きまぐれ ぶらっどろーど   作:外道男

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遅れましたすいません。




きよめるみずを ためましょう

お風呂は良い。

人間の確立した文化の中で、ぼくら怪物達からの評価の最も高い物の一つに入る。

 

初めてお風呂に入って、水浴びしか知らなかったぼくはその時生まれて初めての文化的感銘を受けました。

 

なんて無駄で、素敵なんだ。

水をお湯に変えるだけでこんなにも違うのか。

 

家を建てる時には必ずお風呂も付けよう。

まだ若い頃のぼくはそう心に誓いました。

 

そして後年。

たまたま訪れたゴーストハウスでお風呂を見つけた瞬間にぼくは街の不動産屋に駆け込みました。

 

それが、今住んでいるお屋敷という訳です。

ちなみに超格安で譲ってもらいました。その時は未だ幽霊屋敷でしたので。

 

まだ入った事が無いと言う怪物諸君、是非一度お風呂に入ってみる事をお薦めします。

 

 

 

「いや」

 

「え?マリーちゃん、お風呂に入りたくないの?」

「うん」

 

「随分とお風呂に入らないものだなーと不思議に思ってたけど、そんなに嫌?」

「や」

 

「そっかあ。でもねマリーちゃん?君がここに来てから一週間以上経つけど、まだ体を洗ってないよね」

「おなかすいた」

 

「もう息をするように自然にぼくに噛み付いているけど、こうしている間も返り血はどんどん付いていってるんだ」

「むぐ」

「はーいお口拭いてー」

「んむ」

 

そういえばゾンビはよく首元を狙っているように見えるけど、何か理由でもあるのだろうか。実際に体験すると凄く痛い。

 

「汚れや臭いを落とす為にも、定期的にお風呂に入った方が良いよ?お風呂は良いよー。血行が良くなって代謝が上がるし、お肌も潤いが保てるよー」

「いみない」

 

ん?それはどう言うーーー

 

「・・・あ、そうか。マリーちゃん、ゾンビだもんね。関係ないよね肌とか血行とか。ははは。ごめんよ」

「おこった」

 

うわー。やけ食いだー。

 

 

 

お風呂が駄目かー。

 

なら、プールにしましょうか。

 

マリーちゃーん、水ならどうですー?

 

 

 

 

 

この屋敷はとても大きい。

年季が入っていても建物自体の劣化は(ほとん)どなく、ゴーストハウスだった事を加味してもかなりの優良物件では無かろうか。

 

今は吸血鬼のぼくが住んでいますが、不動産屋以外がそんな事知るはずも無く、前所有者の名を取って「ムルナウ廃屋」なんて呼ばれています。

 

 

そんなお屋敷の手入れは定期的にぼくがやっていた。設備も充実しているという自負はあるが、ぼっち吸血鬼のぼくに必要無く腐らせていたモノも有るのだ。

 

その一つが庭にあるプールと言う訳でーーー

 

 

「という理由からプールを使って遊ぼうと言う結論に達しましたー」

「たー」

 

庭にある大きなプールを使って自然にマリーちゃんを洗うと言う作戦に落ち着いた。

先ほど手始めに頭から水をぶっかけたが特に怒る様子も無く一先ずは安心である。

 

マリーちゃんは買ってきた水着を付けてプールを歩いている。

彼女を店に連れて行く事は流石に危険なので1人で水着を買いに行ったのだが、どんな水着が良いかぼくに分かる訳がないので店員の勧めに従って何着か買って来た。

 

 

「・・・ねえ、何でアタシここに居るの?」

 

そう聞いてきたのはプールに足を浸けたリリスちゃん。

フリルの付いた白の水着が白銀の髪に映えてとても可愛らしい。

携行しているアダム君人形を千切っては魔法で繋げているのがいささか怖いが、元彼への恨み深い彼女にその話題を振るのは地雷すぎる。

 

 

