペーシア・ナイツの一人、月夜の騎士ルナイト!」

 

スピーカーを備えた船室の窓に、月の光に照らされた蒼い騎士の姿があった。

 

彼がどうやって救出を成功させたか、それを知るには彼の行動を追って説明しなくてはなるまい。彼の行動開始は、エルハームたちがソラリオンを助けてくれるように叫んでいた時にさかのぼる……。

 

眠らされてロープで拘束されたバスの乗客たちは、船室に転がされていた。その中の一人、星海衛斗がはっと目を覚ます。

 

「今、確かにエルハームの声が聞こえましたね…」

 

他の乗客たちは、目を覚ましていないのを見るに、エルハームが声を上げたとしても、船室まではほとんど届いていなかったはずだ。だが、エルハームの悲鳴で、衛斗の意識は覚醒した。

衛斗は夜でも起きて星を見るために、睡眠時間を削って短く深い眠りについている、いわゆる夜型人間だ。そんな彼には、トーチヒュプナスの催眠術は特に効いていた。しかし、エルハームの悲鳴が聞こえたとなると、彼も眠っているどころではない。

 

「僕も他の乗客も、ロープで簀巻きにされていますね。これは、ユニティー財団の罠ということですか……」

 

縛られている中に、エルハーム含む少女たち3人、それと陽明の姿が見えない。そのことから、陽明がソラリオンになって、戦っているということも即座に察する。だが、もしエルハームたちを人質として利用するつもりなら、陽明の愚直すぎる性格上、ピンチに陥っているはずだ。

 

「どちらも早く、助けに行かなくては…!」

 

まずは縄を斬って動くところからだ。彼は這うように少しずつ体の位置をずらし、倉庫に散乱している、ボール紙の切れ端を拾う。そして、その紙切れを指で挟み、手首だけで軽く振りかぶって、素早くロープに切り付けた。すると、ロープがぱらっと切断されて、拘束がほどける。

 

紙は弱い素材に見えて、薄い側面は人の肌を切るくらいの鋭さはある。その鋭さを利用して、割りばしでも切れる技というのがあるが……。衛斗の場合は縛られて手先しか動かない状態でも使えるほどの技術を体得している。

 

そして、自由になった彼はポケットから、握りが三日月上のカーブを描く蒼いグリップを取り出す。これが奪われていないということは、奴らも衛斗を一般人として見逃していたに違いない。となれば、敵の不意を突くのも可能だ。

 

「ルナイト。機動!」

 

そう声を吹き込み、彼は「月の光」の力を持つスペーシア・ナイツ、ルナイトに変身する。

 

激昂に似た光とともに、現れた姿は蒼い鎧騎士のような姿。西洋兜のようなメットは、目の部分に縦の格子がつけられ、その隙間からミラーバイザーが黄色く光る。ている。胸部には白い満月が紋章のように描かれ、鎧の隙間部分は伸縮性の素材で接合されて、気密性と機動性を両立してある。

そして腰の部分には、薄く透明な小型の円盤をいくつも提げている。

 

「ここは…?」

 

「なんだ、動けない?」

 

「縛られてる!」

 

「そこに、変な鎧がいる!」

 

「お前がやったのか?」

 

ルナイトが変身で発した光により、捕まっていた人々が目を覚ます。バスで眠ったかと思えば、起きたら縛られて動けないことで、動揺が走る。中にはルナイトが犯人かと思う人も。

 

「落ち着いてください。僕は皆さんを助けに来ました。今、縄を解きますから、すぐにこの船から逃げて下さい」

 

そう言いながらルナイトは、さっきのように白瀬博士の縄を切る。

 

「ルナイトは扱いにくいから、教授に預けたはず。それが、本当に適格者が見つかるなんて…」

 

白瀬博士も、イギリスの教授が前々からルナイトの適格者を探していたのは聞かされていた。しかし、それがこの窮地に間に合うとは思っていなかった。

 

「教授から事情はうかがっています。この場は僕に任せて、あなたも安全な場所まで」

 

白瀬博士が大人しく縄を解かれたことで、他の人々もルナイトが味方だと理解できたようだ。素早く縄を切断し、同室の人質を全員解放する。

 

人々を先導しながら、ルナイトは船の中をたどる。そう大きくない密航船なので、すぐに出口までたどり着くが、そこには見張りらしきクリアノイド達の姿が。

 

「待て、貴様等!」

 

「彼らの相手は僕が。皆さんはその隙に出口へ!」

 

ルナイトは、グリップ端末部分の「full moon」のキーを押して、腰の円盤を一つ取り外し、グリップの端末部分に取り付ける。すると、直径10センチ程度だった円盤が、直径1メートルほどに拡大する。大型の円盾「フルムーンシールド」を展開したルナイトは、それを構えてクリアノイド達に突撃する。

 

