Fate/cross silent   作:ファルクラム

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第27話「誰が為に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、行ってきまーす」

 

 玄関先で元気に手を振る3人の姉弟に、玄関前を掃き掃除していたセラは笑顔で答える。

 

「行ってらっしゃい皆さん。暗くならないうちに帰ってくるんですよ」

「「「は~い」」」

 

 返事をする、イリヤ、クロ、響の姉弟たち。

 

 暑い盛り、それぞれ開放的な薄着が目立っている。

 

 照り付ける太陽の輝きが、そこへ更なる拍車を掛けていた。

 

 いよいよ本格的な夏シーズンが近づきつつある。

 

 穂群原学園初等部もまた、数日後には終業式を迎える時期に至り、待ちに待った夏休みまでカウントダウンが始まっている所だった。

 

 そんな中、衛宮家の3姉弟が揃って出かけるのは、久しぶりの事だった。

 

 否、3人だけではない。

 

 玄関の前ではもう1人、同行者が既に準備をして待っていた。

 

「おはようミユ。ごめんね、待たせちゃって」

「大丈夫。私も、今来たところだから」

 

 挨拶をするイリヤに、美遊も笑顔を返す。

 

 その美遊も夏らしい軽装に、肩から提げるタイプのバッグを持っている。

 

 今日は4人で揃って、出かける予定だったのだ。

 

 森林地帯での戦いから数日。

 

 響も美遊も、既に傷は癒えて普通に動けるくらいには回復していた。

 

 あの後、

 

 自室目が覚めた響は、大目玉を食らうを覚悟していた。

 

 何しろ無断外泊な上、丸一日以上も連絡無しに家を空けてしまったのだ。

 

 セラからはこってりとお説教されるだろうと予想し、戦々恐々として沙汰を待ってた。

 

 の、だが、

 

 実際には、完全に肩透かしを食らう羽目になった。

 

 意識を取り戻した響を見て、セラは大きくため息をつくと「以後、こういう事はしないように。何かある場合は必ず連絡する事」とだけ言われ、無罪放免となった。

 

 呆気に取られる響。

 

 その視界の端では、帰ってきていたアイリがピースサインをしているのが見えた。

 

 どうやら、事情を知っている母が手を回しておいてくれたらしい。

 

 おかげで命拾いをした感じである。

 

 もっとも、また同じことをやらかそうものなら、今度こそお仕置きは覚悟しないといけないだろうが。

 

 その他、リズは無言で頭をなでてくれたし、士郎も「あんまり心配かけるなよ」と、笑いかけてくれた。

 

 因みに切嗣は、響が目を覚ます前に、また海外へと旅立ったようだ。

 

 忙しい事であるが、事情が事情だけに仕方がない。

 

 今も世界中に燻り続ける亜種聖杯戦争の火種。それら全てを消し去るまで、切嗣とアイリの戦いは終わらないのだ。

 

 寂しくはある。

 

 しかし同時に、自分の信念の為に戦っている父を、響は素直に格好良いと思うのだった。

 

 アイリはもう暫く日本に留まるつもりのようだ。と言う事は、衛宮家にも常には無い賑わいが、もうしばらく続くことになるのだろう。

 

 見上げる空からは、いよいよ強まり始める日差しが降り注ぐ。

 

 あれ以来、ゼストの襲撃は無い。

 

 もう諦めた、と言う事は無いと思うのだが、その沈黙が響にはかえって不気味に思えるのだった。

 

「それにしても、みんなで出かけるなんて久しぶりよね」

 

 大きく体を伸ばしながら、クロが言う。

 

 確かに。

 

 ここのところずっと、戦いばかりだった為、こうして揃って出かけること自体、久しぶりだった。

 

「そうだね。何かホント新鮮な気がするよ」

 

 イリヤも楽しそうに返事をする。

 

 と、

 

「2人とも、今日は・・・・・・・・・・・・」

 

 浮かれる姉2人に、響は静かに告げる。

 

