Fate/cross silent   作:ファルクラム

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第15話「コンビネーション・エッジ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大地に垂直に突き立った、巨大な斧剣。

 

 見上げるような、その柄尻に降り立った魔法少女。

 

 吹き抜ける風に髪とマントを靡かせて、美遊は一同を見下ろしている。

 

 ヴェイクと狂戦士(バーサーカー)

 

 そして最後に響を見やると、

 

 美遊は深々とため息をついた。

 

「・・・・・・・・・・・・何してるの、響?」

 

 冷ややかな声。

 

 明らかに、非難交じりの視線が響へと向けられる。

 

 学校で田中から、響が1人でいるところを見たと聞き、妙な胸騒ぎを覚えた美遊。

 

 突き動かされるまま校内をくまなく探したが、響の姿は見つからなかった。

 

 クロやバゼットに聞いてみても知らないという。

 

 そこに来て、美遊は確信した。

 

 響は、エインズワースに1人で挑むつもりなのだ、と。

 

 思い返せば、以前にも似たようなことがあった。

 

 あれは夏休み前。ゼスト達にさらわれた美遊を奪還した響は、両親や美遊を巻き込まないよう、1人で戦いに赴こうとした。

 

 あの時は美遊が止めて一緒に戦ったが、今回も同じような結論を響が出したとしても不思議ではない。

 

 状況を理解した美遊は、取る物も取りあえず飛び出して来た。

 

 そしてルビーのナビゲートを頼りに駆け付けた美遊は、間一髪のところで響の危機を救ったのだった。

 

 とは言え、

 

 実際危なかった。後ほんの少し遅かったら、響はやられていたかもしれない。

 

 美遊としては、文句の一つも言わなければ収まらなかった。

 

「勝手にこんなことして。いったい何を考えているの?」

「・・・・・・・・・・・・別に」

 

 厳しい口調で言い募る美遊に対して、響は不貞腐れたようにそっぽを向いて言った。

 

「美遊には関係ない」

 

 口を尖らせる響。

 

 実際のところ、美遊をエインズワースに行かせないためにこのような手段に出た響だったが、

 

 しかし何といっても昨夜、あれだけの大喧嘩をやらかした後の事である。ばつが悪くて本当の事は言えなかった。

 

 と、

 

 そんな響の態度に、美遊の方も「カッチーン」と来る。

 

 折角助けてやったのに、その態度は無いだろう。

 

「関係ない事無いでしょうッ 響の身に何かあったら!!」

「だから関係ないって言ってるッ これくらい何でもないし!!」

「ボロボロでへばってるくせに、偉そうにしないで!!」

「へばってないしッ 美遊は眼科に行った方が良い!!」

 

 いつしか美遊は斧剣から飛び降り、響も立ち上がって美遊に詰め寄っていた。

 

「だいたい何? 昨夜は私に1人で行くなとか言っておいて、自分はこんな事して!!」

「昨夜の美遊なんかと一緒にされたくない」

 

 だんだん、ヒートアップする2人。

 

「意地っ張りッ!!」

「石頭!!」

「考え無し男!!」

「天然ボケ女!!」

 

 完全に、今の状況を忘れてしまっている2人。

 

 言葉の応酬も、どんどん低レベル化してきてる。

 

「「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」」

 

 殆ど鼻っ面がぶつかりそうな距離で睨み合う響と美遊。

 

 と、

 

「あのさー 君達・・・・・・・・・・・・」

 

 そんな2人に投げかける、苛立ち交じりの声。

 

 ヴェイクは面倒くさそうに頭をガリガリと掻くと、スッと手を翳した。

 

 同時に、触手が一斉に踊る。

 

「勝手にじゃれ合って無視するんじゃないよ!! この!! 僕をさあ!!」

 

 言い放つと同時に、一斉に触手を解き放つヴェイク。

 

 2人目がけて殺到する、無数の触手。

 

 響と美遊を絡め取るべく、不気味なうねりと共に迫る。

 

 次の瞬間、

 

「うるさい」

「邪魔」

 

 低い声で告げる響と美遊。

 

 交錯しながら迸る銀の閃光。

 

 途端に、全ての触手が斬り裂かれて消滅する。

 

 見れば、振り抜かれた響の手には刀が、美遊の手にはルビーが握られている。

 

 2人は互いに視線をそらさず、触手を斬り捨てて見せたのだ。

 