「デカい盾に隠れやがって、チキンが!」

 

「こんな狭い通路で邪魔なんだよ!」

 

クリアノイド達は一斉にコンバットナイフで円盾に攻撃するが、その衝撃が跳ね返り、逆に吹っ飛ばされる。薄く引き伸ばしたような見た目に反して、複数人を弾き返すほどの丈夫さなのだ。

 

「さあ、今のうちに!」

 

「すげえ、疑って悪かった!」

 

「ありがとう!」

 

「あなたならそれで戦える、ルナイト!」

 

「逃がすか!」

 

激励を送る人々、その中に混じってルナイトを応援する白瀬博士。クリアノイド達は起き上がって改めて出口をふさごうとするも、円盾によって抑えられ、クリアノイドの動きが封じられる。狭い船内では円盾一つでも複数人の進路妨害をするには十分だ。そのうちに、捕まっていた人々は、全員脱出していた。

 

「こうなりゃ体当たりで盾をぶち抜くぞ!」

 

クリアノイド達が助走をつけて、ナイフを構えた体当たりを仕掛けてくる。突進してくる敵に対して、ルナイトは腰を低く落として待ち構える。そして、クリアノイド達が至近距離に迫った瞬間。

 

「そこっ!」

 

円盾を少し斜め上に持ち上げる。すると、突撃してきたクリアノイド達の体は、斜め上へと弾き飛ばされた。そのまま天井にたたきつけられる。

 

「のはあっ!」

 

勢いをそのまま反射されて、クリアノイド達は床に落ちると、動かなくなり、変身解除する。これは敵が突撃する勢いを、タイミングよく盾の方向をずらすことで、円盾で跳ね返すカウンターだ。

 

「訓練ではうまくやれましたが、実戦でもカウンターが成立するとは思いませんでした……。このカウンターで戦えるという理論は、正しかったようですね、白瀬博士」

 

ルナイトの強みは、防御の上でのカウンター。ルナイトの装備に使われているのは、10年前に宇宙から降り注いだ宇宙金属の一つ、「ルナメイル」。薄く加工しても丈夫であり、反射角さえ調整すれば、あらゆるエネルギーを反射できるという特質を持つ。それゆえ、反射角を調整するために、ほぼ平面の形状に加工するのが生かしやすい。本来は、危険な宇宙線などを反射できると期待されて造られたものだ。

衛斗は緻密な軌道計算を行ってエネルギーの反射角を求めることで、ルナイトの武器を扱うに足る人材として教授にスカウトされ、変身までに訓練を受けてきた。

 

ルナイトは船の出口から、外を見回す。他の人々は倉庫街方面から逃げていくのが見える。静かに、確実に逃げられるように、白瀬博士が誘導してくれている。他に敵はいないかと慎重に動きながら、周囲を観察すると、岸には海をむいて身構える、オレンジのスペーシア・ナイツの姿が。

 

「あれはソラリオン…?すると、敵は海に…」

 

更に見ると、そこにはクリアノイド達に捕まったエルハームたちの姿が。

 

「人質でしたか、やはり…!」

 

グリップを強く握りしめるルナイト。最悪殺されていたかもしれないという一抹の不安が解消された反面、義妹のエルハームや友人の少女たちが、悲しみ苦しんでいる姿を目の前にすると、心配の代わりに怒りが込み上げてくる。

今の所、敵の注意は、岸にいるソラリオンに向いている。どうやらソラリオンが時間を稼いでくれているようだ。陽明は思った通り、人質を慮ってくれている。

 

(敵の攻撃は、オルカのような声や、海から攻撃していることから、恐らくは超音波。となると、耳栓をつけて向かわないと危険ですね)

 

冷たく滑らかな握りのグリップを強くつかんでいなければ、兄として自分も飛び出していたかもしれない。だが、ルナイトのグリップが怒りの熱を冷やし、自分がすべきことを教えてくれる。ルナイトとして狙うは、人質もソラリオンも助けるカウンターだ。

 

もう一度船に戻り、見張りを蹴散らしつつ、裏側からよじ登ってガラス張りで最も目立つ部屋、操縦室にたどり着く。腰の円盤、ルナディスクを一つ指先に挟み、スパッと窓を切りつけると、ガラスはほとんど音を立てずに割れて、侵入するための穴が開く。本来はグリップに接続して運用するルナディスクも、彼ならば単体で武器としても使える。中を探すと、目当てだった無線用のヘッドホンを見つける。これをつけておけば、超音波に邪魔されることはない。

 ルナイトはルナディスクを4枚手に持ち、グリップの端末部分についているリーダーで読み込む。そして手を放すと、ルナディスクは勝手に浮遊し始める。ルナディスクをグリップを通して、衛星の如く飛行させることが可能になったのだ。

 

「頼みましたよ…」

 