 今日の外出。実のところ響にとっては、物見遊山ではなく、ある目的があっての事だった。

 

「判ってるって。ていうか響、あんたも物好きよね。自分を殺そうとした相手のお見舞いなんてさ」

「あ、それは私も同感かも。けどまあ、その方が響らしいよね」

 

 クロとイリヤは呆れ気味にそう言って笑う。

 

 2人が言わんとしている事は、響にも判る。

 

 どうかしていると言われれば、確かにそうかもしれない。

 

 しかし別に、お互いに恨みがあって戦ったわけではない。だから、見舞いに行くくらいはどうと言う事は無いと思っていた。

 

 それに、

 

 響にはどうしても、彼に会って確かめておきたい事がある。

 

 楽しそうに話しながら歩く少女たちの傍らで、響はこれから見舞いに行く相手を思い浮かべ、眦を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冬木市新都の一角にある病院。

 

 「大病院」と称しても良いくらいの規模を誇る建物であるが、しかし新都内にはもっと大きな病院がいくつかある為、それほど目立つと言う訳ではない。

 

 しかし、この病院には他にはない特徴が、一つだけある。

 

 病院は裏で、魔術協会と繋がっているのだ。

 

 その為、何らかの魔術的な要因で怪我をした患者の受け入れや、その証拠隠滅等、バックアップについても、万全の体制を整えているのだ。

 

 先の戦いで響と美遊に敗れ、重傷を負った優離とルリアは今、この病院に収容されていた。

 

 収容、と言えば聞こえは良いかもしれないが、実際には軟禁、監視に近い。

 

 一応、傷は手当てしてくれたし、手続きを踏めば関係者との面会も許されている。

 

 しかし、退院したとしても、彼らに自由は無く、魔術協会からの監視を受け入れなくてはならなくなる。

 

 響達が今日、この病院を訪れたのは、優離が意識を取り戻したと聞かされたからだ。

 

 大したものである。

 

 優離は響きとの戦闘によってアキレス腱を断たれた他に胸も貫かれている。さらにその後、ゼストの極刑王(カズィクル・ベイ)によって、腹部を貫通されていた筈。

 

 冗談抜きにして致命傷である。

 

 それが、わずか数日で意識を回復させるとは。いかに治療を施したとはいえ、驚異の回復力だった。

 

 優離が目を覚ましたと言う連絡を受けた響は、凛を通じて面会許可を取り付けやってきたわけである。

 

 受付で病室を聞き、4人そろって階段を上がっていく。

 

 白を基調とした殺風景な廊下や階段。行きかう医師や看護師、入院患者などが、時折会話をしているのが見える。

 

 見た目は普通の病院と変わらない。少なくとも外観だけを見れば、魔術などと言うオカルト的な要因と繋がりがあるとは思えなかった。

 

 恐らく、訪れる多くの一般人は、ここが普通の病院であると思っている事だろう。

 

 それにしても、

 

「ユーリって、こういう字、書くんだ。知らなかった」

「まあ、今まで戦い以外では触れ合ってこなかったからね」

 

 受付で貰った面会許可証を見ながら、イリヤとクロは感心したように呟く。

 

 確かに、今まで戦場以外で会った事が無かったため、優離のフルネームは知らなかったのだが。

 

「あ、ここ」

 

 美遊の言葉に、一同は足を止める。

 

 ネームプレートを見ると、確かに優離の名前がある。どうやら、間違いないようだ。

 

「ん、入る」

 

 そう言ってドアに手を掛ける響。

 

 扉が開かれた。

 

 次の瞬間、

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 一同は、絶句した。

 

 扉を開けた瞬間、

 

 そこに立っていた男は、あまりにも予想外だった。

 

 顔の傷痕(スカーフェイス)に野獣のように鋭い目付き。筋骨隆々とした体は、羆ともガチで殴り合えそうな気さえする。

 

 ぶっちゃけ「そっち系」の人・・・・・・・・・・・・

 

 否、

 

 そこらのやくざですら、裸足で逃げ出しそうなレベルの凶悪な面構えだ。

 

 一言で言えば、「化け物じみている」外見だった。

 

 イリヤや響は勿論、普段冷静な美遊やクロでさえ、あまりの事態に恐怖を感じる。

 

「あん、何だお前ら?」

「「「「ヒィッ!?」」」」

 

 極太の声に、思わず4人は抱き合って震えあがる。

 

 取って食われる!?

