きまぐれ ぶらっどろーど   作:外道男

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Working monster side M


「ゴーストバスターズのテーマ」とマイケルの「スリラー」とピンクレディーの「モンスター」をローテーションして執筆中です。



今回は主人公達以外にスポットライトを当てたお話し
1人1話で3人分やります
だからいつもの2人は多分出てきません。悪しからず

今回はあのチンピラ男の出番





わーきんぐ もんすたー さいどえむ

刑事部 0課はレイズ市警の地下一階に存在する。

 

毒を以て毒を制する。

怪奇への対抗策として怪奇を雇っている事実は暗黙の了解となっているが、市民への配慮として人目に付かない場所に部屋が置かれていた。

 

総員20名。

最大戦力である死神が注目されがちだが、およそ半分が人間であり、後は毛色の異なる怪物達で構成されている。死神と呼ばれる怪物は2名だけである。

 

0課で最も強いのは死神であるが、知名度はそれほど高くない。死神という怪物は非常に秘匿性の高い存在なのだ。

 

悪い意味で名の知れた捜査官が居る事も、死神の秘匿に一役買っていた。

 

 

 

「ふんふ〜ん。アウラ捜査官、本日の警邏終了です、っと。ん?マイヤーズ、随分と戻るのが早いですね。そっちも見廻りは終わりですか」

 

「ふわァ。ンなワケねーだろ。サボって昼寝してたんだよガキンチョ」

「1人だけサボって楽しようったってダメです!馬鹿たれ!能なし!不気味マスク!」

「誰が不気味マスクだコラァ!」

 

マイケル・マイヤーズ。

 

ブギーマンの名で知られる彼は一言で表すと、チンピラである。

 

不真面目で口も悪く喧嘩腰。

気に入らない相手にはとことん食ってかかるようなチンピラの鑑だ。

 

そんな彼が警察官として在職出来ているのは、(ひとえ)対怪奇(・・・)として彼が優秀であるからに他ならない。

 

「そんな(ざま)では給金だってもらえないですよ。それに私が見たからには課長にも報告せざるを得ないです」

 

一応はあなたの上司ですから、とアウラの言葉が続く。

アウラは、マイケルがこの職場に来た当時からの目の上のタンコブであった。

 

「へっ金なんて要らないネ。それに此処には課長居ねえし、しらばっくれりゃ何とかなるだろォが」

 

ーーここに居るよー。

 

再び腰掛けていた客用ソファに横になろうとしたマイケルは、いつの間にか対面に座していた漆黒の背広の男と目が合った気がした。

 

「ホワァッツ!?」

「課長、いつから?」

 

ーー今来たばかりさ。今朝マイケルが気持ち良さそうに眠っていたから代わりに警邏は済ませておいたよ。良く眠れたかい?

「ハ、ハァイ・・とってもォ」

「阿呆が居るです」

 

うるせーガキンチョ。

 

冷や汗が止まらない。

迷惑かけまくったのに超フレンドリーに話しかけてくるスレンダーに恐怖を感じる。いつかこの男は笑いながら自分を殺すのではないだろうか。

 

ーーこんな穏やかな日では君も暇だろうと思ってね。良い仕事の話があるんだ。

「へェ?どんなだい」

 

良い仕事と聞いたら昼寝なんかしていられない。

ソファに座り直すとスレンダーが話を続けた。

 

ーー最近のグール事件のことだが、犯人が分からないなら近いところから話を聞けないかと思ったのだ。

 

「近いところォ?」

「聞き込みですか?」

 

ーーリバーシ歓楽街にオーガ(鬼人)が経営しているバーがある。同種族の溜まり場となっているようだな。この店の主人は吸血鬼と懇意にしていてな、経営の後ろ盾(バック)とでも言おうか。吸血鬼の一部と繋がりがあるのは間違い無い。

 

「それでェ?俺は聞き込みかい?もし、相手が非協力的な態度だったら?」

 

ーー裁量は君に一任しよう。

 

「そうこなくっちゃな!じゃあ、俺は夜までもう一眠り」

「書類作成くらい手伝えですこの馬鹿!」

 

分厚い法律書がマイケルの顔に激突した。

 

 

 

 

 

 

 

