Fate/cross silent   作:ファルクラム

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第38話「異界からの追跡者」

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女は闇の中にいた。

 

 あらゆる光を平らげ、音すらも呑み込んだ真なる闇の世界。

 

 それは、少女を呑み込んだ絶望。

 

 二度と日の当たらぬ牢獄。

 

 自分はもう、ここから出る事は叶わない。

 

 なぜならここが、

 

 こここそが、少女の本来の居場所なのだから。

 

 かつて聖杯として生まれ、全ての望みを叶える能力を持って生まれてしまった少女。

 

 望めば、あらゆるものが手に入ったはずの少女。

 

 だが、その奇跡とも言える能力と引き換えに、少女は他の全てを失った。

 

 運命の闇に繋がれ、光を奪われた少女。

 

 だが、もう良い。

 

 もう、良いんだ。

 

 自分はもう、充分だ。

 

 

 

 

 

『美遊がもう、苦しまなくても良い世界になりますように』

『やさしい人たちに出会って・・・・・・』

『笑い合える友達を作って・・・・・・』

『あたたかでささやかな幸せを掴めますように』

 

 

 

 

 

 かつて、そう言って自分を送り出してくれた兄がいた。

 

 お兄ちゃん。

 

 ありがとう。

 

 お兄ちゃんのおかげで、たくさんの楽しい思い出ができたよ。

 

 初めて来た世界。

 

 見知らぬ場所。

 

 最初は不安だった。

 

 けどそれは、本当に最初だけだった。

 

 温かい人たちに、出会えた。

 

 心地よい居場所も貰った。

 

 そして、

 

 友達もできた。

 

 彼らと一緒に楽しい時間を過ごせた。

 

 学校に行った。

 

 買い物に行った。

 

 温泉に行った。

 

 海にも行った。

 

 それに、

 

 デート、もした。

 

 ありがとう。

 

 ありがとう、イリヤ。

 

 ありがとう、響。

 

 たくさん、

 

 たくさん楽しい事ができた。

 

 あなた達の事は、ぜったいに忘れない。

 

 たとえ、この闇の牢獄に一生囚われる事になったとしても。

 

 絶対に忘れない。

 

 だから、

 

 さよなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『美遊ッ!!』

『ミユッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不意に、名前を呼ばれる。

 

 胸がざわつく。

 

 ありえない。

 

 まさか、

 

 そんな、

 

 聞こえるはずなんてない。

 

 2人の声が、

 

 今の自分に聞こえるなど・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 目を開く。

 

 光が、見えた。

 

 自身を覆っていた闇は払われ、飛び込んでくる、暖かな光。

 

 その視線の先では、

 

 一振りの剣を、共に握った少年と少女の姿。

 

 ああ、あれは・・・・・・

 

 あれこそは・・・・・・

 

 2人の雄姿が霞む。

 

 イリヤ、

 

 そして響。

 

 美遊を取り戻すため、命を掛けて戦った2人の姉弟達が今、

 

 美遊に向けて笑顔を見せていた。

 

 響も、

 

 そしてイリヤも、見るからにボロボロで、立っているのもやっとであるのが分かる。

 

 ああ、

 

 自分なんかの為に、

 

 あんなになるまで戦ってくれるなんて。

 

「泣いているとこ、初めて見た」

「ん、そだね」

 

 言われて美遊は、自分が泣いている事に気付いた。

 

 頬を伝う涙。

 

 熱い感触のある滴は、とめどなく溢れて流れていく。

 

 響もイリヤもボロボロである。

 

 最強最後の切り札と言うべき「約束された勝利の剣(エクスカリバー)」を最大開放し、世界を斬り裂くほどの剣を押し返したのだ。

 

 勝った方も、無傷である訳が無かった。

 

 だが、

 

 そんな事は関係なかった。

 

 大切な親友を助ける。

 

 その為だったら、何度だって、誰が相手だって命を掛ける。

 

 それこそが、響とイリヤが持つ、確固たる信念だった。

 

 

 

 

 

 そんな中、

 