 

 子供たちがそう思ったのも、無理からぬことだろう。

 

 と、その時

 

「おい、親父」

 

 病室の中から、聞き覚えのある声が呆れ気味に放たれた。

 

 顔を上げる子供たち。

 

 果たしてそこには、ベッドの上で上体を起こした優離が、呆れ気味にこちらを見ていた。

 

「親父は見た目からして凶悪すぎるんだから、いきなり顔出すのはやめろって言ってるだろ」

「何だ優離、お前の知り合いかよ?」

 

 言いながら、優離は響達の方に目をやる。

 

「おかげで、ガキ共が漏らしちまっただろうが」

「「「「も、漏らしてないし!!」」」」

 

 総ツッコミを入れる小学生組。

 

 対して優離、

 

 獅子劫優離(ししごう ゆうり)は、呆れ気味に嘆息するのだった。

 

 

 

 

 

 取りあえず、いったん落ち着こうと言う事になり、一同がやって来たのは、病院の中庭だった。

 

 ボランティアが植えたと言う花壇が周囲を囲み、中にはちょっとした休憩所まである。

 

 そこで一同は歓談していた。

 

「調子はどう?」

「良いように見えるか?」

 

 尋ねる響に、車いすに座ったまま優離は答える。

 

 どうやらこうして、ある程度の回復はしたものの、まだ立って歩けるほどではないらしい。

 

「医者からはリハビリだけでも数年は掛かると言われたよ。傭兵としての復帰は絶望的だ、ともな」

 

 言ってから、優離は思い出したように付け加えた。

 

「まあもっとも、それでも『あいつ』よりはましかもしれんがな」

「あいつって・・・・・・ルリア?」

 

 尋ねる響に、優離は頷きを返す。

 

 ルリアもまた、この病院に収容され、優離と同じ区画に収容されている。

 

 外傷的には優離よりも軽いらしい。しかし、少女の意識は今だに覚めず、眠り続けているのだとか。

 

 優離自身、何度か彼女の病室に足を運んでいるが、未だに少女は目覚めていない。

 

 意思は心因性に起因する昏睡と診断しているが、目覚めるかどうかはもはや本人次第との事だった。

 

「だが、あいつもこれで戦わなくても良い。それだけは、良かったのかもしれん」

「どういう事?」

 

 首をかしげる響。

 

 正直、戦いの場ではあれほど好戦的な姿を見せたルリアだ。目が覚めたら、また襲ってこないとも限らない。

 

 対して優離は手を伸ばし、車いすの背もたれから1枚の新聞を取り出した。

 

 冬木市で発行されているその地方紙は、日付が数日前のものになっている。

 

 優離から新聞を受け取り、目を通す響。

 

 見出しには「冬木ハイアットホテル。最上階スィートルーム、火事により全焼」とあった。

 

「あったね、こんなの。で?」

「その火事にあったホテルの最上階は、ゼストの工房があった場所だ」

 

 響は驚いて、新聞の記事を見直す。

 

 まさかこんな所に、敵の拠点があったとは。

 

 魔術師の工房と言えば、軍の基地と同じ。そこを失えば、大幅な弱体化は免れないはずである。

 

「ゼスト自身がどうなったかは知らん。逃げたのか、死んだのか・・・・・・だがこれで、奴自身の戦力が相当弱体化したのは間違いない」

「そっか・・・・・・・・・・・・」

 

 響は感慨深くうなずく。

 