ルナディスクを窓の穴から送り出すと、「full moon」のキーで再び拡大させる。タイミングを見計らって、人質の身柄を奪い返すために。

 

こうして4人を軟着陸させたルナディスクは、4人を岸まで運ぶ。

 

「それにしても、何でこれに乗ってると、あの嫌な音も平気なんだ?」

 

ソラリオンが疑問を呈すると、ルナイトが解説に入る。

 

「その円盤は、あらゆるエネルギーを反射します。さっき落ちてきた皆さんを受け止めた時には、重力を分散して衝撃を緩和。さらに、今も超音波を分散して反射しています。後はその安全な円盤から降りずに、僕に任せてください」

 

「俺だけ見てられっかよ、…痛ッ!」

 

立ち上がろうとするも、連戦のダメージが残っているソラリオン。これでも変身解除ギリギリの状態だ。

 

「無茶しないで!」

 

「ここはあの人に任せなって」

 

「うん、あの人なら勝てるかも…あのカードが指し示したなら」

 

エルハームはそう言いつつ、バスの中で引いた「月」のタロットを思い出す。だとすれば、この場の運命を制するのは、彼ではないだろうか?

 

「コソコソ隠れて邪魔してんじゃないよ!」

 

ペルソナ―ハンターが超音波で再び攻撃してくる。今度は衝撃波でルナイト本人を狙うだが、さらにルナディスクが飛来して、尽く超音波を反射する。海中から高所を狙った超音波は、ルナイトからも進行方向が読みやすくなっている。

 

「あなたには言われたくありませんね。そっくりお返ししますよ!」

 

ルナディスクに反射された超音波が、今度はそのままペルソナ―ハンターの元へ戻っていく。ペルソナ―ハンターは自身が放った衝撃波をまともに食らう。

 

「ぎゃっ!なんてこったい!このあたしが手玉に…」

 

狼狽したペルソナ―ハンターは、海から飛び出し、直接操縦室に乗り込んでくる。

 

「なら、お前も直接叩いてやろうか!」

 

「やっと正面からやる気になりましたか」

 

ルナイトは既に、グリップにルナディスクを装填した新たな武器を構えている。ルナディスクをリーダー部分に挿入して、「crescent」のキーを押すことで、ルナディスクが三日月形に折りたたまれ、三日月の刃を備えた「クレセントブレード」になる。

 

「死にな!」

 

両腕の鋭利なヒレで互い違いに切りかかってくる。対して、ルナイトはクレセントブレードで横一閃する。

 

「フッ!!」

 

すると、大型魚のようなヒレは、極薄の刃によってどちらも切り裂かれた。

 

「がっ、こいつぅ!!」

 

一瞬の早業で武器を失い、愕然とするペルソナ―ハンター。

 

「さて、潔く一撃で散らせてあげましょう」

 

ルナイトは「moonlight」のキーを押す。クレセントブレードに月光の力が満ちる。そのまま振りかぶり一刀両断する。

 

「このあたしが…嫌だあああ!!」

 

頭からつま先まで、スーツが着られた白線が入ったと思うと、ペルソナ―ハンターは爆発し、変身解除して欲の皮が突っ張っていそうな、老けた外国女性の姿になって倒れる。これで

ユニティー財団の攻め手をまたも乗り切れた。

 

その後、ルナイトと白瀬博士が、ルナディスクに乗ったままの4人の元に集まってくる。

 

「大丈夫ですか?怪我は?他に何もされませんでしたか?」

 

「滅茶苦茶痛いけど、俺は何とか大丈夫だって」

 

倒れながらも、声だけは元気なソラリオン。

 

「あのぉ、本当に大丈夫ですから」

 

遠慮がちに安心させようとするエルハーム。

 

「私達気づいたら縛られてたくらいで…」

 

状況の篇アkについていけずに、困惑するなおぽん。

 

「後は蝋燭男から、ちょっとセクハラ発言されただけで…」

 

「セクハラ!?」

 

「だから、過剰に反応しないでよ!恥ずかしいから……」

 

説明しようとして、途中で恥ずかしくなるサッキ―。

 

ルナイトが4人を、かなり心配して問いただす。

 

(エルハームだけを心配すると、正体バレにつながりますからね。今はひっくるめて誤魔化すしかありません……)

 

(ルナイトさんって…)

 

(優しい…)

 

そんなルナイトの個人的思惑と裏腹に、その場の全員(特にサッキ―となおぽん)がルナイトの紳士ぶりに好感を覚えていた。

 

「それにしても、俺って最後は足引っ張っちゃたよな。ルナイト、アンタに比べると落ち込むぜ」

 

「いや…僕が助けた衛斗君という人が礼を言ってましたよ。妹を守ってくれてありがとう、と」

 

「あいつがそんなことを!?信じらんねぇ……」

 

「さっき助けた時と言い、人の厚意を素直に受け取れないんですか、君は」

 

