きまぐれ ぶらっどろーど   作:外道男

18 / 25
Call of abyss

少し練習で二人称視点で挑戦。

「あなた」今話の主人公。
レイズ市の一般市民。人間。社会人。


こーる おぶ あびす

気付けば、あなたは夢の中に居た。

意識ははっきりとしていて、これは夢であると認識できていた。所謂(いわゆる)明晰夢だ。

 

あなたは明晰夢に慣れている。

幼少期から明晰夢を見る事は頻繁にあった為だ。

その事から、自分が明晰夢を見やすい体質なのだと、いつ頃か自覚した。

 

自分の明晰夢に付いて考えたりもした。明晰夢を実感すると大抵の場合気持ち悪くなるのだが、実際に夢の中で動き回る内に余裕も出てきた。

 

明晰夢について分かっていることを今一度思い出す。

 

一つ目。

夢の中でのあなたは、必ず現実世界でのあなたである。

幼少期から今に至るまで、夢の中のあなたも成長しているのだ。

当たり前のように思うかもしれないが、これは今まで一度たりとも変わっていない明晰夢の特徴である。

 

二つ目。

夢の内容は日によって違うが、自分の意思では変えられない。

夢の中だから自由なのではと最初は考えていたが、どうも現実のイメージから乖離する事は無いらしい。

ある時は夜の街、ある時は雨の昼下がり。

気候の違いはあれど、夢の舞台はあなたの見知ったレイズ市の中だ。これも、今まで変わった事がない。もしかすると、あなたがレイズ市の外に住む事があれば変わるのかも知れない。

 

三つ目。

明晰夢の中では、五感が働いている。

ここまで来ると、仮初の現実と言っても過言ではないだろう。

夢の中でも冷蔵庫には食材が入っているし、飲み食いも出来た。(それで現実の空腹が満たされた事は無い)

 

こんなところだろうか。

 

夢が改変出来ない事には不自由を感じたが、普段は見て回らないレイズ市内を散策できると考えると自由であるとも言えた。

 

 

あなたは暫くの間街を彷徨い歩く。

途中で幾人かの市民とすれ違うが、特に挨拶はしない。明晰夢に出てくる人物があなたの行動に反応を返した事は今の所無かった。

 

 

ぼんやりと景色を見て回っていたあなたは、ある物を発見して足を止めた。

 

階段だ。

地下深くへと続く階段である。

 

あなたは市街地の大通りを歩いていたので、こんな所に階段がある筈が無い。

 

驚いて瞬きを何度かしたあなたは、その階段の事を思い出した。久しぶりの事なのですっかり忘れてしまっていたのだ。

 

この階段は、あなたの明晰夢(仮初の現実)の中での唯一の変わった特徴である。

明晰夢の度に現れる物ではなく、いつ現れるかも分からない。

気付いた時には、あなたの見知った空間の中に大きく口を開けている階段である。

 

あなたは階段の手すりに手を掛け、ゆっくりと降りていく。

階段はそこまで長くなく、直ぐに石の扉が見えてきた。

 

扉を開いた先には、またレイズ市の町並みが広がっている。

特に変わった様子も無く、あなたにもそれほど落胆は無い。

好奇心旺盛なあなたはこの階段を見かける度に降りて見てはいるが、仮初の現実が変化した事は一度も無かった。

 

敢えて言うなら、全体的に薄暗くなっている。

天気が夕暮れである、とかそういう事ではない。今の天気は晴れである。雲一つ見当たらない。

視界に映るもの全てに影が落ちているような感覚だ。

この現象は今までの階段でも起こっている事から、明晰夢共通の特徴であると推測している。

 

あなたはそれを、海の底深く、深海へ潜るのと似ているように感じた。夢の深い所、深層へと進んでいるのだろう。所詮は夢なので確証は無いが、そう思った。

 

さて、結構な時間が経っただろうか。

感覚にしておよそ1時間程であなたは翌日の朝を迎える。

明晰夢を見た朝は自分がまだ夢を見ているようで、上手く起きれない事が多い。

 