 ギルもまた、あふれ出た泥の中から身を起こしていた。

 

 とは言え、自身の最大の攻撃を弾き返されたうえ、「約束された勝利の剣(エクスカリバー)」をまともに受けたのだ、こちらはより以上にダメージが大きい。

 

 渾身の力を振り絞っても、もはや立ち上がる事すらできないでいる。

 

 最強の英霊たる少年は、もはや動く事すらままならない有様だった。

 

「ハハッ・・・・・・・・・・・・」

 

 ギルの口から、乾いた笑みがこぼれた。

 

「まさか、エアが撃ち負けるなんてね・・・・・・」

 

 天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)は、ギルにとって最大最強の切り札である。本来であるならば、並の敵相手に撃ち負けるような事はあり得ない。

 

 慢心は無かった。

 

 むしろ全力以上に全力だったと言って良い。

 

 その証拠に、ギルの頭上では、空が十字に斬り裂かれているのが見える。あれはエアを全力で放った影響だった。空間その物が、衝撃で裂けているのだ。

 

 だが、

 

 イリヤ、そして響。

 

 世界を割るほどの攻撃を放って尚、あの2人はギルを上回って見せたのだ。

 

 チラッと、傍らに目をやるギル。

 

 そこには、弓兵が描かれた1枚のカードが落ちている。

 

 弓兵(アーチャー)のカード。すなわち、ギル自身のカードである。

 

「・・・・・・・・・・・・もう1人の僕も、とうとうカードになっちゃったか」

 

 乾いた口調で言いながら、ギルはそのまま地面に大の字になって横たわる。

 

 同時に、心地よい気だるさが、少年の体を包み込んだ。

 

「ま、半身だけでも受肉できたんだ。これで良しとするかな」

 

 さばさばした口調。そこに蟠りは見られない。

 

 負けはしたものの、諦念にも似た心地よい感情がギルの中にはあった。

 

「あー・・・・・・疲れた」

 

 ギルは最後にそう呟くと、心地よい微睡に身を委ねた。

 

 

 

 

 

 仲間たちが駆け寄ってくるのが見える。

 

 クロが、

 

 凛が、

 

 ルヴィアが、

 

 バゼットが、

 

 皆、焦慮の表情を浮かべている。

 

 みんな、囚われた美遊の身を案じていたのだ。

 

 そして、彼女も。

 

《美遊様ッ!!》

 

 叫びながら飛び出してきたのはサファイアだ。

 

 姉のルビーと融合する事で、イリヤのツヴァイ・フォームを完成させたサファイア。

 

 そのルビーとの融合を解除した事で、イリヤのツヴァイ・フォームも同時に解除され、元のカレイド・ルビーへと戻る。

 

 サファイアはそのまま真っすぐに、美遊の胸へと飛び込んでいった。

 

《美遊様ッ ひどいです!! わたしを置いていくなんて!!》

「サファイア・・・・・・・・・・・・」

 

 珍しく、美遊をとがめるような口調のサファイア。

 

 それも、無理からぬことだろう。ある意味、この中で最も美遊の身を案じたのは、彼女かもしれなかった。

 

 と、

 

「あ・・・・・・・・・・・・」

「ヒビキッ!!」

 

 倒れそうになった響を、傍らのイリヤがとっさに掴んで支える。

 

 同時に、握っていた聖剣も少年の手から滑り落ち、乾いた音共に地面へと転がった。

 

「大丈夫、ヒビキ?」

「ん、何とか・・・・・・・・・・・・」

 

 答えたものの、明らかに「大丈夫」ではない事は明白だった。

 

 地下空間での戦闘、ルリアとの決戦、そして先の異形と化したギルとの激突。

 

 限界など、とうに超えている。

 

 魔力は尽き、それを補うための並列夢幻召喚(パラレル・インストール)。さらに聖剣解放まで行っている。

 

 正直、今すぐ倒れてもおかしくは無かった。

 

 限界と言えば、反則技に近いツヴァイ・フォームを行使したイリヤも同様である。

 