 何とも、まあ・・・・・・

 

 喧嘩していても息ぴったりな2人である。

 

「ん、しょうがない。先にあいつ、倒す」

「そうだね」

 

 頷きながら振り返る2人。

 

 雑音を黙らせない事には、落ち着いてケンカも出来なかった。

 

 何やらいろいろと間違っているような気はするが、そこは気にしない事にする。面倒くさいから。

 

 ともあれ、これで2対2、状況はイーブンだ。

 

 チームワークは激しく不安だが。

 

 次の瞬間、

 

 響と美遊は同時に地を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響が狙ったのは、狂戦士(バーサーカー)の方だった。

 

 先程までの戦いで、この英霊の特性は大体理解している。今度は負けないだけの自信があった。

 

 対して狂戦士(バーサーカー)の方も、接近する響を迎え撃つべく方天画戟を構える。

 

 袈裟懸けに振るわれる長柄の得物。

 

 その一撃を、響はひらりと跳躍して回避する。

 

 浅葱色の疾風が宙を舞う。

 

 すぐ横のブロック塀を、強烈に粉砕する狂戦士(バーサーカー)

 

 その様を、眼下に見据える響。

 

 既に刀の切っ先を向け、攻撃態勢は整えている。

 

 魔力で空中に足場を作り、突撃のタイミングを計る。

 

 狂戦士(バーサーカー)は攻撃直後で動きが硬直している。今なら仕留められるはず。

 

 だが狂戦士(バーサーカー)もさるもの。

 

 絶大な筋力に物を言わせて方天画戟を強引に引き戻すと、上空の響めがけて振り翳す。

 

 次の瞬間、

 

 響は空中を蹴って加速。一気に狂戦士(バーサーカー)に斬りかかった。

 

 急降下で加速する少年。

 

 その速度たるや、殆ど流星落下に等しい。

 

 目測を誤り、響を捉え損ねる狂戦士(バーサーカー)

 

 その刹那、銀の閃光が走る。

 

 狂戦士(バーサーカー)よりも一瞬早く、響は彼に斬りつけたのだ。

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

 雄たけびを上げる狂戦士(バーサーカー)

 

 同時に、着込んでいる甲冑は斬り裂かれ、鮮血が噴き出るのが見えた。

 

 傷は、浅い。

 

 だが、

 

 ここに来て初めて、響の攻撃が狂戦士(バーサーカー)に傷を負わせたのは確かだった。

 

「まだッ!!」

 

 叫ぶと同時に振り返り、刀を返す響。

 

 その体の回転運動をそのまま刃に乗せて振りぬく。

 

 だが、柳の下にドジョウは2匹いない。

 

 響の刃は、寸前で回避行動を取った狂戦士(バーサーカー)を捉える事無く空を切った。

 

 と、思った。

 

「甘いッ」

 

 低く呟くと同時に、刀を狂戦士(バーサーカー)に突き立てる。

 

 相手がこちらの動きを呼んで対応するなら、こちら更にその上を行くまで。

 

 スキル「無形の剣技」を如何無く発揮して、響は狂戦士(バーサーカー)を逆に追い詰めていく。

 

 響の刃を受け、鮮血を巻き散らしながら後退する狂戦士(バーサーカー)

 

 対して、響は息つく暇もなく追撃を仕掛けた。

 

 

 

 

 

 一方、美遊もまた、ヴェイクを相手に戦闘を開始していた。

 

 手にしたルビーを振るい、魔力弾を放つ美遊。

 

 向かってくるヴェイクの触手を、的確に撃ち落としていく。

 

 出現した異界の魔物は、美遊の攻撃の前に成す術もなく吹き飛ばされる。

 

「ハッ!!」

 

 そんな美遊に、嘲笑を投げかけるヴェイク。

 

「棚から牡丹餅だね!! まさかこんな所で君に会えるなんてさ!!」

 

 叫びながら、ヴェイクは触手を繰り出す。

 

「このまま縛り付けて、城まで連れて行ってあげるよ!!」

 

 四方八方から迫る触手。

 

 その様を見て、ヴェイクは口元に笑みを浮かべる。

 

「君たちの弱点は既に研究済みさッ その姿での魔術は確かに強力だが、反面、小回りが利かず接近戦に弱い!!」

 

 四方八方から迫る触手。

 

 どうやら、砲撃では対応できないだけの触手で包囲し、一斉に襲い掛からせるつもりのようだ。

 

