みかん少女とヨーソローな幼馴染が部屋にいる生活 作:すいーと
30分ほど前までいた駅に俺は戻ってきていた。平日の昼ということもあって人はあまり多くないはず……。と言っても都会なわけで、そこそこ人がいる。探すのは苦労しそうだな。どうしたもんかと思考を働かせようと目を閉じ手をあごの添える。昔からの癖なのだがこうすると勘がさえるのだ。気分はミステリーに出てくる探偵。
「真樹くーん」
都会には俺と同じ名前の奴がいるのか。困ったなって一人や二人いるか……。
「ちょっと。なんで無視するの?」
近くで痴話喧嘩でもしているんだろうか? 女の子の声する。都会ではよくあることなのだろう。
「ねえーそろそろ目開けてよ? もしかして寝てるの?」
耳ととでささやかれたそれは俺を思考の海から引き上げるのに十分だった。
「うわっ」
視界に飛び込んできたのは枝毛一つないきれいなオレンジ色の髪の毛。鼻先で柑橘系の香りが俺の昔の記憶を呼び起こした。
「もしかして千歌か?」
「うん……なんて言うか久しぶりだね」
久しぶりに見た千歌は、なんと言うかエロかった。春だというのに太ももをスカートから大胆に露出させている。それに胸も服の上からでもわかるほどに大きくっていて、正直目のやり場に困る。これ以上は危険だと目をそらすと、不機嫌な曜が俺を見ていた。
ボーイッシュな感じで統一された服はとてもよく似合っていて特に白のショートパンツは健康的なふとももとより魅力的に引き立てている。さらに胸のも千歌に負けず劣らず大きさであることがわかる。三年でそこまで変わるものなのかと疑問を抱くレベル。
「ふーん千歌ちゃんのことはおぼえてるのに私のことは忘れてるんだ」
「久しぶりの再会なんだしそんな顔すんなよ」
「そうだよ曜ちゃん。せっかくの再会なんだし」
「うーん。そうだね。せっかくの再会だもんね。聞きたいこともたくさんあるし、早くマンションにいこっ」
千歌と俺の説得で何とか機嫌を直した曜は俺の腕をとり進むように促してきた。昔はなかったはずの感触に時の流れを感じながら、それを悟られないように歩き出す。
どうやらあの事を根に持ってはいないようだ。
「あっ曜ちゃんずるいっ。私も~」
その感触が二つに増えました。
二人に挟まれながら再びマンションのエントランス戻ってきた。二人は鍵を持っておらず、俺がカギを開ける。
部屋に着くなり、千歌が子供ように跳ね回る。
「広いよ。ほんとにこんなとこに住んでいいのっ!! あ、テレビも大きい。すごーい」
その姿は昔と何も変わっていなくて少し安心した。自然と笑い声が漏れる。
「ははっ」
「真樹君何で笑うの?」
「千歌は変わってないなと思って」
「そんなことないよね? 曜ちゃん? どうしたのボーっとして」
「ううん。どの部屋が一番広いかなって」
「部屋割りかぁ。どうすっかな」
俺らが今日から住むマンションには部屋が3つある。一番広い部屋8畳が一つと6畳部屋が二つ。家賃は同じ額払うんだから広い部屋の方が得である。
「ならこれで決めない?」
千歌が出してきたのはどこでも売ってるようなトランプだ。
「3人でできるトランプといえば?」
「「うーん」」
俺の問いかけに二人がうなる。思いつきで行動するのは相変わらずのようだな。
「神経衰弱は?」
またまた懐かしさに浸っていると曜から提案が飛んできた。
「賛成。真樹君それ弱かったし」
「んじゃ適当のカード広げてくれ」
二人が結託するとまず覆らないのが昔からの決まりってやつだ。
千歌がリビングに備え付けてあるテーブルにカード並べる。
「できた」
「一応ルールの確認しておくか。やったのだいぶ前だし」
「ルール説明は私、渡辺曜にお任せであります」
びしっと敬礼のようなポーズを決めた曜が続ける。
「えっと、裏向きになっているカードから2枚めくって同じ数字なら自分のものにできて、違ったら次の人と交代。それを場のカードがなくなるまでやって1番もっていた人が勝ち。今回はカードの枚数順の広い部屋をまらえるってことでいいかな?」
「いいんじゃないか」
「なんか燃えてきたよー」
「じゃあ誰からめくる?」
「真樹君どうぞ」
「んじゃ遠慮なく。えい」
めくったのはジョーカー。白黒の不気味な恰好をした、しわがれた爺さんが微笑んでいる。
「なんか幸先悪いな」
「そうだね」
二枚目はスペースのエース。そろわず、順番が移る。
「で次はどっちだ?」
「ヨーソロー」
「あっ曜ちゃんずるい」
昔からの口癖とともにカードをめくる曜。めくれたのはダイヤの5。続けてカードをめくる。ハートの3。これもそろっていなかったので裏向きに戻す。
「じゃあ次は私の番だね」
千歌がカードをめくる。が、そろわず俺に番が回る。
「まだ揃いそうにないしまだめくってない端の方をめくろうかな。ってまたジョーカーかよ」
先ほどは白黒だった不気味爺さんが色がついてかえって来た。ありがたくジョーカーをめくる。
「幸先いいな。そろったしもう一回か」
めくるが連続ゲットとはならず、順番が回る。何度か繰り返し、最終的に俺26枚、曜18枚、千歌10枚という結果になった。
「なんでー。真樹君が千歌より強いってありえない。今までの人生の中で一番のショック」
なぜか本気で悔しがる千歌。
「そりゃ、いつまでもあほのままでいるわけないだろ」
文句を言う千歌に俺が勝ち誇りながら返す。
「そろそろ夕飯の時間だねぇー」
曜に言われてスマホで確認すると、そろそろ17時を回ろうとしている。今から買い出し調理をすれば19時ぐらいになるだろう。
「あーーーっ真樹君スマホ新しくしてるーっ」
俺のスマホを見るなり千歌が大声を出す。
「前のやつチャリに乗ってるときに落として砕け散ったからな」
「じゃ連絡先交換しよ」
「ああ」
「私も電話番号しか知らないからいい?」
「おう」
連絡先の交換を終え、話題は再び夕食に戻る。
「ひとまずメニューから決めようか」
「その前に真樹君は料理できるの?」
「一人暮らしのために覚えたからな、一応できる」
「どうせならみんなで行って買い物しながらメニュー決めない?」
「そだな。そっちのほうがいいな」
「じゃあいざスーパーへ」
「「おー」」
千歌の号令にオレと曜が乗っかる。やはり二人といると昔に戻ってしまうな。
財布とスマホをもって俺たちはスーパーへ向かった。
少し加筆&誤字修正しました。