書いてると冗長になり、結局終わりに行き着かない罠
テンポの良い文章って難しいですね
それではどうぞ
ーーどうぞ、お掛け下さい。
あなたがソファに腰を下ろすと、身体の内に溜まった疲労が自然と溜め息として溢れた。
ーー…ふむ。コーヒーでもどうだろうか?
自身を案内した漆黒の男の提案に一言、
ブラックでお願いします。
市警のロビーで大声を出したあなたは意外にも、丁重に迎え入れられた。
正確には、ロビーの警官に摘み出されようとしていた所を、奥から出てきた漆黒の背広の男に事情を問われ、その結果、男に連れていかれたのだ。
エレベーターで地下へ向かう途中、あなたは男に質問した。
何故、こんな突拍子も無い話を信じてくれたのか。
仔細は教えてもらえなかったが、あなたの体験したような怪事件に対応する部署が市警にはあるそうだ。
ーー改めて、スレンダーだ。此処、怪奇対策課のリーダーを務めている。
対面で恭しく頭を下げたスレンダーにあなたもまた自己紹介をした。
男がリーダーと思っていなかったあなたは驚いたが、この男なら…、と納得も出来た。
スレンダーと名乗った男は異様な存在感であった。
視界に入るだけで、意識してしまう。
魂を奪われたかのように、男から目が離せなくなる。
本人の外見が真っ黒い事もあり、
ーー…さて、詳しい事情を聴きたいが……、そろそろ彼らも帰ってくるか。
腕時計を見てスレンダーが呟く。
ほぼ同時に、部屋の扉が蹴破られた。
入ってきたのはラバーマスクをした男と小柄な少女だ。
「ういーっす。マイケル・マイヤーズ、警邏終了でェーす」
「自動販売機の横で何時間も昼寝してるのを警邏と言うならそうなんでしょうねバカタレ」
「そんなに寝てねぇヨ。上司風吹かして部下の様子見に来たチビが自販機の上の段のヤツ買いたいけど押せな〜い、って泣いてたから寝れなかったんだヨ」
入室して早々に険悪な雰囲気を撒き散らす明らかに仲の悪い2人組。
あなたの想像する警察官像とは全く異なる2人だが、スレンダーがやれやれと呟いているのを見るに日常的な光景ではあるようだ。
「ちょっと手が届かなくて唸ってただけですーぅ!昼寝してたらエサと間違われてカラスや野良犬に集られてた生ゴミにコーラでも奢ってやろうと言う上司の労りも理解出来ねえんですかあ?」
「ナチュラルに部下をゴミ呼ばわりかチビ助ェ!」
「文句あるんなら真面目に仕事するです生ゴミ白マスク!」
ーーそこまでにしないか。2人とも。
「「……フンッ」」
スレンダーの一声でどつき合っていた青年と少女はひとまず争いを止めて部屋の椅子に腰掛けた。
アホ毛の少女はスレンダーの隣へ。
マスクの男は、何故かあなたの隣へ。
背もたれに体重を掛けた所で初めてマスクの男はあなたに気付いたようで、ぎらり、と目が動いた。
目と目が合う。
お互いに無言の時間、
ゆらりとした動きでマスクの男はあなたの肩に手を回した。
「ん〜?おぉー。何見てんだコラ。てかお前誰だよ、ハハ」
「明らかに客人か依頼人でしょうに。まだ寝惚けてるんですか?コーヒー淹れて上げましょうか?」
「上手い菓子も一緒で頼むわア、先 輩」
「塩でも舐めてろです」
「でェ?どんな用件よ?ホラホラ言ってみろよォ、俺とお前の仲だろウ?」
勿論、あなたとマスクの男は初対面だ。
訂正しようにも肩を組まれチンピラのように絡まれては、あなたは身を縮こまらせるばかりである。
暫くして、アホ毛の少女から
直後の紹介で2人の名が判明した。
少女がアウラで、マスクがマイヤーズ。
アウラとマイヤーズ。
語呂が良いので2人の名はセットであなたの脳内に刻まれる事となった。
ーーでは此処に来るまでの経緯を聞こうか。
「ほお。
「ヘェ。死神に?」
スレンダーの言葉に他の2人の目が鋭くあなたへ向けられる。
嘘や冗談が通じる雰囲気では無い。
一度深呼吸をして、話を切り出した。
話し終えた後。
暫くの間、室内は無言の静寂の中にあった。
スレンダーは身じろぎ一つしない。
まるでマネキンがポーズを取っているようで、あなたはその雰囲気に身震いした。
少し視線をずらす。
アウラはもそもそとクッキーとコーヒーを交互に味わっている。
視線に気付いたのか、バツが悪そうにクッキーを一枚差し出して来た。
あなたはやんわりとそれを押し返した。
更に横に視線をずらす。
ふがふがとチンピラの寝息が聞こえてくる。
見なかった事にしてあなたは視線を戻した。
そこで漸くスレンダーが動きを見せた。
ーー君の体験した出来事についてだが…
自然と握り込んだ拳に力が入る。