「さあ、これで僕の一番手柄は決定だッ!!」

 

 ヴェイクが意気を上げた。

 

 次の瞬間、

 

「・・・・・・クラスカード『槍兵(ランサー)』、限定展開(インクルード)

 

 静かな声と共に、美遊の手に朱色の槍が出現する。

 

 ケルトの大英雄、光の御子「クー・フーリン」が愛用した槍。

 

 その一閃が、たちまち群がる触手を斬り捨てた。

 

 ヴェイクは魔法少女(カレイド・ライナー)の弱点を把握していると自慢げに言っていたが、当然ながらその程度の事、美遊はとっくに把握している。

 

 弱点が判っているなら、それを補えばいいだけの話である。幸いなことに、それが可能な武器(カード)は手元にあるのだから。

 

 槍兵(ランサー)騎兵(ライダー)のカードは本来、バゼットが管理する物である。しかし昨夜の作戦会議の後、バゼットから一時的なクラスカード返還の申し出があった。

 

 現状、クラスカードを最も有効に扱えるのは美遊である。ならば、残っているカードはまとめて美遊が持ていた方が効率が良いだろう。と言う判断である。

 

 バゼットらしい、戦術に基づいた効率的な判断と言える。

 

 ただし、弓兵(アーチャー)のカードはクロの中にある事に加え、万が一のことを考えて剣士(セイバー)のカードは響が持つ事になった。

 

 その為、美遊の手元にあるのは槍兵(ランサー)騎兵(ライダー)魔術師(キャスター)狂戦士(バーサーカー)暗殺者(アサシン)の5枚となる。

 

 美遊は器用な手つきで槍を回転させると、その穂先を真っすぐにヴェイクへと向ける。

 

 そんな少女の姿に、苛立ちを募らせるヴェイク。

 

「この、往生際がァ!!」

 

 更なる触手を召喚して美遊に襲い掛かる。

 

 だが、結果は全て同じだった。

 

 縦横に奔る緋色の斬線。

 

 美遊の振るう槍を前に、全ての触手が斬り裂かれる。

 

「クッ!?」

 

 舌打ちしながら本のページをめくり、更なる触手を召喚しようとするヴェイク。

 

 だが、

 

「やらせないッ!!」

 

 距離を詰める美遊。

 

 手にした槍の穂先を、真っすぐにヴェイクへと向ける。

 

「貰ったッ!!」

 

 穂先が突き込まれる。

 

 だが、

 

「舐めるなよ!!」

 

 あがきとばかりに魔力弾を放つヴェイク。

 

 だが、それすら美遊は、手にした槍で弾いて見せる。

 

 もはや、ヴェイクを守る物は何もない。

 

「とどめッ!!」

 

 凛とした声と共に、槍を繰り出す美遊。

 

 その姿に、ヴェイクは顔を引きつらせる。

 

「う、うわァァァ や、やめてくれェェェェェェ!?」

 

 悲鳴を上げるヴェイク。

 

 対して、構わず美遊は槍を突き込もうとした。

 

 だが、

 

「・・・・・・な~んちゃって」

 

 下卑た笑みを浮かべると同時に、

 

 ヴェイクは至近距離で触手を召喚し、一気に美遊に群がらせた。

 

「なッ!?」

 

 これには、さすがの美遊も対応が追い付かない。

 

 少女の姿は、魔物の中に飲み込まれてあっという間に見えなくなってしまった。

 

「バァァァァァァカッ そんな単純な攻撃に僕がやられるはずないだろッ もっと頭を使いなよ!!」

 

 ゲラゲラと嘲笑するヴェイク。

 

 美遊が接近する事を見越して、予め罠を張っていた。

 

 そして少女が自分を攻撃範囲に捉えた瞬間、一気に罠を発動させて美遊を捕えたのだ。

 

「アハハハハハハッ ちょろいもんだよ。所詮はガキだよね!! この天才の僕に勝てる訳ないだろ!!」

 

 高らかに笑い、自身の勝利を確信するヴェイク。

 

 次の瞬間、

 

「ッ!?」

 

 強烈な殺気を感じ、思わず振り返る。

 

 果たして、

 

 そこには、美遊がいた。

 

 漆黒のレオタードに身を包み、頭には髑髏の面を付けた少女は、手にしたナイフで斬りかかった。

 

