みかん少女とヨーソローな幼馴染が部屋にいる生活   作:すいーと

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初の4000文字オーバー。



ゴールデンウイーク話(終)

 曜の眠りを妨げないようにリビングに移動した俺と千歌は、テーブルをはさんで向かい合った。テーブルの上には病院でもらった曜の薬と俺の財布のみ。曜を寝かせて部屋から時にもってきてしまったものだ。

 俺はテーブルのふちに肘をのせて真剣な顔をしている千歌を見る。

しばらくの無言は続き、しんとした空気に耐えかね口を開こうかと思ったところで突然千歌が口を開く。

 

「おかゆを作ろうと思う」

 

 重苦しいテンションで告げた割に内容が普通の事でテーブルのふちにかけた肘が滑る。

 ガクッとテレビでよく見る芸人のリアクションのように頭が動く。意外と頭が揺れるんだなこれ、あと口の中のどっか切った痛い。

 なんだか狙ったみたいで恥ずかしいのでごまかすように話を続ける。

 

「何でおかゆなんだ?」

 

「やっぱり風邪っていったらおかゆじゃない?」

 

「俺はうどんだと思うが」

 

「おかゆだよ、ぜったい」

 

「いや、おかゆはねーわ。あんなのただ汁で米を流し込むみたいで食べたってしないだろ」

 

 昔からおかゆって言うと離乳食のようなイメージがあってどうも好きじゃない。この年でお子様ランチを頼みづらいのと一緒だ。あと薄味なのもマイナス要因。

 

「うどんの方がないと思う。具合悪い時に噛まないと飲めないうどんなんて食べるの辛いし!!」

 

「なんだと~」

 

「むぅ~」

 

 テーブルをはさんでのにらみ合い。千歌はフグのように膨れ、不満を表している。いつもならだいたいここで俺が折れたり曜が止めてくれたりするが、今日は曜がいない。それにお互い譲れないものがある。

 千歌の腰が少し浮いているのを確認する。

 さらに観察すると千歌の目は真っ直ぐ俺をとらえ、狙いを定めている。

 こいつやる気か? 千歌の目は獲物を狩るハンターのように見えるほど鋭くなっていて普段のほんわかした、顔とは全然違う。

 

まさに一触即発状態。

 

ならば俺も覚悟を決めなければならないな。 ふぅーっと息を吐き集中力を高める。

 

 タイミングよくなったアナログ時計の音を合図にお互い手を伸ばした。そしてお互いの頬を思いっきりつねった。

 

 いつの頃からか殴り合いの喧嘩をしなくなった俺、曜、千歌の3人がどうしても主張が譲れない時に、こうしてお互いの頬をつねって先にギブアップするか痛いと言った方が折れるというルールをもめ事解決に使っていた。

 これだと大けがにならないからあとで気まずくなることもない。それに千歌の家でやってもそこまでうるさくならない。

特にみかんの争奪戦ではよく用いられていた。

 

 千歌の頬をつまみ横に伸ばす。まだ幼さが残る千歌のほっぺたは手入れがしっかりしていて、もっちりしていて癖になる感触だ。毎朝顔を洗うときに触れている自分の肌とはあきらかに違うすべすべとした感触に感動とも感嘆とも言えない声が漏れそうになる。

 

 ――千歌のほっぺたやわらけー。

 

 喧嘩ということを忘れて揉むように優しく丁寧に扱っていると、俺の頬に蜂に刺されたように鋭い激痛が。よく見ると千歌の手が俺の視界の下にあり、指に力が入っているのか小刻みに震えている。

 

「痛ってぇえええ!?」

 

「あっ忘れてた」

 

 喧嘩――もとい勝負をしていたことをすっかり忘れていた俺はその刺激に情けない声あげてしまう。千歌のやつ爪立てやがったな。

 

「私の勝ちーー」

 

 そして千歌の勝利宣言でルールを思い出した。

 

 抓られて地味に痛む頬を撫でながら千歌の勝利者スピーチ聞く。

 

「じゃあ負けた真樹君は、よーちゃん食べさせるおかゆを作る手伝いをすることっ!!」

 

「もしかして作りかた知らないのか?」

 

「それくらい知ってるもん。ごはんにお湯かけて具材を乗っけるんでしょ?」

 

「それじゃあお茶漬けだろ」

 

「し、知ってるもん。今のは真樹君を試しただけで……お粥ぐらいわたしだって……」

 

 目を泳がせながら、手をわざとらしく振り回している姿はどう見ても知らないをごまかしているようにしか見えない。

そういえば千歌は料理ができないんだった。すっかり慣れてしまっているが、俺と曜で食事当番を回している。

少しだけ、嫌な予感が頭をよぎる。

 

 

それは見事に的中した。

 

「これ? なんでしょうか千歌先生?」

 

「あははははっ」

 

さかのぼる数分前。

 

 近所のスーパーで材料をそろえ、帰宅した俺たちは調理に取り掛かったのだが、千歌が『一人でできるから真樹君のはよーちゃん見といて』と、突然言い出たのだ。千歌が料理するとどんな化け物ができるのか興味がわいた俺は任せてみることにしたのだ。

 

 曜の寝顔を見ていると調理を終えた千歌がそっと俺を呼びに来たのだ。

 キッチンに置かれているのどう見ておかゆとは言えない代物だった。

 

 まず色からしておかしい。どう見ても白くない。というか真っ黒。宇宙とか夜道並み。漂白剤も全力をで白旗上げるレベルの驚きの黒さ。

 いくつかある俺の知ってる黒い食べ物なんてイカスミパスタとゴマプリンぐらいだ。

そして次に匂い。

 近所で火事でもあったの? って感じで焦げ臭い。さすがに実験が失敗したみたいに全面黒くなることはなかったが、それでもキッチンは換気扇が越してきて初めの仕事をしている。