夕刻を過ぎ、歓楽街に人の熱が集まり出す時間。

 

BAR「オルグ」は盛況で殆どの席が埋まっていた。

とは言え客の8割以上は経営者の同種族であるオーガ(鬼人)なのだが。

 

健全な一般市民は、一度この店に来て名物料理である「原産地不明の謎の肉を使用したビーフシチュー」を食べたら二度と来たいとは思わなくなるらしい。

 

 

 

 

店主の男は、店に入って来た人間の匂いに釣られてちらりと横目を向けたが、それが白いラバーマスクを被っているとあってギョッとした。

 

店に入って来た男に対して店内の視線が集中する。

白いマスクと聞いてレイズ市の怪物達が警戒しない筈が無い。何故ならそれは悪名高い「ブギーマン」の代名詞なのだから。

 

 

「こ〜んばんわアァ。糞ったれの怪奇の皆さん」

 

ワザとらしくマイケル(ブギーマン)は店内に呼び掛けた。それに応じて視線に敵意が混じる。種族にもよるが怪物と言うのは人間に舐められるのを極端に嫌う。

だからこそ、軽口で喧嘩腰のマイケルは怪奇相手への噛み合い(・・・・)が良過ぎる程である。

 

「ブギーマン」は、怪奇に対して見境なく喧嘩をふっかける大の怪奇嫌い(好き)なのだ。

 

マイケルからずっと視線を向けられている店主は、一先ず社交的な笑みを作った。

 

「これはこれは市警の刑事さん。本日のご注文は?ビーフシチューがオススメですぜ」

 

「飯は要らン。酒を寄越せヤ」

「へい了解」

 

「おめーよォ、吸血鬼とつるんでるらしいじゃねーか」

「へへ、つるむなんて人聞きの悪い。仲良くはさせて貰ってますがね?」

 

「最近のグール事件に俺らは頭にキテんだヨ、なァ。おめー、その吸血鬼に俺らの所に顔出せって言っとけヨ」

 

「まあまあ気持ちを落ち着けて。ささ、酒が出来ましたよ」

「おォ」

 

マイケルにはカウンターの奥で店主が酒に何か混入していたのが見えていた。恐らくは毒か痺れ薬だろう。

人間相手だと思って随分と舐めた真似をしてくれる。正式に喧嘩を売られたと思っても良いのだろうか。

 

売られた喧嘩は買わねばならぬ。

マイケルはぐいと、グラスを一呑みにした。

店主がニヤニヤと口を開く。

 

「あんたも下手な事に首突っ込まずにさ、お寝んねしてた方が賢明だぜ?へへへ」

「はァン。強力な睡眠薬か」

 

店主はマイケルの呟きに訝しげな顔をして、何時まで経ってもマイケルが正常な事に表情を一変させた。

 

 

瞬時にグラスを握り潰して店主の顔に投げ付けた。ガラスが生物の顔にぶつかり刺さる。喧嘩のゴングには相応しい雑多な騒音だ。

 

「オイオイオイ、ふざけてねーで知ってる事話せよ中年太りィ。次はガラスより痛いものと合体するかい?」

 

「てっ、てんめぇ!俺らに喧嘩を売ったらどうなるか分かってんのかぁ!?」

 

勘違いするな。

売ったのはてめーだ。

 

店内に座っていた屈強なオーガ数名が近付いて来るのを確認してマイケルは席を立った。

「ブギーマン」が暴れると分かって殆どの客は逃げ出したようだ。好都合である。

 

「刑事部0課だかなんだか知らねえが、オーガ相手に生きて帰れると思うなよ!」

 

オーガ。

人肉を主食とし酒を好む人型の怪物。

力自慢の者が多く、片手で重機を持ち上げる者もいるのだとか。

 

ここまで説明しても異常な人間と言ってしまえばそれまでであり、そう考えると人間と怪奇の関係性も案外崩れやすいのかも知れない。

崩れてグチャグチャになってしまえば、人間であろうと人でなし(・・・・)の仲間入りだ。

 

自分がそっち側(・・・・)であろうと言う確信が、マイケルにはあった。

 

「ギャハッ、生きて帰れねーかもなア?だが、1人で逝くにゃちと寂しィ。だからよーー」

 

