みかん少女とヨーソローな幼馴染が部屋にいる生活 作:すいーと
だんだんと夜から朝へと切り替わっていく。そんな中俺の空腹はピークを迎えていた。
背中には寝息を立てている曜がいて一睡できなかったのだ。徹夜をしたことのある諸君ならわかるかもしれないが深夜に来る空腹感はやばい。
ひとまず曜が起きるのを待つ。曜は意外と早起きだ。下手に起こすより自然起きてもらった方がいいに決まってる。できるだけ早くここを出るために先に着替える。
バスローブを脱ぎ、ズボンをはこうと足を通したその時、
「ん……うーん……。あっ、真樹君おはよ――何してるの?」
タイミング悪く起きてきた曜。そこにほぼ服を着てない俺がすぐそこにいる。完全に誤解される奴です。
「これは着替えをしてる最中でけしてやましいことをしていたわけでわ」
「何となく状況はわかったけどやましい気持ちが一切ないってのはちょっと傷つくなぁー」
「いやほんとはちょっとやましい気持ちもあって、っておい何言わせるんだよ」
「てへっ」
いたずらぽっく舌を出してからかう曜に、疲れた顔で着替えを済ませていく俺。睡眠不足はかなりダメージになるようだな。
曜の着替えや眠気覚ましの洗顔などを済ませて、ようやく俺たちはホテルの外に出た。
そんなに寝てないはずの俺になぜかできた強情な寝癖直しにかなりの時間を取られたがなぜだろう。
繁華街は休日とはいえ朝早いこともあってまだ人は少ない。人が増え始める少し前といった感じだ。
「じゃあ帰ろうっか」
「そうだな腹も減ったしな」
これ以上ここにとどまる理由もないので軽く確認すると俺たちは駅に向けて歩き出す。
歩きながら千歌に今から帰る旨えをメッセージで伝える。朝の温まり切っていない風が俺たちの間を通りすぎていく。
「ううっ寒い」
「そりゃそんな部屋着も同然の恰好でいれば寒いだろうな」
「それはほら真樹君が悪いわけだし、ね?」
誤魔化すように小首をかしげがら俺の視界に入り込んでくる。夜にプレゼントしたネックレスが揺れる。なんかあざといぞ。
曜の意外なあざといが発揮されているところに携帯の間の抜けた通知音が人気の少ない道に響いた。千歌からの返信だ。
『ごめん、真樹君今起きた。これから飾り付けるからなんとか帰宅時間伸ばせない?』
千歌めこんな時になんてことをやらかすんだ。まあ遅くまで起きてたのは俺のせいでもあるしあまり強く責められない。ひとまず任せておけと返信しておく。
「そうだ、曜。朝ごはん食べてから帰らないか?」
「急にどうしたの? ごはんなら家に帰ってからでもいいよ」
困った。千歌に任せろといった手前、何もせずにまっすぐ帰れば確実に千歌が不機嫌になる。多少強引にでも阻止せねば。
「曜。俺はお前と二人で朝ごはんが食べたいんだ」
「ほんと今日どうしたの? 夜の事ならもう気にしてないよ」
頬どころ耳で赤くしながら答える曜。もう少し押せば何とかなるかも。
「昨日こととか関係なしに、俺は曜と二人きりで朝ごはんが食べたいんだ!!」
「そこまでいならわかったよー。もう強引なんだからっ 普段からこれぐらい積極的だといいのに」
「気がか変わらないうちに行くぞっ」
曜の手を握ると、繁華街を抜けて駅周辺にあるファミレスへと飛び込むように入店した。店員さんのどこか変なものを見る目を受けながら席に案内にされる。まだ早い時間で、頼めのはモーニングメニューのみらしく、おとなしく同じものを注文した。
「しかしこんなに早い時間にファミレスに来ることになるとはな」
「あれ? そんなに嬉しそうにじゃないねぇー?」
曜が疑惑の目を向けてきている。だが空腹はピークを通り越して若干気持ち悪くなってきている。
「まだ来てないからな、テンションが低いのは勘弁してくれ」
「あはは……」
俺の疲れた顔から察してくれたのかそのあと曜から追及はなく、何事もなく注文したものが運ばれてくる。やってきたのは三段の薄めのホットケーキ。一番上ににだけシロップかはちみつかわからないがかけられている。さらに熱で少し溶けたバターがちょんと乗っていて王道のホットケーキだといえる。ナイフで食べやすいように切ってフォークで口に運ぶ。パンケーキが程よくシロップを吸い、さっぱりとした甘みが口を駆ける。
「真樹君何でそんなにナイフの扱いに慣れてるの?」
「一般教養?」
「何でそこで疑問形?」
「そういわれてもな沼津のじいちゃんマナーに厳しい人だったし」
「そういえばそうだったね」
「まあ今は天国で文句でも言ってるだろうな。食事中にしゃべるんじゃないって」
「ほんと真樹君のはおじいちゃん好きだね」
「そりゃほぼあの人に育てられたようなもんだし、あのひと口癖は俺の生き方でもあるし」
じいちゃんと幼少期の俺たちの思い出話は機会があれば話すとして、今はエネルギー補給に勤しもう。
俺は丸飲みするようにホットケーキを食べ終えると、スマホに手を伸ばした。
「あっ」
「どうしたの?」
「いや、千歌に朝食済ませてから帰るって連絡してないと思って」
時間稼ぎにきたのに何早食いしてるんだ俺は、自分にツッコミを入れつつ千歌にメッセージを打つ。
『何とか30分は稼げそうだぜ』
するとすぐに返事が来る。
『全然終わらないよーっもう少し何とかできない?』
『さすがにこれ以上は怪しまれるだろ』
『そうだよね何とかしてみる』
メッセージのやり取りをしている間に曜も完食してしまい、予定より早く店を出ることになった。会計を済ませて、とにかく無駄に立ち止まりながら、できるだけ時間を稼ぎながらゆっくりと帰宅する。今日ばかりは正確なダイヤに乱れろと念じながらホームにたっている。しかし都合よく乱れるわけはなく、あっという間にマンションに戻ってきた。千歌の準備が終わっていることを願いながら扉を開ける。俺が部屋に入ると、パンと何かが弾ける音がした。
「あっ、しまった」
「千歌、いやお前はそんなに悪くないさ、俺が先に入ってきたのが悪いんだよな」
失敗を祝うように俺の頭にまとわりつく金色のテープが恨めしい。物音を聞きつけて曜が部屋に飛び込んでくる。
「何? どうしたの? って真樹君?その頭はなに?」
「そうだな、しいて言うなら誕生日の身代わり?」
「なにそれ。ちょっと笑いそうになるからテープ早く取ってよ」
「よーちゃんどうせなら三人で写真取らない?」
「なら真樹君はそのままで、」
「おい、俺の意思は?」
パシャとスマホのカメラの音と共にこの世に新たな黒歴史が生まれた。クラッカーの派手なテープを頭に乗せ両端に二人をはべらせるように中央で一番目立っている俺の写真は俺と曜そして千歌のスマホの待ち受けになった。
その後もケーキを食べながらその話で笑い、なぜ泊まりになったかの真剣な話をした後に再びその話で笑い飛ばし、曜のサプライズパーティーは爆笑に包まれながら幕を閉じた。ある意味大失敗ともいえるが曜が楽しんでいれば結果オーライだ。
次の千歌の誕生日をこそ失敗しないぞ、そう固く決意して。