起きた後にどうやって自分の目を覚まさせようかと、裏路地に足を運んだあなたはーー反射的に足を止めた。

 

 

 

 

 

ーーそこに、階段があった。

 

 

 

 

 

初めての体験だった。

階段を降りた後に階段が出た事は一度も無い。

唐突に未体験を突き付けられたあなたは全身が粟立つ感覚を得た。

 

 

階段は地下へ続いている。

地下へ降りたならば、そこは夢の更に奥なのだろうか。

 

無意識の内に、階段へと踏み出していた。

 

長さはどの階段も一定であるようだ。

一歩ずつ降りる度に石の扉が近づく。

 

何故だろう、嫌な予感がする。

子供の頃に知らぬ土地で迷子になった時のような居心地の悪さ、気持ち悪さ。

自分が越えてはならない一線に立っている事は認識できているのに、どうにもならない。そんな気持ち。

 

気持ちに相反して好奇心が身体を突き動かす。

 

扉に手を押し当てる。

いつもより重く感じた扉は、ギリギリと音を立てて向こう側へ大きく開いた。

 

 

 

そこは暗闇が広がっていた。

あなたは思わず扉から後ずさりをした。

 

何も見えなかった。

夜の闇ではなく、閉ざされた闇があった。

息の詰まるような未知が、扉の先に待っていた。

 

 

到底踏み込んで良い場所には思えない。

 

が、しかし。

 

既にあなたはその境界を踏んでいた。

 

あなたの好奇心と言うものは、理性の(くびき)でさえ押し留めることが不可能なのだと、たった今痛感した。

 

 

何もない。

あなたは瞬時に理解した。

この闇は、この夢の果ては、何も生み出さず、闇のままで完結してしまっている。

 

世界はどこまでも暗闇だ。

入ってきた扉から差し込む光が無ければ、あなたは自分の足元さえ見失うだろう。

 

そこはかとない不安を覚えたあなたは扉に向かおうとする。

 

 

 

振り返る途中で、誰か居た。

 

一度は扉に向けたあなたの顔がぐるりと回った。

自分の隣、数メートル開けて人が立っていた。

扉からの光で朧げに足元が照らされているので辛うじて発見出来たのだ。

 

足が見えている。二本の人の足だ。

こちらに背を向けて立っているようだ。

人、なのだろうか。

世界は暗闇で、足が見えている以外の情報は入ってこない。

男性なのか女性なのか、若いのか老いているのか。

 

暗闇の世界に人が居る事実に驚くあなただが、その人影は動かない。

あなたは明晰夢の中で自分以外の人が能動的に動くものでないと理解している。

それもそうかと納得する一方で、この深淵に人が存在している事に何か意味があるのではないか、と期待もしていた。

 

 

好奇心か、気まぐれによってか。

 

あなたはその人影に、声を掛けてしまった。

 

こんにちは。

言ってから少し考え直して今度は、こんばんは。

夢の中の挨拶なんて、深く考えた事は無いのでそのどちらかで正解だと思うが。

 

 

 

影が、動いた。

言葉を受けて影はぴくりと身じろぎして、ゆっくりとあなたの方へ身体を向けた。

 

足元から上は闇で見えないので、反転した足からそう判断するしか無いが、影は今、あなたをみている。

この影は、自分の意思の外で動いているのだ。

 

顔が有るであろう闇に目を向けると、影は笑っている気がした。

 

 

影の足が真っ直ぐに歩き出す。

その先には、あなたが居る。

 

 

 

 

 

あなたが目覚めたのは影が目前に迫ったその時だった。

 

春の陽射しを受けてベッドから上体を起こしたあなたの身体は、すっかり冷え切っていた。

起きて暫くの間、冷や汗が止まらなかった。

 

 

 

続く

 

 




ホラーちっくに書きたい(できるとは言ってない)

とは言え作風に合わないのでバッドエンドにはなりません

コミカルホラーを目指しております

もう少し続きます

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。