マイケルは懐に手を入れ取り出した物を高く掲げた。それは、

 

「一緒に死ねよ。tick(チィク)tack(タァク)BOM(ボン)!」

 

特製釘爆弾である。

 

誰も逃げる暇など無く、店内に釘の散弾が炸裂した。

 

 

 

 

 

 

店に響き渡る炸裂と幾百もの釘の衝突。

 

音にすればそれは(まさ)しく釘打ち(・・・)であり、店内のあらゆる物を打ち据えた。

 

「ぐぎゃぁっ!?」

 

オーガ達は床に倒れ伏した。

無理もないだろう。

爆弾の有効射程圏内で打ち出された釘を上半身で受け止めたのだ。人間であれば即死である。

 

真っ当な人間であればだが。

 

 

血の池の中から、不気味なほどに白いマスクが浮かび上がる。

 

「アァ〜、死んでねーなァ?俺もてめーらもヨォ?」

 

ぬるりと、血だるまの体を仰け反らせてマイケルは起き上がる。

オーガと同じ距離で、否、更に近い距離で釘を受け止めて尚、彼は立ち上がった。

 

彼はチンピラだ。

敵を粉砕するまで虚勢を張り続ける。

怪物が死ぬまで自分が死ぬ訳にはいかない。

その意地と執念が、怪奇殺しの人でなし(・・・・)人間怪奇(ヒューマノイド)、ブギーマンを作り上げたのだ。

 

「痛え!痛えよお!」

「ヒャハハ、そんなに喜ばれるとヨォ、こっちもお手製の爆弾を作って良かったと思えるぜェ。てめーら怪物(バケモノ)に痛みって奴を与えられて俺も超満足ってナ!」

「ヒィィ!」

「逃げねーでくれよ怪物が見っともないネェ。アンタ、俺がどんな風に見えてるんだイ?」

 

オーガの店主は目の前の怪物(・・)に恐怖した。

刑事部0課を甘く見ていた。

この男は、嘘も誇張もなく、怪奇を殺し得る人間だ。怪奇に恐怖を与える(・・・・・・・・・)存在だ。

 

 

「でサァ!いい加減に吐けよオラァ!知ってる事全部吐けエ!まだ足りねーなら喜んで爆弾くれてやるゼ!」

 

「な、何も知らねえんだ!き、吸血鬼達は偶にみかじめ取りに来るぐらいで!俺らみたいなの相手にもされねえ!ほ、本当なんだ!」

 

んだよ、結局空回りか。

まあ、暴れられたし別にいいか。

 

「あン?」

「あ」

 

マイケルはあっさりと熱が冷めて店を出ようとするが、出口からコソコソと出ようとする男がいた。

狼を連れたコートの偉丈夫は、目が合った事にバツが悪そうな顔をした。

 

 

 

 

 

 

「んだよまだ関係者が居るじゃねーか」

 

「勘弁してくれよ刑事さん。俺は純粋に飲みに来ただけのオオカミ男だ」

「へエ。それデェ?」

 

「何も悪い事してねえし見逃してくれ。今から仕事もあるんでね」

 

戦うつもりは無いと男は言う。

 

偶に、この様な腑抜けた手合いを見かける。怪奇とは名ばかりの、人間に友好的な者達だ。

 

しかし、出会った相手が悪かった。

怪奇に遠慮するような性格をしていたらこのマイケルと言う男はブギーマンとは呼ばれていない。

 

「そっかァ、じゃあお仕事頑張ってね・・何て言うと思ったか!くたばれモンスター!」

「やっぱそうだよなあ!?」

 

男もそれは予想していたようで、抜き打ちで放った釘バットは側にあった椅子を盾にして躱された。

 

「あんたも損な生き方してるねえ。そんな傷だらけになってまで戦う事ァねえと思うんだがな」

「うるせー。こちとら楽しくて仕事ヤッてんだヨ」

 

「傷薬あるけど、要らね?」

「いらねーヨ!!」

 

怪奇に情けを掛けられるなんぞ死んでも御免である。

 

叫びざまに殴りかかろうとしたが、死角から飛来した酒瓶が頭に激突し破砕する。

頭の傷に度数の高いアルコールが染みてマイケルは一瞬だけ身じろぎをした。

 