「おやおや忘れたんですかリリスちゃん(おばあちゃん)。街で甘味めぐりをしていた君にクレープをご馳走する代わりに連れて(拉致して)きたんじゃないか」

 

マリーちゃんの水着を買いに行った帰りの事。

クレープ屋台の前で自身の財布とにらめっこしていた幼女(老婆)を発見したぼくはクレープと引き換えに双方の益になる暇つぶし(プール開き)に彼女を招待したのです。

長生きをすると暇に殺される、という事はぼくら人外に取って珍しい事でも無いですからね。

 

 

「そうだけどさ、アンタの言葉の端々に悪意を感じるから殺していいかしら」

「あー。さっきから妙に陽射しがぼくに直撃するなぁと思ったら何て恐ろしい嫌がらせ。熱いっ」

 

日光を束ねてレーザービームにするなんて高等魔法を片手間にやるのだから、この魔女っ子怖い。

あ、一回死んだ。

 

 

 

「よし。それでは遊びましょうかマリーちゃん。遊び道具は揃えてるよ」

「アンタ遊ぶ相手も居ないのに遊び道具持ってたの?うわあ・・・」

「な、何ですその可哀想な人を見る目は?ち、違いますぅー。マリーちゃんの為に買ってきたんですぅー」

「はいはい」

 

揶揄われてしまった。

倉庫の住人と化した道具が使われる機会を得たのだから良しとしよう。そうしよう。

 

さあ、気を取り直して。

 

「まずは、ビーチボールなんてどうだろう。はい、マリーちゃん」

「?」

「遊び方教えてあげなさいよ」

 

ああそうか、遊び方が分からないのか。

ゾンビだから生前の記憶が失われているのかな。

 

「こうやって投げたり、叩いて飛ばしたりして遊ぶんだよ。やってみる?はいパース」

「たたく・・たぁっ」

 

快音。クリーンヒット。ビーチボール、爆散。

そのままマリーちゃんの手は水面を強かに打ち、大きな水柱が立ちます。あ、リリスちゃんがひっくり返った。

 

「うわーっ!」

「ああリリスちゃんが落ちた!今浮き輪を用意します」

「泳げるわアホォ!」

 

なんだ泳げたのか。

 

 

「いやぁ参ったね。ボールが傷んでたのかな?」

「うん」

「いやいや違うだろ、確実にマリーの腕力で爆ぜたろ今」

「もしかしなくてもゾンビだからかなぁ?」

「?」

 

動く屍は脳の制御装置が外れているから力が強いとか、昔コミックで読んだ事が有る。

マリーちゃんの細腕にバレーボールを爆散させる力があると思うと少し怖いですが納得も出来た。

よく考えると彼女が怪力であるのは初めて遭った晩から分かっている事だった。

この()、片手でぼくを千切れるのだ。

 

 

「それじゃあ、このアヒルさんや魚の玩具なんかはどうかな」

「ごはん?」

 

違うねえ。

 

「それ風呂に浮かべるものじゃない?」

「水に浮かべて遊ぶんならお風呂もプールも変わらないでしょ」

「それもそうか」

「これ、たべていい?」

 

駄目ですねえ。

 

 

こらこら、プールで涎を垂らしてはいけません。

え、何でぼくを見るの。

アヒルと魚で食欲が刺激された?

 

「ちょ、ちょっとリリスちゃん何か言ってあげて?」

 

「ああ、マリー?プールって食事する所じゃ無いから」

「うん」

「そうそう」

 

「食べるならプールから離れてやりなさいな」

「うん」

「うわーっ。裏切り者ぉー・・・!」

 

 

「先に上がるわ。お昼ごはん作っとくからアンタも早めに切り上げなさい」

 

 

はーい

がぶり

うわー

 

 

 

リリスちゃんの作ったランチは美味しかった。

 

 




リリスちゃんは良妻。
尚、元彼に強い恨み有り。

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