「ごめんごめん、そうじゃないって!」

 

顔が見えなくても漫才を繰り広げる2人。そんなソラリオンの肩をポンとたたく白瀬博士。

 

「問題ない。博士はあなたの頑張り見てたから…」

 

バスで彼女のために啖呵を切ったことを、彼女は感謝してるのだろう。

 

「おっ、そうか?俺って、やっぱりできる奴だなあ!」

 

満身創痍で調子づくソラリオンに、周りは生暖かい目を送る。

 

(しかしながら、彼は白瀬博士には信頼されている。追い抜くためには実績が必要ですね)

 

野望を抱くルナイトの顔を、中天の月が静かに妖しく照らしていた。

 

 




今回のスペック解説

「レーザーpectroscopy 」
光線を任意の方向に屈折できるキー。光線発射後に、端末部分の方向キーを押し、押す時間によって角度調整できる。
「レーザーpolarizations 」
基本的に一直線に進む光線を、途中で分裂させるキー。やはり押す回数によって分光する数も決まる。

スペーシア・ナイツ、ルナイト

月光の力を利用して作られたスペーシア・ナイツ。名前は、月の「ルナ」と夜、騎士のナイトを二重に掛け合わせてあり、衛斗は「月夜の騎士」を名乗っている。

・ルナメイル
全身の西洋鎧と武器を形成するのは、隕石群に含まれていた宇宙金属「ルナメイル」。
反射角さえ調整すれば、あらゆるエネルギーを反射、分散し、薄く加工してもその特質と強度は変わらない。当初はエネルギーを反射するピーキーな性質から、加工すら危険と敬遠されていた。教授のツテで、歴史ある金属加工業者に持ち込まれたところ、月光の波長を照射している間は加工できると判明。月光の力で制御可能なルナイトが完成した。その開発秘話から、月の鎧・ルナメイルと命名された。

・ミラーバイザー・ブライト
ルナイトの兜の格子部分に覆われた、黄色のバイザー。マジックミラー効果はもちろん、エネルギー軌道を可視化して、ルナメイルで反射するための軌道計算を補助する。


・円月扇ルナディスク
直径10センチほどの薄型円盤。これもルナメイル製で、表面はエネルギーを反射し、側面は鋭い切れ味を持つ。実は扇のような展開・縮尺機能があり、グリップと連携して月の満ち欠けの如く、様々な武器に変形する。

・「full moon」
ルナイトグリップの端末部分にあるキーの一つ。ルナディスクをグリップにセットすることで、直径1メートルに拡大し、大型の円盾「フルムーンシールド」となる。武器による攻撃や、複数人の突撃も跳ね返し、相手の勢いが大きいほどカウンターの威力が高まる。相手の動きを抑え込むのに使いやすい。

・「crescent」
ルナイトグリップの端末部分にあるキーの一つ。ルナディスクをグリップにセットすることで、三日月形に折りたたまれて、三日月刃「クレセントブレード」となる。極薄の刃であるため、力を込めて叩き切るよりも、刃を通すように一瞬で切断する取り回しが求められる。もろ刃の剣以上に、一撃の切断に特化している。その分、鍔競り合う暇も与えず、敵の得物を切り裂く。
これをうまく扱うために、衛斗は教授の下で「名刺で割りばしを切断する」訓練を課された。

・ルナソーサー
ルナディスクをグリップにリードすることで、グリップからの指令で飛行する円盤モード。「full moon」のキーで大型化も可能。敵の攻撃に対して空中で回転させ、反射角を調整さえできれば、自在に飛行するリフレクタービットと化す。さながら太陽の光を反射する衛星・月を再現した機能。重力などを分散して反射することで、安全に人を乗せて飛行することも可能。

・「moonlight」
ルナイトグリップの端末部分にあるキーの一つ。月光の力を加えることでルナメイル
の力を発揮、あらゆる摩擦力を反射・分散し、抵抗を極力減らすことで、文字通りの一刀両断が可能となる。少なくともアストロノイドのスーツは、易々と切断できる。

ペルソナ―ハンター
ユニティー財団の、人身売買ブローカーが変身する。オルカの白黒模様をあしらったウェットスーツのような外見。「海のハンター」オルカの生態を元に開発した技術が使われている。
頭部の背びれ状のアンテナは、超遠距離ソナーであり、超音波で海中だけでなく、海上の標的も捕捉し、海上と海中で会話することさえできる。
超音波は衝撃波にも転用できる他、不協和音に変えて標的の平衡感覚を奪う目的にも使える。
潜航能力も高く、足の水かきと腕のヒレは、海面をうねらせる程の力が出せる。
変身者の女ブローカーは、密輸船に手入れが入ると、海に飛び込んで泳いで逃げ切った経歴もあり、「海の鬼婆」とあだ名されていた。



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