 暗殺者(アサシン)ハサン・ザッバーハの姿になった美遊。

 

 そのナイフが、容赦なくヴェイクを斬りつける。

 

「う、ウワァァァァァァァァァァァァ!?」

 

 今度は演技でもなんでもなく、本気で悲鳴を上げて倒れるヴェイク。

 

 その頬が僅かに斬り裂かれ、鮮血が飛び散っていた。

 

 ヴェイクは美遊を舐め切って戦っていたが、こと頭脳戦では、彼よりも美遊の方が一枚上手だった。

 

 ここまでの戦いで、散々卑怯な手を使ってきたヴェイクの性格を読み切り、美遊は予め暗殺者(アサシン)夢幻召喚(インストール)する準備をして戦っていたのだ。

 

 そしてヴェイクが美遊の至近距離で触手を召喚した瞬間に夢幻召喚(インストール)

 

 同時に宝具「妄想幻像(ザバーニーヤ)」を使用して分身を作り出すと、自身はヴェイクの背後に回り込んで奇襲を掛けたのだ。

 

 ナイフを構える美遊。

 

 その姿に、ヴェイクは怒りを募らせていく。

 

 何もかも、自分の思い通りにいかない。

 

 その事が、ヴェイクを苛立たせる。

 

「・・・・・・・・・・・・人が大人しくしてりゃ付け上がりやがって」

 

 絞り出すような声で言いながら、本のページをめくる。

 

「この僕を、舐めるなァ!!」

 

 更なる触手を召喚しようと魔力を込めた。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 低く囁かれる言葉。

 

 とっさに振り返るヴェイク。

 

 だが、

 

 ザンッ

 

 振り下ろされた斬撃が、ヴェイクの背中を斜めに斬り裂いた。

 

 響である。

 

 いつの間に接近したのか、少年はヴェイクの背後から斬りかかっていた。

 

 その身に羽織っていた筈の「誓いの羽織」は脱ぎ捨て、黒衣の姿をしている響。

 

 響は「誓いの羽織」を纏う事で、暗殺者(アサシン)剣士(セイバー)の特性を入れ替える事ができる。

 

 単純な戦闘力では、剣士(セイバー)の方が暗殺者(アサシン)よりも上である。

 

 しかし暗殺者(アサシン)剣士(セイバー)に比べて、隠密性に優れている。

 

 今回、あえて羽織を脱ぐ事によって暗殺者(アサシン)の能力を前面に出した響は、美遊への攻撃で完全に頭に血を上らせていたヴェイクに奇襲を掛けたのだ。

 

 対峙していた狂戦士(バーサーカー)は、強引に振り切って来た。まさに、速度差に物を言わせた作戦である。

 

「馬鹿・・・・・・な・・・・・・この、僕が、こんな、奴ら、に・・・・・・・・・・・・」

 

 血を吐き出して倒れるヴェイク。

 

 それを見届けた後、

 

 間髪入れずに美遊は動いた。

 

上書き(オーバーライト)夢幻召喚(インストール)!!」

 

 叫ぶと同時に取り出したのは、騎兵(ライダー)のカード。

 

 光が少女の姿を包み込んだ。

 

 方天画戟を振り下ろす狂戦士(バーサーカー)

 

 だが、

 

 小さな影が、その巨体を軽業師のように飛び越えるのが見えた。

 

 同時に、その狂戦士(バーサーカー)の体に、幾重にも鎖が巻き付いて拘束する。

 

 肩に、腕に、足に、胴に、武器に、鎖は蛇のように巻き付いていく。

 

 見上げれば、宙返りをする美遊の姿。

 

 その姿は再び変じ、黒いミニスカート風の衣装を着込み、両の双眸は眼帯で覆っている。

 

 クラスカード「騎兵(ライダー)」。

 

 その真名はメデューサ。

 

 ギリシャ神話に高き怪物をその身に宿した美遊は、軽やかな敏捷性を示している。

 

 手に握った長い鎖が、狂戦士(バーサーカー)を雁字搦めに拘束している。

 

 着地すると同時に、美遊は鎖をしっかりと握りしめて拘束を強める。

 

 動きを止める狂戦士(バーサーカー)

 

 とは言え、たとえ英霊化しても筋力において騎兵(みゆ)は、狂戦士(バーサーカー)にはかなわない。

 

 相手が全力を振るえば、この程度の拘束などあっという間に解いてしまう事だろう。

 