 全身の神経や筋、リンパ節はボロボロ。いかに自動回復が可能なルビーの能力をもってしても、一朝一夕ではどうにもならない、今のイリヤは傷ついている。

 

「まったく、無茶するわ」

 

 呆れ気味に告げるクロ。

 

 嘆息気味に見せるその表情には、死力を絞りつくした弟妹への労いが見て取れた。

 

 とは言え、そういう彼女もまた、イリヤとの痛覚共有によって、ダメージがそのままフィードバックしている状態である。

 

 この場にいる全員が、文字通りの満身創痍。

 

 まさに死力を振り絞った上での勝利だった。

 

「ごめんなさい・・・・・・・・・・・・」

 

 美遊が、消え入りそうな声で告げた。

 

 一同の視線が集中する。

 

 並行世界。

 

 魔術の世界では既に存在が確認されているという話だが、実際にそこから来た人間に会うとは思いもよらなかったことである。

 

「本当は、もっと早く言うべきだった・・・・・・そうしたら、イリヤも、響も、こんな事には・・・・・・・・・・・・」

 

 俯きながら告げる美遊。

 

 自分の秘密を知られたくない。

 

 秘密を知ったイリヤや響に嫌われたくない。

 

 そんな自分の、浅はかな思いが、この事態を引き起こしてしまった。

 

 美遊はそう思っているのだ。

 

 だが、

 

「ん、別に、気にしてない」

 

 イリヤに支えられたまま、響は事も無げに告げる。

 

 驚く美遊に、響は続けた。

 

「言わなくても良いって、前に言ったの、こっちだし・・・・・・」

「響・・・・・・でも・・・・・・」

「ヒビキの言うとおりだよ」

 

 言い募ろうとする美遊を制して、今度はイリヤが口を開いた。

 

「ホント言うと私も、ミユが何か大きな秘密を抱えてるってわかってた。分かってたけど、踏み込めなかったんだ。その秘密を聞いてしまったら、もう元の関係には戻れないんじゃないかって思って・・・・・・」

「イリヤ・・・・・・・・・・・・」

「けど、もう逃げない。ミユは私の友達。友達が苦しんでいるなら、もうほっとかない。だから、ミユもこれ以上、1人で思い悩まないで。あなたは、1人じゃないんだから」

 

 イリヤの言葉に、皆が頷きを見せる。

 

 想いも、

 

 立場も、

 

 全てを超えて、この場にいる全員が、心を一つにしていた。

 

 そうだ、悩む必要なんて何もない。

 

 何か問題が起きても、こんなにも多くの仲間達が支えてくれるのだから。

 

 そう言って笑顔を見せるイリヤ。

 

 そんなイリヤに対し、ルビーが茶化すように口を開いた。

 

《あらあらイリヤさん。そんな事言っちゃって良いんですか? 絶対ひっぱたいてやるんじゃなかったんですかー?》

「あはは、まあ、そのつもりだったんだけど・・・・・・こんな顔見ちゃったら、ねえ?」

《響さんもですよー お尻ぺんぺんするんじゃなかったんですか~? 何なら手伝いますよ》

「・・・・・・空気読め」

 

 KYヒトデにツッコミを入れる響。

 

 その視線が、美遊と重なる。

 

 間に流れる、微妙な空気。

 

 美遊は少し頬を染めて、視線を逸らす。手はそっと背中に回し、自分のお尻を庇うように隠す。

 

「その・・・・・・響が望むなら・・・・・・」

「いや、しないから」

 

 恥ずかしそうに俯きながら告げる美遊に対し、響も少し顔を赤くしてツッコミを入れる。

 

 何を言っているのか、この石頭娘は。

 

 そんな2人のやり取りによって、空気が僅かに和むのを感じる。

 

 戦い終わって、場の空気が緩やかになり始めていた。

 

「まあまあ、積もる話はまたにしよう。今夜はさすがに疲れたよ」

「まったくね。帰って眠りたいわ」

 

 イリヤの嘆息に、クロも同調するように息をつく。

 

 戦いに次ぐ戦いの連続で、誰もがフラフラである。

 