 

むなしく、そして力なく笑う千歌の声が換気扇の音と混ざり儚げな雰囲気を作り出していた。

 

「千歌? お前が作ろうとしたのは卵粥だよな?」

「はい。そうです」

「じゃあどうして食べ物ではない何かができているんだ?」

「さぁーどうしてだろう?」

 

 頭の痛くなりそうな千歌の発言に思わず額に手を当てた。どうすれば工程の少ない卵粥を失敗できるのだろう。

そこにはきちんとした理由がある。

 

 千歌には料理が性格からして向いていない。

基本的におおざっぱな性格。しっかり分量や時間をはからなければならない料理をするうえでこの性格は致命的。しかも千歌は何だかんだ言って行き当たりばったりでここまでやってこられてしまったおかげで、治らないものになってしまっている。もはや矯正するのは不可能といえる。

 

 好奇心でやらせて見たとはいえこのままでは曜が夕食後の薬が飲めない。そんなことになったら大変だ。

 

「よし、わかった俺が作るから、千歌は盛り付けを頼む」

 

「えー」

 

「仕方ないだろ? まさかこの炭みたいなの食わせる気か? 間違いなく悪化するぞ」

 

「わかった。その代わり今度料理教えて?」

 

「ああ、そのうちな?」

 

正直教えても食材が可哀そうなことになりそうなので何となく時期は言わずにぼかす方向で行こう。

 

「あーっ。そうやってごまかすつもりだっ! よーちゃんが治ったらすぐだからね?」

 

「なんでそこまで料理したがるんだ?」

 

「だって真樹君とよーちゃん、料理してる時なんか夫婦みたいに仲良さげでさ、羨ましいというか……」

 

 恥ずかしそうにうつむきながらも聞こえるように言う千歌。

なんだそういうことか。なら……。

 

「教える代わりに言うことは絶対守れよ?」

 

「うんっ!」

 

 上機嫌で手伝ってくれたおかげで、お粥は無事完成して曜の胃袋に入った。

残念ながら寝て少し体力の回復した曜は自力でお粥を食べましたよ。

 

 俺と千歌も残った卵粥を胃袋入れる。3人じゃあない食事は少しだけ味気ない気がした。

 

 洗い物を終えてリビングで一息つこうと思い移動するとテーブルの上に見慣れない白い袋おいてあった。ちなみに千歌は風呂に行っている。

 

「あっそういえば曜の薬テーブルの上に置きっぱなしじゃん」

 

食後30分以内に飲ませなければならない薬らしいので急いで曜部屋に向かう。そっと扉を開けると、曜から声がかかる。

 

「あっ。真樹君」

 

「薬飲ませにきたぞ」

 

手に持った薬を見せながらそう告げると曜は露骨に嫌そうな顔をした。

 

「えー」

 

「まずいかもしれないけど不満そうな顔しない」

 

「真樹君は風邪薬のまずさを知らないからそんなことがいえるんだよ」

 

「いや、一応知ってるけど」

 

「人ごとだからそんなに楽しそうなんでしょ?」

 

「そんなことないぞ。というか食後30分以内に飲まないといけないんだからとにかく飲んでくれ」

 

「じゃあ飲んだらお願い一つ聞いてくれる?」

 

「ああ、できる範囲なら」

 

仕方ない。これも速くよくなってもらうためだ。

 

「今日さ、一緒に寝よ?」

 

「え? もしかして俺にうつしてはやく治す作戦か?」

 

「違うよ。ほら毛布だけだと寒いから。きちんとマスクもするし、いいでしょ?」

 

「わかったから、薬をどうぞ」

 

紙袋から小分けにされた一つをちぎって曜に渡すと、そこで曜が辺りを見回した。

 

「あのー、水は?」

 

「わりぃ、すぐ取って来る」

 

 その後薬を曜に飲ませ、千歌と入れ替わるように風呂に入る。何かあるわけではないのはわかっているが、いつもより念入りに身体を洗い。いつもより早めに就寝することになった。約束通り曜の部屋で。

 

「じゃあ明日から学校だし早めに寝るか?」

 

「じゃあどうぞ」

 

 曜は壁際により、人一人分のスペースを作った。

開いたスペースに俺はおじゃまする。ほんとに湯たんぽ扱いをするつもりなのか密着してきて、色々と背中に当っていて非常にまずい。が唯一の救いだったのは曜はいつものショートパンツではなくきちんとしたパジャマを着ていることだ。きっとそうでなければ間違えなく俺の安眠はどこかに行っていただろう。

 

「じゃあ、おじゃまします」

 

「おじゃまされます」

 

「なんか変な気分だな」

 

「確かに真樹君と二人っきりで寝ることなんてあまりなかったもんね」

 

 つい一か月ほど前にしたのだが、あの時は端と端によって寝た(俺はほぼ寝てない)ので、完全に密着して寝るのは今回が初めてだ。

 

「落ち着かないな」

 

「変なことしないでね?」

 

「アホなこといってないでさっさと寝るぞ」

 

それからしばらく無言が続いて。

 

「真樹君まだ起きてる?」

 

「…………」

 

背中に伝わる絶妙な暖かさと柔らかさで寝る寸前まで来ていた俺は返事をしなかった。

 

「寝ちゃったかな? そっか……」

 

「……?」

 

ギュッつと背中に感じていた温もりと心地の良い感触が強まった。

 

「なら今だけは私の独占ってことでいいよね?」

 

 

眠気が一気に吹き飛んで翌朝を迎えたのは言うまでもない。

 

こうして俺のゴールデンウイークは終わりを迎えた。





そろそろほかのAqoursメンバーも出したい。

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