岡部倫太郎は困惑していた。彼の目標はヴィクトル・コンドリア大学へ行くことである。その一環としてUPXでコンベンションを受けようとしていたのだが、中学生ぐらいの背丈の女性に声をかけられていた。
「私の名前。比屋定真帆。漢字でもローマ字でも読めたためしがないから先に言っておくわ。」
「そして、私は立派な成人女性、中学生でも小学生でもないわ。」
彼女は息を荒立てながら言い返してくる。実際、彼女の所持している IDカードにも記されている。
彼女は通訳もかねて助手としてついてきたそうだ。ヴィクトルコンドリアのレスキネン教授のらしい。
「テーマは"人工知能革命"か。」
「時間があったらぜひ聞いてみてほしいわね。」
「そうするよ。」
そう言って彼女は去っていった。その直後のことだった。
「ちょっと失礼する。」
「うわっ。」
誰かに突然ぶつかられた。
「大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です。」
「すまないが、シアターはどこにあるかわかるかい?」
背丈の高い男性だ。それでもって筋肉質だ。ミスターブラウンに負けないほどの。それにしてもこの男性、なんなのだろうか、少しだけ顔に違和感があるような気がする。
「で、教えてくれないかい?」
「あっ、ああ…これから向かいますので一緒に行きましょう。」
そこで男性を案内しつつ歩いていると比屋定真帆と背丈の高い外国人の男性が話ながらやって来るのが見えた。あの外国人がレスキネン教授なのだろうか。
「あの二人何やら話してるな。マキセがどうだとか。」
「それは本当ですか?」
驚きながらも、聞いてみる。紅莉栖に関することを話しているのなる気になる。
「ああ、間違いない。それも家が火事だとか夫人は無事だとか強盗、警察が中止、FBIなんてのもな。」
「今のでそこまで聞き取れたんですか?日本人ですよね?」
「…一時期アメリカに住んでいたことがあってな。」
男性はいたって動じていないようにも見えたが、本の少しだけ返事が遅かったような、なにか迷っていたような気もした。
「それはそうと、紅莉栖の家が火事?どういうことだ?」
「それに関しては俺も知らん。だが、もうすぐコンベンションが始まるぞ。」
「え、ああはい。」
そう言われると、すぐさまシアターに向かった。
中はかなりの人で、熱気が溢れていた。恐らく、マスコミらがつめよって取材にでも来ているのだろう。
「あの辺り空いているぞ。」
「そうですね、あの辺りなら座れそうですけど、席が一つしかありませんね。」
「なら、俺は他をあたる。ここまで案内してくれてありがとう。」
「そうですか、ところでお名前は何て言うんですか?自分は岡部倫太郎と言います。」
「俺は…五代力斗。」
なかなか普通の名前だ。でもまた一瞬迷いがあったようにも感じた。
「そうですか、ではまたどこかで。」
その後男性は席を見つけたのだろうか、気がつくとどこかえと去っていた。
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「オタコン、会場に入った。セキュリティも難なく通った。」
「よかった、それにしてもちょっと時間かかったね、入るまでに誰か接触があったかい?」
オタコンが聞いてくる。もうすでに話しかけてしまった。しかしその人物も問題ないと判断したがゆえに接触した。さらに今は変装しているため問題はないはず。
「それが、一人だけ接触した。だが、恐らくなんら影響ないだろう。」
「君がそういうのなら大丈夫なんだろうけど、その変装、フェイスカムだって、まだ試作段階なんだからあまり過信しすぎないようにね。」
「ああ、わかっている。」
今装着しているものはフェイスカムと呼ばれるものだ。これは登録されているものであれば、どんな人物の顔になれる代物だ。まさか今これが手に入るとは。
「確かに、ちょっとだが見た感じ違和感がありそうだ。」
「だから注意して。」
「おっと、時間だ、始まるぞ。」