 今後の事もいろいろと考えなくてはいけないが、まずは帰って休みたかった。

 

「ん、帰ろ、美遊」

 

 そう言って手を差し出す響。

 

 対して、

 

「・・・・・・・・・・・・うん」

 

 涙をぬぐい、笑顔で頷く美遊。

 

 その手を、少年の方へと延ばした。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天を埋め尽くす雷が、闇を斬り裂いて一斉に降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 降り注ぐ万雷。

 

 視界全てを白色に灼く閃光。

 

 強烈な衝撃が、一同の頭上から容赦なく襲い掛かった。

 

 その圧倒的とも言える質量を前に、

 

 その場にいた全員が、地に倒れ伏した。

 

「な、何がッ!?」

 

 驚愕するイリヤ。

 

 彼女だけではない。

 

 響も、美遊も、クロも、凛も、ルヴィアも、バゼットも、

 

 突然の雷撃に誰もが身動きを取れないでいる。

 

 そして、この少年も、

 

「馬鹿な・・・・・・・・・・・・」

 

 突然の事態に目を覚ましたギルは、天を見上げてうめき声をあげる。

 

 その視線の先にあるのは、先の戦いによる爪痕。

 

「エアの斬り裂いた世界の裂け目から・・・・・・・・・・・・」

 

 雷は、天空に開いた裂け目から迸っている。

 

 エアは世界を斬り裂くほどの力を秘めた剣。

 

 その剣によって付けられた裂け目。

 

 つまり、あの裂け目の向こうは今、別の世界とつながっている事になる。

 

 その事実が表すところは即ち・・・・・・・・・・・・

 

「まさかッ・・・・・・・・・・・・」

 

 最悪の可能性が脳裏を霞める。

 

 そのギルの危惧を肯定するように、

 

 雷降り注ぐ天の裂け目から、飛び出してきた3つの人影。

 

 そのうち1体が、地に足を付ける。

 

 その足下にある、弓兵(アーチャー)のカード。

 

 

 

 

 

夢幻召喚(インストール)

 

 

 

 

 

 迸る衝撃。

 

 馬鹿なッ

 

 なぜ、その詠唱が出てくる?

 

 一同が驚愕する中、

 

 「それら」は姿を現した。

 

 男が1人、女が2人。

 

 銀の甲冑に、巨大な剣を持った、静かな目付きの男。

 

 金色の鎧を身に着けた、豊満な肉体を持つ女。

 

 蛮族のような露出の多い恰好に、更に巨大な槌を担いだ小柄な少女。

 

 こいつらはいったい何者なのか?

 

 だが、一同の戸惑いを無視して、槌を持った少女が口を開いた。

 

「はン!?」

 

 面白くなさそうに鼻を鳴らしながら、地に伏した一同を見やる。

 

「ようやく見つけたと思ったら、何か余計なおまけがウジャウジャいるんですけどー?」

「捨て置け。今は最優先対象のみを回収する」

 

 淡々とした声で答えたのは、金色の甲冑を着た女である。

 

 その鋭い視線を倒れている少女に向けると、ゆっくりした足取りで近づいていった。

 

 その眼下に倒れ伏しているのは、

 

 美遊だ。

 

「お迎えに上がりました、美遊様」

「ッ!?」

 

 息を呑む美遊。

 

 そして一同。

 

 こいつらは美遊の事を知っている。

 

 それはつまり・・・・・・・・・・・・

 

「いッ・・・・・・イヤ・・・・・・戻りたく・・・・・・ないッ」

 

 絞り出すような美遊の声。

 

 その心が、内より湧き出る恐怖によって縛られていく。

 

 対して、金色の女は感情の動きを一切見せないまま、淡々とした口調で言った。

 

「・・・・・・そんな口が利けるようになるとは・・・・・・ですが、バカンスはもう、おしまいです」

 

 冷酷に告げられる言葉。

 

 同時に、天空の裂け目がさらに光を増して広がっていく。

 

 あの先にある世界。

 

 それは、美遊が元いた世界。

 

 と、

 