 何はともあれこれで、戦いに一区切り打てたのは確かだった。

 

 それはそうと、

 

 響は、優離の父親の方に視線を向けた。

 

 優離の父親、獅子劫界離(ししごう かいり)は、魔術師であると同時に、名うての傭兵でもあるらしい。

 

 初回のインパクトが特盛過ぎて、極悪なイメージが大きかったが、実際に接してみたらなかなかどうして、ずいぶんと気さくな人物である事が分かった。

 

 今も、先程驚かせてしまったお詫び、と言ってイリヤ達に売店でアイスクリームをごちそうしているのが見える。

 

 顔に似合わず、愛嬌がある様子だった。

 

 とは言え、

 

「優離のお父さん、顔怖い」

「言ってくれるな。あれで本人は結構気にしているみたいだから」

 

 車いすを押しながら告げる響に、優離は嘆息交じりに答える。

 

 確かに。

 

 さっき響達が界離を見て怖がった時、良い年こいたおッさんが、ずいぶんとへこんだ様子を見せていた。

 

「いい親父だよ。戦災孤児だった俺を拾って育ててくれた。本当に、感謝している」

 

 言ってから優離は、どこか遠くを見るような眼をする。

 

「だからこそ、救ってやりたかった、親父を」

「え?」

 

 優離の言葉に、響は首をかしげる。

 

 そう言えば確か、優離は戦闘で敗北した後、父に、つまり界離に対して詫びていた。

 

 そして、それと同時に優離は、響に対しこう尋ねた。

 

 「お前は聖杯に何を望むのか」と。

 

 だが響は聖杯などに興味は無く、ただ大切な親友である美遊を助けるために剣を振るっただけだった。

 

 ならば優離は?

 

 優離は何の利があって、聖杯戦争に参加したのか?

 

 そう考えた時、答えは自ずと見えてくるのだった。

 

「優離は、聖杯でお父さんを助けたかった?」

「・・・・・・・・・・・・まあ、そんなところだ」

 

 やや躊躇うようにして優離は答えた。

 

 その視線の先では、少女たちと語らう界離の姿もある。

 

 どうやらクロ辺りが積極的に話しかけているらしい。

 

「親父は子供が作れない体なんだ」

 

 告げる優離。

 

 対して、響は首をかしげる。

 

「顔が怖くて女の人が寄ってこないの?」

 

 だから聖杯に頼んでイケメンに変えてもらおうとしたのか。

 

 だったら聖杯なんかに頼ってないで、整形手術でもするべきだろうに。

 

「違う」

 

 響がかましたナチュラルボケに、すかさずツッコミを入れる優離。

 

 優離としてもいい加減、そのネタを引っ張るのはやめてほしかった。

 

「親父の一族は元々、魔術の大家だったらしい」

 

 名だたる魔術師を何人も輩出した獅子劫の家は、世界的にも有名な存在だったらしい。

 

 そのまま行けば順風満帆。何も心配することなく、魔術師としての一生を全うできたことだろう。

 

 だが、往々にして起こり得る悲劇が、彼らを襲う事になる。

 

 衰退。

 

 魔術師としての獅子劫の家は、ある代を境に徐々に衰退を始めたのだ。

 

 それは界離が生を受ける、何代も前の出来事である。

 

 獅子劫一族の者は焦った。

 

 先述した通り、魔術師としての衰退と言う物は往々にして起こる者である。血を重ねれば、いずれは希釈され薄くなっていく。そうして最終的に魔術師ではなくなっていった家はいくらでもあるのだ。

 

 だが自分たちは違う。自分たちは、ああはなりたくない。

 

 そうしてある種の浅ましい妄執は、彼らに禁断の手段を取らせるに至る。

 

 いわゆる「悪魔の契約」である。

 

 内容は「魔術師として大成させる。その代わり、数代後には子孫を完全に諦める」と言う物だった。

 

 こうして、約束された滅びと引き換えに、獅子劫の家は魔術師として持ち直した。それどころか、それまで以上の繁栄を謳歌するに至る。

 

 誰もが絶賛し、称賛は湯水のように浴びせられた。

 

 まさしく我が世の春。

 

 誰もが栄光の美酒に酔い、全てが酩酊の内に過ぎ去っていく日々。

 

 そうした繁栄が、何代にもわたって続き、いつしか呪いの事は忘れ去られようとした。

 

 そんなものは無かったんじゃないか?