何もしなければ恐らく助からない。スレンダーの返答が、あなたの命に直結していると言っていい状況なのである。
ーー間違いなく、今回の事件は怪奇に因る物だ。察していると思うが、このまま夜を待てば君は二度と目を覚ます事は無い。
理解していた筈なのに、自身の状況を客観的に伝えられて顔から血の気が引いた。
言葉を失うあなたの後頭部が乱暴に叩かれた。
叩いたのは居眠りしていた筈のマイヤーズで、くあ、と欠伸をしながら机に足を掛けた。
「絶望すんのが早えんだよ馬鹿。怪奇事件って事は、俺らが動けるって事だろが」
「マトモな事も言えるんですねマイヤーズ。見直しませんけど」
「
「剥ぎますよチンピラマスク」
ーーマイヤーズの言う通りだ。我々も全面的に協力しよう。まだ安心は出来ないが、今回は恐らく前例がある。アウラ、不定形怪奇のファイルを。
「了解です」
ーー念の為に言っておくと、君の言う‘死神’は我々の認識とは違っている。職業柄、死神という存在はよく知っているからね。
「そして、このファイルは過去の怪奇事件の記録を種類別に纏めたものです」
スレンダーの手により、分厚い黒色のファイルが机に広げられた。
滑るようにページを捲っていた黒い革手袋があるページを指して止まった。
ーー不定形怪奇No.5。ここだな。
ページに貼られた新聞の切り抜きは、比較的新しい物から明らかに古い時代の記事まで様々であった。
「就寝後の昏睡、ですか」
全ての記事に共通する言葉を見つけたアウラが誰に言うでもなく呟いた。
ーーそうだ。他にも似たような事例は幾つかあるが、このページの記事は生前の人間が同じ証言をしていたと分かっている。
ーー夢で黒い人影を見た、とね。
スレンダーの言葉に走った悪寒を誤魔化すようにコーヒーを飲み干す。
隣のマイヤーズは話に興味が無いのか立ち上がって釘バットを振っている。とても怖い。
「夢の中に居るのが分かってんだろォ?打ちのめしに行けば良いじゃねーの。それで解決ってなァ」
「脳筋の言う事に頷くのは癪ですが、それが一番早いのでは?」
同僚に腹パンするのは脳筋じゃないのかとか思うが、とばっちりを食らいたくは無いので黙っておく。
ーーそれがそうもいかない。私達が強制執行出来る条件を覚えているかな。
「ぁン?そりゃ、怪奇が人間に対して危害を加えちゃ駄目よってアレだろ?」
「もっと正確に言うなら、生きる上で必要の無い危害を他生物に及ぼした場合、ですね……。って課長、もしかして?」
ーー気付いたかアウラ。この黒い人影、暫定的に“
「……はぁ〜ン?」
スレンダーの発言にマイヤーズは首を傾げた。
「事件が起きてんだろ?そんで、危害を加えてねえ?分っかんねぇなァ。オレまだ寝惚けてんのか?おいクソチビ殴っていィ?」
「普通自分の頰を打つんですよバカタレ。任せるです。ほっぺを叩いてあげるです、鎌で」
「刺すなよ!絶対刺すなよ!」
「さくり」
「ぎゃー」
部屋の隅でコントを始めた2人を無視してスレンダーはあなたに向き直った。
ーーこの夢人の行動は至極単純で害の無い物だ。そうだな…。交信を図ろうとしている。と表現すれば分かるかな?
それは、SF映画で宇宙人と人間が接触する時のような【交信】と言うニュアンスで良いのだろうか。
ーー恐らくは。偶々出会った存在と話がしたい。仲良くなりたい。そんなものだろう。ああ、君の言いたい事は理解している。その【交信】と問題の【昏睡】が繋がらないと言う点だね。
そうだ。
ただ話がしたいだけなら命の危機など無いに等しい。
【夢人】の意思と【昏睡】は未だ関係の無い事象でしか有り得ない。
ーーそこが事件が起こった要点だ。此処からは私の推測でしかないのだが、恐らくこの夢人は、【交信】に対して消極的なのだ。
消極的。
ーー人と話をしてみたいが、自分から外の領域に極力出たくない。だから相手を自分の領域に招待する。君が夢の中で見た、真っ黒い空間にね。
ここまで説明を聞いてあなたも事件の全容が掴めてきた。
つまり、【昏睡】と直接に結ばれるのは【夢人】ではなく、あの【暗黒空間】と言う事なのか。
ーー…聡いな。夢の中で階段を降りたと聞いてピンと来た。その黒い空間はな、夢の深層【
後は書いた方が分かり易いか、と席を立ったスレンダーがホワイトボードを引っ張って来た。
黒一色の装いでマジックペンを使うとまるで指先で字を書いているように見える。
そんな益体も無い事を考えていたあなたはスレンダーの書いた字を見て上擦った声を漏らした。
ーーーーーーーーーーー
良く分かる アビス 講座
夢の深層 アビス について解説するよ!
