みかん少女とヨーソローな幼馴染が部屋にいる生活 作:すいーと
「もう無理」
「ああ、さすがにしばらく甘いものは見たくないな」
「そうだね、今度からはしっかり大きさ見てから注文することにする」
千歌が残したパフェを俺と曜で何とか片付け始めること数十分。空になったパフェの器を見ながら、なんとも言えない達成感に浸っている俺たちだが、いろんな意味で限界を迎えつつあった。腹の底から這いあがって来る甘ったるい空気に吐き気が膨れ上がる。
「今動いたらたぶん吐くだろうな」
「真樹君それはやめてね」
「そうだよ真樹君。お店に迷惑がかかるでしょ?」
「そういうお前らは大丈夫なのか?」
「あんまり大丈夫じゃないけどすこしこうしてれば」
「全然平気だよ」
「千歌、お前……」
「てへっ」
可愛く舌をだす千歌だが、今の俺はツッコミを入れる余裕もなければ起こる気力もない。机にだらっと体を預けて、ガクッとうなだれた。まさか自分が吐かないように早めに俺たちに丸投げして自分だけ助かるとは、さすが末っ子。人の使い方がうまい。
それから約30分ほど店に滞在して(店員さんの目が時間が過ぎると共に冷たくなったが)会計をして店を後にした。
エレベーターに乗り、家電が並ぶフロアへと足を踏み入れた。
「売り場の面積が広いな。そしてまぶしい」
「照明売り場だからね、でも、これすごく明るいよ」
俺たちを出迎えてくれたのは、見渡す限りの照明器具。見ていて目が痛くなるほどの光。閃光弾でも投げたのかってほどにまぶしい。その眩しさに慣れるまで少しだけ下を向いた。
「LEDってやつだな。省エネがどうとか書いてあるな――ってかなり時間ロスしてるんだし早くパソコン売り場にいくぞ」
「はーい」
「千歌はどこいった?」
「あれ? 確かにいないね」
眩しさに慣れるまで下を向いたのが失敗だったな。ほんといつも猪突猛進だな。
「パソコン売り場はこの奥だしもしかしたら先に行ってるかもしれないな」
「そうかもね。とりあえず行ってみようか」
曜と共にパソコン売り場に向かったのだが、千歌は意外なところにいた。
「真樹君見てこれ! このパソコンすごい小さくて可愛くない?」
「千歌……」
「千歌ちゃん…………」
パソコン売り場に向かう途中で自慢げに商品を見せてくる千歌を俺と曜はどこか残念なものを見るような、でもどこか優しい気持ちのこもった暖かい視線を送っていた。
「千歌。電子辞書って知ってる?」
「それぐらい知ってるよっ」
バカにするなとでも言いたげな雰囲気を出しながら、すこし拗ねたように答える千歌に俺はできるだけ優しく教えてやることにした。
「今持ってるそれが電子辞書なんだが」
事実告げてすぐ千歌の顔が恥ずかしさで茹でられて行くのがわかる。そういえば前にも包丁選びに失敗しそうになったことがあった。
「知ってたもんっ。ちょっと真樹君をからかってみただけだからっ!!」
よほど恥ずかしかったのか取ってつけたような言い訳を並べて来た。顔を真っ赤にして言い訳する姿もなんとも愛らしい。
「んじゃ。ちゃんとしたパソコンはどこかなぁー?」
「こっち」
怒りを全身で表すように大股で歩き、パソコン売り場へとたどり着いた。予算にあまり余裕がないので店員さんを一人捕まえて、アドバイスをもらいながら何とか買うことができた。あとは家に帰って回線を繋いで残りのレポートを仕上げれば明日半日ぐらいはゆっくりできるぞ。と頭の中ではすでにいかにゴールデンウイークを満喫できるかということ一色だ。
一階まで下りて来たところで、突然曜が後ろから声をかけた来た。
「真樹君、千歌ちゃん少しだけ待っててくれない?」
視界にあるのはお手洗いの入り口。何となく察した俺は、
「じゃあここで待ってるから」
「うん」
少し顔を赤くしながら、走っていく曜が視界から完全に消えたところで、千歌がそっと耳打ちしてきた。
「よーちゃん急にどうしたの?」
相変わらずこういう勘は全く冴えない奴だな。
「さっき誰かさんのおかげで食べすぎたからな」
「あっ。ごめん」
ようやく気が付いたみたいで、少しシュンとした声が返って来た。それっきり途切れる会話。先ほどまで気にならなかったデパートの活気溢れる声が耳にどんどん流れてくる。そっと千歌の方を見ると、どこを見るでもなくぼーっと遠くを見ている。釣られるように俺も遠くを見ると、子ども連れの客が仲良さそうに、三人並んで買い物をしている。子どもか……。まだ全く意識していないけど、少しだけ想像してみるか。曜が戻ってくるまで暇だしな。と想像力を働かせるため、目を閉じたその時、