 

 自分たちの繁栄は、永久に続くのではないか?

 

 誰もがそう思った。

 

 そして、全てが過去の物となろうとした頃、

 

 奈落は突然に口を開ける。

 

 界離が生まれ、結婚し、子供を成した。

 

 だが、

 

 その子供は生まれてすぐに、死んでしまったのだ。

 

 肉体的には健康そのもの。妻との相性は抜群異常。

 

 だが、子供はできない。生まれてもすぐに死んでしまう。

 

 一族全員が悟った。

 

 「滅び」が、ついに来たのだと。

 

 あらゆる治療を施し、霊薬を飲み、儀式を行っても無駄だった。

 

 やがて、妻とは離婚するに至る。

 

 当然の結果だった。誰も未来の無い者と一緒にいたいなどとは思わないだろう。

 

 罵声を浴びせて出ていく妻を、界離は静かに見送る事しかできなかった。

 

 最後の手段として、遠縁の少女を養子に迎え、魔術刻印を移植すると言う手段まで行った。

 

 だが、やはりだめだった。

 

 界離の魔術刻印を移植した結果、少女は死んでしまったのだ。

 

 もはや、手段は無い。

 

 誰もが絶望した。

 

 そんな中、界離自身は家を捨て、死に場所を求めるように、傭兵として世界中の戦場を渡り歩いたのだ。

 

「その途中で、俺は親父に拾われたらしい」

 

 東欧で起きた紛争。

 

 その戦場の片隅で打ち捨てられるように倒れていた優離。

 

 そんな優離に手を差し伸べたのが界離だった。

 

 今でも覚えている。

 

 ごつい顔に、心配そうな表情を浮かべて手を差し伸べてくれた父。

 

 今だからぶっちゃけると、最初は自分も怖いと思って逃げようとした。

 

 だが界離は、大けがをした優離を手厚く介抱し、名前を付け、自分の息子として育ててくれた。

 

 更に成長してからは、生きるために必要な事もあるから、と魔術の手ほどきまでしてくれた。

 

 勿論、血は繋がっていない為、界離の魔術をそのまま継承する事は出来なかったが、それでももともと素養があった優離は、数年後にはある程度の魔術なら独力で行使できるまでになっていた。

 

 そのような界離の背中を見て育ったからだろう。優離が己の魔術師の在り方として「傭兵」という道を選んだのは、ある種の必然だった。

 

 だが優離は、父が時々見せる寂しそうな表情を忘れる事は無かった。

 

 きっと、自分のせいで殺してしまった養子の女の子の事を思っていたのだろう。

 

「だから、聖杯に願いを掛けようと思った」

 

 伝え聞いた「亜種聖杯戦争」の話。

 

 伝手を頼って、その主催者(ルールマスター)の男に渡りを付ける事が出来た。

 

 それが、ゼストだったのだ。

 

「じゃあ優離は、聖杯でお父さんを助けたかった?」

「ああ。死んだ少女を生き返らせることはできないだろうが、せめて呪いを解く事くらいならできるかもしれないと思ったんだ」

 

 いかに悪魔の呪いでも、聖杯の力をもってすれば除去できるはず。

 

 そう思い、優離は聖杯戦争に身を投じたのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・何か、ごめん」

 

 響はシュンとして、優離に謝る。

 

 知らなかったとは言え、結果的に響は、優離の願いを潰してしまった形である。

 

 今更謝っても、どうなるものではないのだが。

 