これで君もアビスマスター!
その 1 アビス は 全ての生物の共通空間
○アビスは夢を見る生き物全てが共有しているよ!
どんな夢でも手繰っていけばアビスに辿り着くんだ。
一説では全ての夢を生み出すエネルギーがそこに有るんだって!凄いね!
その 2 アビスには長く留まれない ←重要
○アビスは本来何の動きも無い場所。
宇宙空間のような物だから生物には有害!危険だよ!
でも生物の意識は絶え間なく動いているからたとえ迷い込んだとしても普通はスグに弾き出されるんだ!
↓(続きは裏面)
その 3 そのままアビスにいると…? ←最重要
○万が一アビスに長時間留まると、
その意識はアビスに溶けて無くなっちゃうんだ…!
こうなったら誰にも助けようが無いよ。怖いね!
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ーーふむ、こんな所かな……どうかしたか?調子が悪そうだが。
書いた人物とボードの説明のギャップが酷い。
丸っこい字体と子供向け番組のような語り口に気付いたあなたは書いているのが誰か二度見した。
間違える筈も無い。スレンダーだ。
更には文の横に可愛らしいキャラクターまで添えられているではないか。
数秒で二頭身のキャラクターを描き上げて「スレンダー教室だよ!」と吹き出しを追加した時にあなたは書いているのが誰なのか3回確認した。
どこから見てもスレンダーだった。
咄嗟に腹をぶん殴ったのはきっと正解だろう。やらなければ即座に指差して爆笑していたに違いない。
自分が命の危機に晒されている事など一瞬で忘れてしまいそうな程のインパクトにあなたは軽く混乱した。
見ると、付き合いの長いだろう部下2人にも耐えられる物では無かったらしい。
アウラは顔を俯かせて口を抑えている。
マイヤーズは我慢する気も無いのか、息を切らしながら膝をバンバン叩いていた。
ーーこれで分かったかな?【夢人】はアビスで活動しており、そこへ他者の意識を招待して交信しようとする。だが、生物の意識がアビスに留まると次第に存在が溶けて無くなりーー
……現実世界で2度と目覚めなくなる、と言う事か。
「ですが、危害を加えようとしている訳じゃないから私達は夢人に攻撃・撃退が出来ないのですね」
「結果的に危害加えてるようなもんだろォ?ボコボコにすりゃイイじゃねーかヨ」
ーー私達は公平かつ善良な執行者でなければならない。結果に偏りが出てはいけないんだ。…ああ勿論、君を見捨てると言う選択肢は絶対に取らないと約束する。だから、我々が手を下す以外の解決策を提示させてもらう。
目の前の
自分一人で可能なのか、不安でしかない。
ーーサポートは全力でさせてもらうさ。その為に…アウラ、マイヤーズ、外へ出るぞ。仕度をするんだ。
「外だァ?」
「一体どこへ?」
ーー我々怪奇事件の
「夢の、専門家?まさか夢魔です?」
「オイオイ今からそいつら探しに出るってのかァ?路上の風船屋台みてェにプカプカ浮かんでる代物じゃねえだろ!」
良く分からないが、夢について詳しい存在が居るらしい。
それなら迷う必要は無い。
その夢魔?とやらに会いに行こう。
ーー…流石の即決だな。市警のロビーで喚き立てるだけの事はある。
「だァから、どこに居るんだって」
ーー今現在この街の外れには、夢魔が交流を持ち、頻繁に夢魔が訪れている屋敷がある。
「……
ーーその為の我々だ。…さあ、行くとしようか。君もレイズ市民なら1回くらいは耳にした事があるだろう。街外れの赤い洋館ーー
ーー【ムルナウ屋敷】へ……
●
続く。
次こそは終わるはず…!(フラグ)
あなた視点
なんぞ黒いのに目を付けられたぞ…!
→こ、殺される…!
夢人視点
あっ、人だー。お話ししましょー。
→逃げられましたー(´・ω・`)
作中の死神について
死神は魂の寿命・罪科などを見る目を持った超強力な怪奇です。
いずれ冥界へと昇る全ての魂を管理しているので、死神だけは唯一【人間の存在に依らない怪奇】です。
魂の運搬・回収が主な仕事です。
地域別に担当の死神が仕事を分担しています。
そこから更に地域の担当生物によって班が分かれます。
怪奇は様々ですが全部ひっくるめて1種族扱いです。
例えば作中のアウラちゃんは。
【レイズ市周辺の・怪奇担当の・回収と断罪】
と言う区分けになります。
【断罪】と言うのは
作中でも述べたように死霊のような【違法な魂】を【さくりきゅぽん】する事や、いたずらに他生物を殺害するような【罪科の重い魂】を闇討ちする事です。