 大槌を持った少女が、乱暴に美遊の首元を蹴りつけた。

 

「うあッ!?」

 

 その乱暴な一撃に、美遊の意識は一瞬にして刈り取られた。

 

「ったく、面倒臭ェな。手間取らせんなよ」

「粗末に扱うな馬鹿者。中身がこぼれでもしたらどうする?」

 

 咎めるように言いながら、美遊を抱き上げる金色の女。

 

 こちらは扱いこそ丁寧だが、問答無用で美遊を連れ去ろうとしていた。

 

「はいはい、まァ 小言は向こうに戻ってからでもいいっしょ。ホラ・・・・・・」

 

 見上げる空から、光が降り注ぐ。

 

「『揺り戻し』だ」

 

 言った瞬間、

 

 光がその場にいた全員を光が包み込んだ。

 

 視界が、あっという間に白く染め上げられていく。

 

 そんな中、

 

 美遊を連れた3人が、踵を返すのが見えた。

 

 美遊が、

 

 このままじゃ美遊が、連れ去られてしまう。

 

 顔を上げる響。

 

 許さないッ

 

 絶対に!!

 

 傍らに落ちている聖剣を掴む。

 

 起き上がる。

 

 ただそれだけで、全身の筋が、骨が、強烈に悲鳴を上げる。

 

 だが、構わない。

 

 たとえ五体が断絶しようとも、

 

 絶対に、美遊を助ける!!

 

 美遊を抱えた金色の女に斬りかかる響。

 

 その剣閃が、真っ向から振り下ろされた。

 

 次の瞬間、

 

 強烈に払われた刃が、聖剣を打ち払う。

 

「やらせん」

 

 それまで黙っていた大剣の男が、鋭い視線で響を睨みながら、聖剣の一撃を防いでいた。

 

 舌打ちする響。

 

 男はそのまま、響の体を振り払う。

 

 だが、

 

「美遊ッ!!」

 

 頭上から響く、可憐な声。

 

 その視線の先には、ステッキを振り翳した魔法少女(イリヤ)の姿がある。

 

斬撃(シュナイデン)ッ!!」

 

 振るわれるステッキと同時に、放たれた魔力の斬撃。

 

 その一撃をよける為に、金色の女は回避行動を取った。

 

 そこへ、赤い外套を靡かせたクロが迫る。

 

「その手を放しなさい!!」

 

 手にした漆黒の洋弓から、矢を放つクロ。

 

 その一撃が巻き起こす爆発によって、金色女の体勢が大きく崩れた。

 

 その隙を逃さず、

 

「い、まッ!!」

 

 響が駆けた。

 

 疾風の如く駆けよる響。

 

 その前に、大槌を持った少女が立ちはだかろうとする。

 

「しつけェんだよ、ジャリども!!」

「邪、魔ァ!!」

 

 振り被った大槌を容赦なく振り下ろす少女。

 

 対して、

 

 渾身の力を込めて、聖剣を横なぎに振るう響。

 

 激突する、聖剣と大槌。

 

 迸る衝撃。

 

 次の瞬間、

 

 押し負けた聖剣が、響の手から弾かれる。

 

「フンッ」

 

 大槌の女は、その様子を見て鼻で笑う。

 

 だが次の瞬間、

 

 響は構わず少女の脇をすり抜けると、そのまま金色女へと迫る。

 

 元より、消耗した身でまともに戦えるとは思っていない。

 

 響は一瞬の隙を突いて美遊を奪還する。その一点に賭けたのだ。

 

「あ、この野郎!!」

 

 追いかけようとする大槌女。

 

 だが、もう遅い。

 

 響の手が、金色女の腕の中にある美遊を掴んだ。

 

 そして、引き寄せる。

 

 次の瞬間、

 

 閃光はひと際大きく迸り、全てを呑み込んでいく。

 

 そして、その閃光が晴れた時、

 

 そこには、全てが消滅し、何もかもが消え去っているのだった。

 

 

 

 

 

第38話「異界からの追跡者」      終わり

 

 

 

 

 

2wei!編      完

 


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