その一瞬も有れば、怪物には十分だったようで、

 

「あンの野郎ォ!逃げやがったァ!」

 

既にコートの男は姿を消していた。

油断していた。まさか店内に協力者が潜んでいたとは。

 

酒場を飛び出して暫く躍起になって男を探したが影も形も見当たらない。

 

そう言えば今日は満月の夜だ。

オオカミ男は満月が近付くほど強力になる怪物だと聞いた事がある。それを逃げの一手だけに活用したとすれば人間に追い付ける筈も無い。

 

 

 

「ハァ、もういいヤ、帰るか」

「た、助けてくれえ!俺の体があ!?」

 

問題が次から次へと。

 

向かいから走って来たのは小太りの男だった。だが、人間と言うにはあまりにも怪奇的(・・・)だ。

体の殆どが金で出来ているのだ。

顔面さえも半ばまで金が侵食しており、口を開く度に金属の擦れる音が聞こえる。

 

うん。怪奇だ。

一瞬でも人間と思った自分が馬鹿みたいだ。人がムカついてる時に不愉快な音立てやがって。

 

「あんた!俺を助けてくれ!体が金に・・」

「うるせーんだヨォ!砕けろオラァ!」

 

釘バットで横薙ぎにすると金色の男はネオン街に金粉を撒き散らして粉砕した。

 

 

 

 

 

 

「マイケル・マイヤーズ。仕事終わらしてきましタァ」

 

「やっと帰ってきたです」

 

マイケルが課に戻るとソファで寛いでいるアウラが居た。

 

「おオ、ガキンチョじゃねーか。帰って無かったのかヨ。とっくに上がってると思ってたぜ」

「その筈だったんですけど、ちょっとコッチ来るです」

「んダァ?」

 

 

 

「傷の治療なんて後でも良いだろーが」

 

「ダメです。釘を刺したままなんていつ悪影響が出るか分かりません。上司が治療してあげるんですから喜んで欲しいですね馬鹿たれ」

「恩の押し売りィ」

「やかましい」

 

釘を抜いてはアウラは塗り薬を付けていく。

 

「良い薬みてーじゃないノ。どうしたんだソレ」

「随分と親切なオオカミ男さんがいらしてこの薬をくれたのですよ。無茶する部下にどうぞ、と」

「あのオオカミ野郎・・!」

 

余計な事を、と言おうとして傷口を叩かれた。アウラの顔は何処か不満そうだ。

 

「こんなに無駄な傷を負って。いつかお前の殉職に立ち会うんじゃないかと、ヒヤヒヤしてるです」

 

「ハン、痛みなんざ大した事ねーよ。俺は仕事が楽しくてヤッてんだ。誰にも文句は言わさ・・痛ェッ!?てめー、何塗り込んだア!?」

「塩です」

「こ、このガキ・・!」

 

「ふんっ。存分に痛がるが良いです。痛みにのたうちまわって泣き叫べです。馬鹿」

 

一定の範囲の釘を抜いては薬を塗り込んで包帯を巻く。

その内に再びアウラは口を開く。

 

「痛みに慣れて、感じなくなってしまったら、倫理をゴミ箱にぶち込んだようなチンピラの貴方の良い所なんて、一つも無くなってしまうです」

 

「褒めてんのか(けな)してんのかどっちだァ?」

「主に貶してるです」

「このガキ・・!」

 

「だから、もっと自分を大事にするです。痛みの分からない怪物では、どのみち社会で生きてけないですから」

「へーいへい」

 

「ちゃんと分かってるですかー?」

「へーいへい、って抜いた釘で傷を突くなァ!」

「なら話を聞くですー」

 

 

 

夜は更けていく。

仕事の疲れを癒すように。

 




スレンダー「仲良いなーあの2人(ほっこり」




side MはマイケルのM


ちなみにお分かりの方も居るでしょうが、
マイケル・マイヤーズ。
「ハロウィン」と言うホラー映画の殺人鬼。
をモデルにしております。
原作の方はこんなチンピラではなく寧ろ陰気な無口キャラですけど。



一応はひとかたまりに3人分書くので
話自体は微妙に被ります



次回は さいど でぃー

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