 事実、狂戦士(バーサーカー)は全身に力を入れて拘束を解こうとしている。ちょっとでも力を抜けば、美遊の小さな体は放り投げられてしまう事だろう。

 

 このままいけば狂戦士(バーサーカー)は、あと数秒で自由を取り戻す事になる。

 

 だが、

 

 元より美遊も、初めから力比べをする気は無い。

 

 拘束したのは、あくまで時間稼ぎだった。

 

「響ッ!!」

 

 相棒に合図を送る美遊。

 

 その視線の先では、

 

「ん」

 

 小さな頷きと共に、刀の切っ先を狂戦士(バーサーカー)に向けて構えた響の姿があった。

 

「これでッ」

 

 地を蹴る響。

 

 一歩、

 

 少年の姿は加速する。

 

 二歩、

 

 その姿が霞む。

 

 三歩、

 

 音速を超える。

 

 そして、

 

 獰猛な狼は、牙を剥いた。

 

「餓狼・・・・・・一閃!!」

 

 突き出される強烈な刺突。

 

 比類なき、狼の牙。

 

 その一閃が、狂戦士(バーサーカー)の胸元へ、叩き込まれた。

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

 苦し気に雄叫びを上げる狂戦士(バーサーカー)

 

 飛び散る鮮血。

 

 明らかな大ダメージ。

 

 「誓いの羽織」有りの状態ではなかった為、本来の威力には届かない。

 

 しかし、響と美遊の連携攻撃は、確実に狂戦士(バーサーカー)に致命傷を与えたのは間違いなかった。

 

 対して狂戦士(バーサーカー)は、

 

 致命傷を押して尚、一歩踏み出そうとして、

 

 轟音と共に、前のめりに倒れた。

 

 轟音と共に地に倒れ伏す巨体。

 

 その姿を見て響と美遊は、互いに手を掲げ

 

 パァン

 

 ハイタッチを重ねた。

 

 まさに、見事としか言いようがない、高レベルな連携攻撃。

 

 長く、共に戦ってきた響と美遊だからこそ、成す事の出来た技である。

 

 互いに笑顔を交わす、響と美遊。

 

 と、そこで、

 

 ハッと顔を見合わせると、互いにばつが悪そうにそっぽを向いた。

 

 お互いに絶交中だと言う事を思い出したのだろう。

 

 何とも気まずい。

 

 だが、

 

 響と美遊が、互いに連携を駆使して、エインズワース()に打ち勝ったのは紛れもない事実だった。

 

 そして、

 

 紛れもなく、この世界に来て初めて、響達はエインズワース側に勝利したのだった。

 

「美遊・・・・・・・・・・・・」

 

 背中越しに、そっと語り掛ける響。

 

「簡単に諦めちゃ、駄目」

「・・・・・・・・・・・・」

「諦めなければ、きっと希望はある」

「響・・・・・・・・・・・・」

 

 そこでようやく、美遊はなぜ、響がこんな無謀な事をしたのか、思い至った。

 

 響は美遊に分からせたかったのだ。

 

 自分達でも敵に勝てる事を。

 

 諦める必要なんてどこにもない事を。

 

 響は、それを証明する為に、あえて敵に挑んだのだ。

 

「・・・・・・ほんとに、バカ」

 

 言いながら、

 

 美遊は笑みを浮かべる。

 

 嬉しかった。

 

 正直、美遊の心は折れかけていた。

 

 兄と親友を捕えられ、強大な戦力を有するエインズワースに対し、降伏してしまおうと本気で考えていた。

 

 だが、

 

 そんな弱気の淵に沈もうとしていた美遊を、響が救ってくれたのだ。

 

「ありがとう、響」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 美遊の言葉に、響はそっぽを向いたまま鼻の頭を掻く。

 

 何となく、顔を合わせるのは照れ臭かった。

 

 と、その時だった。

 

「クッ・・・・・・よく、も・・・・・・・・・・・・」

 

 絞り出すような声が、聞こえてくる。

 

 見れば、響に斬られて倒れたはずのヴェイクが、怒りの形相でこちらを睨みつけていた。

 

「よくも・・・・・よくも・・・・・・よくもよくもよくもよくもォォォォォォ クズの分際で、この僕を、コケにしてくれたなァァァァァァ!!」

 

 口から鮮血を撒き散らしながら喚くヴェイク。

 