「マーマ―っ!」
かなり近くで女の子声がした。
「えっ? 私、ママじゃないよっ」
「えっ? あっ……うっ……」
結構近くでこんなやり取りが行われてるようだが、どうも泣き出しそうになってるみたいだな。
「真樹君。目瞑ってないで助けてよ」
袖を引かれて想像の世界から早くも引っ張りだされた。
「なんだ?」
「この子」
千歌に言われて下を見ると、オレンジ髪が特徴的な3~4歳ぐらいの女の子が千歌前に座り込み、今にも泣きそうになっていた。
「迷子か」
「よし、千歌迷子センター的なところに……」
「でも曜ちゃんが……」
「そうだったな、よし、ひとまずは母親らしき人がいないか探すからその間千歌、お前はその子の話あいてをしててくれ」
「わかるの? この子のお母さん」
「はぐれたら探すだろ? そういう人を見つけるんだよ、それにはぐれてからそんなに時間がたってるとは思えないし、もしかしたら近くで見失っただけかもしれないし」
「わかった」
会話を切り上げ、辺りを観察していく。が人の流れが速く、遠くまで見ることはできない。近くにもそれらしき人はいない。それにここで待ってると曜に行ってしまったため、下手に動くこともできない。それに誘拐犯に間違えらて警察に連行なんてされたらたまったもんじゃない。ちょっと前のニュースが頭をよぎる。
「お名前はなんていうのかな?」
千歌は慣れた感じでしゃがんでその子に話しかける。怖がらせないように笑顔で、安心させるように普段は見せない落ち着きを見せながら。
「…………かほ……」
それが功を奏したのか女の子はまだ泣きそうではあるが小さい声で答えてくれた。
「そっかー、かほちゃんはママときたの?」
「ううん、パパもいっしょっ」
両親の話が出ると少しだけ笑顔を見せる。父親か……。千歌がかほちゃんと打ち解けていく中、俺は全く別のことについて考え始めていた。父親のことだ。俺は父親がどんな人か全く知らない。今更気にしても仕方ないかもしれないが父親に関する単語出ると毎度考えてしまうのだ。
「おにーさんどうしたの?」
暗い思考に潜ろうとしたところで小さい手に袖を引かれる。下に目を向けると千歌とかほちゃんが俺を見ていた。髪色が似ているせいか一瞬ほんとの親子に見えた。
「真樹君……」
「何でもない。で? なんの話だっけ?」
「だから、曜ちゃんがここに戻ってきてもこの子のお母さんが見つからなかったらどうするって話だよ」
「曜が合流したら近くにいる店員さんに言って何とかしてもらおう」
「えー母親が見つかるまで面倒見るじゃないの?」
「いやどうやらその必要はなさそうだな」
俺が見落としていただけで近くにちゃんと父親がいたみたいだ。完全に母親しか探していなかった俺からすれば盲点だった。
早歩きでこちらに来る父親らしき人物。
「あっ、パパ―」
どうやら正解だったみたいで、かほちゃんはそのパパ目掛けて走っていった。足に抱き着くとそのまま抱き上げられるかほちゃん。父親はこちらに近づいて来ると俺たちの前で立ち止まり、
「君たちがかほを見ていてくれたいたみたいだね、ありがとう」
「あっ、いえ俺は何もしてないですから、礼ならこっちにどうぞ」
そういって俺は千歌を前に出した。
「正直な人だね君は。でも見ていてくれたのは同じだろ?」
「はぁー」
「すまないが、妻に連絡するのでかほがまたどこかに行かないように見ててくれないか?」
「はい」
そういうと父親はかほちゃんを下ろして電話をかけ始めた。
「穂乃果か? 夏穂見つけたぞ。……一階のトイレ前。……えっ? 今どこかわからない? 今度そっちが迷子かぁー迎え
に行くから少し待ってて」
そこで受話器をいったん離して俺たちの方を見る。
「すまない。本当なら君たちお礼をしなければならないところだが、今度は妻が迷子になってしまってね」
「聞いてましたよ」
「今度うちの店に来てくれないか? お礼はその時に……これ名刺」
差し出された名刺をほぼ反射のように受け取る。受け取ったのを確認すると夏穂ちゃんを連れ去っていく。
「真樹君見せて」
「ほい」
「えーっと、穂むらってお店みたいだね。あとで調べて見よっか」
「ああ、そうだな」
返事を返しながらも俺は去っていく父親をの背中を見えなくなるまで追っていた。父親ってあんな感じでしっかりしないといけないものなのかと。そんなことを思いながら。
迷子騒動が片付いてすぐ曜と合流して帰路についた。