 そんな響に対して、優離は苦笑しながら、少年の頭をなでる。

 

「気にするな。友を助けたいっていうお前の気持ちも分かる。だから、これは所詮結果だ。お前はお前の、俺は俺の信念を持って戦い、お前が勝って、俺は負けた。だから胸を張れ。そうじゃなきゃ、負けた俺が余程惨めだろうが」

「ん・・・・・・・・・・・・」

 

 優離の言葉に、不承不承ながら頷きを返す響。

 

 その瞳は、界離と語り合っている美遊へと向けられた。

 

 確かに、響も譲れないものの為に戦ったのは事実である。ならば、そこに後悔する事は許されなかった。

 

「・・・・・・1つ、聞きたい事がある」

「何だ?」

 

 ややあって尋ねる響。

 

 今日、優離の元を訪れたのは、これを聞くためだった。

 

 訝る優離に、響は口を開いた。

 

「何で、カード無しで夢幻召喚(インストール)できたの?」

 

 それは、響の中でずっと疑問だったこと。

 

 限定展開(インクルード)夢幻召喚(インストール)は本来、クラスカードを用いないとできないはず。現に、イリヤや美遊はそうしている。

 

 しかし優離、ルリア、ゼスト、そして響の4人は、カード無しで変身を可能にしている。

 

 その違いはどこにあるのか?

 

「・・・・・・成程、そこら辺は知らない訳か」

 

 話を聞いて、大凡の事情を察したらしい優離は、頷きながら呟く。

 

 そして、

 

 スッと手を伸ばすと、響の胸を指差した。

 

「カードはある。そこにな」

「・・・・・・・・・・・・え?」

 

 思わず、自分の胸に目をやる響。

 

 だが、当然、いくら見てもそこには何もない。となると、

 

「それって、もしかして・・・・・・・・・・・・」

「ああ、そういう事だ」

 

 事情を察した響に、優離は頷きを返した。

 

「カードは、お前自身の中にある」

「・・・・・・・・・・・・」

「詳しくは、一緒にいる魔術師にでも聞け。その方が良いだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も、暫くは歓談に耽っていた一同だが、流石に優離の体調に悪いと言う事で、響達は引き上げる事になった。

 

「今日はわざわざ来てもらって悪かったな」

 

 そう言うと界離は、サングラス越しに響達に笑いかけた。

 

 優離の病室を出た響達。

 

 界離はそれを送って、病院の玄関までやって来た。

 

 もっとも、やはりと言うべきか、その魁偉な容貌のせいで周囲の人間からは避けられている様子だったが。

 

 中には露骨に、通報しようとしている人間までいたくらいである。

 

 まあ、何とか回避したが。

 

「また、たまにで良いから来てやってくれ」

 

 そう言って、界離は手を振る。

 

 何だかんだで、やっぱりいい「お父さん」のようだった。

 

 言ってから、界離は響の方に向き直った。

 

「それからなボウズ、今回はうちのバカ息子が世話になった。あいつに代わって礼を言うよ」

「ん」

 

 頷きを返す響。

 

 まあ、あれだけの死闘を演じた仲だ。「腐れ縁」という意味では、確かに世話になったと言えるかもしれない。

 

「優離は良い奴。戦ったけど、別に恨んでない」

「そうか・・・・・・・・・・・・」

 

 ちょっと嬉しかったのだろう。界離は響に笑みを向け、頭をポンポンと叩く。

 

 もっとも、その笑顔も怖かったが。

 

 だが、

 

 そのゴツゴツとした手は硬く、そして温かい。

 

 この人は(外見以外は)どこか切嗣に似ている。

 

 そんな風に、響には思えるのだった。

 

「また来てやってくれ。お前らが来ると、優離の奴も喜ぶだろうからな」

「ん」

 

 本当に良いお父さんである。

 

 優離が界離の事が好きなのも、ちょっとだけ分かった気がするのだった。

 

 

 

 

 

第27話「誰が為に」      終わり

 


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