 対して、

 

 響は美遊を背に庇うようにして刀の切っ先をヴェイクに向ける。

 

 ヴェイクの身体からは、尚も鮮血が零れ落ちている。響の先程の攻撃が功を奏している証だった。

 

「まだやる気?」

「うるさいうるさいうるさいッ!!」

 

 冷ややかに問いかける響に対し、ヴェイクは苛立たし気に叫ぶ。

 

 既に勝負はついている。ヴェイクはどう見ても、これ以上戦える状態ではない。

 

 にも拘らず、退く気は無い様子だった。

 

「ここまで舐められて、終われるかよォォォォォォ!!」

 

 常の余裕ぶった態度をかなぐり捨て、狂ったように喚くヴェイク。

 

 対して、響は斬り込むタイミングを計る。

 

 今のヴェイクなら、簡単に討ち取れるはず。

 

 その姿を見て、ヴェイクは更に怒りを募らせる。

 

「舐ァめェるゥなァァァァァァ!!」

 

 高まる魔力。

 

 そのまま暴発する前に斬る。

 

 そう思って響が前に出ようとした。

 

 その時、

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 低く告げられる声と共に、ヴェイクの首元に、銀色の刃が押し当てられた。

 

 その様に、響とヴェイクは同時に動きを止める。

 

 いつの間に現れたのか、

 

 シェルドは長い大剣を手にして、そこに立っていた。

 

「・・・・・・・・・・・・邪魔しないでよ。これから面白くなるところだったんだからさ」

 

 不満そうに告げるヴェイク。

 

 だが、シェルドは取り合わずに返す。

 

「お前の勝手な行動で、我々の計画は狂いつつある。これ以上は、ダリウス様が黙ってはいないだろう」

「・・・・・・・・・・・・チッ」

 

 ダリウスの名前を出され、舌打ちするヴェイク。

 

 いかに彼でも、自分達の当主相手に逆らう事は出来なかった。

 

 次いで、シェルドは響達を見やる。

 

「貴様らの奮闘に免じて、今日のところは退いてやる。せいぜい、首を洗って待っていろ」

「逃げるの?」

 

 ことさら冷ややかに問いかける響。

 

 その問いに含まれる要素の半分は挑発。

 

 そして、もう半分は虚勢だった。

 

 現状、優勢なのは間違いなく響と美遊の方だ。ヴェイクも狂戦士(バーサーカー)も既に地に伏しているのに対し、響も美遊も、まだ十分に戦闘力を維持している。勝機は十分にあるだろう。

 

 半面、シェルドに対する対策はいまだに確立されていない。あの無敵性を相手に、正面から戦いを挑むのは無謀だった。

 

「慌てるな」

 

 低く呟くと、さっと手を翳すシェルド。

 

 それだけで、地に伏していたヴェイクと狂戦士(バーサーカー)の姿は消え去ってしまった。

 

 息を呑む、響と美遊。

 

 置換魔術を使って空間を繋げ、他の場所へと転移させたのだ。恐らく、彼らの居城へと。

 

 同時に、シェルド自身の姿も消えていく。

 

「お前とは、いずれ必ず決着を着ける。その時まで、力を蓄えておけ」

 

 不吉な言葉を残し、姿を消すシェルド達。

 

 後には、立ち尽くす響と美遊だけが残されるのだった。

 

 しかし、

 

「・・・・・・・・・・・・勝った」

 

 ポツリとつぶやく響。

 

 ヴェイクと狂戦士(バーサーカー)は倒し、

 

 そしてシェルドは撤退した。

 

 戦い終わった戦場に立つのは、響と美遊の2人だけ。

 

 紛う事無き初勝利だった。

 

 顔を見合わせる、響と美遊。

 

「・・・・・・あは」

「ふふ」

 

 自然と、笑みが浮かぶ。

 

 何やら、つい先ほどまで大喧嘩していたとは思えないほど、互いに晴れやかな気持ちになっていた。

 

 と、

 

「おーいッ ヒビキー!! ミユー!!」

「2人とも、無事ですか!?」

「ふいー お腹が切ないですー」

 

 2人の姿を見つけて駆け寄ってくる姿。

 

 クロとバゼット、それに田中だ。

 

 そんな仲間たちの姿に、

 

 響と美遊は、揃って手を振るのだった。

 

 

 

 

 

第15話「コンビネーション・エッジ」      終わり

 


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